「というわけで、新しい旅の仲間を紹介するヨ~」
…私は転校生かよ。
居並ぶ強面の夜兎ご一行様に軽いノリで紹介されて、思わず顔が引きつった。
椅子に座らされて両肩に神威が手を載せてる体制なのだが、無意識かわざとか…
…まあ十中八九わざとだろうが、手を置くというよりは押さえつけられていて立ち上がることも出来ない。
この状態でこれだけ強面の連中に取り囲まれれば、普通の女の子は震えて泣き出すだろう。
しかし、私はこの居並ぶ強面達よりも、後ろの笑顔が絶えない優男の方が何倍も恐ろしいことを知っている。
獰猛なくせに気紛れで扱い辛いこいつに、好き好んで反抗する気はないが、大人しく従うのもやはり癪だ。
「…えーと。どこのお嬢さんで?」
困惑したように、居並ぶほぼ全員が私と神威を交互に見て首を傾げていた。
…首傾げたいのはこっちだよ。なにこの状況。
「地球人のだよ。地球の吉原に遠征してきた時の戦利品」
「…人を物扱いすんな。何をどうして得た戦利品だ誘拐犯」
こいつにとってはただの通りすがりに過ぎない私が、なんで戦利品扱いで誘拐されにゃならんのか。
「端から見たら「夜王鳳仙を粛清した際の戦利品」かな?」
「あの爺殺したのお前じゃねーだろ。そもそも私は夜王の持ち物じゃねェよ」
「良いの良いの、そうしておいた方が楽でしょ。お互いにさ」
「何が良いのかわからないんですけども!」
何が楽なのかわからないんだが!
「………えー…戦利品云々は一旦置くとして。まさか団長、そのお嬢さん連れ歩く気か…?」
「そうだよ。俺の嫁になる予定だから手は出さないように。手を出したら殺して宇宙生物の餌にする」
団員の皆様の顔が引きつった。
…いまこいつどんな顔してコレ言ってんだろ。宇宙生物の餌って。
「予定もなにも嫁になる気はさらさらありませんが」
「ちょっと凶暴で口も悪いし言うこと全然聞かないから、あんまり構っちゃダメだよー」
「人を珍獣のように紹介すんな!! 人の話聞いて!?」
狂暴とか言うこと聞かないとか! 変わった動物拾ってきたみたいな言い方!!
…それはそれとして、いい加減肩を離して欲しい。地味に痛い。
「………オイ団長。人が怪我で意識朦朧としてる間に何してくれてんだ。
返して来いよ、アンタどうせ面倒見れないだろ」
「一から十まで面倒見なきゃいけないほど馬鹿じゃないよ、この子」
「そういう問題じゃねェよ。俺らは海賊だぞ?
地球でぬくぬく育ったお嬢ちゃんに、海賊船での生活が耐えられるワケねーだろ」
そうだそうだもっと言え。
…あれ。このひと、吉原で神威が抱えてた荷物じゃん。
……あの時この人の意識がはっきりしてれば、ここまで連れて来られなくて済んだのでは?
