殉血の枷
01.輝夜




――江戸は吉原桃源郷。
地下に根を張る、常世の街。
男の極楽。女の苦界。
はてさて、それは真実だろうか。

いつの世でも、どんな場所でも、何一つ変わりゃしない。
男と女なんざ、所詮は騙し騙されの化かし合い。
男は見栄、女は意地。
どっちが勝っても残るのは――まあ、ひとつだろうね。

「花魁、よろしくお願いします」
「あいよ」

にこやかな笑顔で襖を開けてきたのは、この三浦屋の内儀。
私はこの三浦屋に身を置く遊女――花魁だ。

――花魁。吉原でも最高の美しさと芸を持つ者に与えられる称号。
その中でも最も秀でた花魁を、松の位、太夫と呼ぶ。
ただでさえ少ない格式高い見世に、ただ一人の存在。
今の吉原には、5人も居ないんじゃあないだろうか。

ここでの私の呼び名は、太夫。
代々三浦屋の松の位に与えられる、名跡。
本名は捨てた。廓に入った時点で、生まれ持った名など無用の長物。

――そう、ここは吉原。
金をばら撒くが男の見栄ならば、頂点で咲き誇るが女の意地だ。



「おお、花魁道中かい。ありゃ三浦屋の太夫だな」
「さすがは番付で日輪と一、二を争う。美しい…」
「いやいや、芸では日輪より上だろう? なにせは帯を解かない花魁だ」
「最近じゃあ日輪はぱったりと道中張らなくなったからねぇ…次の番付はの圧勝じゃないか?」


――吉原でも指折りの老舗,三浦屋お職の花魁。
どんなお大尽にも帯を解かずして、太夫に登り詰めた女。
物珍しさでお大尽が列を成し、今ではこれだけ目立つ

「…日輪を押さえて一番になっちまったら、目立ってしょうがないよ」
太夫は無欲ですねぇ。誰だって上にいきたいもんでしょうに」
「わっちゃそんなモンに興味はありんせん」

澄まして応えれば、肩貸しの男衆は可笑しそうに笑う。冗談と受け取ったのだろう。
確かに、番付二番までのし上がれたなら、見据えるは一番。
だがどれほど美しかろうが秀でていようが、女郎は女郎。
そんな格付けには興味はない。三浦屋お職の証である、の名ですらも。


透き通るように白き肌?
そんなものは持って生まれた当たり前のもの。
飲みっぷりが素晴らしい? 美味そうに料理を食す?
それのどこが特別だ。
芸が素晴らしい?
そんなものは、体力が続けばどうとでもなる。
通常三年掛る外八文字を一年掛らず取得?
外八文字が辛いのは、纏う衣装の重さと鉄下駄のせいだ。
重みに耐えられるのであれば、さして取得に時間など不要。


――私を、何者だとお思いか?


この身に流れるは、太陽に忌み嫌われし獣の血。
小さくか弱き様を演じる、月恋う獣。
常世の街を支配する、夜の王の娘。




――血を誇り、血に殉ずる宇宙最強の傭兵部族、〝夜兎〟。
それが江戸は吉原桃源郷が花魁、太夫の正体だった。









To be continued?

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