LOVE DOLLS PARANOIA
心壊サミット01




「…あの馬鹿夫婦は放っておこう、もういい…。
 まずはアンタだな。部屋は余ってるから問題ないか…」
「あの、様のお部屋の側にしてください。すぐお世話出来るように」
「………多分それは、色々後悔すると思うんだが」
「?」

不思議そうに首を傾げたの反応に、阿伏兎は思わずソファでじゃれているふたりを見る。

「…追々わかる。あとは、その恰好か」
「これですか? …確かに、下女の服装としては些か動きにくいかもしれません」

そう答えた彼女の服装は、派手ではないが地味でもない、それなりに上質な絹で誂えた衣装。
送り先が神威であった為に忘れがちだが、貢物として送られて来たのだから、
身につけているものも鑑賞に値する上物であるのは当然だろう。
そしてそれらは彼女を商品として飾り付けるものであり、確実に普段着ではない。

「下女云々置いておいても、動きにくいだろ。
 そのヒラヒラした服はさすがに着替えさせねぇとな…」
「いきなり脱がすの?」
「阿伏兎さんのえっち」
「違うわ! ああ、もう、お前らホントに黙っててくれねーか!
 というか、いっそのことさっさと部屋戻れ鬱陶しい!!」

またいつの間にか余計な茶々を入れてきたふたりを、反射的に阿伏兎は怒鳴り付ける。
対して、怒鳴られた方は楽しそうに笑った。

「ハイハイ、邪魔して悪かったよ。
 じゃあお言葉に甘えて戻ろうかな。行くよ、
「え。ホントに丸投げ?」
「うん。…ああ、? 襲われそうになったら逃げておいで」
「……………は、い?」

さすがに、の動きが固まった。
伺うように自分を見上げてくると、笑顔の上司とを交互に見遣り、
阿伏兎は頭痛を抑えるように頭を抱えた。

「………アンタと一緒にすんな。襲わねーよ」
「酷い言われようだなぁ。俺だって以外は襲わないよ」
「いや、私も襲われたくはないんですが。なんで普通にそれを言うのかな」

不満の声を上げるの頭を軽く撫でてから立ち上がると、神威は彼女の腰に腕を回した。
そしてそのまま、肩に担ぎ上げられる。

「って! だからどうして抱え上げんの!?
 ちゃんと自分の足で歩くから! なに、あんた私が逃げると思ってんの!?」
「思ってないよー、今更が俺から逃げる理由無いし。
 抱えてるのはホラ、単に触り心地が良いな、って思って」
「触り心地ってあんた何言ってんの」
って肉付き良いよね」
「太ってるって言いたいのか!!」
「ううん、エロいって言ってる」
「余計なこと言わないで!!」

そんなことを言われて、大人しく抱えられるままでいるわけもない。
だが神威も慣れているので、暴れるに手を焼く気配もなく、そのまま連れて行ってしまった。
後に残された阿伏兎とは、思わず互いに顔を見合わせる。

「………」
「…アンタも大変だな。あんな主で」
「…まあ、面倒くさいだけで悪い主でもないかもしれませんから」
「………面倒くさい時点でダメなんじゃねーか?」
「………殴られたり犯されたりしないだけマシではないでしょうか」
「………………擦れたこと言わんでくれねぇか」
「…申し訳ありません」

もはや口癖と化している謝罪を口にしてから、は少し考えるようにして口を開く。

「…実際、残れと言われた時には、そうなるんだろうかと思ったんです。
 そしてその後、部下の方に下げ渡されるのかしら、と」
「下げ渡されるって」
「よほど采女族が珍しかったのだろうと思いまして、普通に納得してました。
 若くて美しい奥様がいらっしゃるのですから、その場限りの興味でしょう、と」

淡々と喋るの言葉は確かに擦れてはいるが、まったく見当違いの見解ではない。
権力者が珍しいものに興味を持つのは当然で、だからこそ貢物と称し珍品が届けられる。
その『珍品』として送られて来ただ。自分の価値をよく理解しているのだろう。
そもそもにおいて、神威が権力者としては珍しいタイプなのである。

「…まあ、神威様にとってはわたしは魅力がまったく無いそうですが…。
 あの方は、よほど様が大切なのですね。――狂気的なまでに」
「…………」

狂気的。間違いではない。
だが自分に向けられたわけでもないその感情に対する、の反応は少し不可解だ。
嫌悪と羨望の入り混じった、奇妙な感情。
その瞳に孕ませた感情は変わらない表情より雄弁に、そして複雑に彼女の心情を物語る。

「…あのよ、お嬢さん…」
「阿伏兎様。わたしは神威様に隷属する身です。
 神威様の側近であるあなたが、わたしをそのように呼ぶ必要はありません」
「は?」
「…え、と」

訝しげに首を傾げられ、は少しばかり困ったように視線を彷徨わせた。
そして、困惑気味に呟く。

「…名前で。…呼んでください。落ち着きません」
「あ、ああ。…、だったか」
「はい、阿伏兎様」
「…あー…なんだ、…俺も様なんて付けて呼ばれるような育ちじゃねぇよ?」
「…では、…あの…阿伏兎…さん?」
「ああ、その方が良い」
「…はい…」

何か、妙な空気だった。
いい歳の男と若い娘の会話にしては、事務的なものであるはずなのにテンポも悪い。

「…わたし、夜兎の方はみんな神威様みたいなのかと思ってました」
「あれを基準にされると、さすがに困るんだが」
「はい、…阿伏兎さんは、わたしにも、優しいですね」
「………」

そう呟くように言ったが、初めてはにかむように微笑った。
ほぼ無表情だった娘の表情変化に、阿伏兎は何を返せば良いのか、一瞬わからなくなる。
ようやく出てきた言葉は、当たり障りの無い事務的なものだった。

「…お前さんの部屋を用意しよう。ついてきてくれ」
「はい」

素直に従うの様子は、好ましい。
状況に流されるだけの女ではなく、自分の置かれた状況に順応しようとするその姿勢は、
本人は無意識なのだろうが相当肝が据わっている。

「…まあ、今後色々大変だと思うが、頑張れ」
「はい。ありがとうございます、…阿伏兎さん」

まあ、この娘ならこの艦でもなんとかやっていけるだろう、と。
そう思いながら、阿伏兎は激励の意味を込めての頭を軽く撫でてやった。









To be continued?

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