「だいたい、そのお嫁様は不機嫌丸出しじゃねーか。
しかも言うこと聞かないとか、アンタ完全に嫌われてんだろ」
「…俺、嫌われてるの?」
「…え。好かれてると思ってたの? 頭大丈夫?」
「真顔はさすがに傷つくな」
好かれていると思っていたなら、頭がお花畑過ぎるだろ。
どこの世界に、有無を言わせず連れ去るような誘拐犯に好意を抱く女がいるんだよ。
「…絶対無理だから。何も生み出さないからコレ。女が殺されんの黙認するとかオッサン無理だから」
「殺さないって。気に入ったものは大事にする男だよ俺は」
「お前すぐ飽きるだろ! やめてくれよ、地球人の女なんてアンタが軽く腕掴んだだけで折れそうなか弱い生き物なんだからよ」
「この子全然か弱くないよ。そんな弱っちいの連れてくるわけないじゃん。ねぇ?」
そこで私に同意を求められても困る。
私はちょっと力が強いだけで、スポーツとしての薙刀が扱えるだけの小娘だ。
地球人の中で特別強い個体とかではない。たまたま、そうたまたま、勢い余って神威に攻撃してしまっただけで。
「…いやいや。さんはか弱い地球人なんで。
すべて団長さんの勘違いだと思うんでさくっと地球に帰してくれませんかねぇ。こっちは仕事あんだよボケ」
「ホラ、普通の地球人の女はこういう反応しない」
「いやそれは頑丈さとは関係ない。単に性格悪いだけじゃねーか?」
「オイコラ性格悪いとはなんだこの無精ヒゲ。お宅のピンク兎に比べりゃ可愛いだろ」
性格悪い自覚はあるが、大して私を知らない奴らに言われると腹は立つ。
苛立ち紛れにジロリと睨め上げると、無精ヒゲのオッサンは顔を引きつらせて視線を神威に戻した。
「……団長。とんでもない別嬪さんだが、とんでもなく口が悪いぞこのお嫁様」
「うん。俺にピッタリだろ」
「確かに」
「いや何納得してんの!? 嫁じゃねーよふざけんなよ!
あと神威! いい加減手ェ離せ肩壊れんだろーがこの馬鹿力!!」
このままうっかり力込められたら、私の肩砕けるんじゃない? 勘弁してくれよ。
「ハイハイ。大人しくしてない子だねー」
「大人しくしてて状況が好転するなら貝のように口を閉ざすが悪化してるので!!」
「別に悪化はしてないでしょ? 好き勝手言ってるけど」
「自覚あるのかよ性質悪ィな!」
「…まあこういう女だけど、攻撃とかしなければ良い子にしてると思うからさ。
艦内うろうろしててもそっとしておいてやって?」
「はァ…」
未だ困惑を滲ませながら、団員の皆さんは頷いた。
いや、もうちょっと誰か頑張ってくれねーかな。
こんな小娘船に乗せんな、とか。女連れで海賊なんか出来るか、とか。
「情に絆されて勝手に地球に返したりとかするなよ。ないとは思うけど」
「…さすがに団長にそんな真っ向から喧嘩売るほど命知らずじゃねぇよ」
「うん。ならいいよ」
…良くない。全然良くない。
いくらか同情的な視線が混じっていたから、上手くすれば協力者が見繕えると思ってたのに。
――今、完全にその可能性を潰された。いや、完全ではないかもしれないけど、
こいつに逆らってまで私を助けてくれるような物好き、ここには絶対いない。
「どうせひとりで帰れないもんね? 協力してくれる物好きもここにはいないから諦めなよ?」
「………神威。ひとつお願い聞いてくれないかな」
「うん? なぁに?」
にこにこしながら顔を覗き込んでくる神威に、私は真顔のまま言い放った。
「今すぐ宇宙に身投げして死んで欲しい」
「真顔で言うかなソレ」
「お前が消えないと私は帰れないんだな、って思って。私の為に死んで?」
「いや、可愛く首傾げても真顔だし。顔色ひとつ変えずに何言ってんの?
