「…コレ、上にバレるの時間の問題だよね?」
「そだねー。アホ提督だけならともかく、船員の半分くらい殺しちゃったし」
「隠ぺい工作は無理だなァ…その上、移動船まで派手にぶっ壊したし」

頬杖をつく私の前で、神威はひたすら食事に夢中だ。
…相変わらず過ぎて突っ込みも出来ません。しかしよく食うよなこいつ。

「別に良いんじゃない? 『反逆者を一掃、全力を尽くしたけど提督は殺されちゃいました』で。
 頭不在じゃ色々不便だから、俺が提督になってみたよーってことで、丸くいかないかな」
「子供の悪戯の言い訳感覚だなお前。…それで通じるかなァ…」
「夜王,鳳仙を殺した男を敵に回すよりは、マシとか考えると思うけどなァ」
「ジジイ殺したのあんたじゃねーじゃんよ」
「良いんだよ、世間的にはそういうことになってるから。
 地球の侍に殺されました、じゃマズイだろ? ――吉原も、あのおにーさんもさ」
「…………それ考えたの阿伏兎さんでしょ」
「あり? なんでわかるの?」
「わからいでか」

こいつが、そんな細々と考えてるわけがない。
…いや、神威は頭の造りは愚鈍ではない。
ただ、興味があることとないことをきっぱり切り分けているだけで。
……ホント、阿伏兎さんには同情します。今も母艦で尻拭いに奔走してるしな。

「…………………それはいいんスけど」

会話に割り込んできた第三者の声に、私たちは箸を止めて視線を向けた。
視線の先にいるのは、髪をサイドで束ねた、きつめの美人さん。
年齢は私と同じくらいか。派手めな美貌を思いっきりしかめて、彼女は私達を胡散臭げに見ていた。


「なんでアンタら、うちの船に乗ってるんスか」



閑話 ~ File01 冗談混じりの境界線




「また子ちゃん、お堅いなー。顔も格好も派手なのに」
「まぁでも、の方が顔も体も頭の出来も格上だけどね」
「神威、それセクハラ。主に私に対する」
「なんなんスかこの失礼なバカップル」

歓迎ムードじゃありませんね、また子ちゃん。
…まぁつまり、彼女がいるということは、ここは鬼兵隊の船なのだ。
なんで私と神威がここにいるかと言うと、その理由は実に単純明快である。

「仕方ないでしょー、移動船はこのバカがぶっ壊したし。第七師団の艦はメインシステムがイカれてるし。
 母艦は屍の海状態だし、神威の部屋はドア吹っ飛ばされてるし。落ち着いて飯食う場所もないのよ」
「だからってなんでうちの船に乗り込んであまつさえ飯食ってるんスか!!」
「はァ? てめーらの総大将が撒いた種だろ、飯の世話くらいしろや。
 だいたい、このバカ一応春雨の提督サマだぞオイ。同盟相手なんだから、それなりの誠意見せろ」
「あはは、ってばそれただのチンピラだよー」
「やかましーですバカ提督サマ」

大人しく食ってろ。
そういう意味を込めて軽く頭を小突くと、伝わったらしく、神威は大人しく食事に没頭する。
…単に腹減ってるだけかもしれないけど。あれだけ景気良く暴れたし。

「晋助様ァ! なんでこのバカップル連れてきちゃったんスかぁ!?」
「なりゆき」
「なりゆきなら仕方ないっスね!」
「「良いのかよ」」

高杉ならなんでも良いんだね、また子ちゃん。
思わず神威まで突っ込み入れちゃったよ。

「…しかし、てめェも大概、胆の座った女だな。あれだけ死体見た後に飯が食えるとはね」
「ぅえ。思い出させんなよ、飯まずくなる」

食べ物を口に入れた瞬間に、言うことじゃないです。
まあ死体と言っても、地球人に近い型の天人がそんなにいなかったから、まだましなだけで。
……実際、思い出すと吐きそうなんだけどね。血の匂いも硝煙の匂いも、やっぱり慣れるわけがない。

