――この展開は充分わかっていたつもりだった。
そして、結末もだ。
「……」
目の前に倒れる新八と神楽を前に、私は自分の取るべき行動を考えあぐねいていた。
このふたりがやられたのだ、私がどうこう出来る状態じゃない。
「あんたは何もしねぇのかい、お嬢さんよ」
「一対一なら考えるけど、この人数相手じゃねぇ…このドアの向こうにもまだ居んだろ?」
スッと後ろの出入り口を指さすと、天人達は嗤った。
人間じゃなくても、表情の種類というものは同じらしい。
「潔い人間は嫌いじゃないぜ。
…おい、このお嬢さんを丁重にお連れしろ。飾り付ければ高値で売れる」
「人で勝手に商売しないで頂きたい」
こいつらの言いなりになるのは、非常に腹立たしい。
…だけど、大人しくしていた方が得策か。
「抵抗しない方が身の為だ。ガキどももどうなるかわからんぞ」
「……三流悪役が」
舌打ちして、私は椅子に座り直した。
そして肩を竦めて、小さく息を吐く。
「…わぁーったよ。どこへでも連れて行けコノヤロー」
変な薬を嗅がされた新八と神楽が、天人達に囲まれてフラフラと歩き出す。
私は自分の意志で歩いているから、その変な薬は使われていないけれど…。
…ほんのちょっとの量でもこれって、かなりヤバイ薬なんじゃないか…?
「オイオイ、みんなで仲良く連れションですか…便器足んねーよ…」
横の通路から聞こえて来た声に、私は思わず立ち止まった。
今のは、銀さんだ。
…やばい。足の力抜けそう。
「オラッ、ちゃちゃっと歩かんかイ!!」
「!?」
乱暴に背中を押された瞬間、目の前の新八がふらりと倒れ込んだ。
それを無理矢理引っ張って引きずりながら、天人が舌打ちする。
「こいつフラフラじゃねーか、情けねェ!!」
「新八!! 神楽!! …!! 何…オイ! どーしたんだ!?」
銀さんの怒鳴り声に、足が竦む。
私が怒られたわけじゃないのに、なんでだろう。
「てめーらァァ!! 何しやがった!!」
怒鳴る銀さんを、天人達が押さえに掛かる。
――私はその光景を、言葉を発することも出来ずに見つめていた。
繰り出された刀の剣先が、銀さんの左肩に突き刺さる。
そのまま硝子を割って、抱えたハム子ごと落下していく姿が、闇の中に消えていく。
「…銀さん…っ」
駆け出しかけた足を、私は寸でで止めた。
…落ち着け。落ち着くんだ、私。
この結末は知ってるだろ? 余計なことなんかしないで、大人しくしてればいい。
「仲間の死にもさほど動じないか。地球人の女ってのは薄情な生き物らしい」
「………」
「連れて行け。捨てていくよりは、何かの役に立つだろう」
服をやたらとハンカチで拭いながら、そのメガネの天人は冷めた口調でそう告げた。
+++
連れてこられたのは、舟の一室だった。
新八や神楽とは早々に引き離された。多分、私には薬を使っていないからだろう。
「見張っとけって言ってもよォ。女ひとりで何が出来るってんだよ。なぁ?」
「楽な仕事じゃねーか、文句言うなよ」
「ぶっちゃけ地球人の女の美醜なんかわかんねーしよ、こいつ金になんのかねぇ」
「さぁ? 陀絡さんは何かの役に立つかもしれねぇって言ってたけど」
外でそんな話し声が聞こえた。
ドアは…無い。不用心といえばそれまでだけど、鍵が掛かってないのは幸い。
…あとは…この手首の縄、だな。動かしたら緩むかなぁ…?
よく漫画とかで間接外すと縄抜け出来るとか言うけど、そんな怖いこと出来ない。
「んー…ッ」
ちょっとやそっとじゃ、外れるわけがない。
腕を突っぱねて力を込める。…瞬間、ブチッと微かな音が耳に届いた。
「…うそ」
ち、千切れた…。
これもまな板を真っ二つに割る程の怪力が成せる技ですかねー…。
…とにかく、だ。
これで自由に動き回れる。
問題はこの見張りだけど…。
「…ねぇ」
まだ縛られている振りをしながら、私は見張りの天人に声を掛けた。
確認出来るのはふたり。傍に他の見張りがいたら厳しいけど、ふたりくらいなら…不意打ちすれば。
「あ? なんだ」
「…あの子達、は」
「ああ、あのガキどもか」
演技に自信はまるでないけれど、まともに人間の見分けがつかない天人相手なら。
内心冷や汗をかきながら、私は辛抱強く答えを待つ。
「今頃外で尋問でもされてるだろうよ」
「ほとんどがそっちに行ってるからなぁ。ま、逃げられやしねぇよ」
「…そう。じゃあ、…ここに居るのは、あんた達だけか」
…ふたり、か。しかも相手は私を警戒していない。
ちらりと、私は部屋を見回す。
武器になりそうなものは――あれだ、鉄パイプ。
あれ一本外してどうにかなるほど、この舟はか弱くないだろう。
じり、と私は最小の動きで鉄パイプの方へ近寄る。
なんとか手が届く場所まで移動した瞬間、遠くで轟音が響き渡った。
…え、なに?