…昨日の今日だしわかってたけど、君、結構ぶっ飛んでるよね」
「え。あんたにだけは言われたくない」
私が普通の女の子より肝が据わってる部類なのは、まあ多少自覚があるが。
頭のネジが飛んでる野郎に、ぶっ飛んでるとは言われたくはない。
+++
まあ確かに、私は『捕虜』ではないだろうが。
普通、誘拐した女に武器携帯させたまま艦内を放し飼い状態にするだろうか。
…夜兎しか乗ってないからかな。私如きが何しても痛くも痒くもないってか。
…………良いけどなんかムカつくな。
ここに連れて来られて一週間ほど経ったが、どうやら私に危害を加えてくる危険性があるのは神威だけだとわかった。
…それもどうなんだろ。連れて来た本人が一番危ない奴って。
すれ違う団員の皆さんは強面で一見おっかないが、不本意ながら私が「神威の嫁(予定)」のせいか割と優しい。
「おう、地球のお嬢ちゃん。なんだひとりか」
「団長はどうした?」
「逃げてきた」
「「あー」」
そこで納得されるのもどうなんだろうなァ。
朝も早くから追いかけ回されて疲労困憊なんだよ、こっちは。
「なんであんたらの団長さんあんな歩く災害みたいなの? 巻き込まれていい迷惑なんだけど」
「そう言われてもな」
「撒いても撒いてもいつの間にかいるし」
「お嬢ちゃんすげェな。艦内で団長撒くって相当だぞ」
「死に物狂いにもなりますよ。あいつ神出鬼没だからおっかないもん。
殴っても蹴っても速攻で復活するし。ホラー映画のゾンビみたい」
「ゾンビ…」
「なので、居場所聞かれても「その辺うろうろしてた」とか適当に言っておいて」
それなら嘘ついてることにはならないだろ。
実際、本当に艦内うろうろしながら逃げ回ってるんだし。
…いつまでも立ち止まってたら見つかる。さてどこに逃げようか…。
「…あのお嬢ちゃん、案外本当に団長の嫁になるかもな」
「末は俺らの姐さんか…」
「まァ、あれだけぶっ飛んでりゃ、海賊も務まるだろ」
背後から聞こえる世間話に、げんなりする。
何を勝手なことを。誰があんなあぶねー男の嫁になるかよ。
+++
…さて、これで完全に撒けただろうか。
とりあえず無精ヒゲのオッサン――阿伏兎さんの周辺うろついてりゃ、ある程度は安全だ。
とはいえ悪党に変わりはないので全幅の信頼は寄せられないが、神威よりはマシだろう。
きっとたぶん真面目にお仕事に励んでいるはずなので、なんか執務室的なところにいるのかなー。
「あ。やっと見つけた」
「ぅぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
いきなり、目の前の壁が破壊された。
破壊された壁の向こうから、場違いな笑顔で立っていたのは神威だ。
…いやわけわかんないんだけども!? 宇宙船の壁破壊って何、なんで!? 何してんの!?
「…いやせめてもうちょっと可愛い悲鳴上げてよ。なんでガチの悲鳴だよ」
「心臓に悪いんだよ普通に登場しろよ!」
「普通に登場したら逃げられるじゃん。つーかまえた」
「ぎゃーっ!! やめろ触んなこっち来んな!!」
「そこまで嫌がらなくても…」
逃げようと踵を返した私は、あっさり神威に腕を掴まれて引き戻された。
後ろから抱え込まれるように抱きすくめられて、じたばた暴れても振りほどけやしない。
「そんなに嫌がることしてないはずだよ? まだ」
「まだ、ってなんだよ。勝手に触られるだけで良い気はしないっての!
ホント離してくれないかな。私、抱き枕じゃないんで」
「抱き心地の良い枕だネ」
「どさくさに紛れてどこ触ってんだスケベ!!」
なんでこいつこんなにスキンシップ過剰なんだ、この距離感オカシイだろ!!
まだ会って一週間だよね? 銀さんにもここまでされたことないんだけど!
…いや銀さんなら良いってわけじゃないんだが。
「って態度でかいけど体は小っちゃいよね」
「余計な世話ですよ。それより人の話聞けよ」
「肉付きは良いけど」
「太ってるって言いたいのか!」
「ううん、エロいって言ってる」
「セクハラやめろ!!」
もうやだこいつ…。
心身ともに疲れて項垂れていると、ひょいっと抱き上げられた。
…犬猫じゃないんでこういうことを勝手にするのはやめて欲しいんだが、何度言っても聞き入れてもらえない。
「とりあえず鬼ごっこはいったん休憩。ごはん食べに行こうか」
「ごはんて」
「朝ごはん食べてないでしょ」
「……朝からあんたが人を追いかけ回すからじゃねーか」
「だって君が逃げるから」
「追いかけられたら普通は逃げる」
「普通に近づいても逃げるじゃん。どうしたら良いの??」
「触らないで欲しいしむしろ近づかないで欲しい」
「真顔で拒否されると傷つくんだけど。俺にも心がありますヨ」
「私にも人権ってもんがあるんですヨ、神威くん」
そう、犬猫じゃないんだよ。
拒否されて傷つく心があるんなら、人権無視される私の怒りも理解して欲しい。
…今更言っても通じないんだろうなァ。常識通じない奴ってやだなぁ、扱いづらいなぁ…!