「こう言うと凄く嫌なんだけどね、なんかもうある程度は慣れちゃって。
 こいつと一緒にいると血と硝煙と死体がワンセットだからさ…意識の切り替えくらいはもう出来るよ…」
「ちゃんと殺しの後は洗ってるよ」
「当たり前だ。血まみれのまんまで抱きつかれて堪るか」
「ひ、人様の船でいちゃいちゃと…ッ」

別にそういうつもりはない。
ないのだが、また子ちゃんにはそう見えるようです。

「羨ましいの? おねーさんもいちゃつけば?」
「んな!? そそそそんな、人前で晋助様といちゃいちゃしろだなんて…!」
「…また子、落ち着け。誰も俺と、とは言ってねェ」

いや、言ってるからね、高杉サン。
ここに居るの、私と神威とあんたとまた子ちゃんの4人だから。

「でもやっぱり地球の料理は美味しいよね。
 ね、も作れるでしょ? 地球に居た時にはごはん作る仕事してたんだよね?」
「ごはん作る仕事…。まぁ、間違ってはいないけど…」
の料理が食べたいなー」
「またそういう我が儘を…」
「だって奥さんは旦那さんにごはん作ってあげるもんでしょ?」
「は!? まだ結婚してねーだろ!!」
「ふぅん…」

反射的に言い返すと、一瞬、神威は予想外だとでも言うように首を傾げた。
…え。なんだろ。何か変なこと言ったっけ。

「…?」
「あ?」
「「まだ」ってことはさ、いつかはしても良いってことだよね?」
「…あ。~~~~ッ!!」
、耳まで真っ赤。可愛いネ」
「やっかましいです!! バカバカ!! あんたホントにバカ!! 死んじゃえバカ!!」

なんでそう、人の揚げ足ばっか取るかねこいつは!!
一息で怒鳴り返すと、きょとんと眼を瞠ってから、神威は盛大に噴出した。

「今笑った! 思いっきり噴出した!!」
「だ、だって、そんな必死に…ちょ、ごめん、もうダメ…あははははっ!
 お、お腹痛い…ッ…ってば面白過ぎ…っ! 無理無理、苦しい、笑い死ぬ…っ」
「な、何も泣く程笑うことないだろーーーーっ!?」

そ、そこまで笑うほど必死でしたか私は…!?
ホントにこいつ死ぬんじゃないか、と思うくらいの笑いっぷりだ。
納得いかない。なんで私が笑われるんだ。

「わーらーうーなーッ! おさげ引っこ抜くぞコノヤロウ!」
「あはははっ、痛い痛い、引っ張らないでー」
「うぅ…腹立つ…何コイツ…」

まだ笑ってるし!!
どうしてくれようかと考えてると、いきなり、バンッとテーブルを叩きながらまた子ちゃんが立ち上がった。

「…もういい加減にして欲しいっス!
 晋助様、こいつらマジウザいっスーーー っ!!」
「放っておけ、また子。
 …随分、宇宙の生活にも慣れてるみたいじゃねぇか、。楽しそうだな」
「う? まあ順応性豊かなのが私の取り柄だし。
 それなりには楽しく過ごそうとしてる。でも今は楽しいより腹立ててるんだが」
「銀時と一緒に居るのと、そこの提督殿と一緒に居るのは、どっちが楽しいんだ?」
「え」

薄笑いで言われた言葉に、私はぴたりと動きを止めてしまった。
少し考えて、ようやく、高杉が何を言っているのか理解する。

「…た、高杉…あんたね…ッ」
「……………………へぇ。即答しないんだ? ふぅん…?」
「か、神威サン?」

瞬間的に、場の空気の温度が下がった。ような気がした。
恐る恐る視線を向けると、神威と目が合った。相変わらず笑顔だったけど、目が笑ってない。

「今更動揺するような話でもねぇだろ」
「わざとだな! その言い回しはわざとだな!!」
「わざとも何も、てめェは銀時の女じゃねーか。ああ、今は提督殿の女か」
「……………晋助。その話、詳しく教えてくれないかな」
「神威、目が据わってるよ!? 違う、銀さんと私はそういう関係と違う!」

なんでそう、波風立てるような言い回しをするかな高杉は!!
というか、あの顔! あの笑い方!! 私が窮地に陥るのがよっぽど楽しいんだなこのドS野郎!!

