「ハーイ、お弁当ですよー」
満面の笑顔で、お妙が重箱を取り出した。
中身を知ってる私は、とりあえず笑顔で流してお茶を啜る。
「ワリーな、オイ。姉弟水入らずのとこ邪魔しちまって」
「いいのよ~。二人で花見なんてしても寂しいもの。ねェ、新ちゃん?」
そう言いながら、お妙は頭上の桜を見上げた。
何か懐かしむように目を細める彼女の脳裏には、きっと昔の思い出が広がっているに違いない。
「お父上が健在の頃は、よく三人で桜の下でハジけたものだわ~」
「…なに、脱ぐの?」
「下ネタはやめてちょうだいさん。オッサンじゃないんだから」
「オッサンて」
うら若い乙女捕まえてオッサンはない。
ハジけるって言われたら脱ぐのかな、って思うじゃない!
宴会って言ったら腹踊りだよ! ホラ、私悪くない。
「さっ、お食べになって!」
「じゃ、遠慮なく…」
「!」
蓋を開けた先にあったのは、形容しがたい物体だった。
炭の塊…なんて可愛いものだろうか。コレ。
「なんですかコレは? アート?」
「私、卵焼きしかつくれないの~」
にこやかに言われた言葉に、銀さん達は再度、それを見る。
まあ、卵には見えんわな。現物を前にした瞬間、私ですら言葉を失ったもの。
「〝卵焼き〟じゃねーだろ。コレは〝焼けた卵〟だよ」
「卵が焼けていればそれがどんな状態だろーと卵焼きよ」
「違うよ。コレは卵焼きじゃなくてかわいそうな卵だよ」
「いいから、」
にこやかにその物体を鷲掴むと、
「男は黙って食えや!!」
と、怒鳴ってお妙は銀さんの口に卵焼き(仮)を押し込んだ。
盛大に咳き込んでる涙目の銀さんを見眺めながら、私はわざとらしくため息を吐く。
「…ダメだよー、銀さん。いい男はいい女から食べ物貰ったら笑顔で完食しないと」
「…………てめ、知ってて止めなかっただろ……」
「ナンノコトカシラ」
「とぼけんな! お前、お妙と一緒に弁当作ってただろーがッ!! 止めろ!!」
それはそれ。これはこれ。
何回やっても炭の塊になるんだもの、そのまま出すしかないじゃない。
本人は上手く出来たって喜んでるんだし。
「アホ抜かせ。さんは基本的に女の子の味方だ!」
「さんは何でも出来て羨ましいわ。私、卵焼きしか出来なくて…」
「なんのなんの。お妙の卵焼きは色んな意味で芸術だよ!」
「あらっ」
「「「煽るなよ」」」
「ガハハハ、まったくしょーがない奴等だな。
どれ、俺が食べてやるからこのタッパーに入れておきなさい」
いきなり聞こえた第三者の声に、私達は一斉に視線を向けた。
そこには、神楽と新八の間に平然と座ってタッパーを差し出すゴr…いや、近藤さんの姿。
…ぐっ、とお妙が拳を握ったのが視界の端に入ったので、私はお弁当箱を脇に寄せた。
「なにレギュラーみたいな顔して座ってんだゴリラァァ!! どっからわいて出た!!」
「たぱァ!!」
吹っ飛ばされた挙句、お妙にタコ殴りにされる近藤さん。
殴られるのわかってて来たなら凄い愛だよな。…涙出てきた。
「頑張れ、負けるなゴリラ…」
「応援してるようでいて貶してるアルな」
まあ、応援してどうなるってわけでもないし。
いつかどうにかなる日は来るんでしょうか。来ないだろうな。
「オイオイ、まだストーカー被害にあってたのか。町奉行に相談した方がいいって」
「いや、あの人が警察らしーんスよ」
「世も末だな」
「悪かったな」
「あ?」
あら、聞き覚えのある声ですね。
と思って振り返ると、これまた見覚えのある顔が勢揃いしていた。
…いや、私服姿だとホントにただのチンピラ集団だよねこの人達。
「数時間ぶりですねー、真選組の皆さん。相変わらず人相悪いですよ?」
「さんじゃないですか! お疲れ様です!!」
『お疲れ様です!!』
「…なぁ、お前ら。なんでアルバイト女中のこいつにそんな低姿勢?」
一斉に私に頭を下げた真選組の皆々様に、戸惑い気味に土方さんがそう訊いていたが、まあ簡単な話だ。
家庭のお母さん然り、レストランの料理長然り、食堂のオバちゃん然り、台所を制するものは全てを制するのである。
「オウオウ、ムサい連中がぞろぞろと。
何の用ですか? キノコ狩りですか?」
「そこをどけ。そこは毎年真選組が花見をする際に使う特別席だ」
