LOVE DOLLS PARANOIA
心壊サミット03 




ぎしりと、軋むような音が響く。
後ろ手に縛られている体勢では、僅かな身動きでも体が軋む。
身動きしなければ良いのだろうが、それは無理な話だった。

「…っ、…ぁ…」

熱い舌先が首筋から耳朶へと這う感触に、嫌でも意識を向けさせられる。
華奢な体躯の割には質量のある胸への愛撫は、衣服越しであるせいかやや手つきが荒い。
それでも普段なら、愛撫などとは呼べないような刺激だ。
だというのに、――いや、逆にもどかしい故にか。
体の奥からじわじわとくる疼きに、は無意識に強く手を握り締めた。

「…っ…脱がさないの?」
「脱がして欲しいの?」
「…質問に質問で返すのは感心しません」
「ハイハイ。
 だってほら、別に脱がさなくても出来るしね? 俺は楽しいし?」
「…………それを普通、本人に言うか?」
「それに、直接触るより焦らされてる感じがしない?」
「悪趣味っ」
「そうかなぁ? んー…でもやっぱり下着は邪魔かな」

薄い衣服越しに背筋を撫でられ、ぞわりと肌が泡立つ。
元々感じやすい性質ではあるが、それにしてもこんな僅かな刺激で反応するのはおかしい。
これは所謂媚薬の効果なのだろうか、それともただのプラシーボ効果なのか。
別の方向へ思考を逸らそうと必死になっていたは、ふと感じた違和感に顔を顰めた。

「…?」

胸を押さえる拘束感が、無い。
いや、正しくは無いわけではなく緩んだ、というべきだろうか。

「…神威?」
「ん?」
「は、外した?」
「うん」

何を、とも訊かずにあっさり頷かれて、一瞬、は軽い頭痛を覚えた。
思考を逸らそうと必死になっていたせいで、気づかなかったのは自身だが。
それにしたって、衣服の上から下着のホックを外すってどういう手際の良さだ。

「…無駄に器用なことすんな! なにその手際の良さ!?
 中途半端なことするくらいならさっさと脱がせば良いでしょ!!」
の潔いとこって美点だけど、こういう時は可愛くないよ?」
「かっ、…可愛くなくて、良いから…ぁ…ッ」

撫でるように胸の上を滑る指先に、言い返す声が上擦る。
反射的に身を捩って逃げようと藻掻くが、あっさり片手で押さえつけられた。

「服着たままは逆に恥ずかしい?」
「う、るさ…ッ」

弄ばれる羞恥よりは、むしろこのもどかしさをどうにかして欲しい。
そう考えてしまった自身の思考の方に、は動揺した。
そんな彼女の動揺に気づいているのかいないのか、対する神威の口調はどこまでも軽い。

「まあ、先に縛っちゃったから脱がすのメンドクサイだけなんだけどね」
「そんな理由!? あんたさっきから深く考えないで行動してない!?」
「深く考えながらするようなことじゃないでしょ、こういうの」

からかうように言われて、ぐっとは言葉に詰まった。
確かに、本能を剥き出しにせざるを得ないこの行為の中で、思考は邪魔なだけだ。

「それとも、はいちいち難しい事考えてるの?」
「し、してない、けど…っ」
「だったらメンドクサイこと言ってないで、普段通りにしてれば良いじゃない」
「これ、全然普段通りじゃないでしょうが…っ」
「そうだね、お仕置きだからね?
 でもさ…、こういうの嫌いじゃないでしょ?」
「は…っ?」
「俺に好き勝手されるの、嫌いじゃないでしょ?
 腕だってそんなにきつく縛ってないし、脚は自由だし。本気で嫌だったら抵抗出来るでしょ」

剥き出しの素脚を撫で上げられて、意識せず体が跳ねる。
言葉も出ないを見下ろしながら、白い太腿に軽く口付け、神威は口角を持ち上げて嗤った。

「ホラ、嫌なら蹴飛ばしてみたら? 足癖の悪いお姫サマ?」
「ぁ…ぅ、」
「抵抗出来ない状態にされても、それでも抵抗しようとするのがだろ?
 屈辱だと少しでも思うなら、どんな手段を使っても抵抗する。それがの本質だ」
「い…言い切るのは、どうなのよ…」

ようやく返された言葉自体は強気だが、微かに掠れた声音は艶を含む。
それが自分でもわかったのか、は悔しげに唇を噛んだ。

「じゃあ、俺に好きにされて抵抗しないのはなんで?
 嫌じゃないからだよね。俺がを傷つけないって知ってるから。違うの?」
「そ、れは…ッ」
「ああ、あと俺が好きだから? 嫉妬して腹いせに机破壊するくらいだもんね?」
「!!」

さらりと軽く言われた言葉に、は大きく目を瞠った。
何度か唇を空回りさせて、耳まで赤く染めながら、ようやく怒鳴り返す。
若干、動揺を示すように声は上擦っていたが。

「…………………ふ、ふざけんなバカ!!」
「ハイハイ。健気だなぁ…口では文句ばっかり言うけど」
「うるさいよバカ!!」
「支配されたいのは女の性みたいなもんだから、何も恥ずかしくないよ?
 まあ、それでも支配され切らないのがの魅力だけどね」
「うるさいので黙って下さいホント黙れむしろ死ねーっ」
「口が悪いのは治らないなー」

何故それを、嬉しそうに言うのだろうか。
罵詈雑言を吐こうが、暴れようが嬉しそうに笑う。
かと言って、逆に従順に従ってみせても、それはそれで喜ぶだろう。

思えば、神威がに対して怒りの感情を見せたのは、離れようとした時だけだ。
神威は最大限にを甘やかしているし、甘えてもいるのだろう。
それを考えると、どうにもは、神威に対して甘くなってしまう。
…大抵、後で後悔するが。

「…………」
「あれ? 大人しくなったね。どうしたの?」
「……なんでこんなことされてんのにあんたを嫌いになれないんだろーかと、
 自分の将来とかあれこれ色々と心配になってきたところだよ……」
「なんだ、そんなこと?
 悩むだけ無意味だよ。がどんな答えを出しても、結果は変わらない」
「ん…っ」

細い首筋触れるだけの口付けを落としながら、指先は彷徨うように布越しに体の上を這い回る。
緩く弧を描く様に胸を揉み上げる手の力は、やや強い。
媚薬のせいか、余計に過敏になっている先端を指で強く擦りつけられ、
は上がりかけた声を、唇を噛んで必死に噛み殺す。
だが硬く尖った先端に歯を立てられ、痛みにびくりと肩が跳ね上がった。

「や…ぁ…ッ、痛い…ッ」
「布越しでも痛いか。敏感過ぎるのも考えものだよねぇ」

勝手なことを言う。
涙目で、は悪びれもしない神威を睨めつけた。

「ホ、ホントに好き勝手だなこのやろう…ッ」
の反応が楽しくてつい」
「ついじゃないっ! 痛いのはやだ…ッ」

抗議の声を封じるように、唇を塞がれる。
声を、呼吸を奪う、深い口付け。
唾液を絡め合う淫靡な水音に、はきつく目を閉じた。

「…で、なんだっけ。結果の話?」
「……その話、まだ続くの……?」
「まぁ簡単な話だよ、俺はを手放す気は毛頭ないからさ」

褥に散らばる赤み掛った黒髪を一房手に取り、恭しく口付けて、
慈愛と加虐という、真逆の色を複雑に孕んだ微笑を浮かべながら、神威は囁いた。

「…俺以外のことを考えられなくなるくらいに、
 優しく苛めて――一生、飼い殺してあげるよ」









To be continued?

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