「…でもさ。一緒に住んでたんだよね」
「てめーの妹も一緒に住んでましたけど!」
「神楽なんかどうでも良いよ」
「今更だけど酷い兄貴だなお前」
「…………一緒に住んでて、毎日ごはん作ってあげてたんでしょ………?」
「今の現状的に私とあんたとどう違うわけ! 料理作ってるか作ってないかの違いしかないよ!?」
「そこは大きい差だよ」
「どんだけ私の手料理が占めるウエイトはでかいのですか神威さん」

それなりに自信はありますが、一般家庭レベルですけども。
例えるなら、ファミレスになら勝てるけど料亭には負ける感じ。

「同じ家で寝泊まりして、毎日手料理作ってあげるなんて、もうそれ夫婦じゃん!!」
「違ェ!! なんか予想外にピュアな意見出た!?」
「まさか一緒に風呂入るとか、あまつさえ添い寝するとかしてないよね!?」
「してるわけねーだろ!! 万事屋はソープランドか?! 私はデリヘル嬢か!?」
「伏字にしろよ、PTAに怒られるぞ」
「今更伏字にしても速攻バレるから意味ねーよ! 良い子のみんな、意味わからなくても親に聞くなよ!!
 って、誰のせいでこんなことになったと思ってんだバカ杉!!」
「誰が馬鹿だ」

お前だ、お前以外に誰がいる!!
また子ちゃんが「晋助様を侮辱するとは何事っスかこの寄生虫ーっ!!」とか騒いでるけど、無視だ無視。
というか、お前らに構ってる場合じゃないです、私。
すっかり機嫌を損ねたらしい、このバカ兎を宥めるので手一杯なのだから!

「本当に? が寝てる間に悪戯されたりしてたんじゃないの?」
「銀さんをなんだと思ってんだよ! むしろソレ、やろうとしてたのあんたじゃねーか!」
「俺は良いんだよ。は俺のモノなんだから」
「違うよね? 今論点そこじゃないよね? そもそも少なくても昨日までは私はあんたのモノじゃなかったよね?」
「何言ってるの? 半年前からは俺の所有物だよ」
「所有物って何さ!! なにそのジャイアニズム!!」
「自覚しなよ。団員でもないのに俺の傍にずっといて、あまつさえ半年間死ななかったどころか怪我もしなかった。
 完全に周囲はのこと、俺のお気に入りのペットか何かだと思ってたよ?」
「言うに事欠いてペットぉッ!?」
「そういうプレイだと思えば萌えるよね」
「萌えねーよ! あんたまた地球の変な本読んだだろ!!」

真顔で言うことか!!
未だに、こいつのこういう言動が本気なのか冗談なのか掴めなくて、若干怖いんだが。
…しかし話がすり替わったあたりで、機嫌はやや直ったらしい。
…………やっぱこいつ、頭弱いんだろうか。それとも考えないでしゃべってるんだろうか。

「さすが晋助様っス。相手を翻弄するのはお手の物っスね!」
「フン。大したことじゃねぇよ」
「ホントにな」

余計なことしかしやがらねぇよな、こいつ。
なんか、もう、疲れた…。
テーブルに思わず突っ伏すと、逆に神威は箸を置いて立ち上がった。
…てか、今まで食ってたのか。本当に食うの好きだなこいつ。

「…じゃ、ごはんごちそうさま。晋助、部屋ひとつ借りるよ。今日は泊まるから」
「おう。その辺の奴捕まえて案内してもらえ」
「どーも。ホラ、行くよ

私はまだ半分くらいしか食べてないんですが。
…まあ、また機嫌損ねられると面倒だし、仕方ない。
渋々立ち上がると、瞬間、爪先が浮いた。
……あれ。目線が一気に高いです。

