「すぐ医務室へ運べ! 嬢ちゃんは地球人だ、鬼兵隊に応援を要請しろ!!」
「団長、姐さんをこっちに! …団長!?」
「え? あぁ、うん…」

喧騒が聞こえているのかいないのか。抱き留めていたの体を緩慢な動きで部下に預け、神威はゆらりと立ち上がる。
立ち上がった彼の目の前に居るのは、床に押さえつけられた襲撃者。
勾狼の配下の生き残りか。艦内の惨状が凄まじく、残党狩りを徹底しなかったのがここで響くとは。

――どうしてを狙った? 粛清の報復なら直接俺を狙うべきだろう」

一切の表情が抜け落ちたまま、心底不思議そうに投げかけられた問い。
取り押さえられた男は気づいていないのだろうが、周囲を固める者はゾッと戦慄する。
どんな死地でも、どんな傷を負っても笑顔を浮かべたままでいる男が、一切の表情を消しているのだ。
そこにある感情は怒りを飛び越え、想像を絶するものがあるだろう。

「…報復? 何を寝ぼけたことを。俺たちは海賊だ、己の利権にしか興味はない」
「言ってることが矛盾してるな。仇討でなかったにせよ、提督の椅子が欲しけりゃ俺を狙うのが筋だ」
「我々はそこまで愚鈍ではない。…あの女、此度の功労者だろう。
 あの地球の鬼兵隊を手引きし、僻地へ追いやられた第七師団を呼び寄せた手腕。只者ではない」
「………」

結果だけを見れば、そうなるか。
そもそもは、たまたま巻き込まれてたまたま知り合いだった高杉の指示に従っただけだ。
なのだが、事情を知らない者から見れば、事前に春雨に入り機会を伺っていた高杉に部下――辺りに見えなくもない。
つまりそういうことなのだろう。外見の美しさと胆の据わりっぷりがその憶測に説得力を持たせてしまっている。

「誰もが言っているさ。あの一見か弱い小娘にしか見えぬあの女!
 鬼兵隊の密命を受け春雨内部に入り、春雨を乗っ取ろうと画策しているのだと!!」
「はー…」

――の有能さが、裏目に出たわけだ。
がいてもいなくても事は成っただろうが、ここまでスムーズではなかったに違いない。
端から見たら、確かにいきなり現れた妙齢の女が新提督の傍にいれば、そういう邪推もあるだろう。
それを想定しなかったのは、明らかに神威や阿伏兎のミスだ。

「団長」
「…いい、気が失せた。――殺せ」

ただ一言、無慈悲に。
自らが手を下す価値すらもないと、処刑を命じたその声には、普段の彼らしい色が戻り始めていた。

「良いのか。裏に誰かいる可能性も」
「構わない。誰が裏に居ようが、二度目はないからね。
 ――ただ、に手を出したこいつは生かしておかない。首でも刎ねて外に捨てちゃってよ」

それっきり興味を失って、踵を返した神威の前に現れたのは部下を連れた高杉だった。
応援の要請を受けて来たのだろうが、まさか総大将自ら出張ってくるとはよほど情に厚いとも取れるが、実際はそうではないだろう。
彼にとって、という女は『駒』として有用だ。ここで失うには惜しい、と思える程度には。

が怪我したとか聞いたが」
「晋助」
「忙しい女だな、あれも」

呆れたように目を細める仕草だが、普段のような茶化す響きはない。
鬼兵隊の医務員なのか、引きつれてきた部下に目配せする。それだけで、彼らは医務室の方へと向かって行った。
それを見送ってから、高杉は神威に視線を戻す。

「程度は」
「背後から串刺し。幸い心臓は無傷。…治せる?」
「毒も塗ってない刃で刺されただけだろ。そう難しい傷じゃねぇよ。ただ…」

珍しく渋面を作り、僅かに眉根を寄せる。

「問題は輸血だ。あいつの血液の型と一致する奴がうちの船に乗ってりゃいいが」
「…血、か」

戦闘を生業とし、技より得物より力を武器とするような輩が振るった刃。
その傷自体が致命傷というよりは、失われた血液量が全てを左右するだろう。治療に輸血は不可欠だ。
異なる型の血を輸血すれば、溶血――赤血球の細胞が破壊され、最悪死に至る。

「…晋助。それは、俺の血じゃダメなのかな」
「あ? 何言ってんだ。あいつは確かに規格外の怪力女だが地球人。てめェとは種族が違う」
「でも、俺達とあんた達地球人の身体的差異はあまりない。子供だって出来る」
「それは――
「調べる価値はあると思わない?」

今後、彼女がここに残るのであれば、怪我と無縁とはいかないだろう。
春雨は規模こそ大きく商売や星間の政治に介入したりもするが、基本は海賊だ。
本人が望もうと望むまいと、巻き込まれる。それに対処出来てしまう能力が、彼女にはあるのだから。
ならば、そう、『保険』が必要だ。

「…可能性は低いと思えよ」
「わかってる。
 ――もし俺の血で事足りるなら、使ってくれ」



閑話 ~ File04 《白紙》




『…おーい、そろそろ目を開けてくれないか? いくらなんでも寝汚くないかね、君』
「……??」

聞き覚えの無い声に、不意に意識が引っ張られるように覚醒した。
目を開いた瞬間、目の前に居たのは見知らぬ女。
着物に白衣という、意味の分からん格好をした――恐らく、あまり私と変わらない年頃の。

「…どちらさま?」
『私は《クロニカ》。そう呼んでくれたまえ、
「はぁ…。で、あんた何者ですかねクロニカさん。ここどこ」

なんで私の名前知ってるの、と思わなくもないが。
まずここはどこで、私はなんでここにいるのかを聞きたい。
ゆるりと起き上がると、天高くそびえ立つ本棚に囲まれた妙な場所だった。
…おう。なんと現実感の無い。夢だな、うん。

『それは難しい質問だね。私は《図書館》と呼んでいるけれど、君にとってはちょっと不思議な夢の中だ』
「なるほど夢か。デスヨネー」

肯定されたので、取り敢えず夢としておく。
うーん…なんだろうな、これ。夢の中に見知らぬ相手が出てくるとか有り…?
それともどこかで会ったことがあっただろうかと考えてみるけれど、記憶の中に該当する人物がいなかった。

『取り敢えずお茶でもどうだい、さあ、その椅子に座りたまえ』
「え、どこから出したのこの椅子と紅茶」

いきなり目の前に現れた椅子とテーブル、紅茶のセット。
いくら夢とはいえ都合の良過ぎる世界だな。

『細かいことを気にしても疲れるだけさ。
 ここは夢の交わる場所、何が起こってもおかしくないと思えば良い』
「はぁ…?」

促されるまま、椅子に座る。
目の前に出された紅茶には、さすがに手を付ける気にはならなかった。

『……』
「…あの、ナンデスカ。人を無言で眺めながらにこにこして…」
『いや。バランスの天秤の為に適当に放り込んだけれど、君は実に優秀だなと思ってさ。
 こうしてこの世界に溶け込み、生きていく道を自ら見出した。予想を遥かに上回る結果だ』
「…?」

何言ってるか、まったくわからんのですが。
…私の夢だろ? 何この置いてけぼり感。

『ゆえに、私は君に改めて《役目》と《力》を与えたいと思う』
「はい? 何ですかそれは」
『なに、心配せずとも拒否権なんてないさ! 私は君にこの世界で生きて欲しいだけだからね』
「いや何言ってんのかわかんないんだけども? あんた神威より人の話聞かねーな」

こんなに話通じない奴初めてなんだけど。
なんなのこの人? ずっとにこにこしてるけど、好意的と見せかけて私と会話する気ないよね?

