「――で、どうする。今、この艦の中でお前に注意を払うような奴はいねぇ。
事が済むまでどっかに隠れてれば、そのうち地球に帰してやってもいい」
不意に、そう言った高杉に言葉に私は足を止めた。
ゆっくりと振り返る私に、高杉は相変わらず絶好調に嫌な笑みを浮かべる。
「銀時のところに、な」
「…高杉。あんたやっぱ性格悪いわ」
答えがわかっていてそう聞くのは、いい加減にやめてもらいたい。
苛立ち紛れに睨みつけてやるけど、やっぱりまったく堪えた様子もなく高杉は嗤うだけだ。
「お前は銀時の女じゃなかったか?」
「最初からそんな事実はありません。それに、今の私は」
そこで一旦言葉を切って、軽く息を吸う。
「――宇宙の喧嘩師の『女』だ」
その一言に、全ての『終わり』と『始まり』を込めて。
――『決別』と『宣戦布告』を込めて、言い切る。
「……………」
一瞬、高杉が目を瞠った。ような気がした。
だけどすぐにいつもの笑みを浮かべていたから、錯覚かもしれない
「…やっぱてめェは良い女だな」
「そりゃどーも」
これでもう、後戻りは出来ない。
…ごめん、万事屋のみんな。真選組のみんな。
もう、あんたらのご飯作ってあげられない。
――三日後。
私は、当然今の『所有者』である高杉の部屋に居た。
…正しくは、『高杉が滞在中の部屋』だが。まあそれはどうでもいい。
「処刑は3時間後に行われる。これは俺も顔出さなきゃならねぇ」
「そらそーだろ」
「お前はまず、鬼兵隊に連絡を取れ。これが無線だ」
そう言って投げて寄越された無線機を受け取って、しばし沈黙。
…ええと。こんなあっさり私に手渡して良いのかこれ。
「…あんたこれ、少しの間とはいえ手放して良いわけ?
あんたのトコの奴らに事情聞かれたら私どうすれば良いのよ」
「そんなもん、自分の頭で考えろ」
「…ソウデスカ」
そうくるとは思いました。
うわぁ、メンドイ…多分また子ちゃんが一番メンドイ…。
「あと、これが無線関連の一式だ。一応預けておく。
俺はあまり機械(からくり)には詳しくねェが、お前はこういうの得意そうだな」
「…えと、拡張マイクと…コレ、パソコン? なんか特化仕様っぽい。
お、無線にマイク付ヘッドフォン繋げられるとか、何この無駄な中二病装備」
まあ、使えないことはないだろう。
艦隊の操縦とかは出来ないけど、無線のやりとりくらいなら出来る。
「そっちと連絡ついたら、次は第七師団だ。
こっちの方が重要だな。何せこいつらが間に合うか否かで勝敗が決まる」
「!」
そ、そうか…なるほど…。
確かに、春雨相手に喧嘩するには、鬼兵隊だけじゃ力不足。
その点、第七師団は夜兎族で構成された戦闘部隊。神威が居ないとはいえ、歴戦の夜兎が多く所属する。
…うわぁ、思った以上に命の綱渡りですこの状況。
「今の第七師団の指揮を執ってる奴は、お前も見知ってる奴か」
「神威の腹心…って言って良いのかな。あいつよりは話が通る人だよ、常識はある」
「なるほど。…それなら、お前から話を付けるのが端から確率が高いってわけだ。
うちの連中が話持ってくより、お前が直接話した方が信用あるだろ」
「そうね、夜兎族って警戒心強いから。普通は」
「結構」
満足そうにそう言うと、高杉は席を立った。
「うちの手筈はある程度整ってる。第七師団の方はお前に任せるぜ」
「おう」
頷いてから、ふと思いついて口を開いた。
これだけは言っておかなければなるまい。
「――礼は言わないわよ、地球の喧嘩師さん? そっちもこっちを利用してるんだから」
「もともと期待してねェよ、そんなもん。
てめェが第七師団を動かせなけりゃ、手負いの団長共々死ぬだけだろ」
「動かしてみせるわ。女の意地と誇りに懸けてね」
「フン。口の減らない女だ」
余計な世話だ。
部屋を出ていく高杉を見送って、私は機械に向き直る。
基本的には――私が慣れ親しんでるパソコンと変わらないか。
無線も携帯電話だと思えば、何も難しくはない。
「んと、無線とヘッドフォンの接続はこれで良いのかな。
なんかこう、ガンダムのオペレータになった気分。映像は出ないかさすがに」
色々弄ってると、僅かなノイズを拾う。
精度の調節をすると、瞬間、明瞭な女の声が耳の奥に響いた。
『晋助様!? 晋助様っスか!? ご無事で…!』
あ、また子ちゃんだった。
ええー、この状況で私が喋るのー…?
