土方さんに薙刀の腕を見込まれてしばらく経った頃だった。
暇が出来ると稽古に引っぱり出されていた私は、この日初めて木刀を握らされた。
当然、慣れない得物だ。いつも以上に隙は出来るし上手く立ち回れない。

「いてて…」
「脇が甘いぞ、

避け損なって尻餅を着いた私に、土方さんは常と変わらない口調で言った。
優しさの欠片もないように聞こえるけど、座り込んだ私に手を差し伸べてくれるんだから、まぁ優しいのでしょう。
国宝級に不器用な人だと思います。

さんに刀は向いてねーんじゃないですかィ?
 元々薙刀使ってたんだ、間合いの取り方から打ち込みのタイミング、全部刀とは違いますぜ」
「世間一般的な武器は刀だ。使えて損はねぇだろ」
「まぁ、さんの容姿なら護身用に色々やっとくに越したことはねーでしょうが…」

あっさり人を叩きのめすサド王子が、今更何を言いやがるんでしょうか。
護身が必要だというのなら、間違いなくこのサド王子への対応の為だと思ってます、私。

「…ところで総悟くんよ」
「なんですかィ、さん」
「あんた仕事は?」
「サボりでさァ」
「あー、そっかぁ」

予想通りの答えで嬉しい限りですよ。
真面目なのか不真面目なのかわからない奴だよ、ホントに。

「「あー、そっかぁ」、じゃねーだろ!! 堂々とサボってんじゃねぇぞ総悟!!」

ああ、ほらやっぱり怒られた。
私と顔を見合わせると、総悟はやれやれと言わんばかりに肩を竦めて見せた。
これは土方さんじゃなくても腹立てると思います。

「…でもまぁ、さんにゃ刀は似合わねぇや」
「え?」

急に何を言い出すのか、と目を瞬かせる。
そんな私に、総悟は相変わらず何を考えているのかわからない表情で口を開いた。

「あんたはどっちかってぇと、包丁握ってる方が似合いますぜ」
「ほうちょう…」
「包丁で戦うのか? そりゃ怖ェな、日本昔話の鬼婆か」
「オイィィィィッ!!?」

土方さんってばサラリとなんてこと言うんですかッ!!
鬼婆って! 日本昔話って!! なんてこと言うのこの人!?

「あーあ。そんなんじゃあモテませんぜ、土方さん」
「土方さんは元々モテないです」
「おめーは俺の何を知ってんだ何を!!」

首を傾げ合って「ねー?」と言い合う私と総悟を怒鳴りつけ、土方さんは重く溜め息を吐いた。



File14 背負う荷物の重みよりも




…そんなことがあったときから、私は木刀での稽古はしなかった。
向いてないと自分でも思ったし、薙刀に慣れきった私には扱い辛かったし、何より私にはやる気がない。
それなのにまさか、この場面で真剣を持たされることになるとは。
………世の中ってまったく私に優しくないです。


甲板までの道を走りながら、桂さんは隠し持っていた爆弾を次々の倉庫らしき部屋に投げ込む。
何せ倉庫の中身はほぼ粉薬。これがまた燃える燃える…。
放火魔と何が違うのか問い質したい。

「なんだ!?」
「陀絡さんッ、倉庫で爆発が!! 転生郷が…!!」

甲板に出た瞬間、そんな焦ったような声が聞こえて私達は立ち止まった。
間に合った、と言うか何と言うか。むしろ私が居なくてもこの展開に支障はないはずで。
…えー…私何やってんだろー…。

「俺の用は終わったぞ、銀時」
「!」

ガッ、と船の部品に足を掛け、バサリとマントを風になびかせながら桂さんが言い放つ。
…この人絶対高いところ好きだよね。絶対そうだよね。だってバカだもん。

殿も無事だ、安心しろ。むしろ元気が良過ぎるくらいだ。
 あとはお前の番だ、銀時。好きに暴れるがいい。邪魔する奴は俺がのぞこう」

元気良過ぎて何が悪いんですかちょっと。
後ろで顔を引きつらせる私に構わず、桂さんは両手に持った爆弾を持ち直す。

「てめェは…桂!!」
「違~~う!!」

メガネのインテリヤクザ天人…なんだっけ、ラクダだっけ? あ、陀絡か。
そいつが目を瞠って桂三を見上げ、怒鳴ると同時に桂さんは跳んだ。

「俺はキャプテン・カツーラだァァァ!!」
「だーからどっちでも良いでしょうがそんなことーーーっ!」

反射的に身を乗り出した私の前で、爆弾を放り込まれた天人達が逃げまどう。
かと思ったら、各々武器を片手に声高に叫んだ。

「やれェェェッ、桂のクビをとれェェ!!」

ハングリー精神が旺盛なことで。
…………って。あれ? 気のせいか私の方に向かって来ているような?