――私は《クロニカ》。個にして全、全にして個である意識の集合体。
 数多の物語をベースに世界を生み出し、面白おかしくするために日夜生け贄を求める《偽書作家》』

…なんだろうな。厨二病かな。面倒くさいなこの人。
あーあー早く目が覚めないかなー! 扱い難い人種しかいないのかなこの世界はさー!

――。美しく気高い獣の性を持つ娘。
 悪を成すにしろ善を成すにしろ、君には相応の力が必要だ。今のままでは保つまいよ』
「悪も善も成さなねぇよ。好き勝手に生きてんだから邪魔しないで」
『うんうん、租界ではないここでそれが言える君は本当に素晴らしい!
 歴代の《白紙の娘》でも君ほどの女の子はいなかったね』
「いい加減私と会話してくれないかね」

まったく人の話聞いてないな、このねーちゃん。
《白紙の娘》ってなんだよ…新しい設定突っ込んでくるのいい加減やめようよなんだよこの世界…あ、漫画か…。
――ん? 待てよ。こいつが銀魂のキャラクターだとしたら、イレギュラー存在である私個人に接触してくるのって変じゃない?
胡乱げに視線を向ける私に対して、《クロニカ》と名乗った女はただ、ゆるりと微笑んだ。

――だから、その魂に見合う力をあげる。強靭なその心に相応しい《力》さ。
 …宇宙最強の傭兵部族たる夜兎の頂点に立つ素質を持つ、あの男の隣に立ち続けられる強さをね』
「は――?」

困惑する私に、明確な答えを返さないままに。
《クロニカ》は椅子から身を乗り出して、その白い両手で私の頬を包む。
冷たくも温かくもない、無機質な感覚。目を閉じてしまえば、触れられているという感覚すらないかもしれない。

。君を次世代の《白紙の娘》と認め、ここに《力》を継承する。
 君が生きる限り、この世界は君にとっての《現実》たり得るだろう』

至近距離にある瞳に浮かぶ感情は、いまいち読み取れない。
それは喜んでいるようにも、悲しんでいるようにも見える。

『…まあでも、死ぬときゃあっさり死ぬから気を付けるんだよ? 私はハッピーエンドが好きなんだ』

長いような短いようなその瞬間に終わりを告げるように、どこか茶化すような口調で彼女は言った。
狐に抓まれたような顔をしているであろう私に小さく笑って、再び椅子に座り直す。

――さて、君を待っている人達がそろそろ痺れを切らしそうだ。行ってあげなよ』
「…引き留めたのあんたじゃないの?」
『はははっ、なるほどそうかもしれない。何せ人と喋るのは久しぶりだからね』

その何気ない言葉に、一瞬、胃の奥が冷えたような感覚に襲われたのは勘違いじゃないだろう。
この非現実的な空間で、誰とも話さずひとりきり、彼女はどれほどの長さをここで過ごしているというのだろうか。
ただの夢。ただの夢のはずだ。そう思い込めれば問題なかった。だけど、違う。きっと違う。

『…正道を選ばなかった《白紙の娘》はほとんどいないから、少し、君に肩入れが過ぎたかもしれないな。
 そう、正道からは外れている。君が選んだのはとびきりの悪党だ。もちろん、《物語》としての話だがね』
「あのさ。…《白紙の娘》ってなんなの」
『…異界の稀人。異世界よりこの《物語世界》に落とされた、異物。
 その命と引き換えに世界を〝白紙〟に戻す者――まあ、理解する必要もないさ。死んだ後のことなんて』

さらっと言ってるけど、私はこれを聞き流していいのだろうか。
頭の片隅で警鐘が鳴る。これは、ちゃんと、聞くべき話じゃないの…?
困惑する私に、《クロニカ》はどこか泣きそうな表情で、ぽつりと呟く。

――もし、もしも、君が「彼」と対峙することになった時は…願わくば、「彼」を救ってやってほしい』
「…「彼」…?」
『……いや、すまない。これは《私》の個人的な感傷だ、忘れてくれたまえ。
 私は《クロニカ》。個にして全、全にして個である意識の集合体。個の願いなどあるわけもない。
 …だからね、。君はただ、君が生きたいように生きてくれれば良い。悪でも善でも、なんでも良いさ』

再び笑顔に戻って、彼女は小さく首を傾げた。これ以上聞くなとでも、言うように。

――もうお行き。今代の《白紙の娘》。
 継承は成った。君がこの世界で何を選び、どう生きるのか、私はここで楽しませてもらうよ』


+++


――――っ!!」

不意の覚醒に、詰まった気道にいきなり空気が入ってくるような感覚がした。

! 起きた!?」
「げほっ…けほ…え、神威…? ここどこ…??」
「覚えてないの?」

咽ながらなんとか声を絞り出すと、神威は困惑したようにそう聞いてくる。
…え。あれ。なんだっけ。何してたっけ。

「…死にかけてた割に元気じゃねェか。どこまでも悪運の強い女だな」
「え、高杉までなんでいるの…悪夢かよ」
「人の顔見るなり悪夢とはなんだ」

だってお前、私の天敵じゃんか。
ただでさえこいつと関わるとロクなことないし。

――海賊はさすがに一枚岩とはいかないようだな。だから気をつけろと言っただろ」
「…?」
「他の師団員に刺されたことは覚えてるか?」
「……」

言われて、朧気だった記憶が一気に戻ってくる。
…鬼兵隊の船から春雨の母艦に戻って、神威が出迎えてくれて、話をして――
そしたら、背後から衝撃が来たのだ。そのあと、目の前が赤くなって喉が焼けるような感覚が…
………あれ。私、もしかして刺された? 冗談でもなんでもなく殺されかけた??

「……おおう。マジか」
「大丈夫だよ、あいつ殺しておいたから」
「うわぁ、聞きたくなかった」
「なんで死にかけたがそんな呑気なんだよ。こっちはどれだけ心配したと思ってんの?」
「いひゃい」

なんで頬を抓るんだ痛いだろ!!
心配したというならもう少し優しくして欲しい!

「…元気そうだが、精密検査は受けた方が良いぞ
「精密検査?」
「地球人に夜兎の血液輸血して平気かどうかさすがにわからん」
「は?!」

今とんでもないこと言われた気がする。
…まあ、うん、刺されたならね。輸血は必要だよね。
で、たまたま鬼兵隊が居たから、地球人同士で輸血問題クリア!ならわかるけどね。
いや、そもそも私はこの世界の人間じゃないから、血液一致すんの?って疑問もあるけどそれは一旦置く。
……いま、夜兎の血、って言った? 型どころか種族が違う血液を輸血したって言ったのこいつ??

