「そうですねぇ…」
電卓を弾きながら、私は口を開いた。
本来ならソロバンでも使いたいところだけど、残念ながらもう使い方なんて覚えていない。
…ソロバンの授業って小学校の何年生だっけ? 3年生? 10年も前じゃん、覚えてるわけない。
「捜索に掛かった日数が半日。人員動員数3。
近所の悪ガキから救出したので…このくらいですかね?」
私の前で唸っているのは、初老のおっさんだ。
成金っぽい趣味の悪さが滲み出る、大粒の宝石をあしらった指輪がいっぱい付いた手。
その腕には、重たそうな宝石の首輪を付けられた猫が眠っている。
――誰かと言うと、万事屋に来た依頼者だった。
仕事内容は至って単純。迷子の飼い猫の捜索。
そして数十分前、その猫は無事に銀さん達によって発見された。
「むむ…最初の値より上がっているではないか」
金持ってる奴がはした金を渋るな。
よっぽどそう言ってやりたいけど、そこがはぐっと堪える。
私は柔和な笑みを作り、小さく小首を傾げて見せた。
「依頼主様。もしも一日でも発見が遅れていれば、野良猫に苛められ、
子供に傷つけられて、路地裏に冷たくなって転がっていたのかもしれませんよ、その猫ちゃん」
「…うむ。確かに」
「大切な家族の命の代価です。これでも良心的なお値段かと」
「そうだな。うむ、お嬢さんの言う通りだ。やはり美しい女性は心も美しい!」
満足そうに頷いて、おっさんは札束をどんっとテーブルの上に置いた。
…30万、ってとこか。さっき提示したのが28万、残り2万は私の笑顔代ってところね。
「――ご理解、ありがとうございます」
やんわりと微笑んで、私は優雅な所作で頭を下げる。
こういう時、実家で無理矢理やらされた諸々の知識に素直に感謝するね、私は。
笑顔で帰っていくおっさん、もとい客を見送って、私は非常に満足していた。
その後ろで、驚愕の滲む声が聞こえる。
「…オイオイ嘘だろ有り得ねぇよ」
「…ほ、本当に3倍の値段吹っかけて納得させた…」
呆然と呟かれた銀さんと新八の言葉に、私は口角を持ち上げて笑う。
ふたりを振り返り、新八に札束を押し付けて私は口を開いた。
「交渉は相手見てやらないとね。金持ちからは搾り取るだけ搾り取る、これ鉄則」
「、格好良いアル! 私、一生付いてくネ!」
「ありがとー、神楽ちゃん」
懐いてくる神楽の頭を撫でてやってから、私は台所に向かって踵を返す。
さて、お仕事が終わったら家事が待ってる。ちゃちゃっと作ってしまおう。
「…銀さん、これです。僕達に足りなかったのはこの能力ですよ!」
「うわー、なんか1年で2000万とかいけそうな気がしてきたわ、俺」
…後ろで聴こえた言葉に、ちょっと照れくさくなってしまったけれど。
「さてと、今日のお昼はー…」
赤貧に喘ぐ万事屋銀ちゃんの台所事情は、思っていた以上に悲惨なものだった。
…酢昆布と甘味だけは常に溜め込んである現状に、ブチキレそうになったくらいに。
しかし、今日は違う。
お登勢さんからかぼちゃをお裾分けしてもらっちゃったのですよ、さんは!
その他にも、着物とか少量のお金とか、色々頂いてしまいました。
…銀さんには内緒だけど。言えば使い込まれるから。
「かぼちゃって切るの大変なんだよね…力入れないと切れないし。
まぁいいか、出来なかったら新八にやらせよう…」
台所を預かる以上、食事は私の担当。
ただしせっかくの男手があるんだから、使えるときは使う。
…よく親愛なる親友サマに、「ってお嫁さん向きじゃないね」と笑われたものだ。
……………彼女も天然的に毒舌だったな。私ほどじゃないけれど。
いかん。思考を目の前のかぼちゃに戻そう。
包丁を握り直して、私はかぼちゃの上に刃を当てる。
調理作法としては誉められたものじゃないけど、まぁ誰も見てないし…
「…せーー、のっ」
包丁を軽くかぼちゃの実に刺して、私は両手と自分の体重をその刃に乗せた。
これで、かぼちゃは綺麗に真っ二つになるはず――、
バキッ
響いた異音に、私は絶句した。
「………」
…ちょっと待て。
なんでまな板まで真っ二つ。
「…ええと?」
…
……
………え。私、今、普通に切っただけだよね…?
