LOVE DOLLS PARANOIA
心壊サミット00




「と、いうわけだから。阿伏兎、あとよろしく」
「ちょっと待て」

笑顔で言われた言葉は、許容するにはあんまりだった。
どこか機嫌の良い神威と、彼に担がれて来た
その後ろを少し離れて付いてきた、色素の薄い髪と瞳の娘。

なんとなく事態を把握した阿伏兎だったが、それはそれだ。
拾った犬猫の世話を押し付けるような発言の対象は、年若い娘である。
この年下の上司が奔放で我が儘なのは通常運転だが、冗談ではない。

「嬢ちゃんの機嫌が直ったのは良い。が、なんでまた仕事増やすんだアンタは!」
「別に女の世話くらい良いだろ? 大人しいから楽だよ多分」
「犬猫じゃねぇんだぞ、そんな簡単にいくか」
「俺の世話より楽だろ?」
「比較対象が悪過ぎるわッ」

怒鳴る阿伏兎を横目に眺めながら、ようやく降ろしてもらったはソファに凭れ掛かる。
そして、気怠げに神威を見上げながらため息を吐いた。

「自覚がある発言だよねぇ、ソレ…」
「まあ、俺の世話はがしてくれるし」
「いやいや、世話焼かれないようになってよ」
「えー。に世話焼かれたいよ」
「ちょ、世話ってそっち!? だから人前で変なとこ触らないで…っ」

ソファの上でじゃれ合うふたりに、阿伏兎は思わず顔を顰めて頭を抱えた。
日常茶飯事とはいえ、日々エスカレートしているようにも思う。
勝手にやってくれとも思うが、今日はそういうわけもいかない。
この色ボケ夫婦に不慣れな、第三者が居るのだから。

「…おい、そういうことは部屋でやってくれ。慣れてない奴が居るんだからよ」
「いえ、充分理解したので平気です。廊下のど真ん中よりマシかと思います」
「……………この短時間で理解されるってどうなんだ。廊下で何してたんだか」

の視線が居た堪れなさそうに泳いだのを見て、ある程度予想はつくが。
呆れたようにため息を吐く阿伏兎に、おずおずとは口を開いた。

「…あの…御手を煩わせて申し訳ありません。
 どこで寝泊まりするか教えて頂ければ、あとは自分でなんとかしますから」
「いやいや、ちょっと待てお嬢さん。アンタここがどういう場所かわかってるのか?
 さすがにアンタみたいな若い娘さんを、この艦内で放置出来ないだろ」

基本的に、海賊などという呼び名を持つ春雨という組織は、大半が男で構成されている。
かつての第四師団団長――華陀のような女は、とても稀な存在だった。
女だけで構成される師団も無くは無いが、彼女達は原則、定時連絡以外で母艦に近づかない。
神威のように地位のある者であれば、女を囲っている者もいるだろう。
だがそれ以外、となると整備士から料理人に至るまで、すべて男なのである。
下女のような者は存在しない。風紀上の問題だった。
とて神威が提督となる前は、ひとりで母艦をうろつくことなど出来なかったくらいである。
そんな環境下に、この見るからにか弱い、しかし見目の良い若い娘を放り出したらどうなるか。
貧困な想像力であっても、簡単に予想がつく。

「私は『嬢ちゃん』では『お嬢さん』なんだ」
「阿伏兎の趣味ってよくわからないネ」
「女狐タイプが好きなんじゃないのかね?」
「狸でも良いんじゃないの? 腹の中身見せない辺りが共通点」
「あー」
「違ェよ! 余計な茶々入れんな馬鹿夫婦!」

いつの間にか仲良く事の成り行きを観察していた二人を、阿伏兎は怒鳴りつけた。
別々にしておけば不機嫌になるし、一緒にしておけば余計なことしかしない。
…実に、面倒な二人。確実に似た者同士だろう、これは。

「…で。真面目な話、どうする気だ団長?」
「ん?」
「嬢ちゃんみてェに腕っ節が強いならまだしも…
 狼の群に羊を投げ込むようなもんだろうが、これ」
「過保護だなァ。異種族の女相手にどうしたの、らしくないね」
「…それをアンタが言うか?」

