殉血の枷
06.お手玉




「おかえり、
「……………なんであんたがここに居るんだい」

湯屋から戻った私を待っていたのは、禿達と遊んでいる神威だった。
…どこから突っ込めばいいんだ、この状況。

「神威さまは器用じゃのう。お手玉が生きとるようじゃ」
「そうかなぁ。かさねが不器用なだけじゃない?
 そよぎはお手玉を目で追いかけ過ぎ。手がついていってないよ」
「うぅ…見るとやるは大違いじゃ…難しい…」

なんでこいつが、うちの禿相手に普通に遊び相手をしてやってるのわからん。
…しかもお手玉って。微笑ましいのか頭悪いのか。
小さく息を吐いて、私は背後を振り返る。

「……乙葉。ちょいとかさねとそよぎを湯に連れて行ってやってくれねぇか」
「あい、姐さん。ほら、かさね、そよぎ。行くよ」
「「あーい」」

小さな禿を連れて、新造の乙葉が座敷を出ていくのを見届けてから、私は襖を閉めた。
…昼見世の刻限まで、まだ時間はある。
だがその時間を、なぜこの仔兎に裂いてやらねばならんのか。

「……………あのねぇ。私は暇じゃないんだよ、神威」
「まだ仕事始める時間じゃないでしょ?」
「こっちは昼見世から夜見世まで満員御礼状態なんだ、ちったぁ休ませろ」

昼見世は花代が安いから、侍が多い。あいつらは、払いは悪いが色々うるさい。
夜見世にもなりゃ、常連のお大尽がやってくる。待たせりゃうるさいので、捌くのが大変だ。
そんな気苦労から解放されるべきこの時間に、何故、童の相手をしてやらにゃいかんのか。
色を売らないといっても、その分苦労は多い。お職の花魁というのはそういうものだ。
禿と遊んでやってるだけならまあ、問題はないが…仔兎であっても、夜兎は夜兎。
何かの拍子に怪我でもさせられちゃあ、堪ったもんじゃない。

「…だいたい、あんた春雨の構成員なんだろ。仕事どうした」
「おねえさんと違って、毎日仕事があるわけじゃないんだよ。
 第七師団も鳳仙の旦那が隠居してから色々あってね」
「…そりゃ良いご身分だこと」

仕事もしないでぷらぷら遊び歩けるなんざ、どこのお大尽の放蕩息子だ。
…とはいえ、なんとなく事情はわからないでもないのだ。
まだガキのくせに、妙に腕っ節が強い。しかも夜王の愛弟子。
そりゃあ春雨第七師団の歴々も、扱いあぐねてるのだろうさ。

「揚げ代も払わねぇで太夫の座敷に上がるような怖いもの知らず、あんたくらいだよ。
 まったく、親父様の弟子じゃなけりゃ摘まみ出してるところさ」
「見世の始まる刻限に来るときは、ちゃんとここのルールに従うよ。
 面倒な街だね、ここは。遊女と馴染みになるのに初回、裏、ときて三回目でようやく床入り?
 地球の江戸って町は変わってるよね。下らないことに金を使うのが男の見栄なんてさ。面白いけど」
「…あんたはガキらしくねぇな、ホントに」
「おねえさんも普段は全然花魁らしくないね」
「悪かったな。遊女なんかみんなこうだよ」

擦れたガキである、本当に。
正直、私がこのくらいの年の頃も…まぁ、確かに擦れちゃあいたが。
――それにしたって、こいつは少しばかり異常だと思う。

何も考えていないかと思えば、なかなかどうして頭の出来は良い。
この齢であの親父様に喧嘩を吹っかける度胸、親父様に目を掛けられるほどの能力。
――何より、獰猛な獣そのものの瞳。
悪ガキと括るには少々、こいつは獣の性が強過ぎる。

「…で? 何しに来たんだい」
「うん。…おねえさんと遊びたくて来たんだよ」

そう答えた神威の顔に、子供らしさは欠片もない。
獣が獲物に狙いを定めたような、喜悦を孕んだ視線。
天下の太夫相手に、そんなことしか考え付かねぇのかよ、と。
思わず嗤ってしまった私も、大概だとは思った。









To be continued?

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