――この展開は充分わかっていたつもりだった。
そして、結末もだ。

「……」

目の前に倒れる新八と神楽を前に、私は自分の取るべき行動を考えあぐねいていた。
このふたりがやられたのだ、私がどうこう出来る状態じゃない。

「あんたは何もしねぇのかい、お嬢さんよ」
「一対一なら考えるけど、この人数相手じゃねぇ…このドアの向こうにもまだ居んだろ?」

スッと後ろの出入り口を指さすと、天人達は嗤った。
人間じゃなくても、表情の種類というものは同じらしい。

「潔い人間は嫌いじゃないぜ。
 …おい、このお嬢さんを丁重にお連れしろ。飾り付ければ高値で売れる」
「人で勝手に商売しないで頂きたい」

こいつらの言いなりになるのは、非常に腹立たしい。
…だけど、大人しくしていた方が得策か。

「抵抗しない方が身の為だ。ガキどももどうなるかわからんぞ」
「……三流悪役が」

舌打ちして、私は椅子に座り直した。
そして肩を竦めて、小さく息を吐く。

「…わぁーったよ。どこへでも連れて行けコノヤロー」



File13 ヤバイ橋でも渡らなきゃいけない時もある




変な薬を嗅がされた新八と神楽が、天人達に囲まれてフラフラと歩き出す。
私は自分の意志で歩いているから、その変な薬は使われていないけれど…。
…ほんのちょっとの量でもこれって、かなりヤバイ薬なんじゃないか…?

「オイオイ、みんなで仲良く連れションですか…便器足んねーよ…」

横の通路から聞こえて来た声に、私は思わず立ち止まった。
今のは、銀さんだ。
…やばい。足の力抜けそう。

「オラッ、ちゃちゃっと歩かんかイ!!」
「!?」

乱暴に背中を押された瞬間、目の前の新八がふらりと倒れ込んだ。
それを無理矢理引っ張って引きずりながら、天人が舌打ちする。

「こいつフラフラじゃねーか、情けねェ!!」
「新八!! 神楽!! …!! 何…オイ! どーしたんだ!?」

銀さんの怒鳴り声に、足が竦む。
私が怒られたわけじゃないのに、なんでだろう。

「てめーらァァ!! 何しやがった!!」

怒鳴る銀さんを、天人達が押さえに掛かる。
――私はその光景を、言葉を発することも出来ずに見つめていた。


繰り出された刀の剣先が、銀さんの左肩に突き刺さる。
そのまま硝子を割って、抱えたハム子ごと落下していく姿が、闇の中に消えていく。

「…銀さん…っ」

駆け出しかけた足を、私は寸でで止めた。
…落ち着け。落ち着くんだ、私。
この結末は知ってるだろ? 余計なことなんかしないで、大人しくしてればいい。

「仲間の死にもさほど動じないか。地球人の女ってのは薄情な生き物らしい」
「………」
「連れて行け。捨てていくよりは、何かの役に立つだろう」

服をやたらとハンカチで拭いながら、そのメガネの天人は冷めた口調でそう告げた。


+++


連れてこられたのは、舟の一室だった。
新八や神楽とは早々に引き離された。多分、私には薬を使っていないからだろう。

「見張っとけって言ってもよォ。女ひとりで何が出来るってんだよ。なぁ?」
「楽な仕事じゃねーか、文句言うなよ」
「ぶっちゃけ地球人の女の美醜なんかわかんねーしよ、こいつ金になんのかねぇ」
「さぁ? 陀絡さんは何かの役に立つかもしれねぇって言ってたけど」

外でそんな話し声が聞こえた。
ドアは…無い。不用心といえばそれまでだけど、鍵が掛かってないのは幸い。

…あとは…この手首の縄、だな。動かしたら緩むかなぁ…?
よく漫画とかで間接外すと縄抜け出来るとか言うけど、そんな怖いこと出来ない。

「んー…ッ」

ちょっとやそっとじゃ、外れるわけがない。
腕を突っぱねて力を込める。…瞬間、ブチッと微かな音が耳に届いた。


「…うそ」

ち、千切れた…。
これもまな板を真っ二つに割る程の怪力が成せる技ですかねー…。

…とにかく、だ。
これで自由に動き回れる。
問題はこの見張りだけど…。

「…ねぇ」

まだ縛られている振りをしながら、私は見張りの天人に声を掛けた。
確認出来るのはふたり。傍に他の見張りがいたら厳しいけど、ふたりくらいなら…不意打ちすれば。

「あ? なんだ」
「…あの子達、は」
「ああ、あのガキどもか」

演技に自信はまるでないけれど、まともに人間の見分けがつかない天人相手なら。
内心冷や汗をかきながら、私は辛抱強く答えを待つ。

「今頃外で尋問でもされてるだろうよ」
「ほとんどがそっちに行ってるからなぁ。ま、逃げられやしねぇよ」
「…そう。じゃあ、…ここに居るのは、あんた達だけか」

…ふたり、か。しかも相手は私を警戒していない。
ちらりと、私は部屋を見回す。
武器になりそうなものは――あれだ、鉄パイプ。
あれ一本外してどうにかなるほど、この舟はか弱くないだろう。

じり、と私は最小の動きで鉄パイプの方へ近寄る。
なんとか手が届く場所まで移動した瞬間、遠くで轟音が響き渡った。
…え、なに?

