――え~、続いて次のニュースです。
 先日、来日した央国星のハタ皇子ですが、新設された大江戸動物園を訪れ…』

テレビから聞こえたニュースに目を向ければ、特徴的な触覚を持つ奇妙な生物が映っていた。
とても知的生命体に見えない、時代錯誤な王子様ルックに身を包んだ小さいオッサン。
私は会ったことはないが、バカ皇子ことハタ皇子だ。

「銀さん銀さん、あの動物好きのバカ皇子、またこっちに来てたんスね」

部屋のモップ掛けをしていた新八が、テレビを観ながら口を開く。
が、当の銀さんからの返答はない。

「ちょっと…きいてます?」

聞いてないよ。
この人顔にジャンプ乗っけて寝てるもの。

「ちょっと銀さーん、いつまで寝てんの起きなさいこのロクデナシ」
「うー…なんでちゃんこんな時間に家に居るのー…ストライキー…?」
「非番だボケ。あんたと一緒にすんな、蹴るぞ」
「…相変わらず容赦ねーな、サド娘」

渋々、と言ったように銀さんはジャンプを退けて私の方を見た。
相変わらずの気怠げな表情で、だけどふと思いついたように私の袖を引いた。

「…あー…ねー、ちゃーん」
「なんですか?」
「茶ァ煎れてくれー。確か依頼人が報酬と一緒にくれた茶菓子があったじゃん」
「なんで私が?」
「良いだろ、が煎れた方がなんか美味いし」
「…上手いこと言って面倒なだけでしょうに。まったく我が儘な」

そうは言いつつ、一応役職は真選組女中さん。
料理関係で誉められれば悪い気はしないので、私は苦笑しつつソファーから立ち上がった。



File09 女の子と大きな犬




「……え。ナニコレ」

お茶とお茶菓子を運んできた私は、部屋の出入り口を塞ぐ何かに首を傾げた。
白い大きなものに塞がれて、部屋に入れません。

「おーい、ちょっとこれ退けてー部屋に入れないよー」

お盆のせいで手が塞がってる私は、部屋の中に居るであろう銀さん達に声を掛ける。
だけど意に反して、返ってきたセリフは…

「おい、こいつの声でしゃべってんぞ。もしかしてあいつ、この謎生物に食われたんじゃねーか?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「酷いヨ銀ちゃん! 定春はそんな悪い子じゃないネ!」
「それ以前に台所にいた私が食われるわけねーだろ。いいから退けろ」

心持ち低い声で言うと、その白いものが無理矢理横に引っ張られたようだ。
まったく、なんの悪ふざけですか。それよりいつの間に神楽は帰ってきたの?