「待って違う型の血液を輸血したら溶血が起こって最悪死ぬでしょ、なんてことしてんの?!」
「一応事前検査したら不思議なことにお前と神威の血液型が一致してんだよ。神威がやるっつーからやった」
「ヒトデナシ!!」

それを強行させた医療班おかしくない!?
死んでたらどうしてくれるんだ!! 医療ミスじゃん!!

「そもそも、普通ならほんの少し血液送った瞬間に拒否反応が出る。
 それがなかったし、現在進行形で元気じゃねーか。問題ないんじゃねェか?」
「適当過ぎんだろふざけんな!」

…怒鳴ったら傷が痛くなってきた。
他人事だと思って適当言いやがって。ホント、ろくでもない、この男。

「………ほんとにさ、さっきまで死にかけてたとは思えないほど元気だね?
 腹に穴空いたんだよ? 痛くないの? …って地球人だよね?」
「地球人ですけど!! …あんたこそなんで私と血液型一緒なの、夜兎なのに」
「こっちが知りたいよ。俺達夜兎と地球人は身体的にほぼ同じ構造してるし子供も出来るし、なんかどこかで血が混ざってるんじゃないの」

適当である。設定ガバガバか。
…いや、まあ、そもそも私、この世界の人間じゃないしな。なんかそういうご都合主義的な何かなんじゃないかな多分。
………だったら怪我もしないように計らって欲しいもんだが。

「…でも、まあ、良かった…心配し過ぎて吐くかと思った…」
「吐くってあんた」
「俺のミスだ、ごめん。甘かったよ。
 まさか今更、に危害を加えようとする奴が出るとか、想像もしなかった」

神威らしくない言葉に、思わず、顔を顰めてしまった。
…え。なに。こいつでも後悔とかするの? 生死の問題で??

「……」
「なに、その顔」
「…いや…私が死んでも、あんたは平然としてるかなって思ってた…」
「なんでだよ。から見た俺は、惚れた女を死なせて平然としてる男に見えるわけ?」

いや、そこまで言ってませんけども。
そこじゃなくて、なんかこう、生死に関しての価値観があさっての方向にあるのかなと思っていたというか。

は俺以外には殺させない。俺が殺るまで絶対死なせない」
「…あ、はい」
「なにその間抜けな反応」
「間抜けとはなんだ」

確かにちょっと間抜けだったけど。
…やっぱりこいつの生死の価値観あさっての方向に向かってるなぁ…。

「何があっても護るとか言ってみても良いんだけど、現実的に四六時中護ってあげるのは無理だよね。
 何か自衛手段考えないといけないな。こう、ミサイルとかそんなの? それともフィールド?」
「お前は私を戦艦にする気か」

ミサイルとかフィールドとかどこの機動戦士だよ。人間捨てる気はないぞ。
四六時中引っ付いて護ってくれとは思ってないけど、重装備になるのも嫌だなぁ…。

「ミサイルは冗談としても、飛び道具ってのは有りかもしれねェな。お前、薙刀以外の得物使えないだろ」
「飛び道具って。………弓?」
「弓引けんのか」
「え、いや、正式にやったことはない」
「なら言うな。見た目より簡単じゃねェぞ」

ごもっとも。
…そういうこいつは弓引けるんだろうな。元士籍持ちの坊々だもんな。

「あ。いっそ傘作ろうか。用に」
「傘ってあれか。夜兎の皆さんが装備してるやつか」
「そうそう。弾除けにもなるし、の腕力に合わせて作れば問題ないでしょ?」

確かにあの傘、見た目こそ傘だけど中身銃火器だし頑丈だし結構重いんだよな。
それを片手で振り回したり、普通に日傘として使ってるこいつらの腕力本当にシャレにならない。
…神楽のはそこまででもないかな、と思ってしまった私も大概かなコレ。

「使いこなすにはちょっとコツが要るかもね。俺が稽古つけてあげる」
「え。命の危機しか感じない」
「殺さないよ。信用ないなァ」

さっきのセリフの後にそれ言われてもな。
少なくともこいつに殺される可能性はどこまでもゼロにならないんだな、と自覚してしまった後だぞ。

「でもしばらくは大人しくしてて。傷口開くと困るし」
「う、うん…」
「そうそう、たまには素直に言うこと聞きなよ。になら優しくしてあげるからさ」
「…なんでいちいち不穏なんだろうな、あんたの言い方って…」

…いや、わかってる。わかってるよ。心配してくれてるんだよね。他意はないんだよねこれ。
不穏さがチラつくのはもうデフォルトなんだろうな…慣れるしかないな…。

「晋助にはまた借りが増えちゃったね」
「気にするな。今回はお前じゃなくてに付けた貸しだ」
「え。一番借り作っちゃいけないとこに勝手に借り作られた」
「命の代価なら安いもんだろ」
「でも結局輸血したのコイツの血じゃん!」
「処置したのはうちの船員だ」
「ぐぬぬ…」

人命救助で借りだの貸しだの言うな!と言ったところで鼻で笑われるのがオチだろうな。
こいつにとって、私は《駒》のひとつに過ぎないのだろうし。
そして簡単に動く駒でもないと思われてるだろうし。実際動かないけど。
…ああ、よりによって面倒くさい相手に借りを作ってしまった。
頭痛を覚えて、私は思わず頭を抱えた。
恐らくこいつの性格上、強要はしてこないだろうが、結局、いつかこの借りは返さないといけないのだろう。
――どんな形であれ。


++++


――刺されてから約二週間。
私の怪我は順調に回復し、普段の生活に支障のない状態になっていた。

「…ってこんな頑丈だったっけ?」
「…いや、そんなことない思う」
「全治何ヶ月って言われたっけ」
「…二ヶ月…?」
「二週間くらいしか経ってないよね」
「…そうだね…?」
「「………」」

首を捻るしかない。
治るのが早いに越したことはないが、さすがに異常だと思う。
幸い心臓からは外れていた。とは言え、戦闘を生業にする春雨の構成員の手で串刺しにされたわけで。
一応か弱い地球人の私は、生きていただけ運が良かった、しばらくベッドの上かなと思っていたし、鬼兵隊の医療員にもそう言われた。
意外なことに面倒見の良い神威に世話を焼かれつつ、大人しく過ごして二週間余り。
…多分、走り回っても平気なんじゃないだろうか。そんな気になるくらい、私の回復は早かった。これは絶対おかしい。いっそ怖い。

が地球人、っていうのはただの寝言で実は別の種族なんじゃない?」
「寝言ってなんだよ。地球人だよ」
「じゃあ地球人の中にも特殊な奴らがいるのかな。傷の治りが早いとか力が強いとか」
「…いないとは言い切れないけど少なくとも私は普通の地球人です」

…いや、どうなんだろうな? そもそも異世界の人間だしな、私。
でも力はともかく、さすがに自然治癒力は重力の差とかで片づけられないんだけど…?

