神威がここに来るようになって、どのくらいになるだろうか。
…まあ来たところで、禿達や新造達と遊んだり飯食ったりしてるだけだが。
ああ、いや――もうひとつ、あったか。
どうにも、一度叩きのめしたせいか、神威は私に対する興味を深めたらしい。
ことあるごとに挑んでくるので、それをまた叩きのめして、そしてまた挑まれる。
おかげで座敷が滅茶苦茶になることも増え、掃除が大変だと禿達は思っていることだろう。
…まったく、困った奴である。
………手加減が苦手な私にも、多少の責任はあるとは思うが。
「…私が思うにね、神威」
膝の上の猫を撫でながら、私は小さく息を吐いた。
「あんたはちと戦い方が力任せ過ぎやしねぇかい?」
「それ、なんか問題あるの?」
…おう。そう来たか。
本当に不思議そうに聞いてくるから、思わず頭痛を覚えた。
まさか力任せの自覚があったとは。…あのクソジジイ、何を教えてんだ。
「…あんた、親父様の弟子だろ。何習ったんだ」
「…何…ええと、旦那の部下と闘ったり、変な宇宙生物と闘ったり」
「………もういい」
それはつまり「習うより慣れろ」じゃねぇか。
…あのクソジジイ。このガキに教えたのは下らない夜兎の因習だけかい。
「…神威。あんた、私に勝てない理由がわかるかい?」
「そりゃ、が俺より強いからだろ」
「じゃあ聞くが、私があんたより力があると思うかい?」
「……」
少し考える素振りをして、神威は不思議そうに首を傾げた。
案外、素直な奴である。
「…そうでもないかも。旦那の拳の方が重いし」
「でもあんたは、私と親父様がやりあったら両方死ぬと思ってるんだろ?」
「うん。なんとなく」
「……勘かよ」
それが勘でわかるのも、まあ大したもんだが。
…色々、問題のある奴だ。絶対師事する相手間違えてる。
「確かに夜兎は、他の種族に比べりゃ力任せな闘い方だがね…」
「歯切れ悪いな。なんなの」
「いや、その闘い方を貫きたいならそりゃああんたの勝手だが。
…それじゃああんたの限界は見えてるよ」
「力だけじゃダメだ、ってこと?」
「そう。あんたは野外実践型だろうから、今のやり方も悪くは無いが…
格上と闘いたいなら、もう少し考えた方が良いね」
…
……
………あれ。何やってんだろ、私。
私は確かに神威を2年間で見極める、とは約束したが。
…別に、闘い方の指導までする気はなかったのだけど。
………まあ、神威が素直に私に教えを請うわけないか。
「…じゃあ、さ」
「ん?」
「流の闘い方ってやつ、俺に教えてよ」
「………は?」
屈託の無い笑顔で言われた、予想外の言葉。
思わず、私は唖然と神威を見つめ返してしまった。
「要するに、旦那とじゃ闘い方が違うわけだろ?
どっちの闘い方も身に着けられたら、より最強に近づけるってことだよね」
「……まあ、そうなる、…のか?」
そんな単純で良いんだろうか。
1足す1は2、みたいな感覚に聞こえるんだが。
「俺は旦那だけじゃなくて、にだって勝つつもりなんだからさ。
その為にも、身に着けられるものは身に着けておきたいじゃないか」
「…向上心は悪いことじゃねぇが。あのね、私は遊女…しかも太夫なんだけど」
「が遊女だろうが太夫だろうが、そんなの俺にはどうでもいいよ。
俺にとっては、同じ夜兎で――俺より強い奴。それだけで十分なんだから」
吉原の太夫相手に、まぁ色気の無いお言葉で。
…何しに来てるかわかってねぇんだろうなぁ、こいつ。
返事の代わりにため息を吐き出したけれど。
――無意識に笑ってしまったのは、私もまた、生粋の夜兎だからだろうか。
To be continued?
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