「……いやいや、これはないだろ」
有無を言わせず放り込まれたのは、鉄格子の中だった。
実にシンプル。合理的な『人質』の扱い。
…ですが犬面の皆様、よく考えて頂きたい。
あの狂った兎がですよ。
あの三度の飯も戦闘も大好きな戦闘狂がですよ。
自分の父親の片腕吹っ飛ばして、病気の母親放り出して、泣いて縋る妹に暴言吐いたような男がですよ。
たかが気紛れで誘拐してきた女を人質にされたところで、止まると思いますか?
「あー…こりゃ死ぬかなァ」
今までも結構、危ない橋を渡って来たような気もするが。
さすがにこれはなぁ。宇宙のド真ん中じゃ逃げ道ねーよ。
…だけど、まあ…牢屋に放り込まれた、ってことは、まだ使い道があると思われてるはずだ。
ということは、今すぐどうこうなるって感じでもない。
「…よし、とりあえず寝よう」
無駄な体力消費するのも馬鹿らしい。
いざというときの為にも、休息は大切です。
『ガハハハハハ! 高杉殿、よくやってくれた! これでワシに仇なす反乱分子は消えた!!』
上機嫌の提督殿は、そう言って満足そうにしている。
まぁ、このくらい頭の軽い方が扱いやすいとは武市の言ではあるが――
…正直、つまらない艦に乗ってしまったという思いはあった。
それならいっそ、あのガキ――神威とか言ったか。あれが提督をやった方が面白いかもしれねぇな。
つらつらとそんなことを考えながら話を聞き流す。
労いの言葉を掛けられて恐縮している勾狼だが、あれは特に春雨やこのアホ提督に忠誠を誓っている風ではない。
武勲を立て続ける第七師団――特に、団長である神威への妬み、といったところか。くだらねぇ。
『奴の第七師団も白兵戦を封じられた上、あれだけの艦隊を前にし撃沈されたと聞きます。
反逆者の処遇を見れば、神威についていた連中も目が覚め、提督への忠誠を新たにしましょう』
忠誠、ねぇ。
自分が忠誠を捧げられるようなことをしたと、思っているのかねこのアホ提督は。
犬面野郎は案外、おべっかが上手じゃねーか。…馬鹿馬鹿しい。
「……ちと勿体ない気もしたがな。あのガキ、象すら一瞬で混濁させる毒矢をあれ程あびて、
俺の一太刀を受けてなお――最後まで笑ってやがった」
あの瞬間は、確かに気分が高揚した。
あれこそは獣。――それも、化け物の類だ。久々に血が滾るというもの。
「あの手負いで勾狼団長の手勢が二十余名を殺っちまうたぁ、
奴を狩るための損害よりも奴が抜けた損害の方が甚大な気がするねェ」
『かまわぬさ、高杉殿。あいた穴はそちら鬼兵隊が埋めてくれるのであろう』
「…フン。悪いが遠慮させてもらうぜ」
そのまま、席を立つ。
こういう奴らと卓を囲むのは御免蒙る、飯がまずくなるってもんだ。
――それに、ひとつ、やってみたいことが増えた。
「鶏口となるも牛後となるなかれってな。海賊の大幹部より、お山の猿の大将やってた方が俺ァ気楽でいい。
それに俺ァ、この「鬼兵隊」の名…捨てるワケにはいかなくてね」
『ならば恩賞は…』
「何もいらねぇさ。今まで通り、もちつもたれずでいこうぜ」
そう返してから、ふと思い出して足を止めた。
「…ああ、いや。ひとつだけ丁度良いのがあったな」
そう。あの女。
地球人があんな場所にいたことにも驚いたが、あの女には面白い連れがいた。
『?』
「あのガキが連れて歩いていた娘がいたはずだ。地球人の」
『ああ…あれか。神威が鳳仙を始末した折、地球より連れ帰ったという』
――その件は知っている。あの馬鹿が首突っ込んでいたのもだ。
ということは、やはりアレは、銀時の元に居た藤原の一の姫――の、偽者に違いない。
本物の方か偽者の方か、顔だけでは判断が付きかねていたが…まず、あの女だろう。。
その容姿こそ、徳川御三家の若様がご執心の藤の姫君と生き写しだが、その身の内に獣を潜ませた夜叉の姫。
妙なところで妙な奴に出会うものだ。というかあの女、何やってやがる。
『どんな美女を侍らせても食事にしか興味を示さぬあやつが、任務時以外は片時も手放さぬと聞いたからな。
まず間違いなくあの男の弱点と成り得ると踏み、今は牢に拘束しておる。神威の処刑後に処分するつもりだったのだが』
「あんたらにゃわからんかも知れんが、あれはとある幕臣の娘でね。
それも、かの有名な吉原でも滅多にお目に掛れない上玉だ。殺すくらいなら「恩賞」として貰い受けたい」
『ほう…。確か地球には、「英雄色を好む」という言葉があると聞く。
