「おかえり、」
「……………なんであんたがここに居るんだい」
湯屋から戻った私を待っていたのは、禿達と遊んでいる神威だった。
…どこから突っ込めばいいんだ、この状況。
「神威さまは器用じゃのう。お手玉が生きとるようじゃ」
「そうかなぁ。かさねが不器用なだけじゃない?
そよぎはお手玉を目で追いかけ過ぎ。手がついていってないよ」
「うぅ…見るとやるは大違いじゃ…難しい…」
なんでこいつが、うちの禿相手に普通に遊び相手をしてやってるのわからん。
…しかもお手玉って。微笑ましいのか頭悪いのか。
小さく息を吐いて、私は背後を振り返る。
「……乙葉。ちょいとかさねとそよぎを湯に連れて行ってやってくれねぇか」
「あい、姐さん。ほら、かさね、そよぎ。行くよ」
「「あーい」」
小さな禿を連れて、新造の乙葉が座敷を出ていくのを見届けてから、私は襖を閉めた。
…昼見世の刻限まで、まだ時間はある。
だがその時間を、なぜこの仔兎に裂いてやらねばならんのか。
「……………あのねぇ。私は暇じゃないんだよ、神威」
「まだ仕事始める時間じゃないでしょ?」
「こっちは昼見世から夜見世まで満員御礼状態なんだ、ちったぁ休ませろ」
昼見世は花代が安いから、侍が多い。あいつらは、払いは悪いが色々うるさい。
夜見世にもなりゃ、常連のお大尽がやってくる。待たせりゃうるさいので、捌くのが大変だ。
そんな気苦労から解放されるべきこの時間に、何故、童の相手をしてやらにゃいかんのか。
色を売らないといっても、その分苦労は多い。お職の花魁というのはそういうものだ。
禿と遊んでやってるだけならまあ、問題はないが…仔兎であっても、夜兎は夜兎。
何かの拍子に怪我でもさせられちゃあ、堪ったもんじゃない。
「…だいたい、あんた春雨の構成員なんだろ。仕事どうした」
「おねえさんと違って、毎日仕事があるわけじゃないんだよ。
第七師団も鳳仙の旦那が隠居してから色々あってね」
「…そりゃ良いご身分だこと」
仕事もしないでぷらぷら遊び歩けるなんざ、どこのお大尽の放蕩息子だ。
…とはいえ、なんとなく事情はわからないでもないのだ。
まだガキのくせに、妙に腕っ節が強い。しかも夜王の愛弟子。
そりゃあ春雨第七師団の歴々も、扱いあぐねてるのだろうさ。
「揚げ代も払わねぇで太夫の座敷に上がるような怖いもの知らず、あんたくらいだよ。
まったく、親父様の弟子じゃなけりゃ摘まみ出してるところさ」
「見世の始まる刻限に来るときは、ちゃんとここのルールに従うよ。
面倒な街だね、ここは。遊女と馴染みになるのに初回、裏、ときて三回目でようやく床入り?
地球の江戸って町は変わってるよね。下らないことに金を使うのが男の見栄なんてさ。面白いけど」
「…あんたはガキらしくねぇな、ホントに」
「おねえさんも普段は全然花魁らしくないね」
「悪かったな。遊女なんかみんなこうだよ」
擦れたガキである、本当に。
正直、私がこのくらいの年の頃も…まぁ、確かに擦れちゃあいたが。
――それにしたって、こいつは少しばかり異常だと思う。
何も考えていないかと思えば、なかなかどうして頭の出来は良い。
この齢であの親父様に喧嘩を吹っかける度胸、親父様に目を掛けられるほどの能力。
――何より、獰猛な獣そのものの瞳。
悪ガキと括るには少々、こいつは獣の性が強過ぎる。
「…で? 何しに来たんだい」
「うん。…おねえさんと遊びたくて来たんだよ」
そう答えた神威の顔に、子供らしさは欠片もない。
獣が獲物に狙いを定めたような、喜悦を孕んだ視線。
天下の太夫相手に、そんなことしか考え付かねぇのかよ、と。
思わず嗤ってしまった私も、大概だとは思った。
To be continued?
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