「おい、。今の音なんだ…って」
台所から聞こえてくるには、あまりに暴力的な音だったからだろうか。
銀さんはひょこっと顔を覗かせて、私の前にある真っ二つのまな板を見て絶句した。
「…いくら食材がなくてもまな板は食えねぇぞ」
「食うわけないだろまな板なんてッ」
「でも真っ二つだし」
「い、いや、あの」
確かに、まな板は真っ二つ。
そして私の手には包丁。
言い逃れのしようもない、犯行現場みたいになっていた。
「……」
「……」
「…かぼちゃと一緒にまな板両断って、おまえどこの武闘家だよ」
「私が聞きたいよ。まな板腐ってたんじゃないの?」
「ンなわけあるか。…あ、いや、絶対ないとも言い切れないか…?」
自分の家の台所事情くらい把握しとけ!!
本気で首を捻る銀さんに、逆にその首を捻ってやりたい衝動に駆られる。
…は。いけないいけない。それはさすがに銀さんが死んでしまう。
「ま、いいや。ちゃんと片付けとけよー」
「おー…」
適当な家主は、これまた適当に言って台所を後にした。
残された私は、ひたすら首を傾げながらまな板を見下ろす。
「…ええと…私、怪力になっちゃったとか? ンなわけないよねぇ…??」
試しに、割り箸を手に取る。
で、ちょっと力を込めてみた。
バキィッ
…
……
………片手で真っ二つ。
「ど、どういうこと?」
いや、力が強くなったのなら、力の込め方自体は普段と変わらないはず。
大して力も加えていないのに、なんでだ。
「…えーと…あれか? 重力の違い?」
ドラ〇もんでそんなのやってたような気がする。
へー。ここってば地球じゃないんだー。びっくりー。
「…ンなわけあるか…そうだよ、夢さ。夢なんだよ…」
自分に言い聞かせて、わたしはまな板を片付けた。
…で、まな板無いけど、このかぼちゃどうしよう。
「………新八ー! ちょっと来てー!」
「はーい?」
とりあえず、新八に切ってもらうことにした。
…そんなことはないと思うけど。まな板無しでやって、調理場まで両断したら目も当てられないから。
+++
「俺が以前から買いだめていた大量のチョコが姿を消した。
食べた奴は正直に手ェ挙げろ。今なら3/4殺しで許してやる」
「3/4ってほとんど死んでんじゃないスか。
っていうかアンタいい加減にしないと、ホントに糖尿になりますよ」
「そもそもチョコくらいでガタガタ言うなよ大人げねェな」
「「さん、その顔で汚い言葉使わないでください」」
「あれ? 同時ツッコミ?」
昼食を終えて寛いでいた午後。
銀さんの子供みたいな言い分は、ある意味その日の事件の開幕ベルだったのかもしれない。
「『またも狙われた大使館。連続爆破テロ、凶行続く…』」
新聞を広げ、珍しく真面目な表情で神楽が呟く。
…これで鼻血を垂らしていなければ、本当に真面目なワンシーンだったんだろうな。
「物騒な世の中アルな~。私恐いヨ、パピー。マミー」
「…神楽ちゃーん、鼻血は拭いとけー。年頃の女の子なんだから一応」
そう言いつつ、ティッシュの一枚も差し出さない私も、大概適当な人間だ。
しかし、チョコの食い過ぎで鼻血…どれだけの量なんだ…。
呆れ半分感心半分でそんなことを考えていると、無言で近づいて来た銀さんが、ガッと神楽の両頬を掴んだ。
「恐いのはオメーだよ。幸せそーに鼻血たらしやがって。うまかったか俺のチョコは?」
「チョコ食べて鼻血なんてそんなベタな~」
「とぼけんなァァ!! 鼻血から糖分の匂いがプンプンすんぞ!!」
どんな匂いだ。
その理屈で言ったら、銀さんからするあらゆる匂いは糖分の香りってことになるだろ。
…想像したらちょっと気持ち悪くなってきた…。
「バカ言うな。ちょっと鼻クソ深追いしただけヨ」
「年頃の娘がそんなに深追いするわけねーだろ、定年間際の刑事かお前は!!」
「喩えがわかんねーよ!! っていうかおちつけ!!」
だんだんわけのわからない言い合いになっていくふたりに、耐えかねて新八が突っ込みを入れた。
私は私で、それはもう大仰にため息を吐く。
「銀さんもさぁ、食われたくないなら金庫にでも仕舞っとけよ」