貴殿も類に漏れず、やはり美女は手元に置きたいというところか。結構ではないか』
程良い勘違いだ。
だがその程度の認識であった方が良い。
こいつらには、あの女の価値はわかるまい。
『良かろう。勾狼、あの娘の牢の鍵を高杉殿に』
『はっ』
犬面でも、案外表情がわかるもんだ。
下卑た笑みと共に寄越された鍵を受け取り、内心舌打ちする。
何を考えているのかわかりやすいのは、こういう職業では美徳じゃねぇぜ、お犬様よ。
『神威もさぞ悔しかろう。己が情婦を、自分を斬った男に奪われるとはな』
「情婦、ねぇ…」
あの女が、そんなタマかね。
人の艦で、薙刀振り回しながら大暴れした女だぞ、あれは。
…そう考えると、あの第七師団の団長とあんまり大差が無ェな、と。
やはりあのは、変な女だということを再認識させられた。
+++
薄暗い牢の中では、特に何もやることはない。
仕方ないので惰眠を貪る私の耳に、足音が届いた。
「――牢屋の寝心地はどうだ、『蝶子姫』?」
「……………」
呼んでますよー、蝶子さん。
…あれ。なんか聞き覚えのある名前ですね。
「……………………………オイ。起きろ」
「ぅおっ!?」
いきなり、ガツンッと衝撃が来た。
慌てて跳ね起きると、鉄格子の向こう側に見知った顔がある。
若干、呆れを滲ませた表情で私を見下ろす、隻眼の男が。
…今の衝撃は、こいつが鉄格子蹴ったからですか?
「…わー、何の嫌がらせかなぁ、たーかーすーぎくーん…?」
「呑気に牢屋で寝てられるその根性が凄ェよ」
「だからって蹴るか普通」
「人が話しかけてんのに寝こけてるてめぇが悪いんだろ」
「あんたマジ理不尽」
だからって、何も蹴ることないだろ。
どこまで自己中だ、この中二病侍めが。
「…で。こんなところで何やってるんだ、?」
「…いや、私もそれは知りたいなァ…」
ホント、何やってんでしょーか、私は。
「しばらく見ねぇうちに、宇宙海賊春雨の大幹部の情婦になってるとは、さすがに思わなかったぜ」
「誰が情婦だコノヤロ。あんたこそなにやってんの」
「なに、アホ提督殿の要望で、獣狩りを終えたところだ」
その言葉の意味に気づかない程、私は馬鹿じゃない。
私は春雨の団員じゃないし、中枢に関わるような団長やら補佐官やらのように詳しい情報は知らない。
それでも、高杉率いる鬼兵隊が、宇宙規模の犯罪シンジケートと繋がって対等の関係を築けるわけもない。
そして、神威率いる第七師団は、今や絶滅危惧種の夜兎のみで構成された戦闘集団――、
――――どちらも、巨大な組織の中では軋轢を生む存在だろう。それくらいはわかる。
「……キナ臭いとは思ってたけど、そういうこと?
天人憎しの攘夷志士が、天人に良いように使われて組織内のお掃除ですか。大した狂犬ですこと」
「察しの良い女は嫌いじゃないぜ。…ああ、第七師団の団長を斬ったのは俺だ」
「あ、そ。どうせ生きてぴんぴんしてるんでしょあの馬鹿。
斬ったくらいじゃ死なないし。その程度で死んでくれるなら私も苦労してない」
「かけらも動揺しないあたりが、てめェらしいな。で、そっちは何してる」
だから、それは私が聞きたい。
「なんか神威の弱みだとか言われてさ、いきなりここに放り込まれたわけですよ。
マジふざけんなだよねぇ。誰が誰の弱みだってーの。ってわけで出せよオラ」
「相変わらず顔の割に口の悪い女だな」
「顔が良ければ良いだろ」
「自分の性格が悪いのは自覚してるんだな」
「うっせぇな鬼太郎。良いから出せや」
「出てきてどうする」
淡々と言われた言葉に、一瞬、言葉を飲み込んだ。
――「どうする」? そんなの、知らない。
私が何かするとでも? するわけないじゃないか、面倒くさい。
単に牢屋の寝心地が悪いだけだ。
「第七師団の団長は三日後に処刑される身。
その情婦がのこのこ出てきてどうするつもりだ」
「だから誰が情婦だコラ」
「まあ、」
ぐいっ、と強引に顎を掴まれて上向かせられた。
…おいおい、もっと丁重に扱えよ。仮にも女だぞ。
「今回の功績の「恩賞」に、お前を貰ってやっても良い。そうすれば外に出られるぞ」
「………」
目を眇めて、眼前の男を見据えた。
やっぱりこいつは、私の天敵だと思う。
相手を理解してなお、その魂を踏みつけるように、まるで言葉遊びのように。
――違う。私の答えを知っていて、敢えて訊いているのだ。相変わらずの人格破綻者め。
「…なにそれ。取引しろってこと?
