――どうしてわたしは、提督様に連れて来られたのかしら。
内心混乱しながら、しかし人形のように大人しく、はソファに座っていた。
表情にさほどの動揺が無いのは、感情を顔に出さぬようにと教育されているからである。
「無理矢理連れて来られた感想は?」
「はぁ…特には…」
「無いの? 何されるかわからないのに?」
「そういうものだと、思うので…ここに贈られた以上は…」
「泣いたり暴れたりとか、抵抗しないの?」
「その方が提督様が楽しいのでしたら、従いますが…」
「……」
呆れたように目を眇めて、神威はソファの背もたれに凭れ掛かった。
「…思った以上に、つまらない女だね」
「はぁ…申し訳ありません…」
謝罪の言葉を述べていてなお、の表情は特に動かない。
感情が無いというより、ただ単に表情が無い。
完璧な人形――なるほど、奴隷種族と呼ばれる所以はこれか。
「まあ、別に良いんだけどさ。
…なんか組み敷いても平然としてそうだよね」
「…お望みでしたら」
「間に合ってるよ。お前みたいなつまらない女、抱く気にならないね」
「はぁ…では、わたしは何の為にここに残されたのでしょう…?」
そう呟くような言うと、は不思議そうに首を傾げた。
「それ以外の用途が、わたしにありますか?」
「…やっぱりつまんない女だね」
「申し訳ありません」
「このやりとりも飽きたね」
「申し訳ありません」
「…そのおざなりな謝罪、なんとかならない? イライラしてきた」
「…では、黙ります」
「……………」
「……………」
「……………ホントに黙るんだ?」
「はい」
「…まあ、物怖じしないところは気に入ったよ」
「ありがとうございます…?」
「どっちにしても、別にお前には女としての役割なんか求めてないから。
俺がお前をここに残したのは、お前が采女族だからだよ」
「……」
僅かに、の表情が動いた。
ようやく生き物らしい反応を返したを眺めながら、神威は話を続ける。
「采女族は手で触れた傷を癒すことが出来る。これ、ホント?」
「はい。細胞が生きている限りは、治せます。
ですが損壊、つまり手足が取れたとか、そういうものは治せません」
「じゃあ、生き血が万病に効くっていうのは?」
「半分は事実です。
数多ある全ての病に対応出来るかは、試してみないとわかりません」
「ふぅん? 実証したことあるの?」
「あります。でなければ、わたしは商品としてここに居ません」
「なるほどね」
自らを商品と言い切るか。大した『教育』の徹底ぶりだ。
だが、正常な感情が無いのかと思えば、そうでもない。
「…どなたか、怪我かご病気でも…?」
「いや? まあ保険としてね。
俺は夜兎だから良いけど、は地球人だから」
「……様。あ、奥様ですね」
「奥様、ねぇ…」
本人が聞いていたら照れるを通り越して怒りそうな呼称だが、
はあくまで真面目に言っているようなので、神威も訂正しない。
「では、わたしは…奥様の御身をお守りするために残された、と。
そういう解釈でよろしいのでしょうか?」
「そうだよ。采女族は貴重だからね。俺も初めて見た。
…ところで一応聞くけど、女だよね?」
「はい。采女族は、女にしか治癒能力が発現しません。
ですから、商品価値があるのは女だけです」
「なら良い。治療の為でも、を俺以外の男に触れさせたくない」
「……」
平然と惚気られて、一瞬、は返す言葉に困ったのか口を噤んだ。
先程からも薄々感じていたが、この男は極端過ぎる。何もかもが。
「お前は純血?」
「はい。養育施設で、純血同士を交配させて生まれたのがわたしです。
春雨ほどの規模の要人に贈るのは、教育を受けた純血のみですから」
「あー、家畜かペットみたい」
「そうですね、間違っていないと思います。
交配を行う番(つがい)は家畜で、わたしのような者はペットでしょう」
「…擦れっ枯らしなこと言うねぇ…お前さ、生きてて楽しい?」
「生きることに楽しい楽しくない、はあるのですか?」
どこまでも、不思議そうに返された問い。
卑屈でもなんでもなく、単純な疑問の色を孕むそれ。
「ははっ、――最低につまんない女」
「そうですか。…そうなのでしょうね。
でもわたしは、提督様を愉しませる為に居るのではないようなので、問題ないかと」
「そうだね。采女族じゃなかったら、殺したいくらいつまんないけど。
あとその提督サマ、って止めない? 一瞬誰のこと呼んでるのかわからないから」
「…では、…旦那様?」
「余計わからないよ」
「ご主人様?」
「お前の主はだよ。俺、そういう趣味ナイから」
「…難しいです。では、どうお呼びすればご満足頂けますか?」
「なに、お前。俺の名前知らないの」
「いえ、存じています。えと、…神威、様」
「それで良いよ」
「……」
あっさり返されて、僅かにの表情に困惑が浮かぶ。
どうにも、彼女が叩き込まれた権力者のテンプレに、神威は合致しない。
困惑したまま、は注意深く伺うように、口を開いた。
「良いのですか」
「うん。わかりやすいでしょ」
「…そうですね。わかりました、ではそう呼ばせて頂きます。
奥様のことは、奥様とお呼びして良いのでしょうか」
「うん? …あぁ、それ面白そうだなぁ。どういう反応するか楽しみだ」
「…はぁ…?」
寵愛は深いようだが、少しばかり捻じ曲がっているらしい。
正当な評価を下すだったが、もちろん口にはしなかった。
To be continued?
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