久々に一人である。
何がって?
万事屋の面々が、揃って今夜は留守なのだ。

神楽は友達の家にお泊りらしい。やたら嬉しそうだった。
…友達の家を壊さなきゃいいが。
新八は普段も自分の家に帰ってはいるのだが、今日は例の親衛隊の強化合宿らしい。
何を強化する気だ。男の妄想か。
銀さんは…単に飲みに行くとは言っていたが、長谷川さんが一緒だったのできっと帰ってこない。
朝にはどっかの路地で寝てる多分。そして本人も自覚してる。
トドメで、定春は妙なもんを食ったらしく一晩入院である。
何やってんのあの子。だから拾い食いするなと。

…そんなわけで、今日の私は一晩、ひとりでお留守番なのである。
新八や神楽は相当心配してたが、19歳にもなって留守番を心配されるってどうよ…。

「なんで心配されてんのか、まったくわからん…条件はお妙と一緒なはずなのに」

…あ、いや。
お妙の場合はストーカーという名の近藤さん…あれ? 逆?
まあどっちでも良いけど、近藤さんがいるからよっぽどのことが無い限り大丈夫か。
……………この場合、心配すべきは近藤さんの命だろうか。

そんなことをつらつら考えていると、唐突に玄関のチャイムが鳴り響いた。
…今は午後11時。
こんな時間に誰だ。

「ったく、銀さんか? 鍵忘れたのかなァ…」

早々に潰れて、長谷川さんに送られたか?
まったく、酒弱いくせに馬鹿みたいに飲むからだ。

「あー、はいはい。連打しなくても出ますよこの馬鹿家主。
 ってーか近所迷惑だろーが、チャイムは一回鳴らせば良いんだ…よ…?」
「……………………鳴らしてる俺が言うのも何ですがね、さん。無防備過ぎやしませんかィ」

玄関のドアを開いた先に居たのは、そう言って複雑そうな顔をした総悟だった。



相愛性理論




「子供は帰って寝る時間だろー。何しに来た、こんな時間に」
「そう歳変わらねぇでしょうが。こんな時間に簡単に玄関に出るもんじゃねぇですぜィ、さん」
「いや、だってここ万事屋よ? 客だったらどーすんの? っていうかチャイム鳴らしたのお前じゃね?」
「俺だったから良かったようなもんでしょうが。変質者だったらどうするんですかィ」
「わざわざチャイム鳴らす変質者がいるかよ」
「超オープンに下着を要求する下着ドロとか」
「そんなオープンな変態いねーよ。居たら薙刀でこっから払い落とすわ」
「ストーカーとか」
「それを心配するならお妙のトコ行ってゴリラ回収して来い」
「踏んでくれとか言われたらどうするんですかィ? 踏むの?」
「だからMに用はねぇのよ。というかいい加減にしろお前」

それが恋人への言葉ですか。
…ええ、まあ、一応このドS王子、私の恋人なのです。
つっても、双方の保護者が非常に心配性の為、恋人らしいことなぞついぞしていないのだが。
なので結構、この展開は予想外だったりする。

「万事屋は客に茶ァ出さないんですかィ?」
「居座る気満々だなお前!? わかったよ出してやるよ!!」

ちゃっかりソファに陣取る総悟に、私は怒鳴り返しつつ、台所に向かう。
お茶を入れて戻って来ると、当の本人は非常に寛いでいた。ナニコレ。

「…で。なんですか総悟くん」
「いえ別に。暇なんで茶ァ飲みに来やした」
「オイコラふざけんな。うちは茶屋じゃねーぞ」
「下手な茶屋より茶は美味いですがね」
「……………」
「……………」

さらりと言われた言葉に、思わず微笑いそうになった。
そりゃあ、褒められて悪い気はしない。しかしさんはそんなに安い女じゃないんだからね!!

「…ふ、ふんっ! 褒めたって茶菓子しか出ないんだからねッ!! ほら食べなさい!」
「出るんですかィ。頂きますが」

しまった。私ってば安すぎる。

「…ま、まあ…あんたが褒めると社交辞令っぽくないからネ」
「そりゃそうだ。俺ほど素直な男はいませんぜ」
「言ってろ言ってろ」

素直っちゃ素直だとも、言わないことも多いけどな。

「…ホントに茶ァ飲みに来ただけなの?」
「………」
「何かあったの? あ、万事屋に依頼?」
「………」

一瞬、躊躇するような素振りを見せて、しかし総悟はため息を吐いた。
そして、観念したように口を開く。

「さっき飲み屋で旦那に会いましてね」
「は? 銀さん? というかあんた飲み屋行って良い歳じゃなくね??」
「今日はさんがひとりで留守番してるって聞いて」
「無視すんなー」
「いくらさんでも、さすがに最近は物騒ですからね」

あー…つまり、なんだ。
そうか、新八や神楽にもひとりの留守番を案じられたのは、そこか。

「心配してくれたとでも?」
「一応。下心もありますぜ?」
「あはは、正直だ」

近藤さんと銀さんが妙に過保護な為、私達はこうやって夜にふたりきりで会うことなんてない。
普通ならそんなの知ったことかと、言いつけなど守らない性格の私達だけど、あのふたりの言うことはつい聞いてしまうのだ。