あの馬鹿兎の為に、あんたに媚び諂えと?」
「……」
「はっ…ふざけろ。誰があんたの遊びになんぞ付き合うもんか」
「…だろうな。お前はそういう女だろうよ」
ほら見ろ。わかってて訊いてるんじゃないか。嫌な奴だ。
満足そうに嗤うと、高杉は急に立ち上がって、牢の鍵を開けた。
「!」
「出ろ」
短いその『命令』に、私は胡乱気に目を眇める。
その反応をどうやら正確に受け取ったらしい高杉は、面白そうに嗤った。
「警戒しなくても、別に取って食ったりしねぇよ」
「…つっても信用出来る要素がどこにもないんだけど」
「素直な女だ。悪い意味でな」
どいつもこいつも失礼です。素直の何が悪い。
「――来い。最後に会わせてやる。…そっから先は、てめェで決めろ」
その一方的な物言いが、物凄く腹が立ったけど。
…せめてもの抵抗で、ため息を吐き出してから私は高杉に従って足を踏み出した。
+++
神威に連れられて歩いた場所を、今度は高杉に連れられて歩く。
聞いた話だと、私が放り込まれていた牢屋とこっちの牢屋は、造りが少し違うらしい。
まあつまり、こっちは神威みたいなのも閉じ込めておけるような、頑丈な造りということだろう。
歩幅を緩めてくれるような男ではないので、私は置いて行かれないようについていくのがやっとだった。
そういう意味では、神威はちゃんと合わせてくれてたのか。…と、思った瞬間、何か苦い気分になった。
…ついて来ちゃったけどさ。神威に会って私はどうすれば良いんだろうか。
と、いうか。
高杉はいったい、何がしたいんだろうか。
何企んでるんだ、こいつ。読めない。
死ぬ前に一目、みたいな親切心じゃないのだけは確かだ。
私を「貰い受けた」のも、私を助けようとしたからじゃない。絶対違う。
だとしたら、こいつの目的は神威に会うこと。
そして、何かに利用するつもりに違いない。
そこに私を連れて行くということは――神威に対して、私に利用価値があるか見極めるため。
「…あのさ。無防備に背中向けてますけど、私が斬りかかったらどうすんの」
「フン。いくら姫夜叉と言えど、お前に斬られる程こっちの腕は衰えちゃいねぇよ」
「その呼び方やめて頂きたい」
「だいたい、牢に放り込まれてたお前に、武器があるわけねぇだろ」
「…隠し持ってるかもしれないわよ?」
「なるほど、あり得なくはねぇ。が、お前ほど賢しい女はそんな危ない橋は渡らないだろうな」
「ぅぐ…」
くそ、いちいち正論吐いてきて腹立つ。
確かに、今ここで高杉に斬りかかったところで意味はないし、力量の差は知ってる。
ああ、ダメだ。ホントに苦手だこいつ。
「」
「なんですか」
「お前は少しここにいろ」
「は?」
なんでだよ。
牢の手前の廊下で止められて、私は思わず首を傾げた。
「最初からお前の姿があると、あのガキの本音が見えなくなりそうなんでな。
――気づいていると思うから先に言うが、俺はお前を利用するつもりで連れてきてる」
「…だろうねぇ。あんたが私を助けるわけないし、最後に一目、なんて親切心出すわけないし」
「フン。せいぜい役に立ってくれ。でなけりゃ、てめェみたいな猪娘を解放した意味がない」
「誰が猪か」
どいつもこいつも、なんで私を猪に例えますか?