――気のせいじゃない!?

「ぎゃー! ゴリラがこっち来る! こっち来る!!」
「シルエットが似ているので間違われているようだな」
「私と桂さんがか!? 冗談じゃないですよこの疫病神ィィィィ!!」
「疫病神ではない、桂だ。いや違う、今はキャプテン・カツーラだ」
「だからどっちでも良いってのよそんなのはーーーっ!」

咄嗟に、私は預かっていた刀を鞘に収めたまま、横薙ぎに振り払った。
なんか使い方間違ってる気がしないでもないけど、何人か吹っ飛んでいったしまぁいいか!?

「ほう…なかなかの腕だな、誰かに師事しているのか?」
「ま、まあ一応!? 半ば叩きのめされてるだけな気もするけど!」
「ならばもともとの才能か。…だがここは危険だ、奴らを牽制しながら銀時達の方へ行け!」
「行けたら苦労しないわよぅ!」

私を心配でもしてくれたのか、桂さんが戻ってきた。
その際にもポイポイ爆弾投げまくってるけど、いったいどこに隠し持ってるんでしょうか。

「銀さーんっ!」
「おう。もうちっとふんばれ、。こっち片づいたら助けてやっから」

思いっきり叫ぶように呼ぶと、そんな言葉が返ってきた。
ちらりと視線を向ければ、銀さんは陀絡と対峙中だ。

「ヅラァ! を頼むぞ、かすり傷ひとつでもつけさせたら殴られるからな! に」
「オイ」
「ヅラじゃない、キャプテン・カツーラだ。…任せろ、銀時。俺も殴られるのは嫌だ」
「コラ」

どんだけ人を暴力の権化のように扱いますか、こいつらは。
ちょっとムカついて、握った刀を思いっきり振り回す。…あ、良い音がした。

――てめーら終わったな。完全に〝春雨〟を敵に回したぞ。
 今に宇宙中に散らばる〝春雨〟が、てめーらを殺しにくるだろう」
「知るかよ。終わんのはてめーだ」

常では聞くことのない、銀さんの声。
静かな怒りを孕む、低い、真剣な声音だった。

「いいか…てめーらが宇宙のどこで何しよーとかまわねー。
 だが俺のこの剣、こいつが届く範囲は――――俺の国だ」

真剣を握る銀さんの姿が、何か、違う人のようにすら見える。
妙な違和感を拭うように、私は鞘に収めたままの刀を振った。

「無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ、将軍だろーが宇宙海賊だろーが、隕石だろーが…」

――「俺のもの」だと、銀さんが思い、護るその中に。
「私」が入っていないことを――願った。

私は狡いし、やる気もないし、楽しいことが好きな快楽主義者で、自分が一番可愛い人間だ。
今だって、なんでこんな場所で宇宙人相手に刀を振り回してるのか、その理由がわからない。

武士道なんてわからない。理解出来ないし、したいとも思わない。
万事屋に居候してるのも、真選組で女中なんてやってるのも、「楽しいから」。ただそれだけ。

だから、銀さん達が感動的な言葉を口にしても、くさいセリフだな、としか思えない。
仲間扱いされるのは、なんだかくすぐったくて居心地が悪い。
じゃあ、なんで一緒に行動しているんだろうかと、ここまできてようやく疑問に思った。

――ブッた斬る!!」

その声とほぼ同時に、刀を抜いた銀さんと陀絡は立ち位置を入れ替えていた。
――速い。
結末を知る私でさえ、何が起こったのか一瞬わからなかったくらいに。

「…クク」

一瞬呆けたような表情をしていた陀絡が、嗤った。
銀さんは刀を振り払った姿勢のまま、動かない。

「オイ。てめっ…便所で手ェ洗わねーわりに、」

ゆっくりと陀絡が振り返る。
その、次の瞬間――

「けっこうキレイじゃねーか…」

そう呟き、その場に崩れ落ちた。
血は出ていない。峰打ち…あの一瞬で。

頭を倒されたことで、天人達の動きが一瞬止まった。
その中でいち早く動いたのは銀さんで、新八と神楽を小脇に抱えると私達の方を見る。

「…終わったようだな」
「へっ?」
「退くぞ」
「ちょっ、」

銀さんから向けられた視線に何を読み取ったのか、一方的にそう言って桂さんは私の手を取った。
そしそのまま、荷物でも抱えるかのように私を担ぎ上げやがったんですよ。ちょっとどういうこと。