「金庫なんてこの家にあるわけねーだろ」
「じゃあ諦めろ」
「俺の人生は糖分で出来てんだよ!」
「何甘いこと言ってるんですか」
色んな意味で。
「助けてマミー!」
「…銀さんはおにーちゃんでしょ! 我慢しなさい!」
私の袖を掴んで訴える神楽を一瞥して、私はもう一度銀さんの方に視線を戻す。
面倒な気分で、口調だけ『お母さん』風に言うと、銀さんは見るからに嫌そうな顔になった。
「………せめてもうちょっと表情和らげて言ってくれない? なんでそんな面倒くさそうなの?」
「面倒くさいから。ちょっと糖分取らなかったくらいで死ぬ奴ァ、生物じゃねぇ」
「俺さ、だんだんお前を助けたことを後悔し始めてるんだけどどうよ」
「男は自分の行動に最後まで責任を持とうね。ま、気長に付き合っていきましょーよ」
「お前が言うな。だいたいなぁ、。お前…」
銀さんが何か言い掛けた瞬間、ドカンッ、と轟音が響いた。
「「「「!?」」」」
慌てて窓に駆け寄り、私達は下を見下ろす。
「なんだなんだ、オイ。事故か…」
「居眠り運転かねー」
ひっくり返ったバイクと、転がったガタイの良い男。
相当な勢いでぶつかったのか、色んなものが散乱してる。
…あー…なんだっけ、これ。
記憶の片隅に引っかかってんだけどなぁ…。
「くらああああああ!!」
頭を悩ませる私の耳に、そんな怒声が届いた。
視線を戻すと、物凄い形相でお登勢さんがバイクの人を掴み上げている。
「ワレェェェェェェ!!
人の店に何してくれとんじゃアア!! 死ぬ覚悟できてんだろーな!!」
「ス…スンマセン。昨日からあんまり寝てなかったもんで」
「よっしゃ!! 今永遠に眠らしたらァァ!!」
「お登勢さん、怪我人相手にそんな!!」
ありゃ。いつの間に下に下りたんだ、新八。
お登勢さんを制止する新八を見下ろしながら、私と銀さんはそれぞれ呟いた。
「新八、止めんの遅ェ」
「まったくだな。鈍メガネ」
「あんたらそんなこと言うなら先に止めれば良いでしょうがァァァァッ!?」
速攻で怒鳴り返してきて、「あんたらも降りて来い!」と呼びつけられる。
私と銀さんは顔を見合わせて、やれやれと肩を竦めた。
「…面倒くせ…」
「お前って常に動くの面倒だろ」
「銀さんに言われたくないし、私が面倒なのは誰かの為に動くことデス」
「あー、わかるわかる。
俺なんか自分の為に動くのも面倒なのに、他人の為に動くなんて勘弁してほしーぜ」
「何でも屋の店主が何を言いやがりますか」
それこそ合法・非合法なんでも承ります、が何でも屋だろうに。
って言っても、銀さんが一銭の得にもならない仕事だって請け負ってしまうことを、私は『知ってる』。
「…こりゃひどいや。神楽ちゃん、救急車呼んで」
「救急車ャャァァア!!」
「誰がそんな原始的な呼び方しろっつったよ」
何故か大声で救急車を呼ぶ神楽に、銀さんは至極真っ当なツッコミを入れた。
そして、散らばったもののひとつを拾い上げる。封筒…否、手紙だ。
「飛脚か、あんた。届け物、エライことになってんぞ」
「こ、これ…」
傷を負った体を無理矢理起こして、飛脚は小さな包みを銀さんに差し出した。
傍に新八と神楽が居るのに、なんで敢えて銀さんに?
…あ。待って待って。これ覚えてるよ。なんだっけ?
「これを…俺の代わりに届けて下さい…お願い。
なんか大事な届け物らしくて。届け損なったら俺…クビになっちゃうかも」
…あ。思い出した。
銀さんが受け取った小包を見て、私はようやく『今』が『何の話』なのかを思い出した。
「お願いしまっ…」
「おいっ」
痛みに気を失ったのか、飛脚はぴくりとも反応しなくなった。
銀さんの手の中の小包を見下ろし、私達は顔を見合わせる。
「「「「………………」」」」
仕方ない、行くか。
そんな空気が漂い始めたのを感じ取って、私は一歩、後ろに下がった。
そして、恭しく頭を下げてみる。
「…いってらっしゃいませ、旦那様」
「何『私は無関係です』みたいな面してんだ。お前も行くんだよ」
「えーーー!?」
なんで私まで!!
