『転校生』という存在は、学生社会において重要な位置に居るらしい。
それが海外からの留学生ともなれば、その日のうちに興味が尽きる事はない。

――よって、私は今、大勢の生徒に囲まれていた。



標的05 バトル・ハイスクール




さんって、イタリアから来たんでしょ?」
「…ええ」
「あ、じゃあもしかして獄寺くんと知り合いだったりして!?」
「…まぁ、一応…」
「随分中途半端な時期だけどさ、親の仕事の都合とか?」
「いえ、ホームステイで」
「ホームステイ!? え、どこの家に――

質問攻めにいい加減対応に困り始めた私は、ぐるりと教室を見回した。
瞬間、山本と獄寺を伴って教室を出て行こうとしているツナを見つける。

「ツナ」
「は、はいっ」

椅子から立ち上がって声を掛けると、何故かツナはびくっと肩を揺らして立ち止まった。
一瞬のうちに静寂に包まれた教室の中、私はそれに構わずツナに歩み寄る。

「お昼なら、私も行く」
「え? あ、う、うん…」

何故か周りを気にするように視線を彷徨わせるツナに、私は首を傾げた。
何かおかしなことを言っただろうかと考えてみるけれど、やっぱり思い当たる節はない。
どうにも容量を得ないツナの様子に首を傾げつつ、
口を開き掛けた私は、波のように押し寄せてきたクラスメイト達の壁に言葉を阻まれた。

「ちょっとちょっとどういうこと沢田!?」
「おまえ、さんと知り合いなのかよ!?」
「え!? い、いや、あの…」

今度は、ツナが囲まれてしまった。
私の不用意な一言が、みんなの興味の対象を彼に移してしまったのだろうか。

「私がお世話になっているのは、ツナの家よ」
『えええええええっ!?』

クラスメイト達の声が、一斉に重なった。
過剰な反応に首を傾げていると、慌てたようにツナが私の腕を掴む。
そのまま廊下に引っぱり出された私は、しきりに首を傾げるだけだ。

さんッ!!」
「…言っちゃダメだった?」
「ダ、ダメってわけじゃないけど…!」

じゃあ、なんだと言うのか。
困らせる気は毛頭無いのだけど、目の前のツナは明らかに狼狽えている。
何がいけなかったのかと考え込む私は、今度は後ろに引っ張られた。
反射的に振り返ると、眦を吊り上げた獄寺と、面白そうに事態を眺める山本の姿が。

「てめぇ! 10代目を困らせるんじゃねぇ!!」
「あなたに言われたくない」
「なんだと!?」
「おいおい、仲良いな獄寺とは」

さらりと言われたとんでもない誤解に、私と獄寺は一瞬、顔を見合わせた。
そして、同時に山本の方へ向き直る。

「どこがだ! てめぇ目ェ腐ってんのか!?」
「曲解にも程があるわ、山本。訂正して」

そんな私達の反応に、返されたのは微妙な沈黙と苦笑だった。

「…似た者同士だよな、あれ」
「…火に油を注ぐようなことしないでね、山本…」

疲れたように呟いたツナに、私は思わず顔をしかめてしまった。
どうしてだろう。良かれと思って色々やっているつもりなのに、どんどんツナが疲労していってる気が。

「ふぅん、さんとツナくん達って、知り合いだったんだね」
「意外と言うか予想通りと言うか…なんでもありだね、あんた達」

また、第三者の声が掛けられた。
どうにも、悪目立ちをしているような気がする。
ゆっくりと振り返った先には、ふたりの女生徒がいた。彼女達を見て、ツナが表情を変える。