「…って。待てなんで俵担ぎ!?」
「お姫様抱っこが良いの?」
「恥ずかしいですどっちも却下!」
「じゃあこのままで行くよ。降ろしたら逃げそうだし」
「逃げねーよ、周り宇宙じゃねーか逃げ場ねぇよ!!」
「それでも逃げ回るのがでしょ。半年間、俺から逃げ回ったじゃない?
 あの逃げ足は凄かったなァ。俺も結構全力で追いかけたのに、上手に障害物使って逃げ切った手並みは見事だったよ。
 だからそこに敬意を表して、今まで手は出さないでおいたんだけどさ。…でももう良いよね?」
「え。あの、どういう意味かな神威くん。おねーさんにわかるように言ってくれ」
「だから、」

楽しそうに笑いながら、そこで一旦わざとらしく、言葉を切って。
声量を落として、囁くように言われた言葉に、私は思わず硬直する。

「結婚前提の恋人らしいこと、しよっか」
「ぅ…ッ」

…ええと。
そりゃあ、まあ…こうなってしまった以上、避けて通れない道だとは思う。思います。
……でもですね、物事には順序があるじゃないですか?
さっきの今で、それはちょっと飛躍し過ぎだとさんは思うのですよ。
…………………うん。だからね。

「…無理ーーッ! さんは今日はもう疲れました寝ます!!」
「あははは、寝かせないよー」
「無理つってんだろ! あっちこっち奔走して疲れてんだよ!
 だいたい、さんはか弱い地球人なんだぞ!! お前の相手なんか無理だ!!」
「またまた、か弱い地球人は俺と半年も一緒に居て怪我ひとつしないなんてあり得ないって」
「それはあんたが手加減してたからでしょ!? そうでしょ!?
 理性吹っ飛ぶようなことしたらあんた絶対手加減しない! 私死んじゃう!!」
「俺はそんな簡単に理性飛ばないよ? 今まで飛んだことないし」
「理性飛んでる自覚がある奴なんか端からいねーよ!! マジ無理死ぬ死んじゃう今度こそ死ぬ!」
「大丈夫だって、処女相手にそこまで酷い事しないよ。ちゃんと加減するから。
 …まあ、今まで加減とかしたことないんだけど。………力緩めれば平気かな?」
「おい余計に不安になったじゃねーか! なんで疑問形!? そもそも酷い事前提なの!?」
「大丈夫だってば。夜兎と地球人は身体構造的には限りなく近い生き物なんだしさ、
 女の体は男を受け入れられるように出来てるんだし、の体は充分オトナだから問題無いよ」
「そーゆー問題ですかッ?」
「そーだよ。大丈夫、大丈夫。いきなり突っ込んだりしないから。
 ちゃんと手順くらい知ってるって。というか、そんなことしたら俺も痛い」
「ぎゃーーーーッ!? 露骨な表現やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「全然露骨じゃないよ、ちゃんと言葉選んでるよ?
 露骨っていうのはね、例えばの×××に俺の×××を、」
「やめろこれ以上喋るなぁぁぁぁぁぁッ!! 伏字にすりゃ良いってもんじゃねぇぇぇぇッ!!」
、今からそんなに叫んでると明日は喉やられて喋れなくなるよ?」
「だからやめろって言ってるじゃん!? 私と会話して、お願いです!」

え、なに、どこまで本気?
全部本気? それなんて死亡フラグ!?

「あははは、必死だねぇ」
「必死にもなるわ!! あんたいい加減に、」
「…ねぇ? 半年間、俺はお預け喰らってるわけだよ。そんな話をつい最近したよねぇ」
「………したね」
「だから、さぁ」

急に、声のトーンが低くなった。
僅かに、私を抱える腕に力が籠る。
…え。なんだろ。この言い知れぬ悪寒。

「これ以上お預けされたらさ…――反動が酷くなりそうだな、って俺は思うんだ。
 ねぇ、はどう思う? ホラ、は俺自身より俺のこと理解してくれてるから、わかるんじゃないかな」
「………………………………………………………………………」
「俺も若いからねー。しかもは俺が生まれて初めて惚れた女だよ?
 今までのはただの処理って言う作業だったけど、相手で俺はそこまで割り切れる自信ないなァ?」
「………………………………………………………………………」
? あのさぁ」
「………………………………………………………………………はい?」
「俺、いくら相手がでも、さすがに死体とセックスしたくないよ」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