「…鬼兵隊の医療班の腕が良いのかね?」
「地球なんて辺境の蛮族の星じゃん。化学水準低いし。医療技術だけ発達したりする?」
「蛮族とはなんだ蛮族とは。言いたいことはわかるけど」

そもそも、本来の江戸時代の医療はようやく一部の医者が海外の医療を取り入れ始めた時代だ。
この世界は本来の江戸時代から見れば化学水準も医療技術も大きく飛躍しているだろうが、かといって天人のそれに勝るとは思えない。
命のやり取りが主な仕事である最大規模の宇宙海賊春雨より、鬼兵隊の医療班が優れているとも言い難い。
どちらにせよ、双方の医療員から「本当に地球人なのか?」と何度も首を傾げられている身である。
…地球人です。地球人ですよ。ちょっと規格が違うのかもしれないけど。微々たる差だよ。

「邪魔するぞ。…なんだ、本当に元気そうだな
「あれ。晋介?」
「何しに来たの高杉」

当たり前の顔して人の部屋に入ってくるなよ。通したの誰だ。
こいつ本当に暇なんじゃないだろうな。

「精密検査の結果が出たから持ってきてやったんだよ」
「…なんであんたがわざわざそれ持ってくるの? 暇なの?」
「暇じゃねェよ。興味深い結果が出たからに決まってんだろ」

興味深いって。私は実験用のモルモットか何かなんですかねちょっと。
自分でもなんか変だな、という自覚はあるので仕方ないけども。

「結論から言うと、異常はない。経過も順調、健康そのものだ。良かったな」
「良かったけど納得いかん…」
「ただ気になるというか興味深い点がある。
 輸血する前と後で、お前の遺伝子がごく僅かだが変異を起こしている」
「は!?」

変異って何!? やっぱり異なる血を輸血したことによる弊害!? 元気だけど!?
思わず顔を見合わせる私と神威の前に、高杉は紙束を投げて寄越した。
…いや投げんなよ。こっち一応怪我人だぞ。

「こっちが今のお前で、こっちが輸血前のお前。さらにこっちは神威のデータだ」
「?」
「見てもわかんねェか? お前に夜兎の遺伝子が組み込まれてる。不自然なほど自然にだ」
「は………はァ!?」

一瞬、言われた言葉をうまく飲み込めずに思考が停止した。
なに、どういうこと。輸血で遺伝子の変異とか普通起こる? 起こらないよね?

「なに? は夜兎になったの??」
「神威くん、もうちっと考えてしゃべってくれないかな」
「さすがにそこまではいってねェよ。基本的には地球人だが、敢えて言うなら《変異種》だな。
 妙に傷の治りが早ェとは思っていたが…他にも夜兎の特色が出ているかもしれん」

夜兎の特色…。
自分の手を見下ろしてみる。特に肌の色に変化はない。

「…日光に弱くなってたら嫌だなァ…」
「そこ?」
「呑気だな、お前。普通もっと他にあるだろ」

呑気じゃないよ。これでも混乱してるよ。
いやでもこれはあくまで高杉の推測だ。実際に影響が出ているのかどうかはわからない。
何もないかもしれないし。…あるかもしれないけど。とりあえず体調が悪いとかはない。

「でもってもともとのスペックが地球人とは思えないんだけど」
「そんなことないだろ…さんは至って普通の地球人だよ…」
「もともと《変異種》だった可能性があるな。そこに夜兎の遺伝子が加わったと見るべきか」
「…いやいや、だからそんなことないって、普通だって…無駄に大事にしないでくれない…?」

不意に思い出したのは、死にかけてた間に見た不思議な夢のこと。
《クロニカ》と名乗った胡散臭いあの女。
力を与えると言った。《白紙の娘》として、この世界で生きる力を、と。
――まさか、これのことか…?

種族の違う私と神威の血液の型がほぼ一致したのも。
輸血された私に溶血が起こらなかったのも。
……なに、そのご都合主義の塊みたいなの。あの女、やっぱりただの夢じゃないってこと?

――思い出せ。あいつは他になんて言ってた?
…《白紙の娘》…《クロニカ》…数多の物語をベースに世界を生み出した《偽書作家》…?
偽書とは本来の意味は製造者・製造時代が不明な書物を指す。
だけど偽書作家という名称を用いたということは、物語の贋作――二次創作を示すのではないか。
だとしたら…もしかして、ここは…私が知っている『銀魂』の世界では、ない…とか…?

? 怖い顔になってるけど大丈夫?」
「…え。あ、うん。ごめん。頭がついていかなかった」

軽く頭を振る。
ただでさえ、私の状況が既に非現実的だ。
たかが夢と片付けて良いわけがない。…たぶん、ちゃんと、考えないといけない。だけど情報が少な過ぎる。

「よくわからないけど、は普通の地球人より力が強かったり傷の治りが早かったりする体になった、ってことかな」
「検証してないからどのくらい変わったのかはわからねェがな」
「夜兎の特色、ねぇ……、ちょっと俺の傘持って」
「え? やだよ、あんたのは重いよ」

神楽のならともかく、こいつの傘は私には重い。
両手でなんとか持ち上げられる程度。運ぶことは辛うじて出来るかどうか、といったところか。
無理だとは思うが、差し出されたら試してみないわけにもいくまい。
無造作に差し出された傘を受け取る。ズシリとした重みが…………来ない?

「「…………」」

両手で持ち上げてみる。…うん、普通に上がる。
その状態で恐る恐る片手を離してみる。…うん、大丈夫。持ち上がったまま。
…………いやいやいや。待って。なんで重くないの。

「…重い?」
「……………お、重くない」
「ナルホド」

ひとり納得したように頷いて、神威は私の腕に触れた。
…あの、なんか触り方がいやらしいんだけど。気のせいじゃないよねこれ。

「見た感じ何も変わってないのにね?
 別にいつも通りの腕でいきなり筋肉ついたわけでもないし」
「…あの、変な触り方しないでくれない」
「え。普段通りだよ?」
「いや、何びっくりした顔してんの。筋肉の変化の有無を確認するのに普段通りの触り方って逆に変でしょ。やめてよぞわぞわする」

撫でるように指先滑らせるのやめてほしい。鳥肌立ってきた。

「感度良過ぎるのも大変だよね」
「違うから。そういう話じゃないから。他に人がいる場所で変なこと言わないで」
「痛っ。……あれ。なんか普段より痛かった」
「え、うそ。ごめん」

軽く叩いたつもりだったのに、やたら頑丈なこいつが痛いとか。
…本当に腕力がさらに強くなっってしまったんだろうか。やっと力のセーブ感覚が上手く掴めたのに困ったな。

「…………」
「…ついにゴリラ並の怪力になったか。いつもの感覚で暴れて船壊すなよ、
「言うに事欠いてゴリラ!? 壊さないよ神威じゃないんだから!」
「俺だって別に船壊すのが目的で壊してるわけじゃないよ」
「危なっかしい奴らだな。痴話喧嘩で船壊して回ってるんじゃねェか?」
「喧嘩はしないけどたまには扉とか壊すよね」
「うっかり壊してるわけじゃないです、誰かさんが怒らせるから手元が狂うんですー。お前は特に理由もなく壁壊して歩いてるだろ」
「通路に壁あると邪魔じゃない?」
「それ最初から通路じゃないよ壁だよ」
「なんなんだお前らは。動物か」

呆れたように目を細める高杉の反応が真っ当過ぎて、逆に腹が立つというか悔しいと言うか。

「…高杉に正論吐かれるとイラッとする」
「お前そういう本音は少しは隠せ」
「ごめん声に出てた」
「謝る気ねェだろ。…この本音も隠せない猪女にゴリラ並の怪力とか戦闘以外の何に役立つんだか…まぁ無能よりマシか」
「うるせぇよ猪でもゴリラでもねぇよバカヤロウ」

確かに私の態度も褒められたもんじゃないが、それを差っ引いてもこいつの私に対する言動は常に失礼だと思う。
だから嫌なんだよlこいつ。だというのに、神威は全然その辺りわかってくれない。

「…晋助とは仲良いなー」
「仲良くないから。こいつ私の天敵だから。女相手に猪とかゴリラとか言ってくる奴ぁ敵以外の何者でもない」

ただ心狭いのか言ってみてるだけなのか知らないけど、なんだって神威は私とこいつが仲良いとか言うのか。
…思えば割と最初からこいつ、私に対して失礼なんだよな。
…いや、待て。冷静に考えたら会う奴みんな大概失礼なこと言ってきてる気がする。

「お前それだと周り敵だらけじゃねェのか」
「どういう意味だ張っ倒すぞ」

割とガチで不思議そうに言われて、ちょっと自覚があった分地味にダメージが来た。
…え。そうなのかな。みんな私のこと本気で猪とかゴリラとか思ってんの…?

