「はぁ…っ…はっ…ぅく…ッ」
長い髪が乱れ、シーツの上に散らばる。
喉が渇く。涙が滲んで、視界がぼやける。
身体に、力が入らない。
腕が重い。
足が重い。
まるで泥の中に放り込まれてもがいているように。
「…ぁ…っ、…んっ…」
無意識に握り締めた指先が震える。
今の状況を一言で表すなら、「辛い」が一番正しい。
…多分、お互いに。
「…ホントに強情だよね、って。これ、辛くないの?」
「…っ、…あんた、の方が…辛いんじゃないの…っ?」
「…ヤな女」
強情と言う評価は、これ以上ないほど正しい。
お互い様とはいえ、限界に近い。
それでも減らず口を叩く元気があるのだから、筋金入りだ。
「…両腕縛られて媚薬盛られて、焦らされてるのはなのに。
なんだか俺がお預け喰らってるみたいだよ。腹立つなぁ」
「はは…ざまーみろ…」
「ここでそういうこと言う? 可愛くないなぁ」
「可愛くなくて良…痛ぁッ?!」
肩口に走った痛みに、素で悲鳴を上げては目を瞬かせた。
数秒、茫然としてから、ゆるりと視線を自身の肩へと動かす。
薄い布越しに、じわりと僅かに滲む赤い色彩。
「……おい……この、吸血鬼……」
「吸血鬼は酷いなぁ。吸ってないよ?」
「そういう問題じゃない! 痛いのは嫌だって言ったのに!!」
「が可愛くないことばっか言うから、ちょっと嫌がらせしただけだよ」
「血が出るまで噛むのは嫌がらせの範疇超えてるでしょ!?」
「首はさすがに危ないから肩にしたのに」
「中途半端な配慮だなそれ!?」
さも気を遣いました、と言わんばかりの言い方だ。
だががそれを気遣いだと認めるわけもなかったし、
言ってる本人も気遣いとは思っちゃいない。
「んー…ほら、痛がる顔も結構良いな、って」
「へ、変態…っ!」
「いーよ、変態で。
…その変態にこんなことされて感じてるも、充分変態だと思うけどね」
「ひぁ…ッ」
付け根に程近い内腿を撫でられ、過敏になった身体は意思とは関係なしに跳ね上がる。
「…これさ、もう下着の意味無いんじゃない? 脚までべとべとになってる」
「ばっ…馬鹿ぁ! そういうこと言わないで…ッ」
「この状態で意地張ってるとか、呆れるの通り越して感心するよ。
こんなに…物欲しそうにしてるくせに」
「や…ッ! 馬鹿っ、広げんな! やだっ、見ないで…ッ」
強引に下着をずらして、淫らに濡れた秘裂を指先で割り広げられ、
羞恥とも怒りともつかない感情で、顔に血の気が集中するのが自分でもわかる。
脚を閉じようにも、痛いほどに強く腿を掴まれているせいで儘ならない。
「こっちは弄らなくても大丈夫そうだね。
やっぱってマゾっ気あるんじゃない?」
「なっ、そんなわけあるか…ッ」
「じゃあ、異常な状況で興奮する変態かな?」
「あんたと一緒にしないで!! あんたが変な薬飲ませたからでしょ!?」
「薬のせい、ねぇ…まぁ、間違ってはいないけどさ」
返された言葉に、ぐっとは唇を噛んだ。
薬のせい、というのが7割は言い訳に過ぎないなど、彼女自身がよくわかっている。
「ねぇ、?
はさ、俺の方が先に音を上げると思ってるだろ?」
「………」
「そりゃあ、この状況は俺にとってもお預け喰らってるようなもんだけどさ」
嗜虐的な笑みを浮かべながら、神威の指先がの唇をなぞり、
そのまま、喉を滑り、柔らかな胸の膨らみを撫で上げた。
「俺は別に、の口でも胸でも、吐き出せればそれで良いんだよ?」
「なっ…~~~~ッ!?」
とんでもないことを、さらっと言いやがった。この男。
顔を真っ赤に染めて唇を空回らせるに、胡散臭い程に優しく、神威は微笑む。
「で、そろそろ降参する気になった?」
「………………サド」
「あははっ、今更だなァ。
…じゃあ、降参ついでに可愛くおねだりしてみてよ」
「く…っ」
「睨んでもだーめ。ちゃんと言えなきゃしてあげない」
「…なんで今日はそんなしつこいの!