「…あー、ごめん。代理の者です」
『…………………誰っスかアンタ!? 晋助様を出せ!!』
「うっせーよ。キンキン騒ぐな、また子ちゃん。頭痛くなるから」
『なんで私の名前を! 貴様何者っスか!!』
「え。さんです」
『!?』
あれ。覚えてたのかな。
意外と律儀なんですね、鬼兵隊の皆様。
『……って…白夜叉のトコの薙刀女じゃないっスか! なんでアンタが晋助様の無線に!?』
「薙刀女って。ナニソレ、じゃあ笑いながら薙刀振り回しながら追いかければ良いの?
可愛いモノを見つけたら速攻引っ掴んで、お持ち帰りぃぃぃぃっ、ってやれば良いの?」
『何をお持ち帰りするんスか!? はっ…晋助様か! 晋助様を持ち帰るつもりっスか!
私の目の黒いうちはそんな真似させないっス! おのれ薙刀女、晋助様を返せぇぇぇぇぇぇっっ!!』
「…マジでメンドイですこの女。冗談通じねェ。
オイ、万斉サンでも武市サンでも良いから替われ、この猪女と電話口交代しろ」
『誰が猪…もがっ』
なおも怒鳴りかけたまた子ちゃんの怒号は、途中で遮られた。
代わりに聞こえてきたのは、物静かな成人男性の声。
『殿ですか。お久しぶりです』
「えーと…武市サン? あー、やっと話進むわ」
『すみませんね、猪女が大暴れしてまして。半分くらいはあなたのせいだとは思うのですけども。
…まぁ、何故あなたが晋助殿の無線を使っているのかはわかりませんが、とりあえずお話を伺いましょう』
「細かいところにこだわらないでいてくれて助かるよ。じゃあまず高杉の伝言から――」
私は言い含められた高杉からの伝言を伝える。
どうやら粗方の事情は聴いているらしい武市さんは、特に余計な質疑はしなかった。ありがたい。
『――了解致しました。万事そのように』
「よろしく。あと、第七師団の艦に無線繋いで。
今第七師団の指揮を執ってる阿伏兎さんには、現状を私から話す」
『…繋がる保証はありませんよ? なにせ生死不明です』
「ははっ、あの問題児な団長さんを放逐したまんま死なねーよ、あいつらは」
春雨に所属する艦同士、無線を繋げるのはそう難しくないはず。
問題は、第七師団がそれに応じるかどうか――だが。
武市さんから送られてきた信号を、こっちの無線から繋げる。
さて、どうだ。
『――…』
ノイズ交じりの音――でも、一応繋がった。
警戒してる…よなぁ。それでも一応繋いだのか。さすが阿伏兎さん。
「…あー。メーデーメーデー、阿伏兎さん聞こえますかーさんですよー」
『……は? って、その声! 嬢ちゃんかッ!?』
おお、早い反応。
気の抜ける私の通信に、反応を返したのは間違いなく阿伏兎さんだった。
「そーですヨ。ご無事で何よりです。でもお宅の団長さんがちょっとピンチです」
『ちょ、なんで嬢ちゃんが無線傍受とか…
いや、今は良い。突っ込んでたらキリがねぇ。団長がどうしたって?』
「処刑されそうです」
『簡潔過ぎンだろ!!』
「なので速攻で戻って来やがれですヨ」
『戻りたいのはやまやまだが、艦のメインシステムがやられてよ…』
「手漕ぎで来い」
『なんて無茶ぶり!?』
無茶でもやってもらわないと困る。
馬鹿やってますけどね、私だって内心焦りもありますよ?
