殉血の枷
08.夜兎の王




「さっそくとやり合ったらしいな、神威」

傷だらけで現れた神威に、鳳仙は低く嗤った。
対して、神威はにこりとも笑わない。

「あれは女にしては強かろう。お前ではまだ届かぬぞ」
「…でしょうね。旦那より強いかもしれませんよ」
「ほう? この夜王より強いか」

神威とは対照的に、鳳仙の機嫌は良い。
いったい何が楽しいのかと、神威はため息を吐き出した。

「…なんだってあの人は、こんなところに居るんですか?」
「さてな。何を思ったか10年程前に自ら吉原に来たのだ。
 元々はわしのもとで引っ込みとして面倒をみてやっていたが…
 日輪と同じ見世に置いては花開かぬと思い、三浦屋に預けたのだが」

見事な花が咲いたものだ、と。
そう言って笑う鳳仙に対し、神威は興味なさそうに視線を逸らした。

「女としてのには興味がないか」
「ありませんね」
「まったく…まだまだ子供だな」
「子供で結構。俺は強い奴と戦えればそれで良い」

にべもない。
ある意味では純粋とも言える反応に、鳳仙は苦笑するに留めた。

が気に入らぬか?」
「そんなことはないですよ。強いし。…真面目に相手してくれないのは旦那と同じですけど」
「そう拗ねるな。あれはあれで、お前を気にかけているのだろう」
「そういうのは要らないんですが」
「…神威よ。あれに喧嘩を売るのはやめておけ、まだ早い」
「………」
「手加減されてその体たらくだ。悔しいのならしばらく手を出すな」
「…………わかりました」

長い沈黙の後、渋々、神威は頷く。
傷の治りの早い夜兎とは言え、貫通した傷は治りがすこぶる遅い。
それをわかった上でああいうことをやったのだろうから、に勝つのはまだ難しいだろう。

「…は案外、お前の師に向いているかもしれんな」
「?」
「お前とあれは、似ているのかもしれん」
「…俺とが、似てる?」
「初めて会った時のと、お前は似ている。その、血に飢えた獣の目がな」

僅かに、神威は顔を顰めた。
――自分と彼女が同じだというのなら、何故、その血に飢えた獣はこの檻の中に居るのか。

「夜兎も滅びへ向かっているとは言われるが存外、次世代は粒揃いよ。
 惜しむべきはが女であることか」
「…女は、男に劣りますか」
「純粋に戦闘能力という意味では、劣りはせん。
 だが女夜兎である以上は子を産まぬわけにはいくまい」

当たり前のように言われたその言葉に、神威は首を傾げた。
純血の女夜兎は数が少ないとは聞いたが、彼女達が子供を産むのは義務なのだろうか。
どうにも、そういうイメージがには合致しない。
彼女はどう贔屓目に見ても、戦場で暴れている方が似合っているような気がした。

「子を孕めば女夜兎は衰える。お前の母も例外ではなかろう」
「……」
「お前の母親は残念だった。だが子をふたりも産んだのだから仕方なかろう。
 …しかし、は惜しい。あれが男であれば、確実にわしを越えただろうに」

期待しているのか、いないのか。よくわからない言葉。
その戦闘能力を以て「惜しい」と評しながら、何故、師は手元にを置いておくのか。
そして、その師を「親父様」と呼びながらも、慕う素振りどころかどこか殺意を孕んでいるの態度。
このふたりの温度差はなんなのだろうかと、ふと考えたが神威はすぐに思考を停止させた。
他人の頭の中身なぞ、考えても仕方がない。
だから代わりに、わかりきったことを口にする。

「そりゃ良いですね。倒し甲斐がある」









To be continued?

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