殉血の枷
11.師事




神威がここに来るようになって、どのくらいになるだろうか。
…まあ来たところで、禿達や新造達と遊んだり飯食ったりしてるだけだが。
ああ、いや――もうひとつ、あったか。

どうにも、一度叩きのめしたせいか、神威は私に対する興味を深めたらしい。
ことあるごとに挑んでくるので、それをまた叩きのめして、そしてまた挑まれる。
おかげで座敷が滅茶苦茶になることも増え、掃除が大変だと禿達は思っていることだろう。
…まったく、困った奴である。
………手加減が苦手な私にも、多少の責任はあるとは思うが。

「…私が思うにね、神威」

膝の上の猫を撫でながら、私は小さく息を吐いた。

「あんたはちと戦い方が力任せ過ぎやしねぇかい?」
「それ、なんか問題あるの?」

…おう。そう来たか。
本当に不思議そうに聞いてくるから、思わず頭痛を覚えた。
まさか力任せの自覚があったとは。…あのクソジジイ、何を教えてんだ。

「…あんた、親父様の弟子だろ。何習ったんだ」
「…何…ええと、旦那の部下と闘ったり、変な宇宙生物と闘ったり」
「………もういい」

それはつまり「習うより慣れろ」じゃねぇか。
…あのクソジジイ。このガキに教えたのは下らない夜兎の因習だけかい。


「…神威。あんた、私に勝てない理由がわかるかい?」
「そりゃ、が俺より強いからだろ」
「じゃあ聞くが、私があんたより力があると思うかい?」
「……」

少し考える素振りをして、神威は不思議そうに首を傾げた。
案外、素直な奴である。

「…そうでもないかも。旦那の拳の方が重いし」
「でもあんたは、私と親父様がやりあったら両方死ぬと思ってるんだろ?」
「うん。なんとなく」
「……勘かよ」

それが勘でわかるのも、まあ大したもんだが。
…色々、問題のある奴だ。絶対師事する相手間違えてる。

「確かに夜兎は、他の種族に比べりゃ力任せな闘い方だがね…」
「歯切れ悪いな。なんなの」
「いや、その闘い方を貫きたいならそりゃああんたの勝手だが。
 …それじゃああんたの限界は見えてるよ」
「力だけじゃダメだ、ってこと?」
「そう。あんたは野外実践型だろうから、今のやり方も悪くは無いが…
 格上と闘いたいなら、もう少し考えた方が良いね」


……
………あれ。何やってんだろ、私。
私は確かに神威を2年間で見極める、とは約束したが。
…別に、闘い方の指導までする気はなかったのだけど。
………まあ、神威が素直に私に教えを請うわけないか。

「…じゃあ、さ」
「ん?」
流の闘い方ってやつ、俺に教えてよ」
「………は?」

屈託の無い笑顔で言われた、予想外の言葉。
思わず、私は唖然と神威を見つめ返してしまった。

「要するに、旦那とじゃ闘い方が違うわけだろ?
 どっちの闘い方も身に着けられたら、より最強に近づけるってことだよね」
「……まあ、そうなる、…のか?」

そんな単純で良いんだろうか。
1足す1は2、みたいな感覚に聞こえるんだが。

「俺は旦那だけじゃなくて、にだって勝つつもりなんだからさ。
 その為にも、身に着けられるものは身に着けておきたいじゃないか」
「…向上心は悪いことじゃねぇが。あのね、私は遊女…しかも太夫なんだけど」
が遊女だろうが太夫だろうが、そんなの俺にはどうでもいいよ。
 俺にとっては、同じ夜兎で――俺より強い奴。それだけで十分なんだから」

吉原の太夫相手に、まぁ色気の無いお言葉で。
…何しに来てるかわかってねぇんだろうなぁ、こいつ。
返事の代わりにため息を吐き出したけれど。
――無意識に笑ってしまったのは、私もまた、生粋の夜兎だからだろうか。









To be continued?

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