「大丈夫だよ、。俺達から見ればまだか弱いから。咄嗟に攻撃してくるときのの蹴りとか前から割と痛かったし」
「…うん、それ、多分力セーブしきれてない状態での蹴りだから…いまそれやったらもっと痛いかもしれない…」
「そうなの? でもさ、強くなる分には良いじゃないかな。俺はが強くなったら嬉しいよ」
「…ああ、はい…そうだね…アリガトウ…」

フォローしてるつもりも気遣ったつもりもない、純然たる本音なんだろうけど、あんまり嬉しくない…。
こいつにとっての私の魅力ってまず戦闘能力なんだろうか。女としては複雑極まりない気分…。

「良かったな。お前基準で言えば、お前の相方は敵じゃないらしいぞ」
「うるせーよお前少し黙れ…」

トドメを刺すような高杉の言葉に力なく言い返して、私はそのままベッドに突っ伏した。


+++


それからさらに数日が経ち、『完治』の太鼓判を押された私は、神威と阿伏兎さんに連れられてとある惑星に居た。
軟体生物のような姿をした天人やら、ちょっと風変わりな人達が忙しそうに動き回っている――研究所?工房?そんな場所だ。

「というわけで仕事を頼みたいんだけど」

きょろきょろしている私とは対照的に、神威達の目当てはその中の一人だったらしい。
声をかけられた天人はヒトに近い姿だ。夜兎、だろうか。違う気もする。
地球人を基準で考えると、年齢は60代半ばから70代前半くらいの爺さまだ。

「何がだ。また傘壊したのか。いい加減にしろよ、壊すなら量産品使え」
「今回はまだ壊してないよ。相変わらず口悪いな、じーさん」

割と気安い対応だった。
あれ。やっぱり夜兎なのかな。誰だろ。

「…阿伏兎さん、あれ誰?」
「機械技師…俺達にとっては『武器職人』だな。
 俺達の武器や義手・義足なんかは大抵この手の武器職人が作ってる」
「夜兎なの?」
「半分当たりで半分ハズレだ。あのじーさん、半分以上体が機械だからな」

なるほど。とてもSFだ。
夜兎は自分の体が壊れるまで戦う傾向が強くて、義手や義足なんかは当たり前らしい。
そういった経験を経て職人に転向したのがこの爺さまなのだろう。多分。

「阿伏兎も居たか。義手の調子はどうだ」
「悪くねぇ、と言いたいところだがさっそくガタがきてねぇ」
「上司も上司なら部下も部下だな。物は大事に使え」

ぞんざいな口調で返してから、爺さまは阿伏兎さんの横にいる私に気付いたらしい。
不思議そうにまじまじと私を眺めてから、視線を神威に戻した。

「………お前らなんだ、こんなお嬢ちゃん連れてきて。俺ァ死んだばーさん一筋だぞ」
「何バカ言ってんのじーさん。俺の嫁だよ」
「嫁じゃねーです」
「ほう。お前の嫁か……………嫁!?」

それまで割と淡々とした口調だったのに、急に血相変えて、爺さまは私と神威を交互に見る。
…いや、なんか言いたいことはわかる。わかるけどその反応過剰過ぎやしませんか。

「お前みたいな頭のネジ飛んでる男の嫁になる物好きがいるか。
 こんな別嬪さんどこから攫って来たんだ、寝言言ってねェで返してこい」
「決めつけるのは良くないよ。ちゃんと同意貰ってる正真正銘の嫁だよ」
「だからまだ嫁じゃねーっての」
「いつか嫁に来るなら今でも良いじゃん」
「そういう問題かよ。やだよ、さんまだ19だよ」
「往生際が悪いなァ、は。やることやってるんだし問題ないだろ」
「そういうこと言うから嫌なんだよ馬鹿!」

そもそも、こいつの言う『嫁』の定義はなんなんだよ。
夜兎に法律とかないでしょ。当然、婚姻届もないわけで。
…何を持って『嫁』になるわけ? そこにこだわる必要ある??

「…阿伏兎よ。本当にあのお嬢ちゃん、神威の嫁なのか」
「信じられない気持ちは痛いほどわかるが、色々あってそうなった。
 これでも今や春雨の幹部だ。…いや、団長が誘拐してきたのも事実なんだが」
「もう時効だよね、それ。は俺のモノになったし」
「時効にはならねーよ。誘拐は純然たる事実だよバカヤロウ」

軽くなかったことにされかけてるけど、そもそもの始まりはただの誘拐だから。
…なんで人権無視して誘拐するような男とこうなったんだろ。未だに自分でも謎だ。

「春雨の雷槍に嫁ねぇ…まさかそんな日が来るとはな…長生きはするもんだ」
「まあ、そうだよね。俺が一番意外に思ってるよ」
「自分で言った?!」
「だって俺だよ?」

そこはちゃんと自覚あるんだ…。
確かに、真っ当な家庭を築けるタイプの男だとはイマイチ思えないのは事実だけど。

「で。俺は別に嫁を紹介しに来たわけじゃないんだよ、じーさん」
「違うのかよ」
「違うよ。特注の傘一本作って。が使うから」
「………」

一方的な要求に一瞬固まってから、爺さまはちらりと私の方を見る。
こいつがこの性格なのは私のせいじゃないけど、なんかもう自由人ですみませんとしか言えない。

「嫁が使うのか」
「そうだヨ。俺が惚れたくらいだから結構強いんだけどね、
 でもやっぱり俺達よりは脆くて力もないから。重量と長さは気を遣ってやって」
「……………」

もう一度、爺さまは私の方を見た。

「……お嬢ちゃんは夜兎でも混血でもねェよな?」
「違います」
「だよな。…オイ、泣いて良いか。なんで研究を重ねて生み出した夜兎専用の傘を、異種族のお嬢ちゃん用にカスタマイズせにゃいかん」
「別に他のでも良いんだけど、俺が使い慣れてる武器の方が教えやすいし。さすがに銃弾避けきるとかには無理な芸当だから、弾除けも必要だしね」
「あんなちっこくてか弱そうな異種族の娘っ子に何持たせる気だお前。護ってやる気がないなら元居た場所に返して来いよ」
「え? あぁ、大丈夫大丈夫。ちゃんと武器として作ってくれていいよ。
 心配しなくても、俺に素手で殴りかかってきたり蹴り叩き込んできたりするような女だから」
「そこだけ聞くと私がただの暴力の権化みたいじゃねーか! ふざけんなよ馬鹿兎!!」
「ついでに口も性格も悪くて気性も荒いし見ての通り結構短気」
「よーし、神威。歯ァ食いしばれ」

悪気なくひとを貶すなというのに、こいつホント人の話覚えようとしないのな!!