血の気が引く、という表現を自分が体験するとは、思いませんでした。
有り得ねーよ!と笑い飛ばせない相手で、非常に残念です。
………………………………無理。負けた。

「………………あの、一回で終わらせてくれマスカ」
「いいよ。初めてだもんね、無茶してホントに死んだら困るから一回で終わらせてあげる」
「………………お手柔らかにお願いしマス」
「そんなに緊張しなくても、優しくするよ。俺なりに」
「………………全然安心出来ないです、神威サン………………」

こいつなりの優しさって、地球人換算でどのくらいですかね…。
気分はもはや、これからまな板の上に運ばれていくマグロさん状態です。
処刑台に上る罪人でも良い。…だというのに、神威は物凄く上機嫌だ。腹立たしい。

「…上機嫌ですね、神威サン」
「うん。には負けっぱなしだったからね。完全勝利で嬉しいヨ?」
「ははははは…うん、負けた…一番負けちゃいけないとこで負けた…」
「ご愁傷様デス。良いでしょ、別に。だって俺のこと好きなんだからさ」
「それとこれとは別だと思うのよ。そろそろ降ろしてください、もう逃げないから」
「ハイハイ」

逃げても無駄だと悟っているので、そう要求すると、案外あっさり解放された。

「…同じだよ」
「ん?」
「好き合ってればさ、触れたいって思うじゃない?
 だから、早いとか遅いとかどうでも良いと思うんだよね」
「…あのさ。女は男と違って、下半身で物考えないから。即物的思考してないから」
「酷い事言うね? 童貞じゃあるまいし、俺はそこまでがっついてないよ」
「………色々突っ込みたい一言だなァ」
「妬いてくれるの?」
「バーカ。今までお前の犠牲になった女性に同情しただけだ」
「犠牲って酷いなァ。あっちはお仕事、こっちは作業だよ?
 ギブアンドテイクな関係じゃないか、少なくても本気になられたことだってない」
「……………」

…まあ、言いたいことはわかるんだが。
こいつの外面に騙されて、本気になった女もいるんじゃないだろうか。
こいつが自覚してないだけで。
…そういう女を、こいつはどうしたんだろう。
邪魔だと、不要だと称して、引き裂いたんだろうか。貼り付けた笑顔のままで。

「…あれ。怒った?」
「べぇつにー。あんたが最低ヤローなのは今に始まったことじゃないし」
に対しては誠実だよー?」
「あー、はいはい…」
「信じてないネ」
「そだネ」

言い捨てて、私は歩き出す。
部屋はどこだろう。その辺の奴をとっ捕まえて案内させるか。

「あーあ、どうしたらは俺を信じてくれるのかなー」
「いーのよ、あんたは嘘つきで。私も嘘つきだから」
「…?」

不思議そうに聞いてくるから、私は振り返らずに言い返す。
足を止めることもなく。

「愛とか献身とか? 嘘とかホントとか、誠実とか不誠実とか…そういうの私らには要らないよ。
 あんたは私が好きで、私もあんたが好き。あんたは私のモノで、私はあんたのモノ。
 …それだけで充分でしょ。一緒に居る理由も、触れ合う理由も」
「………………」
「ごちゃごちゃ考えるとメンドクサイもん。
 お互いに相手の挙動に一喜一憂するとか、絶対私らには向いてない。らしくない」
「…、」
「だから、」

声を遮る強さで、私はしゃべり続ける。

「…だから、私はあんたと一緒に居ることを選んだんじゃないの。
 居心地の良い居候先も、厚待遇の仕事先も捨ててさ…」
「………あの、さ…、それ、…凄い口説き文句だよね………」

戸惑い気味に言われて、思わず私は振り返った。

「は…はァ!?」
「どう聞いても今の、「愛も献身も要らない、すべて捨てても傍に居る」って意味でしょ?
 俺、そんなこと言われたの初めてなんだけど…え、どうしよ…こういうときはなんて返せば…?」
「え。いや。確かにそういう意味にも取れるけど、ちょっと待って…!」