何せ、第七師団が間に合わなきゃこっちの負けが確定だ。
神威の怪我も完治してないわけだし。…まあそれはあんま問題じゃないかもしれないが。
「…阿伏兎さん、ちょっと待ってて。回線開いててね。
――あー、もしもーし? 武市さーん?」
『残念ながら、拙者でござる』
「いや、良いよ。万斉さんでも。また子ちゃんじゃなければ。
あのさァ、第七師団の艦がヤバイみたい。鬼兵隊の船で誘導してあげて」
『…まあ、良いだろう。しかし座標がわからん、少しかかるやもしれんぞ』
「ああ、座標なら送るよ」
『は?』
相手の返事を待つより先に、私は無線機を繋げたパソコンを操作する。
送られた信号から逆算して、座標を叩き出すわけね…なんだ、結構簡単だ。
「出来たっと。
無線が拾った奴だから、ちょっと正確性は微妙かも。あと気合でよろしく』
『…ひとつ、聞いても良いか殿』
「なに?」
『……何故、一般人であるはずの貴殿が、そういうことを平然とこなすのでござろうか』
「あー…勘?」
『……………』
「私、機械に強い子だから」
それは嘘じゃないです。
人間、誰しも得意分野ってのはあるもんだよ。
これ、もしかして勉強したら宇宙船も動かせるようになるかな。でも勉強するの面倒だな。
「ってわけなんで、阿伏兎さん。鬼兵隊の皆様に誘導されてくださーい」
『…嬢ちゃん…俺はあんたに団長と夫婦になってくれとは言ったが、オペレータになれとは言ってねぇぞ…?』
「別に好きでやってるわけじゃねーですよ。時間ないんで両者さっさと動け」
今後の打ち合わせを簡単に行い、あとは両者に任せるとする。
無線を切って、私は小さく息を吐き出した。
…さて、第一関門突破。後は――
「…あとは、間に合うかどうかの賭けね」
+++
――さて、無線に連絡が再度入って少し経った。
既に『処刑場』では馬鹿二人が暴れ回ってます。
スプラッタな音が響いてきて正直キモチワルイです。みんな早く来てください。
げんなりしながら待機している私の耳に、複数の足音が響いた。
視線を向けると、先陣を切ってきたのは鬼兵隊の面々だった。
…こいつらすげぇよな。幹部が堂々と先陣切って来るんだぜ…? 潔いというか。
「いらっしゃいませー」
「殿」
私の姿を見つけて、全員の足が止まる。
胡散臭そうに、また子ちゃんがまじまじと私を見た。
「マジで居たんスかアンタ…」
「そりゃ居ますとも」
「ご苦労様です、と言った方が良いですかね」
「あー、良いです要らないそういうの。
じゃ、鬼兵隊の皆様はどうぞこの先はご自由に。私の役目は終わりなんで」
「晋助様は無事なんスかッ!!」
「中で元気に暴れてますヨ」
「晋助様! また子が今すぐお傍に参ります!!
野郎ども! 私に続くっス!!」
『おーーーーっ!』
私が言い終わるより先に、また子ちゃん率いる鬼兵隊の皆様は『処刑場』に雪崩れ込んで行った。
「…また子ちゃん、元気だな」
「晋助を相当心配していたからな。…さて、拙者もひと暴れといくでござる」
「まったく困った人達ですね。…では殿、また後程」
「いってらっしゃーい」
駆け出していく鬼兵隊の面々を見送って、私は振り返る。
そこには鬼兵隊に少し遅れて、第七師団の面々とそれを率いた阿伏兎さんの姿があった。
「さて――遅いわよ、第七師団」
「そう言うなよ、手漕ぎで頑張って戻ってきたんだぜ?
…しかし嬢ちゃん…無事だったか。大したもんだな」
「悪運は強いからね。あと、その「嬢ちゃん」ってのはやめようか」
「は?」
呆けたように私を見る阿伏兎さんに、私は笑った。
「――これからは「姐さん」とでも呼べ」
「おい、そりゃあ――」
「じゃあ、行こうか。
――我らがバカ提督サマがお待ちだよ?」
「って、提督!? 何が? 誰が!?」
「神威が」
「ちょっと待て嬢ちゃん! お前さん、いったい何を…」
「説明は後でします」
そこで言葉を一旦切って、私は息を吸い込んだ。
そして、居並ぶ強面の団員達を見据えて、言い放つ。
「あー…――戦闘大好きな第七師団の皆様に告げる!