一見正当な理由を持った、この時間。
下心と称すこいつは素直だし、薄々感づいて家に上げた私も素直だと思う。

「アンタ相手に駆け引きとか無意味なんで、俺は正直にいくことに決めたんでさァ」
「どういう意味かねぇ」
「アンタは相手の悪いとこ探し出すの得意でしょうが。
 隠してもバレるなら、最初からオープンでいきやすぜィ、俺は」
「なんか嫌な評価だなソレ」

近藤さんは相手の良いとこ見つけるのが得意なのに、私はその真逆かい。
もちろん否定はしない。私は悪意に敏いと自負している。
まあでも、こいつが言うほど酷いことが出来ない性分であることも、理解しているのだ。

「総悟、総悟」
「はい? なんですか」

笑顔で手招きすると、無警戒に総悟は私の方を見た。
だから私は、軽く身を乗り出して、無防備な彼に触れるだけの口づけという、悪戯を仕掛けてみる。

一瞬、総悟は唖然と私を見つめて、
――次の瞬間、バッと耳まで真っ赤になった。

「~~~ッ!!?」
「…ドS王子がキスひとつで顔真っ赤にするとかっ…ナニソレ面白いよ総悟くん…っ」
「………………オイ。そこまで言うなら素直に笑ったらどうですかィ」

ぷるぷると肩を震わせる私に、滅多に変わらない総悟の表情が引きつる。
私としては、こいつのこういう表情変化を見るのはとても楽しい。
なので多少のプライドやら恥じらいやらは、生ごみの日に出してしまっても惜しくはないのだ。

「ったく。あんたにゃかなわねーや。
 見た目こそ良いとこのお嬢さんだってのに、なんだってこうも性格歪んでるんですかねぇ」
「総悟には言われたくねーなー」
「こっちは下心あるつってんだろーが、なんでああいうこと出来るんだか」
「んー?」

呆れたように言われて、私は笑う。
生意気なくせに馬鹿だな、こいつは。そんなの簡単だ。

「家に上げた時点で、私にも下心があったんじゃないかな?」
「は…?」
「だからさ。総悟が下心があってここに来たように、私も下心があってあんたを家に上げたんじゃない?」
「……普通、女がそういうこと言いますかね」

せめて期待して、とか。そういう可愛い言い回しくらい覚えろィ、と。
ため息交じりに言われたけれど、それは私には似合わないんじゃないかと思う。

「…はぁ…最初っからわかってやしたけど、アンタやっぱ変な女だ」
「その変な女に惚れたのはどこの総悟くんでしたっけ?」
「いやもう思いっきり名指しじゃねーですかィ。めんどくせぇ女に惚れちまったもんだな俺も…」
「そりゃどーも。あんたも色々めんどくさいよ」

笑って返してから、私は隣の総悟の肩に頭を乗せる。
総悟は何も言わず、だけど私に寄りかかられるままに、自然な所作で私の手を握った。

「…コレ、銀さん帰ってきたら怒られるかな?」
「でしょうねぇ…」
「最近、年頃の娘を持つ親父みたいだもんねぇ、あの人」
「…主に変にオープンなアンタのせいだと思うんですが」
「いやいや、ドSなあんたのせいじゃね??
 真選組への出入りも禁止されそうな勢いですよ」
「…アンタ一体旦那になんて言ったんだ」

嫌そうに言われた言葉に、一拍置いてから、私は口を開く。

「警察の人間を押し倒したら犯罪になりますかね?と言ってみた」
「最悪」
「ちなみにそれ、総悟のことね!」
「更に最悪でさァ、さん。なんなのこのねーちゃん、頭オカシイ」
「失礼だな! 良いじゃない、たまにはそういう展開も!」
「アンタがドSなのは知ってますが俺もドSなんで、そういうのは勘弁してくだせェ」

いやいや、私はドSじゃないよ? 普通の女の子ですよ?
…まぁそう言い返したところで、真顔で「どこが?」と聞き返されるのがオチだけどな。

「ノリ悪ィな、総悟くんは」
「いやぁ、開き直ったさんがここまで馬鹿だと思ってなかったんで」
「おおい、誰が馬鹿だ」
「アンタに決まってるだろィ。まったく…」

その言葉が終わる前に、肩を掴まれた。
そのままソファの上に縫い付けられる。
特に抵抗する必要もないので大人しく見上げていると、こつんと額をぶつけられた。
…ここまで密着するならキスでもしてくりゃ良いのに、こいつって変なとこ初心だ。

「…困ったお姫さんだ、アンタは」
「手の掛る女の方が好きなくせに」
「俺の手を煩わせるような女なんか御免蒙らァ」
「あれー?」

手を煩わせた覚えもないんだけどなぁ、と。
笑って返した瞬間、不意打ちで強引に唇を塞がれた。

瞳を閉じることも忘れて、眼を瞠る私を見下ろすその表情に、僅かに滲むのはなんだろう。
欲、とか。艶、みたいなものだろうか。
唾液に濡れた唇に舌を這わせるその所作に、ぞくりと肌が泡立った。

――アンタじゃなきゃ、惚れてませんぜ」

…その顔、反則だろ。
思わぬ反撃に、私はいつもの軽口を返すことすら出来なかった。






生意気で可愛い私の恋人。



END

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