「痛いって。なんですぐ怒るの?」
「無自覚!? まさか褒めたつもりなの今の!?」
「褒めても貶してもいないよ、ただ事実を並べただけ」
「ダメだわ。やっぱ殴る」
「え。なんで?」
「…オイ、嬢ちゃん落ち着け。団長も面白がって煽るな、収集付かねぇだろ」

慣れた調子で私と神威の間に入って引き離してから、疲れたように阿伏兎さんはため息を吐き出した。

「悪ィな、爺さん。なんせうちの跳ねっ返りが選んだ女だ、大人しく護られてるような性格もしてない。
 先日、ちょいと内部でいざこざがあってな。それでこの嬢ちゃんが死に掛けたもんだから、自衛の手段が欲しいんだよ」
「そういう事情を先に言え。…ったく、相変わらず勝手を言いやがる。お嬢ちゃん、と言ったか」
「えっ? あ、ハイ」

私が返事を返すと、爺さまはぐるりと私の周りを一回りして、納得したように頷いた。

「…ふむ。バランスの良い筋肉だ。あんた、何か武道を齧ってるか」
「えーと。まあ、はい。道場武芸ですが」
「まず腕力の測定してみるか。これを利き手である程度力込めて握れ。なに、そこの馬鹿どもが使っても壊れない耐久度の測定器だ、目盛が動かなくても心配な」

爺さまが言い終わる前に、私が握り締めた計測器はピコンピコンと図体の割に可愛い音を立てた。
今の言い方からすると、夜兎の怪力を持ってようやく目盛が動くのだろうけれど。…あの、動いたよねふたつくらい。

「………」
「………」

沈黙が痛い。
誰でも良いから何か言って欲しい。出来ればフォロー的な。

「思ってたより力が強くなってるね、
「…………」
「神楽と腕相撲くらい出来るんじゃない?」
「神楽と!? 嘘でしょ、あの子岩も持ち上げるし鉄壁も砕くよ!?」

さすがに試しであの子と腕相撲する勇気は私には無い。
…新八になら勝てるかもしれない。多分そんな程度だと思う。思いたい。

「…安心しろお嬢ちゃん。お前さんの旦那はマンモスみてーなもんだ、嫁がゴリラでもまだか弱い」
「もう嫁云々否定すんの面倒くさいから別に良いけどゴリラ扱いはやめてくんねーかな!?」

猪でも酷いのにさらにゴリラとか定着させないで欲しい! 女に対して使う言葉じゃないから!!

「…まぁ、取り敢えず試作からやってみるか…」
「さすがじーさん、話が早くて助かるよ」
「お前の親父や鳳仙の武器まで誂えてきた俺だぞ、作れねェ武器はない」

言い切って、爺さまは部屋の奥に行ってしまった。
…え。何。どうすればいいの。いきなりいなくなられると困るんだけど。

「少し待ってればすぐ戻ってくるよ。試作品だったらそんなに時間かからないだろ」
「え。武器の精製ってそんな簡単なものじゃないよね普通」

卵焼き焼くみたいな感覚で武器は作れないと思うんだけど。どうなの。

「量産型のパーツはあるだろうし。最初は体に合わないかもしれないけど、使ってるうちに改良点見えてくるからさ」
「はぁ…まあなんでも良いけど…」

そもそも、一応仮にも恋人から武器を贈られる、って女としてどうなんだろ…。
いや、わかってる。あくまで必要な備品だ、プレゼントではない。わかってはいるんだけど。

「…あのさぁ、阿伏兎さん…」
「どうした、嬢ちゃん。変なもん食ったような顔して」
「その表現どうなの。じゃなくて。…こいつは私をどうしたいんだろうか」
「…嫁にしたいんだろ?」
「あんたら夜兎の嫁は武器振り回すのがデフォルトなのかね」
「そこは好みの問題だろ、夜兎も地球人も変わらねーよ。そんで少なくとも嬢ちゃんは武器振り回すタイプだ」
「何言っちゃってんの阿伏兎さん。さんはか弱い普通の女の子ですヨ」
「…寝言か? あの団長相手に殴るわ蹴るわ船の残骸投げつけるわの大暴れしてる女が『か弱い女の子』? 何言ってんだ?」
「寝言!?」
、まだ自分のこと普通の女だと思ってるの? 全然普通じゃないよ?」
「不思議そうに言わないで!? ちょっと力が強いだけで普通の女の子だよ!」
「「………ちょっと?」」
「声揃えて聞き返してこないで悲しくなってきた!」

本気で「何言ってるかわからない」みたいな顔されるとさすがに傷つくんだけど!!
…そりゃあ…宇宙海賊に誘拐された時点で、怯えて泣いて、隅っこで小さくなってるのが普通なんだろうけども。
……挙句、手加減されてるとは言えこの戦闘狂と物理的な喧嘩してる時点で、普通とは言えなくなってきてるのは自覚してるけども。

「…『普通』ってなんだろうな。オッサンもわかんねーわ」
「少なくともの言う『普通』に、自身は該当してないのはわかるよ」
「なんでよ!」

勢いで聞き返すと、宥めるように頭を撫でられた。なんでだ。

「あのね、。『普通』って言葉の意味わかる? 他と比べて変わらない、ありふれたもの、って意味なんだよ?」

子供に言い聞かせるように、ゆっくりと噛んで含んだ言い方である。
…わかってる。わかってますよ。もはやこの世界においては、私が普通の枠から外れてることくらい。

「…噛んで含むように言わなくてもわかってるから良いよ、もう…」
「自覚するのって大事だと思うんだよね」
「…わかったってば…私が悪かったよ…」
「なんでは『普通』にこだわるのかなぁ。俺はの普通じゃないところが好きなんだけど」
「はいはい、ありがとよ…」

おざなりにそう返して私が項垂れるのと、奥の部屋から試作品の武器を抱えて爺さまが出てきたのは、ほぼ同時だった。







…そして一ヶ月もしない間に再びここに来るとは予想していなかった。多分、私だけではなく爺さまも。
――そして、理由は至極単純である。

「ごめーん、傘壊しちゃった」
「オイまだ一か月も経ってねーぞ! 壊したのお前か神威!!」

爺さまに差し出された私の仮の傘は、無残にも真っ二つに折られていた。
…一応言い訳すると、折ったのは私じゃない。曰く「稽古をつけて」くれた神威が折りました。

「いやー、予想外にが強くなってくれてつい興が乗ったというか」
「お前は自分の嫁殺す気なのか!? 真ん中からボッキリいってんじゃねーか!!」
「大丈夫、は無傷」
「いや無傷じゃねーよ治っただけだよ!?
 獲物見る目で私を見んなって何度言ったら理解してくれんのあんた?!」