お前らの団長は本日を持って提督に就任する。新提督に反目する者は粛清せよ。
地球人におくれを取るな、夜兎が宇宙最強であることをここに示せ!」
『……』
一瞬、第七師団の面々は顔を見合わせた。
だけど次の瞬間、声を揃えて返事を返してくる。
『…イエス・マム!』
「あっさり調教され過ぎだろ」
「ノリが良くて私は嬉しいです。
というわけで実働部隊隊長の阿伏兎さん、号令よろしく」
「はいはい…」
『処刑場』へと雪崩れ込む彼らを見送って、小さく息を吐く。
――策は成った、ってところか。面白いほど高杉の予定通りじゃないか、なんだ腹立つ。
「…ま、今回は乗ってやったから良いけどさ」
懐から、私は丁度手に収まる程度の長さの筒を取り出した。
柄のボタンを押すと、スパンッと小気味良い音と共に薙刀の刃が飛び出てくる。
今更ながら、この仕込み薙刀は便利だよね。近藤さんにはいくつお礼を言っても足りないや。
…なのに、宇宙海賊と攘夷志士の共闘なんぞに首突っ込んでてごめんなさいですね。
「さぁて…派手に一花、咲かせてやるか」
まあ、私は自分から特攻かけるほど命知らずじゃないけどね。
+++
派手に爆発した移動船を見上げて、私はため息を吐き出した。
…あいつは本当に滅茶苦茶だな。こんなでかいもんどうやったら蹴りで壊せるんだよ。
「デカイ借りができちゃったね。仕方ない、アンタとやり合うのはしばらく中止するよ」
そう言いながら、変わらず笑顔を浮かべたまま、神威が煙の向こうから戻ってきた。
あれだけの破壊をしておいて本人無傷とか、正直おかしいだろとは思うがまあ、今更か。
「それに…アンタと一緒に地獄廻りも楽しそうだし」
「フン」
「さて、手始めにどこからいこうか? やっぱり、侍の星?」
「――その前に、後始末しないとどこにも行かせないからね」
パンパンッ、と柏手を鳴らして、私は二人に近付く。
近くに来るとこれがまた、煙たくてしょうがない。
どうするんだこの船。直るのか。それとも粗大ごみ?
「…あー。派手にやったなぁ…」
「」
「ホントにあんたって滅茶苦茶よね、神威」
この破壊された移動船とかさ、いったいどうするんだろうか。
…阿伏兎さん、今度は提督の尻拭いか。忙しさうなぎ上りですね。
で、このバカは事の重大さをわかってるんだろうか。
「楽しかったかね」
「うん、割と」
「そりゃようございました。
で? 神威バカ提督サマは、これからどうするわけ?」
「んー? そうだな…」
一瞬考える素振りをして、すぐに飽きたらしい。
手招きをされたから近寄ると、いきなり腕を引っ張られた。
「ちょ、」
「とりあえず、を堪能してから考えるよ」
「はぁ!?」
そのまま抱き込まれて、一応もがいてみたけどまともに身動きも出来ない。
…力で逆らうだけ無駄ですね、はい。良いよ、今回は大人しくしてやるよ。
「ははっ…俺、今最高に気分良いよ」
「そーですか。…ホントにさ…あんたって、血の匂いしかしないヤローだね…」
「こればっかりは慣れてよ。にも同じになれとは言わないからさ」
「言われてもなれねーっての」
同じになったら、意味が無いだろうが。
その言葉を飲み込んで、私は抱かれるままに大人しくしていた。
…最低だろ。血と硝煙の匂いしかしない男。なのになんでだろう、どこか安堵した自分がいる。
「…じゃれてるところ悪いがな」
「え。邪魔するんだ? そういうキャラなの?」
「何言ってんだこのガキ。俺が話があんのはそっちの女だ」
「私?」
それまで黙っていた高杉が、不意に口を開いた。
視線を向けると、射るような真っ直ぐな視線を、奴は私に向けている。
普段の笑みを消した、真剣な表情で。
「一応言っておくが。お前が選んだこの道は、銀時と相対する修羅の道だ。
お前はそれを理解して、ここに居るのか?」
「…………」
「別に俺は、に闘えとは言わないよ? むしろ手出しして欲しくないからね。
それに、今更あのお侍さんに返すつもりないし。やっとがデレたのに」