「ちょっと桂さーんッ!! うら若い乙女を荷物のように担ぐのはどうかとー!?」
「乙女というガラでもあるまい」
「なんだとォ!?」

桂さんもか! 桂さんまで言うのかそういうことを!!
…いや、まぁ、普通の女の子なら、あんな宇宙人どもに取り囲まれれば悲鳴のひとつも上げるだろうけど。
……………でも他人に言われると傷付くな。地味に。

「そうだな…名称を付けるとしたら――

後ろ向きに抱えられているから、むくれる私の表情なんて桂さんには見えないだろう。
だからなのか、それとも素か、桂さんは普段と変わらないクールな物言いで変なことを言った。

「〝姫夜叉〟――といったところか」
「え…?」

乙女がガラじゃないって言って、私に合う名称はそれですか?
姫って言葉がついてるからって騙されないぞ。夜叉って鬼じゃないか。

「まるで鬼女の如き活躍だったぞ、殿。見る目が変わった」
「それ誉めて無いですよねェ!?」
「侍には最高の賛美だと思うが」
「嬉しくねーーー!」

私は侍じゃないし!
なんだって私を誉める部分が、どいつもこいつも腕っ節なんだよちくしょーっ!!


+++


「アー、ダメっスね。ホント、フラフラして歩けない」
「日ぃ浴びすぎてクラクラするヨ。おんぶ」

宇宙海賊・春雨の船が炎上して沈没した。
私達はその難を逃れ港に降りたのだけど、縄を解かれた新八と神楽は口々に銀さんに向かってそんなことを言っていた。
それと相対する銀さんが、表情を引きつらせたのは言うまでもない。

「何甘えてんだ腐れガキども。誰が一番疲れてっかわかってんのか!
 二日酔いのうえに身体中ボロボロでも頑張ったんだよ、銀さん!」
「僕らなんて少しとはいえヤバイ薬かがされたんですからね!」

口々に文句を言いながら、ふたりはテコでもそこを動かないつもりらしい。
早々に踵を返して、銀さんは面倒くさそうに言い放った。

「つきあってらんねー。俺、先帰るからな」

そして、本当にそのままずんずん歩いて行ってしまう。
…ちなみに、この時私と桂さんが座る木箱の横を通ったのに、気付きもしませんでしたこの天パ野郎。

「……いい加減にしろよコラァァァ!!
 上等だ、おんぶでもなんでもしたらァ!」

急にムッとした表情で立ち止まり、銀さんは新八と神楽に向かって怒鳴った。
瞬間、顔を輝かせてふたりは立ち上がり、物凄い勢いで駆け寄って来た。

「元気爆発じゃねーか、おめーら!!」

ホントにな。
ふたりは銀さんに飛びかかり、新八は背に、神楽は右腕に収まった。
怪我でボロボロの割には凄いな銀さん。頑丈だ。

「銀ちゃん、私ラーメン食べたくなってきたヨ」
「僕、寿司でいいですよ」
「バカヤロー! 誕生日以外にそんなもん食えると思うなよ!!」

休日のおとーさんと子供だねぇ、あれは。
苦笑しつつ、私は預かっていた刀を桂さんに返した。
そして木箱から飛び降り、3人に向かって声を張り上げる。

「…はいはい、私が作ってあげますよ。特別にね?」

瞬間、弾かれたように3人は振り返った。
っていうか今の今まで忘れてただろお前ら。あからさま過ぎて切ないぞ。

!」
さん!」

顔を輝かせて私を呼ぶふたりに軽く手を振ってから、私は3人に駆け寄った。
それを確認してか、銀さんは何も言わずに歩き出す。
さっきよりもずっと、のんびりとした歩調で。

「銀ちゃん、もっとに寄るアル! 手が届かないネ!」
「はァ?! だったら降りろ、におんぶしてもらえ!」
「女性相手になんてこと言うんですか。さん、怪我してないですか?」
「うん、平気平気」

銀さんの隣を歩きながら、私は笑いながらそう返す。
銀さんだけは相変わらず、というよりいつも以上に気怠げだ。

「どうせ背負うならよォ、の方が胸があるだけマシだぞ。新八、と代われ」
「…銀さん、傷口に塩塗り込められたいですか? ああ、酒の方が良いですか?」
「ゴメンナサイ、さんはどうぞ俺の隣を歩いて下さい」