「はいっ?!」

思わず身構える私に、神威は小さく苦笑する。
予想外の反応に、私は思わず立ち竦んでしまった。

「やっぱり、は俺の特別だよ。
 ちょっと悔しいけどね、…の一挙一動に、俺は結局、一喜一憂してるんだと思う」
「か、」
「別に、がそうである必要はないし、俺も望まないけど。
 今はただ、がこうやって受け入れてくれただけでも、結構満足なんだよね」
「……」

くしゃりと、髪を撫でる手が優しい。
私を見る視線が柔らかい。
どうして、こいつはこう、不意打ちのように、こういうことをするんだろう。

「わ、」
「?」
「私ばっか悪役にすんな!!」
「は?」

あ、ヤバい。キレた。
頭のどこか一部分だけ冷静な部分が、そう判断する。
だけど口から出る言葉が止まるわけじゃない。

「私はッ! 銀さんも新八も神楽も定春も、大好きなんだよ!!
 真選組のみんなも、お登勢さんもたまも、キャサリン…はちょっと微妙だけど、
 お妙も九ちゃんも、さっちゃん…も、微妙だけど、とにかく、みんな大好きだったんだよ!
 あの場所が! 万事屋が、歌舞伎町が大好きだった! でもっ」

止まれ止まれ。
こんなの私じゃない。
何を勝手にしゃべってるんだ、私の口は!

「それでもここにいるのは、それ以上にあんたが好きになっちゃったから、仕方ないじゃない!!」

唖然として私を見つめている神威の視線が、最高に居心地悪い。
頭はそう思っているというのに、言葉をせき止めてはくれない。

「でもあんたやっぱどっか変だし! 私はこんな性格だし!
 色々割り切らないときついでしょうが! 私だって、……」

急に、息が詰まった。
喉が痛くて、眼が熱い。
…しまった、興奮し過ぎて涙出てきた。

「…え、と…」

困ったように視線を彷徨わせてから、若干躊躇いがちに、神威が私の頭を撫でる。
力加減を見誤ったか、少し乱暴に。

「…なんでここで泣くかなぁ」
「うっせーな、生理現象だよ! 止まんねーの! くそっ、最悪…ッ」
「相変わらず口も悪いし…困った子だネ、は」

ぐしぐしっ、と乱暴に涙を拭っていると、肩を強く掴まれた。
なに、と。
言い返す隙も与えられず、無理矢理後頭部を抱え込まれて、強引に口付けられる。
荒々しい、貪るような口付けに、思わず目を閉じた。

「…んっ…ぅふ…ッ…」

息苦しさと唐突な行動に驚いて、咄嗟に服越しに腕に爪を立てた。
意図が伝わったのか、解放される。それも唐突で、呼吸が上手く出来なくて、浅く息を吐いた。

「………」
「…止まった?」
「…………………」
「あれ? ?」
「…もうちょっとまともな方法ねぇのかこのやろーーーーっ!!!!」

そりゃ止まったけど! 涙は止まったけども!!
なんていうか、こいつバカだろ! 最悪だろ!!
恥ずかしいやら腹立つやらで、私は反射的に握りしめた拳を思いっきり打ち込んだ。
とはいえ、何度打ち込もうが神威は全部軽くいなしてしまうので、当たるどころか全部勢いを殺されるわけだが。

「わかった、わかったから。
 そんなに怒らないでよ、は変なとこが子供だネ」
「お前が言うなぁッ!!」
「ハイハイ。ちょっと大人しくしようネ。ほら、注目集めてるし」
「………………え」

言われて、ぴたりと私は動きを止める。
ゆっくり周囲を見回すと、鬼兵隊所属の皆様が、困ったような顔でこっちを見ていた。

「…どうでもいいけどさっさと部屋入れっス、バカップル。マジウザい」
「ぎゃーーーッ!? 見てたのまた子ちゃん!?」

物凄く冷めた目で、呆れたように言われた言葉に、私は耳まで赤く染めて言葉を失う。
対照的に、神威はどこか楽しそうに笑って、私の頭を撫でるのだった。
………やっぱ最悪だ、この男。






いつでもどこでも恋愛は戦争。



To be continued?

気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。