「デレた言うな! …心の問題だ、っつってでしょ高杉は」
――今更、何を言うのか。
だからいい加減、答えのわかっている質問を投げてくるなというのだ。
「高杉。あんたの言いたいことは、よくわかる」
「それでもなお、選ぶか?」
「もう、選んだ後よ。後には引けない」
だって、地球に、万事屋に戻ることを拒んでしまった。
高杉に手を貸して、春雨の提督を引き摺り下ろして、その椅子に神威を据えてしまった。
今更後に引けるものか。もう、私の行くべき道は確定している。
「それに…宇宙海賊の女幹部、なんてさ。性格悪い私にゃぴったりじゃない?」
笑いながら言い返すと、高杉は、しばらくじっと私の顔を凝視した。
そして――嗤う。どこか満足そうに。
「――なるほどな。お前らしい」
それだけ言うと、彼はそのまま踵を返した。
あいつも鬼兵隊の頭だ、部下の心配でもしてるのかもしれない。
特に引き止めずその背を見送ると、ぽつりと神威がつぶやいた。
「…そういや聞いてなかったけど、、あいつと知り合い?」
「え? 今更?」
ここまできて、ようやくその話題ですか??
呆れる私に構わず、神威は不機嫌そうに顔をしかめた。なんでだ。
「…は男の知り合いが多いネ」
「…何それ。嫉妬?」
「うん」
「………………」
「………………」
妙に長い沈黙。
ふるふると、私は握りしめた拳を震わせながら、怒鳴りつけた。
「「うん」じゃねーだろ「うん」じゃ!
なんだ今の可愛いの! ときめいてなんてないんだからね!?」
「あはは、可愛い。頭悪そう」
「なんだとぉ!?」
確かに今のはなんか頭悪そうだったけど! 自分でも思ったけど!!
「まあ、昔のこととか興味ないし、どうでもいいや」
「興味ないって」
「だってさ、」
興味ないとかその発言もどうよ、と。
呆れて良いのか怒れば良いのかわからない私に、神威は笑う。
そして、本当にさりげなく、自然に――唇が重なった。
「――もう、は俺のモノだ」
「…………」
「その事実があれば、他はどうでも良いや」
「…ソウデスカ…」
恥ずかしい事言いますねこいつ。
内心の動揺を隠すべく、私はなんとか冷静さを保つ。
…保てていれば良いな。
「…抵抗しないの?」
「…して欲しいのかよ」
「いや、今までの抵抗が可愛いレベル飛び越えて激しかったから」
「………………なら今後は触られるたびに殴るわ」
「それはさすがに困るなぁ」
そう言って、あまりにも楽しそうに笑うから。
なんだか恥ずかしくなって、私は視線を落とした。
…いや違う、首が痛くなったからです。恥ずかしいとかじゃない。
「…さんでも、百年に一回くらいは大人しいんですー」
「えー…百年に一回って極端に少ないよ。それいっそ一生に一回じゃない。せめて一ヶ月に一回」
「…それは遠慮という殊勝な態度を覚えたのか、私をそういう生き物だと思ってるのかどっちデスカ」
「そういう生き物だと思ってる」
「死んでくれ」
どうせね、可愛くない女です。
でも、それが私だ。だからこれで良い。
「…ねぇ、」
「あん?」
「と会ってから、俺はどこかおかしくなったみたいなんだ」
「大丈夫、あんた最初からオカシイ」
「…俺は、さぁ」
無視ですか、神威さん。
「夜兎の血が忌み嫌われてるのも理解してるし、それを悲しいと思うことはもうないし、
…今回のことだって、タイミングとしては予想外だったけど、いつか起こる事態だと思ってたよ」
そうだろうなと、頷く。
あの時、牢で高杉に言った言葉から、そうだろうと思っていた。
「傭兵部族である夜兎は、必ず最後は雇い主に疎まれる。
斬れ過ぎる刃は嫌われるんだってさ、組織には。でも長い歴史の中で、俺達にはそれが当たり前になった」
「……」
「だからそんなことはどうでも良い。俺は強い奴と闘えればそれで良い。でも、どうしても耐えられないことがある」
「…なに?」
「――俺自身が、弱くなること」
弱さ、とは。
彼の中で何を示すのだろう。
今ある強さがなくなるなんてことはない。なら、やはり――心の問題か。
