「さっそくとやり合ったらしいな、神威」
傷だらけで現れた神威に、鳳仙は低く嗤った。
対して、神威はにこりとも笑わない。
「あれは女にしては強かろう。お前ではまだ届かぬぞ」
「…でしょうね。旦那より強いかもしれませんよ」
「ほう? この夜王より強いか」
神威とは対照的に、鳳仙の機嫌は良い。
いったい何が楽しいのかと、神威はため息を吐き出した。
「…なんだってあの人は、こんなところに居るんですか?」
「さてな。何を思ったか10年程前に自ら吉原に来たのだ。
元々はわしのもとで引っ込みとして面倒をみてやっていたが…
日輪と同じ見世に置いては花開かぬと思い、三浦屋に預けたのだが」
見事な花が咲いたものだ、と。
そう言って笑う鳳仙に対し、神威は興味なさそうに視線を逸らした。
「女としてのには興味がないか」
「ありませんね」
「まったく…まだまだ子供だな」
「子供で結構。俺は強い奴と戦えればそれで良い」
にべもない。
ある意味では純粋とも言える反応に、鳳仙は苦笑するに留めた。
「が気に入らぬか?」
「そんなことはないですよ。強いし。…真面目に相手してくれないのは旦那と同じですけど」
「そう拗ねるな。あれはあれで、お前を気にかけているのだろう」
「そういうのは要らないんですが」
「…神威よ。あれに喧嘩を売るのはやめておけ、まだ早い」
「………」
「手加減されてその体たらくだ。悔しいのならしばらく手を出すな」
「…………わかりました」
長い沈黙の後、渋々、神威は頷く。
傷の治りの早い夜兎とは言え、貫通した傷は治りがすこぶる遅い。
それをわかった上でああいうことをやったのだろうから、に勝つのはまだ難しいだろう。
「…は案外、お前の師に向いているかもしれんな」
「?」
「お前とあれは、似ているのかもしれん」
「…俺とが、似てる?」
「初めて会った時のと、お前は似ている。その、血に飢えた獣の目がな」
僅かに、神威は顔を顰めた。
――自分と彼女が同じだというのなら、何故、その血に飢えた獣はこの檻の中に居るのか。
「夜兎も滅びへ向かっているとは言われるが存外、次世代は粒揃いよ。
惜しむべきはが女であることか」
「…女は、男に劣りますか」
「純粋に戦闘能力という意味では、劣りはせん。
だが女夜兎である以上は子を産まぬわけにはいくまい」
当たり前のように言われたその言葉に、神威は首を傾げた。
純血の女夜兎は数が少ないとは聞いたが、彼女達が子供を産むのは義務なのだろうか。
どうにも、そういうイメージがには合致しない。
彼女はどう贔屓目に見ても、戦場で暴れている方が似合っているような気がした。
「子を孕めば女夜兎は衰える。お前の母も例外ではなかろう」
「……」
「お前の母親は残念だった。だが子をふたりも産んだのだから仕方なかろう。
…しかし、は惜しい。あれが男であれば、確実にわしを越えただろうに」
期待しているのか、いないのか。よくわからない言葉。
その戦闘能力を以て「惜しい」と評しながら、何故、師は手元にを置いておくのか。
そして、その師を「親父様」と呼びながらも、慕う素振りどころかどこか殺意を孕んでいるの態度。
このふたりの温度差はなんなのだろうかと、ふと考えたが神威はすぐに思考を停止させた。
他人の頭の中身なぞ、考えても仕方がない。
だから代わりに、わかりきったことを口にする。
「そりゃ良いですね。倒し甲斐がある」
To be continued?
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