猪突猛進とでも言いたいのか! さんは常に冷静沈着クールレディですよ失敬な!!
イラッとしたが、今の私はこいつに命を握られているも同然だ。
仕方なく、そこに立ち止まる。
「慌てなくても、すぐ会えるさ」
「別に慌ててねーよ」
本当に、こいつ性格最悪だよな…。
私も大概だけど、こいつよりは絶対ましだと思う。
『ちょうかはんか、ちょうかはんか…ウフフ…』
廊下の向こうから聞こえたのは、壊れた笑いを含むそんな声。
華陀、か。そうか、ここは師団長とか幹部クラスの拘束場所なのかもしれない。
「……「半」だ」
『うふふ~残念~、「丁」じゃ』
「ありゃりゃ。今度はアンタが死ぬ番だね」
案外元気なその声に、思わず反応してしまった。
…全然、普段通りだ。どうして安堵したんだろう。私は、あいつを心配していたんだろうか。
「そいつは呪いの博打だよ。
負けた奴は必ず不幸になるのさ。俺も負けたんだから間違いない」
「……フッ。殺しても死なねェ化け物がぬかしやがる」
まるで偶然を装ったような高杉と、神威の会話が聞こえる。
やることも無いので、二人の会話に耳を傾けた。
「わざわざ手当てまでして生かしたのは、
公開処刑でもして他の連中への見せしめにするためだろう。日どりはいつ?」
「…三日後だ」
「三日か…俺とアンタ、どっちが先に死ぬかな」
笑いすら含むその物言いが、あいつらしいなと思う。
そしてその言葉で、私は自分の憶測が正しかったことを確信した。
「アンタもわかってるんじゃないかい。
ここの連中はどいつもこいつも、自分の利権のことしか頭にない、共食いを繰り返してる愚劣な組織だ」
「………」
「ウチの力を利用して幕府を討つなんてできやしないよ。
どれだけ恩を売っても、利用されるだけ利用されてお払い箱さ」
――その言葉が、どこか重く聞こえたのは気のせいだろうか。
どれだけ恩を売っても、利用されるだけ利用されてお払い箱…か。
夜兎族の血は危険だという。
闘いに生きる彼らは、常に戦場に立つ。
その勇姿を頼る者は多いが、すべてが終わった時、その圧倒的な力は恐れられ…
――忌み嫌われるのだと、そう語ったのは神楽だった。
神楽の思考は夜兎としては異端なのだと、そう教えてくれたのは星海坊主さんだったか。
そして、おそらく誰よりも夜兎としての特性に忠実なのが、神威だと私に言ったのは阿伏兎さん。
神威は多分、夜兎がそういうものだと理解し、受け入れた。それも相当昔にだ。
だから「雇い主に切り捨てられた」ことに対する怒りのようなものを、あいつは持っていない。
それを当たり前として、受け入れている。それがわかったら、何か言いようのない感情が湧きあがった。
「確かに、利用するにせよされるにせよ、こんなふがいない相棒じゃつまらねェってもんだ。
こんなところにいたら、折角生えたその立派な牙も、腐り落ちちまうだろうよ」
「あんた、…一体ここに何をしに?」
「てめェと同じだよ。不様に生え残った大層な牙を突き立てる場所を探して、ぶらりぶらりだ」
笑みすら含んだその物言いは、あまりにも高杉らしい。
そして私は、次に彼の口から飛び出した言葉に、すべてを理解した。
「だがこんなオンボロ船じゃ、どこにもいけやしねェ。
どうせ乗るなら、てめーのような奴の船に乗ってみたかったもんだな」
「…………」
――そう、か。
あいつが神威にわざわざ会いに来た理由は。私の利用価値を見極めようとしたのは。
…なんてこと考えてんだ、あいつ。
『頭』を挿げ替えて、どうするつもりだよ。…まさか春雨を乗っ取るつもりか…!?
「…まあ、処刑まで大人しくしてることだな。
でなけりゃ、お前が連れ歩いてた娘もどうなるかわかったもんじゃねぇ」
「!!」
瞬間、こんなに離れた場所にいるというのに、肌を焦がすような殺気を感じた。
――神威? あいつの殺気は何度か肌で感じたことはある。だけど、今のは…
「――に何かするつもりなら、三日も大人しくしてあげられないけど…?」
「…フン…あの犬面野郎の嗅覚もあながち間違ってなかったわけか。
毒矢を受けても笑いながら戦うことに執着するような奴が、小娘ひとりの安否に笑みを消すとはな」
「……………」
…
……
………え。
ええええっ!? 何、今のそういうことなの!?