「…俺はね。あの時、毒矢を受けた時に、ここまでかなって思った。
ついてないなーって思ったけど、仕方ないかなとも思ってた。でも――もっと別のことを、思ったんだ」
それは私に聞かせているというよりも、独白に近い言葉だった。
多分、こいつ自身にも消化しきれていないのかもしれない。今回の件は。
「を地球に帰しておけば良かった、って」
「神、威」
「おかしいだろ? 俺自身が終わるなら、別にのことなんか考えなくていいはずなのにさ。
…そのあと牢でに何かされるかもしれないって聞いたら、…この艦道連れにしてやろうかと思った」
「そんなこと考えてたの?」
「うん。でもさ、そしたら、なんか凄い元気だし。怪我ひとつしてないし。
呆れたけど、…なんでだろうネ、なんだか安心した」
安心、ね。
こいつでもそういう感情あるんですか。
「…とか思ってたらあいつと妙に仲良いし」
「仲良くねーよ…あいつ私の天敵だよ…」
「…いっその目を潰してあいつを見ないように、喉を潰してあいつの名前を呼べないようしようかと思ったけど」
「いやおっかねーなお前の思考回路」
「…そんなことしたら、は俺を見なくなって、俺の名前を呼ばなくなるって気づいたら、出来なかった」
「それ以前に多分死ぬんですけどそこまでやられたら」
とんだヤンデレだよ。おっかねぇよ、その発想。
そんで他の奴に触れないように腕落とすとか、逃げないように足落とすとかになるんだろ?
…わぁ、想像したら本気で寒気してきた。こいつならやりかねないとか思った。
今更ながらとんでもねー男に目ェつけられたな私。
「全然、俺らしくないよこんなの。自分にとって有毒な女一人、殺せないなんてさ」
「おおい。勝手に連れてきておいて有毒とかお前ホント死んでくれねーか」
「…ねぇ、。頼むから、俺に殺されないでね」
僅かに、抱きしめてくる腕に力が籠った。
これ以上力入れられたらまず死にますね、ええ。力加減を覚えてくれて嬉しいですよ。
……そんなバカなことを思うくらいには、私は動揺しているのかもしれない。
神威が見せる、飾らない、隠さない――素の部分に。
「…ひとりは好きじゃないからさ。俺と一緒に、地獄に落ちてよ」
「………」
――多分、こいつは、恋とか愛とかって感情がわからないんだろう。
だから執着も束縛も嫉妬も、持っているはずなのに理解出来なくて、苛立って、最終的に暴力で解決しようとする。
それしか、知らないんだろう。きっと。
それでも喪失への恐怖は魂の奥底にあって、無意識に怯えているのかもしれない。
それに気づいてしまったから、もう、戻れない。
私も大概、男運の無い女だなぁ。こんなメンドクサイ男に捕まるなんてさ。
「………………いーよ。あんたが私を殺そうとしたら、この負け犬野郎って蔑んでやるから」
「うわー、ヤな女」
「てめーもヤな男だからあいこです」
「そうだネ。…じゃあ、俺が殺すまで死なないでね。
まだ死んで欲しくないけど、いつかを殺すのは俺だけだ」
「はいはい…あんたも、私を殺すまで死ぬんじゃねーぞ」
「うん。『約束』するよ」
…馬鹿な男。
『約束』なんて、そう簡単にするもんじゃないってのよ。
そうやって無意識に自分を縛り付けるのが、男の性なのでしょうか。
これから先、こいつの傍にいる限りは、私が銀さん達と対峙することは確定だ
例え私自身が手を出さなくても、こいつの面倒見てる限りは。
「――ま、仕方ねーだろ。選んじゃったもんはさ」
「うん? 何?」
「なんでもないよ。ただ、ね」
そう、ただ。
なんとなく、思ったんだ。
「…これから忙しくなりそうだな、って思っただけ」
こいつのことをもっと知りたい。深い部分に触れてみたい。
こいつと一緒に居たいと、――そう、思ってしまったから。
――やっぱり後戻りなんて、出来ないんだなってことを。
選んだ道は、修羅の道。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。