「京子ちゃん! と、黒川」
「あたしはおまけ?!」

黒川、という女生徒についての情報は無い。一般の生徒だ。
だけど、京子と呼ばれたもう一人の女生徒の名前には、覚えがあった。

私がボンゴレ9代目が推した花嫁候補なら、彼女――笹川京子はリボーンが選んだ候補のひとり。
確か彼女の兄が、守護者のひとりだったはずだ。

「はじめまして、笹川京子です。よろしくね」

年相応の愛らしい笑顔でそう言って、彼女は私に手を差し出してきた。
私は小さく頷き、差し出された手を握り返す。

=フォンティーナです。
 話は聞いているわ。あなたが私と同じ、ツナの花嫁候補のMs.ササガワね」
「え?」
「ちょっとさん真顔で何言ってんのーーーっ!?」

首を傾げる彼女と私の間に、ツナが慌てて滑り込んできた。
そのまま私の肩を掴んで、小声で必死に耳打ちしてくる。

「京子ちゃんはボンゴレとは関係ないから!
 っていうかなんで京子ちゃんが、は、はな、花嫁候補!?」
「私はリボーンとディーノからそう聞いてるけど…あと、あのハルって子も」
「あのふたり何吹き込んでるんだーーーーっ!!」

窓の外に向かって頭を抱えるツナに、周囲の反応はよくある光景でも見るかのようだ。
誰一人訝しむ者もなく、心配する者も居ない。…良いのだろうか、これで。

「…親戚か何かなワケ? 沢田とさん」
「えーーと…親戚じゃないけど、さんのお父さんとうちの父さんが知り合いで…」
「ツナのお父様のご好意で、ホームステイさせて貰う事になったのよ。ええと…」
「ああ、あたしは花。黒川花よ」

ツナと同じ年齢とは思えない大人びた少女はそう名乗って、笹川京子と同じように手を差し出してきた。
その手を握り返して、私はやんわりと微笑む。

「そう。Ms.クロカワね、よろしく」
「やっだ、そんな呼び方やめてよ違和感あるし! 花で良いよ」
「私も京子で良いよ。…あの、さん」
「はい?」

おずおずと掛けられた声に、私は首を傾げた。
確か聞いた話では、彼女は今現在はまだ一般人。私の正体なんて、気付くはずもないのだけれど。

ちゃんって呼んでも良い?」
「……」

いったいどんな重要な話なのかと構えていた私は、彼女の口から発せられた一言に思わず目を瞬かせた。
同様に、きょとんとしていたツナが、ハッと我に返ったように口を開く。

「ちょ、…きょ、京子ちゃん…あの、さんは実は」
「ええ、構わない」
「えーーっ!?」

小さく頷いた私に、ますます困惑顔になったツナが悲鳴に近い声を上げた。
そして、私と京子を交互に見やる。実に忙しない。

「本当? 良かった!」
「日本の敬称にはどうしても違和感があるの。私は名前で呼ばせてもらうわね」
「うんうん! これで私達もお友達だね」
「ありがとう、京子。花」
「うん、これからよろしく」

嬉しそうに微笑う京子と、幾分大人びた対応の花。
実に対照的な級友を前に、私も微笑み返す。

私は今日から、この並盛中学とこのクラスに完全に溶け込まなければならない。
それを考えれば、女友達が出来ることは良いことだ。それがボンゴレ10代目の花嫁候補ならば、尚のこと。

「…女の子って…」
「さすがだなー。獄寺も見習えよ」
「けっ」

授業のことや近所にある店の情報等を、楽しそうに話始めた京子と花、そして私。
その光景を後ろから眺めながら、ツナ達男性陣が呟くようにそんな話をしていたのが聞こえたけれど…。
どうにも、私にはその会話の意味はよくわからなかった。


+++


「日本の授業ってどう? やっぱりあっちより進み遅いかな」
「んー…いや、よくわからない。分野がだいぶ違う」
「へぇ…そんなに違うんだ」
「倫理とか経済学とか、ああ、医学系も全然無いし」
ちゃんそんな勉強してたの? すごーい」
「…あんたいったいどんな学校に行ってたわけ?」

放課後。
私の周囲に集まっていたクラスメイト達を一蹴して、京子と花は世間話に花を咲かせていた。
私とは住む世界の違う彼女達の話は、ある意味では新鮮だ。
私はツナに言われた通りに、マフィア関連の情報のみを伏せてふたりの質問に答えていた。