抗議しかけた私の手を、銀さんが問答無用で掴んだ。
「ちょ、私って客でしょー!?」
「何寝ぼけたこと言ってやがる、この家出娘が」
「違ッ! 私、家出娘じゃねぇし!」
「じゃあ居候な。働け働けー」
最高に理不尽に言い放つと、銀さんはそのまま私を引きずって歩き出す。
…まずい。このままでは池田屋事件に巻き込まれる。
後で見物に行こうかな、くらいは思うけど、当事者として巻き込まれるのは御免だ!
「働いてるだろ立派な家政婦さんだよ私はッ!」
「ダメだよー、ちゃん。大和撫子は男を立てなきゃー」
「NO!! 私は大和撫子じゃなくて良い!…っていうか銀さん私の話聞いてないでしょ!?」
ピタリと、銀さんが足を止めた。
何事かと見上げる私に、銀さんは至極真面目に、最高にくだらない理由を口にした。
「糖分の恨みは恐ろしく深いんだよ」
「はァ!? 銀さんのチョコ食ったの私じゃないし!」
「神楽の肩持ったろ、同罪だ」
「ンだよそれーッ!?」
「あー、うるせぇ」
「うわっ!?」
騒ぐ私に業を煮やしたのか、銀さんは私の腰に腕を回して、私の体を持ち上げた。
まるで荷物のように、私は銀さんの肩に抱え上げられることになる。
「って。何これナニコレ! 降ろせーッ!!」
「はいはい。静かにしましょーね、近所迷惑だからね」
「ふざけんなこの腐れ天パ!!」
「腐ってねぇよ新鮮だよ。天パをバカにすんな。
お姫様みたいなキレーな顔して、言葉遣い汚ェなオイ。あ、お姫様だっけ一応」
「どうでも良いから降ーーろーーーせーーーーーッ!!」
「ホントにやかましーな、コイツ」
「…銀さん、それじゃ誘拐犯ですよ」
「誘拐じゃありませーん。うちの子だから良ーんですー」
「良いのかなぁ…」
良いわけあるか!!
おまえこういう時こそ鋭いツッコミを入れないでどうすんだ新八!!
…この後。
私が「ちゃんと一緒に行くから降ろしてください」と言うまで、降ろしてもらえませんでした。
……………おのれ銀さん。後で覚えてろ!
+++
「ここで合ってんだよな」
「うん」
「大使館…これ、犬威星の大使館ですよ」
「趣味悪ィなオイ」
「「さん余計なこと言わないで」」
また同時ツッコミが来た。
さっき私が荷物のように運ばれてたときは、何も言わなかったくせに。なんなんだ。
「犬威族っていったら地球に最初に来た天人ですよね」
「ああ。江戸城に大砲ブチ込んで無理矢理開国しちまったおっかねー奴らだよ」
面倒くさそうに大使館を見上げながら、銀さんは小さく息を吐いた。
「嫌なトコ来ちゃったなオイ」
「…私帰って良いかな、銀さん」
「ダーメ」
「なんでだ」
私が連れて来られた意味がまったくわかりません。
小さくため息を吐いて、私は大使館の塀から少しずつ距離を取る。
…いつでも逃げ出せるようにしなくては。爆発に巻き込まれるのも嫌だし。
「オイ」
「?」
低い声音で声を掛けられ、私達は振り返った。
「こんな所で何やってんだ、てめーら。食われてーのか。ああ?」
…
……
………犬面っていうか犬だよな、コレ。
可愛げも何も無いその地球外生命体を前に、私はなんだかがっかりした。
…だって犬人間だよ? 可愛いかったら良いなって思うじゃないか、普通。
犬耳と尻尾と八重歯だけならときめくものを…毛だらけの犬野郎ではときめく場所も見当たらない。
「いや…僕ら届け物頼まれただけで」
「オラ、神楽。早く渡…」
そう言って銀さんが振り返る。…居ない。
と、思ったらしゃがみ込んで何かやっていた。
「チッチッチッ、おいでワンちゃん。酢昆布あげるヨ」
違う! そういう犬と違うから!!