こいつの手加減が私にとって手加減なのか、本気で怪しくなった瞬間だった。
命に関わるような怪我ではないとは言え、痕でも残ったらどうしてくれるんだこいつ。

「ちょっと掠っただけじゃん、大袈裟だよ」
「ふざけんな。こっちは女だぞコノヤロウ」
「キズモノになっても俺が責任取るんだし良いじゃない」
「そういう問題じゃねーって何度言わせんの? あんたの頭の中身はスポンジなの?」
「ちょっとくらい傷が出来ても変わらずは美人で可愛いよ」
「だっからそういうこと言ってるんじゃないよ!! やめて恥ずかしい!!」

どうして他人様がいるところで臆面のなくそういうことが言えるのこいつ!
…なんかいつもこの流れで話を有耶無耶にされてる気がするな。もしかしてわかっててやってるんだろうか。

「…まァ、嬢ちゃんが規格外なのはわかった。
 で、どうだった。耐久度は上げるとして…他に改良点はあるか」
「えーと…」

そんなに長い期間使ってないから、本当に直感的なものではあるが。
長さはちょうど良かったけれど、少し物足りない感じはした。

「グリップはもう少し細い方が良いかも。振り回す分にはこの重さでも良いんだけど、撃つ場合は軽過ぎてちょっと照準がブレるかな」
「……それもっと重くしろ、って言ってんのか?」
「……え、おかしいこと言ってますか私」

実際、何度撃っても照準がブレるのは事実だった。
人間砲台になるには、女の私では筋力も体重も足りないしそもそも増やす気もない。

「ホラ、夜兎に負けず劣らずの戦闘狂だろ?
 こっちが手加減してるとは言え、俺相手に武器が壊れるまで打ち合えるなんて最高の嫁だよ」
「いやそこは否定するよ? 単純に武器の性能の話してるだけだよ? あと傘壊したの私じゃなくてお前だからな」

そもそも、神威の傘は特注だろ。耐久度が全然違う。木刀と真剣で打ち合うようなものだ。

「神威…お前、よく異種族でこれだけぶっ飛んだ嫁さん見つけてきたな…」
「だろ? 一目惚れも馬鹿に出来ないよね」

一目惚れと言っていいのかあの状況は。
どう頑張って美化しても、脅迫紛いのプロポーズの後に気絶させて誘拐したという事実が上書きされないんだが。

「じゃあ耐久度上げて、重さ足すか…ほとんどお前用の特注品と変わらねーな…」
「変わるの長さと弾数くらいか。まあなら充分使いこなせると思うよ」
「…なんだろう、なんか、複雑な気分…」

どんどん『一般女子』から光の速さでかけ離れていく…。
自衛手段どころの話じゃないよね、これ。完全に闘うための武装だよね…。

「ああ、嬢ちゃんよ。お前さん、自前の得物あったよな」
「この仕込み薙刀ですか」
「それだ。まともに整備してねェだろ、それ。ついでにやってやろう」
「わーいお願いしまーす」

差し出された手に、私は近藤さんが作ってくれた愛用の薙刀を渡す。
気が付けば随分長い付き合いになったものだ…途中で源外さんにカスタマイズされたけど。
自分で整備なんて出来ないので、春雨に来てから割と適当だったから助かります。

「じーさん、ずいぶんのこと気に入ったみたいだね」
「そりゃお前、お前らくらいの世代の夜兎はみんな孫みたいなもんだからよ。孫が嫁連れてきたらジジイは嬉しいもんよ」
「そういうもん?」
「そういうもんだ。あとは単純に、この嬢ちゃんはスペックが面白い。武器の作り甲斐がある」
「あー。やっぱそっちが本音かー。いやわかるよ、新種の戦闘種族見つけた気分になるよね」
「ちょっとどういう扱い!? ひとを珍獣みたいに言わないで!!」

猪だのゴリラだと新種の戦闘種族だの、女の子相手にその評価は酷いと思う。何度でも言う。酷いと思う!
なにより、悪気が一切無いのが逆に酷い。褒めてるつもりなんだよこいつら。全然嬉しくない。

「俺からしたら実際、珍獣みたいなもんだけど」
「…酷くない? あんた本当は私のこと嫌いなんじゃないの?」
「え、今更そこ疑うの? ホント疑り深いな。どうしたら信じるの? 毎日愛してるって言えば良い?」
「やめて恥ずかしい」

本当にやりそうで嫌だ…。
わざと他人様がいる前で言うからなこいつ。

「結局のところ似た者夫婦だろ。よくまあこんな誂えたようにちょうど良い嫁、見つけてきたもんだ。
 …まあ良い。どっちにしろ嬢ちゃんの傘は改良せにゃいかんと思っていたから、パーツは作ってある」

すぐ終わるから大人しく待ってろよ、と言い残して爺さまはまた奥の部屋に引っ込んだ。
…この戦闘狂の馬鹿兎と私って、そんなに似た者同士でしょうか。解せぬ。

「自覚無いみたいだけどね、?」
「あ?」
「初めて会った時よりの戦闘力上がってるからね? 怪力云々抜きにしても」
「いやいや何言っちゃってんの神威くん。さんは力がちょっと強くて少しばかり運動神経が良いだけの小娘ですヨ」
「慣れって怖いよネ。確かには殺しに関しちゃド素人だ、性格的にも多分それは今後も変わらない。でも敵を無力化することに関しては、素質あると思うよ」
「…それどういう意味で言ってるの?」
「俺達は大抵、相手が死んでも良いし寧ろ殺そうと思って戦うけど、は相手を殺さず勝とうとするだろ?」
「うん」
「それって実は物凄く力量が必要なんだよね。自分を殺しに来る相手に、殺さず勝とうなんて傲慢だ。俺は不殺主義なんて好きじゃないし、認めない」

何言ってるんだろ、こいつ。
自衛のためなら、武器は振るおう。こいつの傍にいる限り、平和な生活なんて望めない。
だけど、殺人は悪だ。少なくとも、私の『常識』では。…そう考えている一方で、私の『常識』の枠外に居るモノの生き死にはどうでも良いと思う自分も、いる。

「でもの場合、少し違う。
 ――殺さないのは自分の精神保護の為。命さえ取らなければ良い、手足くらい仕方ない。そういう戦い方をしているだろ?」
「…そんな物騒な思考回路してないよ。そういう局面に立ったことないけど」
「自覚無いだけかな。どっちにしろ、は不殺主義じゃない。自分の命が本当に危うくなれば、必要だと確信すれば、相手を殺す方を選ぶよ」
「……言い切るのは、どうなのよ。私のことなのに」
「それは説明するの難しいな。まあ、俺の勘だよ。
 は普通で居たいみたいだけど、自覚しないままで居たいんだろうけど、根本的に他とは違う」

胸の奥がざわついた。胃の奥に冷たいものが落ちる感覚がした。
わかる。わかりたくない。でも、神威の言いたいことが理解出来てしまう。

「持って生まれた性質的な話だ。は獣の性が強い。本能的に必要と判断すれば、躊躇いなく殺し、蹂躙する。
 自分に出来ると思ってないだろ? でもは出来るよ。それが俺にはわかるし、阿伏兎も、他の奴らもわかっているから、が俺の傍にいるのを反対しないんだ」
「………」