「……………いいよ、わかったよ。飯くらい付き合ってやるよ…」
「うん、じゃあ行こうか」
「せめて降ろしてくれ…」
「疲れてるんじゃないの? 運んであげるよ」
「やだよ。恥ずかしいよ降ろせ」
荷物でもないので、運搬されるのも嫌だ。何より目立つ。
案外あっさり解放されて、私は促されるままに歩き出した。
「…自分で言うのも悲しいけど、なんで私だよ。
もっと可愛くて大人しい子なんか山ほどいるだろ」
「鏡見たことないの? それとも見慣れ過ぎて感覚麻痺してる? 君ほどの美人はそういないよ」
「別に大層な面相してるつもりはないがよく言われる」
「わぁ、感じ悪ーい」
やかましい。
ただ事実として「よく言われる」と言っただけだ。謙遜しても嫌味だろ。
「ホント、奥ゆかしいとか清楚とかって言葉とは無縁な女だよね君。
そう考えれば君より大人しい女は山ほどいるだろうけど、俺は興味ないな」
「余計な世話だよ。奥ゆかしくも清楚でもなくて悪かったな」
「…まァ、見た目軽く裏切って相当なじゃじゃ馬だけど。
口も悪いし性格も悪いし気性も荒いし」
「オイコラ言い過ぎだぞ」
「でもそれ以外はハイスペックだよね。
瞬発力もあるし、反応速度も良い。頭も悪くなさそうだし、あと頑丈そうだ」
「普通に怪我したら痛いわ。こちとら地球人だぞ」
「病気が裸足で逃げ出すくらい健康そうなのもポイントが高いよね」
「…そこは否定しないけど」
確かにこっち来てから風邪一つひいてないなー。
なんだろ、この世界のウイルスでは私は病気にならないんだろうか。
「君が産む子供は相当強くなると思うんだ。だったら旦那になる男は俺くらい強くなくちゃ」
「何言ってんだお前は」
「あの銀髪のおにーさんも悪くないだろうけど、俺の方が強いよ」
「それ銀さんのことか。あのひと別に私の彼氏とかじゃねーよ。あと私、強いとか弱いとかで男選ばねぇから」
男は腕っぷしじゃねーよ、顔と中身だよ。
…私の周りには顔は良くても中身ダメな男が多過ぎるな。泣きたい。
「違うの? もしかしてあのおにーさん妻帯者?」
「あの甲斐性なしに奥さん!? いやいや、あり得ない。
後にも先にも奥さんはいねーわ、居たら是非会いたい」
「…じゃあロリコンかな。うちの妹大丈夫?」
「オイやめろ。うちの家主を犯罪者にするな」
いくら喧嘩中っても、よく自分の妹にそういうこと言えるなコイツ…。
胡乱げに視線を送ると、神威は神威で納得いかないとでもいうように首を傾げていた。
「だって君みたいなのが傍にしてその気にならないって、男として欠陥品だと思うんだけど。
ロリコンじゃなかったらなんだろ。なんか特殊な性癖でもあるの?」
「……………」
…何を言ってるんだろう、こいつ。
「…銀さんの性癖は知らねーけど。誰もがお前みたいな価値観で生きてねぇよ」
「そりゃそうだろうけど、男はだいたい下半身でもの考える生き物だよ」
「知りたくないわそんな話」
下心を隠しもしないって、それはそれでどうかと思うんだ。
素直といえば聞こえは良いが、要するに本能に忠実に生きてるだけだろ。
「もうちっと理性的に考えて喋ってくれませんかねー…」
「理性くらいあるよ?」
「豆粒程度のな」
「もうちょっとあるって。なかったら今頃、君は俺とこんな会話してないよ」
どういう意味だよ、と。
聞くのも嫌なので、私は口を噤んだ。
朝っぱらから貞操の危機は勘弁して欲しい。
To be continued?
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