「ったく…食われるって何…に」

部屋に入ってから、私は横に移動させられたその白いものを視線を向けた。
そこにいたのは、巨大な犬。
――そう。『定春』だった。

「…新八」
「は、はい」
「お茶頼む」
「へ?」

突っ立ってる新八にお茶一式を預け、私は定春に近づく。
私より大きい身の丈。くりっとした大きな目。もふもふした真っ白い毛並み。

~~~ッ! 可愛いーーーーーーーーーーっ!!」
「「ええええええええっ!?」」

迷わず定春に抱きついた私に、銀さんと新八の驚愕の声が部屋中に響いた。

「可愛いー! もふもふしてるー!」
「さすがアル! なら、定春の可愛さをわかってくれるって思ってたネ!」
「ワンッ」

呼応するように、定春が尻尾を振りながら鳴いた。
ああ、可愛い。ホントに可愛い。もふもふ…!

「あわわ…さん、それ全然可愛い生物じゃないですからーっ!」
「お、おいやめろ! 食われるぞ!!」

そう言いながら慌ててる銀さん達に視線を向けると、銀さんが頭から血を流していた。
…あれって、もしかしなくても定春に頭からやられたんだろうか。痛そう。

「「……………あれ?」」

私に抱きつかれても暴れない定春を見て、ふたりは訝しげに首を傾げる。
そんなふたりに、私はにっこりと微笑んだ。

「銀さん達知らないの? 雄犬は人間と同じで、女の人が好きなんだよ」
「「うそぉ」」

絶対そうだって。
昔近所にいた犬がそうだったもん。


+++


「定春ぅ~!! こっち来るアルよ~!!」

楽しそうに笑う神楽と、重戦車並の勢いでそれを追いかける定春。
端から見れば恐ろしいワンシーンだけど、神楽だけは楽しんでいるのがよくわかる。
いや、もしかしたら定春もかもしれないが。

「…いや~、スッカリ懐いちゃって。ほほえましいかぎりだね、新八君」
「そーっスね。女の子にはやっぱり大きな犬が似合いますよ、銀さん」
「僕らにはなんでなつかないんだろうか、新八君」
「なんとか捨てようとしてるのが野性のカンでわかるんですよ、銀さん」

そして、ベンチに座ってそれを眺める私達。
銀さんと新八は、これがちょっと笑えるほど包帯まみれ。
で、さっき新しく出来た銀さんの怪我を、私が横で治療してるわけです。

「…ふたりとも大丈夫?」
「いでででっ! ちょ、ちゃんっ、もうちょっと優しく出来ない!?」
「出来ない」
「即答かよ! 待っ、いででっ…助けて新八君っ」
「何じゃれ合ってんですか」

呆れたように新八はそう返すだけで、銀さんの冗談には取り合わない。
まったくねー、言うに事欠いて「助けて」って。酷い冗談ですよ、銀さんったら。

「ぎゃーっ! 止まる! 血ィ止まる!!」
「良かったじゃないですか」
「良かねーよ! 生命活動が停止しちゃうよ!」
「………」
「無言で包帯締めんなァ! もがっ」
さんストップストップ! ホントに死にますって!!」

呆れたように私達を眺めていた新八が、慌てて私の手を掴んだ。
あらら。どうやらやり過ぎたようです。力加減難しいなぁ。

「…またつまらないことに労力を使ってしまった」
「オイィィィッ! 人を殺しかけといてそりゃねーだろ!?」
「嫌だ何言ってるの銀さん! 大好きな銀さんを殺すわけないじゃない!」
「なんで棒読みなの!? そこ棒読みにしちゃダメだろ!?」
「…ソンナコトナイヨ?」
「片言じゃねーか! 可愛く小首傾げてもダメなもんはダメだから!」
「ちっ」
「舌打ちィィィィ!?」
「ちょっとふたりともうるさいんですけど」
「「黙れ駄メガネ」」
「なんでそう言うときだけ仲良しなんですか!?」

今度は新八が眦を吊り上げる。
なんだよ、放置したり突っ込んだり怒ったり忙しい奴だな。
新八まで加わった口論は白熱し、私達三人は神楽と定春のことを忘れてぎゃいぎゃい言い合う。
その瞬間、真横を神楽と定春が猛スピードで駆け抜けていった。
思わず、私達は顔を見合わせる。

「…なんでアイツにはなつくんだろう、新八君」
「なついてはいませんよ、銀さん」

そう言いながら、新八は神楽と定春に視線を移す。
神楽は笑顔だが、定春はちょっと凶暴な顔になっていた。

「襲われてるけど神楽ちゃんがものともしてないんですよ、銀さん」
「なるほど、そーなのか新八君」
「…なんか公園の地面にクレーター出来てんですけど」

これって公共物破損になるんだろうか。
恐ろしい光景に思わず黙り込むと、笑顔全開の神楽がベンチに向かって走り寄ってきた。

「フー」
「楽しそーだな、オイ」
「ウン。私、動物好きネ。
 女の子はみんな、カワイイもの好きヨ。そこに理由イラナイ」
「…アレ、カワイイか?」
「カワイイヨ! こんなに動物になつかれたの初めて」

と、彼女が言った瞬間、定春が突進してきて吹っ飛ばされた。
…おー、まさしくギャグ漫画だなー。普通なら死んでるぞ、アレ。

「神楽ちゃん、いい加減気付いたら?」
「私、昔ペット飼ってたことアル。定春一号」

新八の言葉など耳に入ってないのか、突進してくる定春の顎を蹴りあげながら、神楽は昔話を語り出す。
そして定春がダウンした瞬間、またベンチに舞い戻ってきた。

「ごっさ可愛かった定春一号。私、ごっさ可愛がったネ」
「…ねぇ、「ごっさ」ってどこの方言?」
「定春一号、外で飼ってたんだけど。ある日私、どーしても一緒に寝たくて、親に内緒で抱いて眠ったネ」
「無視かよ」

普通に無視しがったよ、この子。

「そしたら思いの外寝苦しくて、悪夢見たヨ。
 散々うなされて、起きたら定春…カッチコッチになってたアル」
「「「…泣けばいいのか笑えばいいのかわかんないんだけど…」」」

ぐす、と涙を流しながら鼻を鳴らす神楽に、私達三人は困惑に顔を引きつらせた。

「あれから私、動物に自ら触れるの禁じたネ。力のコントロール下手な私じゃ、みんな不幸にしてしまう」

哀しそうに語った神楽の傍に、定春が戻ってきた。
先程までの敵意は無く、なんだか「お前なかなかやるじゃないか」とでも言わんばかりの表情に見えた。
…気のせい? 気のせいだよね? 定春はそんなハードボイルド系じゃなくて、もっと可愛い生き物だよね?

「でもこの定春なら、私とでもつり合いがとれるかもしれない…
 コレ、神様のプレゼントアル、きっと…」

少しだけ辛そうに、だけどやっぱり嬉しそうに言って、神楽は定春の頭を撫でた。
そんな彼女の言葉に、私達は少ししんみりした気分になる。

「あ。酢昆布きれてるの忘れてたネ。ちょっと買ってくるヨ」

いきなり、場の空気をぶち壊すタイミングで神楽が言った。
そしてそのまま立ち上がり、何の躊躇いもなく駄菓子屋の方角へ方向転換する。

「定春のことヨロシクアル」
「オイ、ちょっと、まっ…」

スキップしながら去って行く神楽を一応銀さんが呼び止めるものの、彼女には聞こえてもいない。
結果、ここに残された定春は、神楽以外止められないわけで。
しかも銀さんと新八は嫌われてるわけで。

「…銀さん、新八」
「…うん?」
「…なんですか、さん」

既に定春が飛びかかるスタンバイをしている気がする。
いや、うん、気のせい。その標的が明らかに銀さんと新八だとか、うん、気のせい。気のせいだって!

「…出来るだけ公園から定春を出さないようにし」

言いかけた瞬間。
定春が勢い良く飛びかかってきた。
私ではなく、銀さんと新八に。




定春に追いかけられた銀さんと新八は、物凄いスピードで公園を飛び出していった。
…結局物語は、物語通りに進む運命のようです。うん。






何があっても世界は決められた方向に回っていくらしいですよ?



To be continued?

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