もう私の負けで良いからいい加減にしろよ!!」
「あはははっ、可愛くないなぁ。
そんなんじゃダメだよ、。
…ホラ、言ってごらん? ――どうして欲しい?」
「~~~っ」
どうしても、言わせたいらしい。
剥き出しの太腿を撫でながら、耳元に唇を寄せて笑いながら囁く声に、
は数秒躊躇してから、微かに震える唇を開いた。
「……………………て」
「ん? 聞こえないよ?」
「………………………」
嘘だ。絶対聞こえてた。
悔しいやら恥ずかしいやらで涙目になりながら、は再度口を開いた。
「……最後まで、して…お願い……」
「………」
喋る、というよりは吐息に近い、声音。
ようやく絞り出した言葉に、神威は一瞬、ぴたりと動きを止めた。
「………神威?」
「いや…思った以上に破壊力あるな、って思って」
「…?」
「結局、先に惚れた方が負けってことかなぁ…。
もっとこう、卑猥な言葉でも言わせてみようかと思ってたんだけどさ」
「…おい」
「でももう良いや。可愛かったし。正直、俺も限界だしね」
そう言って笑うと、神威はの両腕の拘束を解いた。
ようやく自由になった手をが自分で動かすより前に、神威が素早く捕まえる。
「…ちゃんとしてあげるよ、最後まで」
「か、む…い」
指先に軽く口付けると、神威はそのままの体を引き倒した。
下着を脱がすのも手間なのか、布地をずらして押し当てられた熱に、さすがには目を瞠る。
「待っ…いきなりは無理…ッ」
「大丈夫だよ。充分濡れてるから」
「そ、そういう問題じゃな…っ、…んぁっ!?」
一度も慣らされていない秘裂に押し入ってくる異物の感触に、思わず息を詰めた。
いまさら、その行為に痛みはない。
ただ、徐々に来るはずだった衝撃と快楽とが一気に押し寄せてくる感覚に体が痙攣する。
「…っ、ぁ…あっ…や…っ」
縋るようにシーツを握る指先が、カタカタと小刻みに震えた。
大きく見開かれた瞳には生理的な涙が浮かぶ。
仰け反った無防備な白い喉に口付けられ、華奢な肩が跳ね上がった。
「…ん。イイ顔。ねぇ…名前、呼んで?」
「…か、…む…い…」
「もう一度」
「…神、威……、神威…っ」
甘い吐息と共に喘ぐように、繰り返し名前を呼びながら、
震えながらシーツを握り締めていたの指先が、動いた。
縋るように、手繰り寄せるように、震える指先が、神威の背に回る。
「…煽るな、っていつも言ってるのに。わざと?」
「~~~…っ」
焦らすように、じりじりと秘所を押し開いていた動きが、変わった。
肉壁を抉るように最奥に押し入って来た熱の熱さと質量とに、は目を瞠る。
「…ぁ…あ…あ、…ぁッ…――――ッ!!」
悲鳴に近い嬌声を揚げ、肢体を痙攣させながら、荒く息を吐いた。
呼吸すら定まらないの頬をゆるりと撫でながら、神威は笑う。
「ははっ…挿れただけでイッたの? よっぽど我慢してたんだ?」
「…ぅ…ぁ…」
「馬鹿だなぁ、は。…そういうとこ、可愛いけどね」
普段なら速攻で言い返しそうなセリフではあったが、そんな余裕はにはない。
余韻にガクガクと身体を痙攣させ続ける彼女に、神威は欲情に濡れた瞳を細めた。
「――じゃあ、充分焦らし合った分…楽しもうか?」
「そ、…それ、たぶん、…私は楽しく、ない…」
「そうだね、これはお仕置きだったっけ。じゃあ…」
力なく投げ出された華奢な手に自身の手を重ね、それとは逆の手が脚を抱え上げる。
過敏になった身体は僅かな動きにも反応し、
それを見下ろす神威の青い瞳に浮かぶのは、激しい欲望の色だった。
「――俺を楽しませてよ。の全身を使ってさ」
「全…っ…~~~ッ」
返事を返す間も与えられずに、楔を打ち込まれたまま身体を反転させられる。
俯せにシーツに顔を押し付けるようにして、膝を立てさせられる体勢は犬のようだ。
酷く恥ずかしい体勢であることは、想像しなくてもわかる。
「か、神威…っ、こんな格好、やだ…ッ」
「そう? …凄く煽情的だけどそそるけど」
「…ぁっ、…あぁっ!?」
秘肉を抉るように、脈打つ熱の塊が卑猥な水音を立てて内壁に激しく擦りつけられる。
シーツを握る指先が震え、半開きになった濡れた唇から、震える赤い舌先が艶めかしく覗いた。
「や…っ、やぁ…っ、は、激し…ッ…あ、あ…ぁッ」
止まることのない律動に、翻弄されるように体が揺さぶられる。
媚薬のせい、と一概にも言えはしないが。
散々焦らされ、昂った身体は意思とは関係なしに、快楽を貪ろうと動き出す。
「ひ…んっ、あっ、あ、あぁ…ッ」
抽送に合わせるように、ゆらゆらと、細腰が揺らめいた。
「んっ、…んんっ…やぁ…っ、…やだぁ…止まらな…ッ」
「はいやらしいね。こんなんじゃ足りない?」
「ち、違…っ…やぁっ、あっ、あぁっ、壊れちゃ…ッ」
角度を変えて抉るように動かされて、汗ばんだ背を仰け反らせて高い嬌声を上げる。
ガクガクと脚を震わせながら、の体は前に崩れ落ちた。
「もっと、激しい方が良い?」
「や…っ、…やだ…っ、…頭、おかしく、な…っ」
「おかしく、なれば良いよ」
理性が、飛びそうだと思った。
いっそそんなものは無い方が良いんじゃないか、とも。
「ん…んんぅ…ひ、ぁ…ッ、」
半ば朦朧としていた意識が、不意に引き上げられた。
激しく最奥を突き上げられる感覚に、断絶的な喘ぎ声を漏らし、大きく体を仰け反らせる。
「…ぁ…あっ、…ぃ…ッ…あぁぁぁ…ッ!!」
内部を蹂躙する脈打つ雄芯から放たれた熱い飛沫に、は全身を痙攣させた。
「――…っ、は…ぁ…はぁっ…」
白く視界がぼやけるのを感じながら、吐き出す吐息に未だ冷めぬ熱が籠るのを感じて。
くたりと身体を弛緩させたを、神威は力強く抱き締め、引き寄せた。
「…、」
「ん…」
「もう一回、しようか?」
「……」
艶を含む、どこか掠れた声音で囁かれた言葉。
ほとんど反射的に、は小さく頷き返した。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。