「どーゆー言いがかりだ? こんなもんどこでも同じだろーが。チンピラ警察24時か、てめーら!」
「同じじゃねぇ。そこから見える桜は格別なんだよ。なァ、みんな?」
銀さんと睨み合ったまま土方さんが同意を求めるけど、それに同意する人は居なかった。
「別に俺達ゃ酒飲めればどこでもいいッスわ~」」
「アスファルトの上だろーとどこだろーと構いませんぜ。
酒のためならアスファルトに咲く花のよーになれますぜ!」
「それにさんを退かすとかないっすよ、うちの女中さんなのに」
「貢献度では土方さんよかさんの作る飯の方が上ですしね」
土方さんが嫌われてるんじゃなくて、単に風流を愛する人達ではないってだけなんだが。
…そうか、私の貢献度は土方さんより上か。そういうことを本人に言う総悟も大概だよな…。
「私って人徳あるね」
「ちゃんってかちゃんの飯にね」
「殴りますよ銀さん」
余計な銀さんの相槌に、私はげしっと銀さんを蹴飛ばした。
まあ、そこまで力いっぱい蹴ったわけではない。
座ってる姿勢で放つ蹴りなんてたかがしれてる。
「…………あの、攻撃しながら言わないでくれない?」
「殴ってないです蹴っただけです」
「余計悪いわ!!」
「良いじゃないですか、足袋越しなら。そういうプレイだと思えば」
「どんなプレイ!? ドS姫サマは常に謝る気ゼロですねコノヤロウ!!」
「野郎じゃないもーん。えいえいっ」
「可愛く言っても蹴ってるだけだろお前!
あだだっ、やめろバカ! 抉るように踵めり込ませてくるなマジ痛い!」
大袈裟だな銀さんは。
女に足蹴にされて痛がるほど、ヤワな造りしてないだろうに。
「あぁ? 銀さんSM好きだろ、イイって言えよ」
「良くねぇよ! 百歩譲ってSM好きを認めるにしてもなんで俺がM役!?
俺どっちかっていうとSだから!! お前がM役やるなら付き合ってやるよ!!」
「またまた、何言っちゃってんの銀さんたら。
だって私はドS姫なんでしょー。だったら銀さんMでも良いじゃん。むしろMしかなくね?」
「どういう理屈!? お前ホントに見た目の割に中身最悪だな!!
って、やめろ立ち上がるな痛いって! 変な扉開いたらどうしてくれんの!」
「それなら歌舞伎町のSM倶楽部行って来いよ」
「あそこ俺の趣味と真逆だよ!?」
「…ー。その体勢で踏み続けてると銀ちゃんにのパンツ見えるアル」
「!!」
後ろから聞こえた神楽の言葉に、私はぴたりと動きを止める。
………しまった。今日はスカートだったの忘れてた。
「~~~ッ」
慌てて裾を押さえて、その場に座り直す。
よろよろと身を起こした銀さんに、私は反射的に怒鳴った。
「銀さんのバカヤロー!!」
「はァ!? 勝手に見せておいてなんだその言いぐさは!!
だいたいなんですか十代の娘が黒レースの紐ってのは! 白にしろもしくはピンク!!」
「バラすなァァァァァァッ!!」
百歩譲って私がうっかりだったとしても、何もバラすことはないだろう!!
だいたいなんで銀さんに下着のダメ出しされなきゃいけないわけ! 納得いかない!!
「…何やってんですか銀さんもさんも…」
「ふたりとも、新ちゃんや神楽ちゃんの前で変なプレイ始めないでください。教育に悪いわ」
「姉上何言ってんですか!?」
私達が背景でそんな馬鹿を繰り広げてる間にも、土方さんと真選組の面々はまだ言い合っていた。
銀さんを蹴るのにも飽きたので、私はそっちに視線を戻す。
「うるせェェ!! ホントは俺もどーでもいーんだがッ、
コイツの為に場所変更しなきゃならねーのが気にくわねー!!」
ああ、そういう理由なんですか。
普段冷静な土方さんらしくもない。…いや、まぁ、結構短気なんだけどね実は。
「…どんだけ土方さんってば銀さんを意識してるわけ。
ナニアレ、ツンデレ? 銀さん、あれは遠回しな告白かな。ドキドキしてきた!」
「なんでそうなったの。ちゃんの思考回路気持ち悪いんですけど」
「…オイ。さっきからなんなんだお前ら。後ろでうるせェんだが」
ようやく気付いたのか、土方さんが嫌そうに私達を睨んだ。
普通ならこの目つきの悪さで睨まれたら足が竦むだろうけど、私は慣れっこなので気にしない。
だから、私は満面の笑顔で言い返した。
「…安心して土方さん! 私と銀さんは単なる依頼主と雇われ人という主従関係だから!