わざと優しい声音で言い返すと、速攻でそんな答えが返ってくる。
なんかもう、コレ日常的になってんな…。

「…ったくよ~…重てーな、チクショッ」

重たい、と文句を言いながら。
ふたりを抱える銀さんの表情は、そんなに不機嫌そうでもなく。

他の漫画やアニメなんかとは、ちょっと違う形だけど…
万事屋の3人は、間違いなく『仲間』なんだな、となんとなく思った。
…さっき変なことを考えてたせいかな。何ガラにもなくこんなこと思ったんだか。

「…何よ、ちゃん」
「え?」
「変な面ァして。怪我でもした?」
「変な面ってあんたね…」

他に言い様はないのか。
変な面だよ? 仮にも…あいや、正真正銘の女に向かってですよ?
…有り得ねぇ。この世界の男どもはみんな失礼だ。
なんかもう、シリアスに似合わないこと考えた自分がアホらしくなってきた…。

「いやー、まさかちゃんがあんなに強かったとはねぇ。
 さすがお姫様、ああいうのも英才教育の一環か?」
「いや…えーと…まぁ、そんなん…」
「他に何が出来んの? 華とかお茶とか?」
「…あんま得意じゃないけど」

部活で囓った程度だけど。
しかも頼まれて一ヶ月くらい入ってただけの華道部と茶道部の。

「で、料理に金勘定にその他諸々…お前って割と器用貧乏だろ」
「あんたに言われたくありませんよ」
「はいはい」

そうおざなりに返してきた態度に一瞬ムカッときたけど、ふと気付く。
おざなりな割に、口調にはからかうような色がない。

「でもまァ、お前にゃ刀より包丁の方が似合ってんじゃねーの?」
「は?」
「野菜切ってる方が似合ってますよー、ってこと」

なんだ、それは。
総悟にも前同じ事言われたけど。
野菜切ってる方が似合うって…いや、それは誉め言葉じゃないような…。

「っつーかもー、俺腹減って死にそうだわ。でも二日酔いだからお粥が良い」
「…お粥って病気の時じゃあ…」
「いーの。梅粥作って。ちゃんのお粥が食いてーの」
「私はラーメン食べたいアル!」
「僕はお寿司が良いです!」

口々に言われて、苦笑を返してからふと気付く。
包丁握ってる方が似合う、って…もしかして。

「はいはい、でもお寿司はちらし寿司で勘弁してねー」

やっぱこの世界の奴らって、みんな失礼でこっ恥ずかしくて、優しい。
そこまで言われちゃあ、腕を振るわないわけにはいかないじゃないか。

「ん? 何、どうかした?」
「うん…」
「いえ…」
「んー…」

三者三様、妙な反応をして、3人顔を見合わせた。
そして、まったく同時に私に視線を戻す。…なんですかいったい。

「私、の笑ってる顔好きアル」
「僕もですよ。安心するっていうか…」
「あー。あれだな、家に帰って来たーって感じ?」
「「そうそう」」

しきりに頷き合う、3人。
一瞬からかわれているのかと思ったけど、そういうわけでもないらしい。
…………なんって、恥ずかしい奴らでしょうか。

「…あんたら、揃いも揃って恥ずかしーよ」
「まーた照れてるよちゃんは。今流行りのツンデレって奴ですか」
「うっさいです誰がツンデレですか萌えキャラですかッ」
「いや、そこまで言ってねーから。自分で萌えキャラとか言うなよ」

悪かったな。どうせ萌えキャラじゃないですよ。
速攻で入った銀さんのツッコミに顔を引きつらせれば、神楽がわざとらしく溜め息を吐いた。

「何言うアルか。に猫耳付いてたら萌えアルヨ」
「俺ァどっちかっていうとバニーが良い」
「なんか萌えの方向おかしくないですか? 本当の萌えっていうのはメイドさんですよ」
「いやいや、それ言うならナースだろ。白衣の天使に勝る萌えはねぇよ」
「バカ言うな、時代はチャイナ服ネ。男の欲望を強化するにはチャイナドレスが最適アル」
「どれも私の装備欄に無いっての。いい加減にしないとメシ抜きですよ3バカトリオ」
「「「ゴメンナサイ」」」

口々に変な会話を始めた3人に目を眇めて言い放つと、声を揃えてそう答えてきた。
あまりにも息の合ったその行動に、私は思わず吹き出す。




私がここにいるのは、ただ『楽しい』から。
それ以外に理由はない。今が楽しければ私はそれで良い。
でも、だけど…






ここ以上に楽しくて居心地の良い場所なんて、きっと見つけられないだろうと、思った。






少しだけ考える。ねぇ、私はここに居ても良いのかな。



To be continued?

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