え? 嘘でしょ? あいつにとって、私ってちゃんと『人質』として有効なわけ!?
「…随分と愛されてるじゃねぇか。なぁ、?」
「~~~っ…高杉…あんたね…ッ」
なんてタイミングで呼びつけますか!!
こいつが見たかった『本音』ってのはコレか…ッ、趣味悪い! ホントに趣味悪い!!
こいつの思い通りになるのは非常に癪なのだが、仕方ない。
渋々歩を進めると、薄暗い牢の中、包帯でぐるぐる巻きにされて両手両足を拘束されている神威がいた。
…どんだけ危険物扱い? 手負いなのに。
「……?」
「…おう」
「…ッ」
一瞬、唖然と私を見つめていた神威が、反射的に立ち上がろうとして転んだ。
…うわ、なんですかこの珍しい光景。いや、そんなバカ言ってる場合じゃないけども!
慌てて鉄格子に私が駆け寄るのと、神威が身を起こすのはほぼ同時だった。
「馬鹿、大人しくしてなさいよ!
大抵の怪我はすぐ治るようなあんたが、治療されてるとか相当な怪我なんでしょ!?」
「…ははっ…だ…」
「おい、お前頭大丈夫か! 馬鹿になってないか!」
「なってないよ、失礼だね。びっくりしただけ」
そう言って笑う表情に、普段のどこか狂気じみたものはなく。
なんだかそれが、逆に落ち着かなかった。
「…は、怪我してない?」
「見りゃわかるでしょ、ぴんぴんしてますよ」
「…なんていうか…悪運強いよね、」
「言うに事欠いてそれか」
悪運ね…確かに悪運強いだろうね。でもそれをあんたが言うかね。
「…そっか。、無事だったか…」
「…………無事じゃない方が良かった?」
「そんなことないよ。…俺以外がに何かしたらムカつくな、って思ってさ」
どういう理屈!?
こいつはこんな状況下でも俺様ですね!! ある意味安定のバカだよ!!
「…なんでこんなことになってんの、とかは聞かないわよ?」
「うん。はムカつくくらい敏い女だもんネ、ある程度わかってるんでしょ?」
「そうね」
ムカつくのはこっちなんだけどね。
ああ、しみじみ思う。こいつは、本当に――
「…馬鹿な男」
「………それ、嫌味? 俺としては最高に縁起の悪い一言なんだけど?」
「知るかよ。あんた馬鹿なんだから仕方ない」
「ははっ…ヤな女」
「あんたみたいなヤな男にはお似合いでしょ」
性格悪いし、常識ないし、すぐ手足が出るような男。
どうあっても普通の女じゃついていけないだろう。
――そう。私くらい性格が悪くて敏い女じゃないと、こいつのバカを叱ってやれないじゃないか。
「…そろそろ行くぞ、」
「ぅおっ?!」
「本当に色気の無ェ女だな…」
「オイコラ」
人の襟首引っ掴んでおきながら、色気なんて求めないで頂きたい。
だけどその瞬間、近くで肌を刺すような殺気を感じて、ぞわりと総毛だった。
恐る恐る視線を向ける――ヤバイ、神威の目が怖い。というか殺気が静か過ぎて逆に怖い。
やめてくださいこいつと私は天敵同士です腐れ縁もいいとこですそういう関係じゃないですマジその目やめて違うから!
「安心しろ。コレは今回の功績の「恩賞」で俺が貰う。
だがこんな色気の無ェ女、傍に置いても仕方ないから地球に送り返しておいてやるよ」
「…………」
「ま、同郷のよしみって奴だ」
「…そう」
僅かに、殺気が治まった。思わず胸をなでおろす。
…高杉も大人げない。変に挑発しないでくださいこいつ冗談通じないんで。
襟首を掴んでいる高杉の手を払い除けて、私は立ち上がる。
もう一度だけ神威をじっと見つめた。
神威の青い瞳と、視線が絡まる。
それはほんの一瞬。
だけどまるで、長い時間そうしていたかのような錯覚。
私はそれ以上声を掛けることは無く、踵を返した。
――やることは、決まった。
高杉の計画に乗るのは癪だが――せいぜい、利用してやる。そっちが私を利用するのなら。
「――じゃあな、宇宙の喧嘩師さん」
高杉の言葉に、私は嗤う。
――腹は決まった。さあ、反撃開始だ
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。