銀さんは無言で神楽の頭を張り飛ばし、蹲る彼女から小包を取り上げた。
「届け物が来るなんて話聞いてねーな。
最近はただでさえ爆弾テロ警戒して、厳戒態勢なんだ。帰れ」
「ドッグフードかもしんねーぞ。もらっとけって」
「そんなもん食うか」
喧嘩売ってるとしか思えない一言を添えて、銀さんが小包を犬に押しつけた。
当然、小包はパンッと手で弾き飛ばされる。
「あ」
ポテ、と。
大使館の敷地内に、それが落下した。
反射的に、私は手で耳を塞ぐ。
瞬間、轟音を立てて爆発が起こった。
強固な門は吹き飛び、コンクリートが拉げて空を舞う。
「「「「………………………」」」」
私達は、無言でその生温い風を受け止めていた。
爆風を見つめながら、ふと銀さんが口を開く。
「…なんかよくわかんねーけど、するべきことはよくわかるよ」
「…そうだねぇ、銀さん…」
相づちを打った私と、銀さんの視線が合う。
そして私達は、神妙な顔で頷き合った。
「逃げろォォ!!」
叫ぶように言って、私達は脱兎の如く駆け出した。
幸い脚には自信がある私は、いつの間にか神楽を追い抜き先頭を走っていた。
「待てェェ、テロリストォォ!!」
「!!」
あ。新八が捕まった。
と、思った瞬間には、新八は銀さんの手を掴み、銀さんは神楽の手を掴む。
神楽は傘を持ってるせいで私を掴めず、結果的に三人と犬が数珠繋ぎ。
「新八ィィ!! てめっ、どーゆーつもりだ離しやがれっ」
「嫌だ!! ひとりで捕まるのは!!」
「俺のことは構わず行け…とか言えねーのかお前!」
「私に構わず逝ってふたりとも!」
「ふざけんなお前も道連れだ!」
…よく考えると、こいつら揃いも揃って良い性格だ。
ひとり無事な私は、離れた場所からその光景を眺め、苦笑とも嘲笑とも取れる微妙な笑みを浮かべる。
「…なんかもうホント、馬鹿だよね君ら」
「誰が馬鹿だよ誰が! ひとりで無関係そうな顔しやがって!」
「ちょ、ひとりで涼しい顔してないで助けてさんっ」
「ー! 私だけでも助けるヨロシー!」
「うーん…」
必死な彼らの反応に、私はかくん、と首傾げる。
と、ほぼ同時に、新八の背後から大勢の武装した犬が駆けつけてきた。
「あ。ごめん無理そう」
「え? …ぬわぁぁぁ!! ワン公いっぱい来たァァ!!」
後ろを振り返った新八が悲鳴を上げる。
それを聞きながら、私はジッとある一点を見つめた。
――大使館の壊れた門の横に座る、墨染めの衣を纏った人物を。
「――手間の掛かる奴だ」
その墨染めはため息混じりに呟くと、すくっと立ち上がる。
そして、見事な身のこなしで犬を踏み台に、私達の方へ向かってきた。
「!!」
新八の腕を掴む犬の脳天に一撃を見舞うと、その人物は音も無くその場に降り立つ。
シャラン、と錫杖が微かな音を立てた。
「――逃げるぞ、銀時」
傘を上げ、顕になったのは端正な顔立ちの青年。
どうにも記憶が曖昧な私も、このシーンは覚えてる。
この人は――
「おまっ…ヅラ小太郎か!?」
「ヅラじゃない桂だァァ!!」
「ぶふォ!!」
怒鳴り返して、彼――ヅラ、じゃなかった桂小五郎は、銀さんにアッパーカットを食らわせた。
いきなり繰り出された攻撃に、私は顔を引きつらせる。
うわー、痛そう。漫画で見るより痛そー…。
「てっ…てめっ、久しぶりに会ったのにアッパーカットはないんじゃないの!?」
「そのニックネームで呼ぶのは止めろと何度も言ったはずだ!!」
「つーかお前なんでここに…」
「!!」
銀さんの言葉を遮るタイミングで、犬がまた向かってきた。
その数は…ああ、数えるのも面倒くさい。
とりあえず、ここに長居は無用ってことだけはわかるよ。
「…銀さん」
「……」
私が袖を引っ張ると、銀さんは小さく頷く。
その横を、桂さんが走り過ぎた。
「話は後だ、銀時。行くぞ!!」
「…チッ」
舌打ちすると、咄嗟の行動だったのか、銀さんは私の手を掴んで走り出した。
ああ、ちゃんと見捨てないで連れて行ってくれるのか…。
掴まれた自分の手を見つめながら、なんだか恥ずかしいような気分になる。
――追いかけてくるのが犬じゃなかったら、きっともっとときめいたのかも、しれない。
愛は無いけど逃避行。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。