地球人であるに対する神威の寵愛ぶりは、見ていて時に怖いくらいだ。
よくもまぁこのか弱いはずの女は、それを平然と受け入れられるな、と感心する程に。

「夜兎でもない嬢ちゃんに、専用の傘まで作らせたアンタに言われたくねーよ。
 職人のじーさん泣いてたぞ。勝手がわからない、って」
「だって薙刀だけじゃ危ないだろ。
 何の為に秘書官に武器の携帯義務付けたと思ってんの?」
「過保護行き過ぎてただの職権乱用じゃねーか」
「私の話は良いから。今はの話でしょうが。
 そもそも、実戦任務に私を同行させてる本人が過保護ってふざけんなだよ」
の戦い方が無茶苦茶過ぎるから、こっちは心配してるんだよ」
「そうは言うけど、あんただって平然と人に「後ろ任せた」とか言うじゃん」
「だって、強いし。
 基礎スペックが地球人じゃないよね、は。実際なんなの?」
「地球人だよ」
「半分夜兎なんじゃないの?」
「いや純血だって」

また、話が脱線した。
馬鹿な会話に花を咲かせる暴君夫婦を眺めながら、は軽く首を傾げる。

「…わたしも、戦えるようになるべきなのでしょうか?」
「いや、あの嬢ちゃんは規格外だから参考にしなくて良い」
「ああ、には何も期待してないよ?
 だいたい弱小種族の、しかも愛玩奴隷の教育しか受けてない女に何が出来るの」

僅かに、の表情が動く。
その表情変化を、神威は嗤いながら眺め、笑顔のままで言い放った。

「お前はただ、もしもの時に治癒能力が使える状態ならそれで良い」
「………」

蔑みとも違うが、明らかに馬鹿にされている。
徐々に険しくなっていくの表情見て、はため息を吐く。
そして、傍らの神威を無言で蹴飛ばした。

「…神威、それ差別用語。笑顔で使う言葉と違う」
「痛いよ、。なんで蹴るの?」
「悪い事したからお仕置きです」
「…は最近足癖が悪いなぁ、っと」
「きゃあああっ!? ちょっ、やだ! 何すんの!!」

いきなり、足首を掴まれて転がされたが悲鳴を上げた。
そんな彼女に圧し掛かりながら、神威は胡散臭い程に優しく微笑む。

「お仕置き、かなぁ?」
「私何も悪い事してないし!」
「俺を足蹴にしたじゃない。足癖の悪い子はお仕置きでしょ」
「お仕置きにかこつけたセクハラだよこれは!
 脚抱えるのやめてよ、中見えるじゃないのバカッ」
「こんな裾の短い服着てるが悪いんだよ。
 いくら動きやすいからって短過ぎだろ、何考えてんの」
「人を露出狂みたいに言わないでくれませんかね!」
「太腿の半分以上出てるんだから露出過多だよ。下に何か穿けば?」
「何かって何よ」
「…え、なんだろ。ガーター?」
「ガーターは下着だと思う。逆に卑猥だと思うんだけどどうなの」
「あれ。じゃあどうしよう」
「ホットパンツ?」
「うーん…下着よりはマシかなぁ…?
 でもあんま露出度は変わらないし脱がしにくそう」
「脱がすの前提ですか! って、あんたどこに手ェ入れてんの!!」

発情期の動物か、お前らは。
そんな言葉が浮かんだが、阿伏兎はなんとか口に出すのは思い留まる。

「だから部屋でやってくれそういうのは!」
「…神威様は他人に見られると興奮する性癖なのですね。
 とりあえず見ていれば良いのでしょうか。それとも何か言うべきですか?」
「アンタも真顔で何言ってんだ!」
「申し訳ありません。ここは照れた方が良かったでしょうか…」

本気で言っていたらしい。
悩むように考え込むの様子は、おちょくるような演技ではない。

「そういう意味じゃねーよ。…なんだ、アンタ結構胆座ってんな…」
「そうでしょうか?」

そう不思議そうに問い返す、色素の薄い瞳。
胆が据わっているというより、ズレた天然かもしれない、と。
新たに増えた頭痛の種に、阿伏兎は本日何度目かの深いため息を吐き出した。









To be continued?

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