「…………」
「いつも思うけど、した後って毎回機嫌悪いよね」
気怠げに目を据わらせるを眺めていた神威が、不意に口を開いた。
掛けられた言葉に緩慢な動きで視線を送ると、は小さく息を吐き出す。
「疲れんだよ…」
「俺だってあれだけやれば疲れるよ」
「うっさいですッ」
普段なら手足が出てくるだろう剣幕だったが、
さすがに、そんな気力は残っていないらしい。
怒鳴るだけでも体力を使うのが煩わしいのか、の表情は不機嫌だ。
重たげに体を起こすと、鈍い動きでベッドの端まで移動する。
「どこ行くの?」
「…風呂。あとシーツ取り替えないと寝られな…きゃッ!?」
言いながら、は剥ぎ取ろうとしたシーツごとベッドの下に落ちた。
予想外に大きな音を立てて落下したが、まぁ、高さを考えれば怪我はないだろう。
「大丈夫? 派手に落ちたけど」
「うー…」
「しょうがない子だネ」
シーツに絡まったまま、ベッドの下で不貞腐れている彼女に、神威は苦笑する。
そのまま彼も下に降りると、シーツごとひょいっと小柄なを抱え上げた。
「な、なんで抱えるのかな…っ」
「ん? どうせまともに動けないんでしょ? 連れていってあげるよ」
「…あんたも来るの? 面倒くさい…」
「こら」
それが恋人に向ける視線か、と言いたくなるほど、面倒くさそうなそれ。
明らかに胡散臭いものを見るような、警戒心を隠そうともしない色。
もともと、そういう意味では信用度は底辺だったわけだが…
どうやら、今日の一件で底辺を突き抜けたらしい。
「別に変なことしないよ。寝るまでもうちょっといちゃつきたいだけだから」
「………」
さすがにその返しは予想外だったのか、は一瞬、きょとんと目を瞬かせた。
そして、落ち着かない様子で視線を彷徨わせた後、わざとらしく小さく咳払いをする。
「…しょ、しょーがないなー…
ま、まあまともに動けないのはあんたのせいだし、責任持って連れてってよねっ」
「仰せのままに、お姫サマ。…ってわかりやすいなぁ」
「うるさいです!」
余計な一言を付け加えたせいで怒鳴られたが、手が出ないあたり、そう機嫌は悪くないらしい。
そんな判別がつくくらいには、の内面を正確に把握している神威だった。
+++
「………24時間湯が張ってあるってすっごく贅沢だと思うんだ、私」
浴槽の淵にくったりを身を預けながら、は徐々にずるずると湯に深く浸かっていく。
よほど動くのが億劫なのか、体を支えることすら放棄している彼女の腕を神威は軽く引いた。
「、いくら深さが無いって言っても溺れるよそれ。こっちおいで」
「んー」
引き上げられても特に抵抗することなく、膝の上に載せられても騒ぎもしない。
「…寝ぼけてる時と体力使い果たした後って、ホント素直だよね…」
「んぁ?」
「なんでもないよ」
濡れた黒髪を神威が軽く撫でてやると、は大人しくされるがままになっている。
「…前から思ってたんだけど、個室風呂の割に広くね…?」
「ん? そういうことする為じゃない?」
「……あの元提督が?」
「うわぁ、キモチワルイ」
想像したのか、心底嫌そうに呟いた神威に、は笑う。
かと思えば、急に黙り込んでじっと神威を見上げた。
「…なに?」
「いや、髪下ろすとやっぱ雰囲気変わるなーって」
「どんな風に?」
「女の子みたい」
「え。全然嬉しくないんだけど」
それは、褒め言葉ではない。
顔を顰める神威に構わず、は軽く身を乗り出した。
そして、神威の頬に華奢な指先を滑らせる。
「…ムカつくくらい綺麗な顔してるなぁ、男のくせに」
「なんでだよ…の方が綺麗だよ」
「肌も白いし。透けるよーだわ」
「それ、種族の特徴。なんでそんなに絡んでくるの」
「……なんとなく腹が立って」
「ホントに意味わからないんだけど…。
苛めたから怒ってるの? わかったよ、謝るから機嫌直して」
「……………」
困惑している神威を暫く見つめてから、は神威の頭を撫でた。
まるで幼子に宥めるようなその所作に、ますます神威の困惑が深くなる。
「…何してるの?」
「いや、可愛い奴だなぁと思って」
「…えー…?」
時々、ではあるが。
不意には、こういったよくわからない行動を取る。
彼女なりに理由があるのかも知れないが、どうにも、神威には理解出来ない。
「…怒ってねーよ、バーカ。ムカついてるけど」
「それは怒ってる、って言わないかなぁ」
「少なくとも私は言わなーい」
「そーですか……機嫌直った?」
「…あんたが今回ダメにした服一式の代わりを買ってくれたら許してあげる」
「そんな安い女じゃないくせに。素直じゃないネ」
「うるせーよ、馬鹿兎」
怒ったり照れたり笑ったりと、の感情の振れ幅は忙しい。
その振れ幅にこうも振り回されているのだから、重傷だなと神威は思う。
――もちろん、それを不快だとは欠片も思わないのだけれど。
To be continued?
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