LOVE DOLLS PARANOIA
口舌エゴイズム02




――どうしてわたしは、提督様に連れて来られたのかしら。

内心混乱しながら、しかし人形のように大人しく、はソファに座っていた。
表情にさほどの動揺が無いのは、感情を顔に出さぬようにと教育されているからである。

「無理矢理連れて来られた感想は?」
「はぁ…特には…」
「無いの? 何されるかわからないのに?」
「そういうものだと、思うので…ここに贈られた以上は…」
「泣いたり暴れたりとか、抵抗しないの?」
「その方が提督様が楽しいのでしたら、従いますが…」
「……」

呆れたように目を眇めて、神威はソファの背もたれに凭れ掛かった。

「…思った以上に、つまらない女だね」
「はぁ…申し訳ありません…」

謝罪の言葉を述べていてなお、の表情は特に動かない。
感情が無いというより、ただ単に表情が無い。
完璧な人形――なるほど、奴隷種族と呼ばれる所以はこれか。

「まあ、別に良いんだけどさ。
 …なんか組み敷いても平然としてそうだよね」
「…お望みでしたら」
「間に合ってるよ。お前みたいなつまらない女、抱く気にならないね」
「はぁ…では、わたしは何の為にここに残されたのでしょう…?」

そう呟くような言うと、は不思議そうに首を傾げた。

「それ以外の用途が、わたしにありますか?」
「…やっぱりつまんない女だね」
「申し訳ありません」
「このやりとりも飽きたね」
「申し訳ありません」
「…そのおざなりな謝罪、なんとかならない? イライラしてきた」
「…では、黙ります」
「……………」
「……………」
「……………ホントに黙るんだ?」
「はい」
「…まあ、物怖じしないところは気に入ったよ」
「ありがとうございます…?」
「どっちにしても、別にお前には女としての役割なんか求めてないから。
 俺がお前をここに残したのは、お前が采女族だからだよ」
「……」

僅かに、の表情が動いた。
ようやく生き物らしい反応を返したを眺めながら、神威は話を続ける。

「采女族は手で触れた傷を癒すことが出来る。これ、ホント?」
「はい。細胞が生きている限りは、治せます。
 ですが損壊、つまり手足が取れたとか、そういうものは治せません」
「じゃあ、生き血が万病に効くっていうのは?」
「半分は事実です。
 数多ある全ての病に対応出来るかは、試してみないとわかりません」
「ふぅん? 実証したことあるの?」
「あります。でなければ、わたしは商品としてここに居ません」
「なるほどね」

自らを商品と言い切るか。大した『教育』の徹底ぶりだ。
だが、正常な感情が無いのかと思えば、そうでもない。

「…どなたか、怪我かご病気でも…?」
「いや? まあ保険としてね。
 俺は夜兎だから良いけど、は地球人だから」
「……様。あ、奥様ですね」
「奥様、ねぇ…」

本人が聞いていたら照れるを通り越して怒りそうな呼称だが、
はあくまで真面目に言っているようなので、神威も訂正しない。

「では、わたしは…奥様の御身をお守りするために残された、と。
 そういう解釈でよろしいのでしょうか?」
「そうだよ。采女族は貴重だからね。俺も初めて見た。
 …ところで一応聞くけど、女だよね?」
「はい。采女族は、女にしか治癒能力が発現しません。
 ですから、商品価値があるのは女だけです」
「なら良い。治療の為でも、を俺以外の男に触れさせたくない」
「……」

平然と惚気られて、一瞬、は返す言葉に困ったのか口を噤んだ。
先程からも薄々感じていたが、この男は極端過ぎる。何もかもが。

「お前は純血?」
「はい。養育施設で、純血同士を交配させて生まれたのがわたしです。
 春雨ほどの規模の要人に贈るのは、教育を受けた純血のみですから」
「あー、家畜かペットみたい」
「そうですね、間違っていないと思います。
 交配を行う番(つがい)は家畜で、わたしのような者はペットでしょう」
「…擦れっ枯らしなこと言うねぇ…お前さ、生きてて楽しい?」
「生きることに楽しい楽しくない、はあるのですか?」

どこまでも、不思議そうに返された問い。
卑屈でもなんでもなく、単純な疑問の色を孕むそれ。

「ははっ、――最低につまんない女」
「そうですか。…そうなのでしょうね。
 でもわたしは、提督様を愉しませる為に居るのではないようなので、問題ないかと」
「そうだね。采女族じゃなかったら、殺したいくらいつまんないけど。
 あとその提督サマ、って止めない? 一瞬誰のこと呼んでるのかわからないから」
「…では、…旦那様?」
「余計わからないよ」
「ご主人様?」
「お前の主はだよ。俺、そういう趣味ナイから」
「…難しいです。では、どうお呼びすればご満足頂けますか?」
「なに、お前。俺の名前知らないの」
「いえ、存じています。えと、…神威、様」
「それで良いよ」
「……」

あっさり返されて、僅かにの表情に困惑が浮かぶ。
どうにも、彼女が叩き込まれた権力者のテンプレに、神威は合致しない。
困惑したまま、は注意深く伺うように、口を開いた。

「良いのですか」
「うん。わかりやすいでしょ」
「…そうですね。わかりました、ではそう呼ばせて頂きます。
 奥様のことは、奥様とお呼びして良いのでしょうか」
「うん? …あぁ、それ面白そうだなぁ。どういう反応するか楽しみだ」
「…はぁ…?」

寵愛は深いようだが、少しばかり捻じ曲がっているらしい。
正当な評価を下すだったが、もちろん口にはしなかった。









To be continued?

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