だから私に嫉妬なんてしなくて良いのよ、素直になって?」
「なんでそーなった! 500歩譲っても嫉妬する対象が逆だろーが!!」
「…っていうか主従って何。居候と家主の間違いじゃね」
やかましいです、ダメ家主。
今や万事屋の食卓全てを握るこのさんを、居候などと言えた立場か。
「…まあいい…お前らの関係なぞ俺には関係ねぇ。
ところで、山崎場所とりにいかせたはずだろ…どこいった、アイツ?」
「ミントンやってますぜ、ミントン」
総悟が指さす方向に視線を向けると、何故か真面目な顔した山崎が素振りしていた。
…あいつはいったい、どこに行きたいんだろうか。しかし地味だな、風景に埋没しそうだぞ。
「山崎ィィィ!!」
「ギャアアアア!!」
「ああっ! ジミー!」
「心配してるようでしてないですよね、さん」
折檻と言う名のいつもの虐待を眺める私に、新八に鋭い突っ込みが入る。
…同じ地味でもこいつのツッコミは電光石火だな。いやホントに。
そんな新八のツッコミに感心していると、いつの間に復活したのか近藤さんが立ち上がった。
キメ顔なんだが…顔の半分がお妙に殴られて腫れているせいで、いまいち決まってない。
「まァ、とにかくそーゆーことなんだ。こちらも毎年恒例の行事なんで、おいそれと変更できん。
お妙さんだけ残して去ってもらおうか。もちろんさんも残って頂いてOKです」
「いや、従業員のはともかく…お妙さんごと去ってもらおーか」
「いや、お妙さんはダメだってば」
「何勝手ぬかしてんだ。幕臣だかなんだかしらねーがなァ」
勝手な言い分に、銀さん達も立ち上がった。
鋭い眼光で居並ぶ真選組を睨み付けながら、ずいっと一歩前に出る。
「俺たちをどかしてーならブルトーザーでも持ってこいよ」
「ハーゲンダッツ1ダース持ってこいよ」
「フライドチキンの皮持ってこいよ」
『フシューッ』
「案外お前ら簡単に動くな」
「まあ私でもブルトーザー出されたら退くけどね」
ハーゲンダッツとフライドチキンの皮は安いな、うん。
お妙はともかく、神楽の食の趣味の渋さはいかがなものか…まだ若いのに。
「面白ェ、幕臣に逆らうか?
今年は桜じゃなく血の舞う花見になりそーだな…」
「…おいおい、何言っちゃってんですかマヨ副長。
完全にチンピラのメンチの切り合いにしか見えねーですよ、この絵面」
一応言ってみたが、土方さんは綺麗に無視してくれた。
…この人、たまーにスルースキル発動するよね。今のスルーされたらどうすりゃ良いのか。
まあどうせ止めたところで止まらないし、斬り合いに発展しないのはわかってるんだが。
「てめーとは毎回こうなる運命のよーだ。こないだの借りは返させてもらうぜ!」
「待ちなせェ!!」
「!」
まさに一触即発、という雰囲気の中、大人しくしていた総悟が声を上げた。
全員の視線が、総悟に向けられる。
「堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたァ、いただけねーや。
ここはひとつ、花見らしく決着つけましょーや」
そう言って、総悟は取り出したものを真顔で掲げて見せた。
…いったいどこに隠し持っていたのか、ヘルメットとピコハンを。
「第一回陣地争奪…叩いてかぶってジャンケンポン大会ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「「「「花見関係ねーじゃん!!」」」」
さっきまで睨み合ってた奴らが、まあ随分と息の合うことで。
総ツッコミを受けても平然としている総悟は、やっぱり大物かもしれない。
「…あー…面倒くさい奴ら…」
思わずこっそりため息を吐いたが、幸い誰にも気づかれなかった。
良い歳した大人がやることじゃないだろ、色々と。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。