だけど、そろそろ部活に入っていないツナは、帰宅する時間だろう。
そう思った矢先に、近づいてきた気配に私は視線を動かした。

「…オイ」
「何か用かしら、獄寺」
「『何か用かしら』、じゃねぇだろ! 朝の話を忘れたのか!!」

怒鳴られて、少し考える。
そしてようやく、今朝リボーンに提案された話を思い出して、ぽんっと手を打った。

「………おお」
「って、本気で忘れてたのかよ!?」
「うん、ごめん」

素直に謝ったというのに、獄寺の眦はますます吊り上がる。
どうしてこうも短気なのだろう。子供だから、という言い訳はマフィアの世界では通用しないのだけど。

「どうしたの、ちゃん」
「獄寺が妙にテンション高いけどいったい何?」
「ああ、ごめんふたりとも。ちょっと約束がね。
 それじゃあ行こうか、獄寺。私は場所がわからないから、ちゃんと案内してね」
「…わぁーってるよッ」

ふたりに謝ってから獄寺の方に向き直ると、彼は付いて来いと言わんばかりに乱暴な足取りで歩き出す。
彼が向かう先――教室の出入り口には、既に帰り支度を終えたツナと山本がいた。
他のふたりはともかく、ツナを待たせるわけにはいかない。

「また明日ね、ちゃん!」
「気をつけて帰るんだよ、
「ありがとう。また明日ね、京子、花」

笑顔で手を振るふたりに手を振り返して、私は出入り口で待つ3人の元へ向かう。

さん」
「ツナ。…ごめんなさい、待たせてしまったようね」
「ううん、それよりあの、京子ちゃん達と話してたのに邪魔しちゃって…」
「良いのよ。また明日も話出来るし」
「そ、そう」

そもそも、ツナが謝るようなことではない。
本来なら「雑談を邪魔した」ことを謝るべきは獄寺なのだろうけれど、彼は私が来た途端に先に歩き出してしまった。

「それじゃあ、行きましょうか。カセンジキってどこ?」
「「「………………」」」
「え? 何??」

訊ねた瞬間、ツナと山本は、一瞬固まってからまじまじと私を見る。
何か変なことを言っただろうかと内心狼狽える私に、噛んで含めるような口調で山本が口を開いた。

「…あのな、
「うん?」
「河川敷ってのは地名じゃなくて、河道と堤防をあわせた区域のことを指すんだ」
「…つまり?」
「学校からツナの家までの間に、川があったろ? そのあたりで広いところ、あったよな?」
「うん」
「そこ」
「………」

…つまり、カセンジキと言うのは、『allaghi chiaramente』。
…英語で言うと、『flood plain』?

「……日本語って難しい」
「それだけ喋れれば充分だって。じゃ、そろそろ行くか」

促され、私は素直に頷き、ふたりに続いて歩き出した。


+++


指定された河川敷へ辿り着くと、いったいいつからそこに居たのかリボーンが仁王立ちで待っていた。

「来たな。待ってたぞ」
「遅くなったわね」
「構わねーぞ。待ってる間に面白い勝負方法を思いついたからな」

僅かな変化でしかないが、そう告げたリボーンは実に楽しそうだった。
彼のことだ、きっと合理的な勝負方法を考えついたのだろう。

「で。勝負方法はなんなんスか、リボーンさん?」
「ふたりは同じ中距離支援型だからな」

――確かに、そうだ。
ダイナマイトを扱う獄寺と、小銃を使う私。
共に中距離支援型に区分される戦闘スタイルだし、同じ火薬系を使うという点でも共通点はある。

「まず腕力でが獄寺に敵うわけがねぇ。取っ組み合いはなしだ」
「当たり前だろ! さんは女の子なんだぞ!?」
「だからなしだって言ってんだろーが。黙って聞けバカツナ」