――っ!?」
「何事だ!?」
「倉庫の方か!!」

――あ。桂さんか!
さすがテロリスト。陽動はお手の物だなぁ…。
でもまぁ、これに便乗しない手はない。

「…ていッ」

バキッ、と音を立てて鉄パイプが船から外れた。
長さは…薙刀には足りない。でも、刀くらいにはある。
…さて、いっちょやりますか。

――ちょっと寝とけ」

軸足に力を込めて、私は思いっきり鉄パイプを振り下ろした。
意外と良い音が響いて、見張りのひとりが昏倒する。
…ふん。他愛のない。
………って。私は本当にこんなんで良いのでしょうか。お母さんが見たら絶対泣く。

「な…ッ…このアマ!」
「退いてもらいましょうか」

鉄パイプを突きつけ、私は天人を睨めつける。
ガラが悪かろうがなんだろうが、一応死活問題だし。

「…いつまでもここに居ちゃ、忘れて行かれそうだからね!」

そこが実は、結構心配だったりします。
…爆弾放り込まれてるしね、船内。


+++


「げほげほっ…か、桂さん酷ッ…私が中にいるのに、大火事じゃんこれ!」

見張りふたりを伸した後、私は船内を歩いていた。
不意打ちでなんとかなったけど、他の船員に鉢合わせたらキツイなぁ…。
それもこれもみんな…

「ヅラァァァァッ! てめっ、もうちっと物事考えて行動しろォォォォッ!」
「ヅラじゃない、キャプテン・カツーラだ。…む。その声は」

立ち止まって叫んだ瞬間、聞き覚えのある声が耳に届く。
振り返ると、ベタな海賊ルック船長バージョンを着込んだ見覚えのある長髪が。むしろ桂さんが。

殿ではないか。何をしている」
「何をしている、じゃないわ! 人質への配慮ってもんは無いんかこのテロリスト!?」
「失敬な、卑劣なテロリストと一緒にしないで貰いたい。…人質だと? 殿がか?」

詰め寄る私を訝しげに見やって、桂さんは首を傾げた。
そして、大真面目な顔で叫ぶ。

「銀時の家に居たあの白いものは殿ではなかったのか!」
「どうやったら定春と私を間違えんだよあんたはさぁ!?」

真面目な顔して何言い出すのかこの人は!!
よりによって宇宙生物定春くんと私を間違えますか!?
なんだこの天然野郎…。

「しかし自力で脱出して来たのか? …そのは?」
「鉄パイプ。舟から引っこ抜きました」
「過激なことを。刀なり槍なり奪えただろう」
「武器の選り好みなんてしてられないでしょうが。闘えりゃ、木の棒だろうが鉄パイプだろうが構わないわよ」

っていうか、武器を奪い取るとか考えもしなかっただけなんだけど。
適当な私の言葉をどう受け取ったのか、桂さんは納得したようにしきりに頷いた。

「なるほど…大したものだ。おなごながら、その魂は我等と同じ侍ということか」
「…いや、さんは侍じゃないですよ桂さん」
「桂じゃない、キャプテン・カツーラだ」
「どっちでも良いわそんなん」

キャプテン・カツーラって何よ。何のキャプテンよ。
天然の相手は疲れるなぁ、と溜め息を吐くと、目の前に何かが突き出されてきた。

殿、これを」
「え? …って、刀!?」

咄嗟に受け取ると、ずしりとした重みが腕に掛かる。
真剣…だよね。真選組で触ったことがある。

「鉄パイプ一本でここまで来たのだ、使えなくはあるまい」
「う…でも真剣なんて」

鞘から抜いたら、その…斬れるよね。
天人だって、斬れば血も出るし、死ぬ。
鉄パイプ振り回すのとは、わけが違う。これは…何かを傷つけるための道具だ…。

「武器の選り好みをしている場合ではないのだろう?」
「む…」

ついさっき言った言葉を返されて、私は思わず言葉に詰まった。
いや、うん、確かに言いました、が…。
……これだから天然野郎は!!

「連れの救出に向かった銀時が心配だ。ついて来られるか、殿」

真剣を扱いかねていると、桂さんが至極真面目な表情で口を開いた。
その言葉に、私は同じように真剣な表情で頷く。

「行きますとも。こんなとこに置き去りにされて堪るか」
「ああ。…行くぞ!」

私達は頷き合い、同時に駆け出した。
炎上した船内は熱気が立ちこめ、呼吸すると肺が痛む。

目指すは甲板。
そこでは私の知る物語が、展開されているはず。

桂さんとふたりで熱気に包まれた船内を駆けながら、私は片手に持った刀を見る。
生命を奪う道具。その重みを表すような、ずしりとした重み。
自身を護るためには、これほどの武器はない、はずだ。でも、






――私は多分、これを抜けない。






結末を知る者が必ずしも有利だとは、思えない。



To be continued?

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