聞きたくない、と耳を塞ぐことも多分、出来るのだろうけれど。
目を逸らして、耳を塞いで、高杉が言うように羊の皮を被って、『普通の女』のまま生きることは、多分きっと、出来るのだけれど。
普通で居たいと言葉では主張しながらも、結局、私はその生き方が出来ない女なのだろう。

「…あんたは私に、ヒトゴロシをさせたいの?」
「いいや? 殺すための殺しは、には似合わない。の矜持を汚すような要求を、俺はしないよ。
 ただ、はそれが『出来る』人間なんだから、その瞬間を見誤るなよ、って話」

怠惰に、微睡むように生きる、ありきたりで平凡な学生だった頃の私には、きっともう戻れない。
獣の性なるモノが私にあるのかどうかは知らないが、そう、神威が言う通り、私はきっと、その選択が『出来る』。

「…例え恋人でも甘やかしちゃくれない奴だよねあんたは」
「甘やかしてるつもりなんだけどなぁ。どうでも良いと思っていれば、わざわざこんな話しないよ」
「だろうねぇ…」

多分、それはお互い様なんだろう。
目を、耳を、塞ぐなと。私達は互いに思ってる。

「…その瞬間が、来なければ良いなとは、思う」
「そうだね」
「でも、…来てしまったら、うん…私は多分、選ぶんだと思う」

その時が来たら、何を選ぶかどうかは二の次だ。
何を選ぶにしろ、覚悟は必要だと、思う。それはきっと、お互いに。

「私が死ぬくらいなら、私の守りたい誰かが死ぬくらいなら、…選ぶと思う」
「うん」
「あんたがそれを要求しても、しなくても。私は勝手に選ぶと思う」
「そうだね。はそういう女だよ。自由で我が儘で、俺の言うことなんて聞きやしない。
 でもそれで良い。はちゃんと、自分にとっての『最善』を選べる人間だから」
「……」

好きにして良いのだと、何を選ぶのも自由だと。
それはとても優しく、とても残酷で、ああ、やっぱりこいつは全然甘やかしてくれないのだと痛感する。
普通なら、突き放されたと嘆くだろうか。だけど私はそう思わない。
返す言葉は何もなく、ただ、私は神威の背に手を回して、無言のまま抱きついた。

?」
「…ここでお礼を言うのもなんか変だなって思って」
「…たまにこういうことするから狡いよね、って。可愛いなぁ」
「狡い云々はあんたに言われたくないなぁ…」

何も考えてないようで、ちゃんと言うことに筋が通ってる辺りとか。
危険物が服着て歩いてるようなもんなのに、頭を撫でてくる手が、名前を呼ぶ声が優しいとか。
そんなことを思ってしまうから、もう、きっと戻れない。どこにも。

「…大人しく待ってろとは言ったが、いちゃついてろとは言ってねぇぞ?」
「ぅお!? 爺さま早いね!?」

遠慮がちに掛けられた声に、私は反射的に神威から離れた。
びっくりした。びっくりした! 心臓に悪い!!

「離れなくても良いじゃない、今更だよ。基本的にいつもくっついてるからね、俺達」
「あんたが勝手にくっついてくるんじゃねーか!」
「稀にから来るだろ、今日みたいに。まったく懐かない猫が気紛れに撫でさせてくれた、みたいな感動はあるよね」
「照れ隠しだよ察しろよ」
「察してるから俺はに邪険にされても気にしないんだよ」
「そこはたまには気にして欲しい」

本気で邪険に扱ってる時もあるからね。
そこも察して余計なこと言ったりしないように気を付けて欲しい。

「仲良くて結構なこった。…ほら、新しい傘と預かってた武器だ」
「ありがとうございま…す…?」

差し出された武器を手に取って、思わず動きを止めた。
傘の重みが増したのは良い。そういう指定だったからだ。
…受け取った筒が、異様に重かった。これは予想外。

「…………爺さま、なんかボタン増えてない? あと重くなってるよね気のせいじゃないよねコレ」
「仕込みが薙刀だけだとつまんねーだろ。増やした」
「増やした!?」

何を!? 何を勝手に増やしたの!?

「中に鎖を通した。これで連結レベルに応じて、薙刀・ヌンチャク・鎖鎌に変形する」
「ヌンチャクに鎖鎌!? 勝手に何やってんですか!?」

連結レベルって何!? 私の薙刀、なんでそんな面白おかしい武器になっちゃってるの!?
源外さんもだけどなんで技師さんって思いつきで変なことするかな!!

、よっぽどじーさんに気に入られたね。節操無くて変な武器だけどっぽい」
「どういう意味かな神威くん? 私のどこら辺が節操なしだと? 怒らないから言ってごらん?」
「既に怒ってるよねソレ」
「…お前、私が怒るの分かってて言ってるだろ」
「文句言ってる時のって無駄に生き生きしてるよねぇ」
「そんな理由!? 前からちょっと思ってたけどあんた私のことバカにしてない!?」
「たまにってバカだなーとは思ってるよ。でもそこはお互い様じゃない? だって俺のことバカだと思ってるだろ」
「そうだね」
「わかっててもさすがに真顔は傷つくからやめてほしいかな」

それは仕方ないな。こいつ本当に馬鹿だもの。
それに付き合ってる私も結局馬鹿なんだろうが。

「…お前らの会話は聞いてる側がハラハラするな」
「「え? そう?」」
「両方無自覚かよ。阿伏兎の苦労してる姿が目に浮かぶわ…」

深くため息を吐かれて、思わず私達は顔を見合わせた。
確かに最近、心なしか阿伏兎さんが老け込んだような気もしないでもないが。
口で言い合って終わるだけなら全然、可愛いもんだと思う。

「基本の手入れは、お前らの船に乗ってる技師でも十分出来るからやらせとけ。
 もしまた整備が必要になったら持って来な。神威はいい加減、傘壊すなよ」
「ハイハイ」
嬢ちゃんもあんまコイツの我が儘聞いて怪我しないようにな」
「はーい」

重みを増した武器を抱えて、私は爺さまに小さく会釈を返した。
神威は挨拶もろくにせずさっさと歩き出してしまうので、私もそれを追いかける。
私に合わせて、歩調は緩やかだ。私が付いてこないとは、カケラも思っていないんだろう。
それは傲慢とも取れるだろうけど、不思議と私は、そういう風には感じなかった。

私達は、どこまでも互いを甘やかして、だけど引いた一線から先は決して甘やかさない。
理由なんてあやふやなまま、互いに執着して、でも引いた一線の先へは踏み込ませない。
私も神威も、嘘を吐く。互いに、だけではなく。自分自身にも。
だから、そう、わかってる。神威の言葉は正しい。
私はきっと、選べる。生きるためなら。死なせない為なら。
…元居た世界では、きっと一生、自覚しないままでいられた。
多分きっと、銀さん達の傍で過ごしていても、自覚しないままでいられた。
だけど私は、今、ここで生きてる。
神威を選んだのは私自身だ。そう。あの、夢の中の女が言った通り。
私はいつか、きっと選ぶんだろう。
その瞬間を迎えたときに後悔しないように、私は強くならないといけない。

手渡された武器を、握り締める。
…これを向ける相手は、誰になるんだろう。
願わくば、――






――願わくばそれが、大切な隣人達ではありませんように。



To be continued?

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