小さな拳でツナに厳しい突っ込みを叩き込むと、蹲るツナに構わずリボーンは説明を続ける。
慌てて獄寺が抱き起こしたけれど、別に怪我はなさそうだ。…当然か。

「となれば、スピードと正確さの勝負だな」
「スピードと…正確さ?」
「そうだ。で、ここにボンゴレリングを模した腕輪がある」
「いつ作ったんだよそれ…」

ツナのツッコミに、リボーンはニヤリと唇の端を持ち上げて嗤った。
そして、私と獄寺にそれぞれ腕輪を差し出す。

「大空のリングを模してあるからな。中央にガラス玉を埋め込んでおいた」
「…意外と軽いっスね…」
「相手の腕にはまったこれを、制限時間内に割った方が勝ちだ。
 ただし取っ組み合いで割ったら無効だぞ。素手で割るのはNGってことだ」

手首に填め、感覚を覚える。
軽いせいだろうか、付けているという感覚が薄い。

「単純明快ね。わかりやすくて良い」
「けっ」

小さく頷く私に、獄寺は舌打ちした。
まったく、この子は敵意――否、対抗心を隠そうともしない。
これが普通の少年なら「可愛い」で済むだろうけれど、立場ある人間としてはどうだろう。

「よし。それじゃあ始めるぞ――Inizio(始め)!!」

それが合図だった。
ツナと山本が私達から距離を取る。
それを確認してから、私はホルスターに手を伸ばした。

「行くぜ…っ」
――遅い」

獄寺がダイナマイトを取り出した瞬間、私はホルスターから抜いたショットガンの引き金を引いた。
盛大な音を立てて、獄寺の腕に填められた腕輪のガラス玉が砕け散る。

「「「………………………」」」

周囲に沈黙が漂う。
ホルスターにショットガンを戻して、私はリボーンの方に視線を向けた。

「Fine(おしまい)。…リボーン、これで良いのかしら?」
「さすがは《爆炎の魔女》だな。オレには及ばねェが、噂通りの良い腕だ」
「光栄だわ。片方だけだと、いまいちしっくりこないけど」

あの速度なら、一丁抜くのが私の限界だ。
普段二丁銃を使うせいか、どうにも片方だとバランスが悪い。

「…い、今の…何?」
「言ってなかったか? は《爆炎の魔女》の異名で呼ばれる早撃ちの名手だ。
 二丁銃使いとしても有名だぞ。幼い頃から英才教育を施された、エリートマフィアだしな」
「そんなに誉められるほどではないわ、リボーン」

エリートと言えばそうかもしれないけれど、リボーンにそこまでの評価を貰える程じゃない。
そんな意味を込めて答えれば、リボーンは小さく頷いた。

「ああ。僅かに反応が遅れたな、。要修行だぞ」
「…ええ。精進します」

さすがはリボーン…見抜かれていた。
彼の教えを受けているのだ、ツナを始め獄寺達守護者も、今は未熟でもすぐに私を追い抜いていくだろう。

――そう、決して獄寺は弱いわけではない。
現段階では、私の方が強かった。ただそれだけの結果だ。

「…………」
「…獄寺? おーい、獄寺ー?」
「か、固まってる…」

だけど、獄寺本人には重大な事だったようだ。
完全に硬直している彼の周囲に、ツナと山本が駆け寄るけれど反応がない。

「落ち込む必要はねぇぞ、獄寺。
 今この場で、に勝てるのはオレくらいだからな」
「そ、そんなに、強いん、だ?」
「だから、言ったでしょう。私の方が護衛に向いていると」

ツナの問いに小さく頷けば、その場に奇妙な沈黙が流れる。
表情を引きつらせるツナと、硬直したままの獄寺。そして、どこか面白そうに私を眺める山本。
三者三様の反応に私が首を傾げると、リボーンが口を開いた。

「馬鹿正直な真っ向勝負じゃ学べないことを、から学べ。
 か弱い体を武器に変える術を、こいつは熟知しているからな」

そんなリボーンの言葉を合図に、私はツナの方へ足を踏み出す。
彼の部下ではない私は、礼を取る代わりに自らの利き手を差し出した。

「改めてよろしく、ツナ。そして獄寺、山本」

上手く微笑えていたとは、思うのだけど。
そう私が告げた瞬間の彼等の表情は、それこそ三者三様だったけれど。



共通して言えたのは、そこに含まれた感情が『驚愕』だったことだ。






普通に見える人間の方が実は普通じゃないかもしれない。



To be continued?

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