「――っ!?」
「何事だ!?」
「倉庫の方か!!」
――あ。桂さんか!
さすがテロリスト。陽動はお手の物だなぁ…。
でもまぁ、これに便乗しない手はない。
「…ていッ」
バキッ、と音を立てて鉄パイプが船から外れた。
長さは…薙刀には足りない。でも、刀くらいにはある。
…さて、いっちょやりますか。
「――ちょっと寝とけ」
軸足に力を込めて、私は思いっきり鉄パイプを振り下ろした。
意外と良い音が響いて、見張りのひとりが昏倒する。
…ふん。他愛のない。
………って。私は本当にこんなんで良いのでしょうか。お母さんが見たら絶対泣く。
「な…ッ…このアマ!」
「退いてもらいましょうか」
鉄パイプを突きつけ、私は天人を睨めつける。
ガラが悪かろうがなんだろうが、一応死活問題だし。
「…いつまでもここに居ちゃ、忘れて行かれそうだからね!」
そこが実は、結構心配だったりします。
…爆弾放り込まれてるしね、船内。
+++
「げほげほっ…か、桂さん酷ッ…私が中にいるのに、大火事じゃんこれ!」
見張りふたりを伸した後、私は船内を歩いていた。
不意打ちでなんとかなったけど、他の船員に鉢合わせたらキツイなぁ…。
それもこれもみんな…
「ヅラァァァァッ! てめっ、もうちっと物事考えて行動しろォォォォッ!」
「ヅラじゃない、キャプテン・カツーラだ。…む。その声は」
立ち止まって叫んだ瞬間、聞き覚えのある声が耳に届く。
振り返ると、ベタな海賊ルック船長バージョンを着込んだ見覚えのある長髪が。むしろ桂さんが。
「殿ではないか。何をしている」
「何をしている、じゃないわ! 人質への配慮ってもんは無いんかこのテロリスト!?」
「失敬な、卑劣なテロリストと一緒にしないで貰いたい。…人質だと? 殿がか?」
詰め寄る私を訝しげに見やって、桂さんは首を傾げた。
そして、大真面目な顔で叫ぶ。
「銀時の家に居たあの白いものは殿ではなかったのか!」
「どうやったら定春と私を間違えんだよあんたはさぁ!?」
真面目な顔して何言い出すのかこの人は!!
よりによって宇宙生物定春くんと私を間違えますか!?
なんだこの天然野郎…。
「しかし自力で脱出して来たのか? …そのは?」
「鉄パイプ。舟から引っこ抜きました」
「過激なことを。刀なり槍なり奪えただろう」
「武器の選り好みなんてしてられないでしょうが。闘えりゃ、木の棒だろうが鉄パイプだろうが構わないわよ」
っていうか、武器を奪い取るとか考えもしなかっただけなんだけど。
適当な私の言葉をどう受け取ったのか、桂さんは納得したようにしきりに頷いた。
「なるほど…大したものだ。おなごながら、その魂は我等と同じ侍ということか」
「…いや、さんは侍じゃないですよ桂さん」
「桂じゃない、キャプテン・カツーラだ」
「どっちでも良いわそんなん」
キャプテン・カツーラって何よ。何のキャプテンよ。
天然の相手は疲れるなぁ、と溜め息を吐くと、目の前に何かが突き出されてきた。
「殿、これを」
「え? …って、刀!?」
咄嗟に受け取ると、ずしりとした重みが腕に掛かる。
真剣…だよね。真選組で触ったことがある。
「鉄パイプ一本でここまで来たのだ、使えなくはあるまい」
「う…でも真剣なんて」
鞘から抜いたら、その…斬れるよね。
天人だって、斬れば血も出るし、死ぬ。
鉄パイプ振り回すのとは、わけが違う。これは…何かを傷つけるための道具だ…。
「武器の選り好みをしている場合ではないのだろう?」
「む…」
ついさっき言った言葉を返されて、私は思わず言葉に詰まった。
いや、うん、確かに言いました、が…。
……これだから天然野郎は!!
「連れの救出に向かった銀時が心配だ。ついて来られるか、殿」
真剣を扱いかねていると、桂さんが至極真面目な表情で口を開いた。
その言葉に、私は同じように真剣な表情で頷く。
「行きますとも。こんなとこに置き去りにされて堪るか」
「ああ。…行くぞ!」
私達は頷き合い、同時に駆け出した。
炎上した船内は熱気が立ちこめ、呼吸すると肺が痛む。
目指すは甲板。
そこでは私の知る物語が、展開されているはず。
桂さんとふたりで熱気に包まれた船内を駆けながら、私は片手に持った刀を見る。
生命を奪う道具。その重みを表すような、ずしりとした重み。
自身を護るためには、これほどの武器はない、はずだ。でも、
――私は多分、これを抜けない。
結末を知る者が必ずしも有利だとは、思えない。
To be continued?
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