「………………」

携帯を片手に、私は顔を引きつらせた。
…いや、はぐれた私も悪い。悪いんだ。
だからって…これはないだろう。

『だから、商店街を真っ直ぐ行くと近くに公園があって、そこ横切ってだなー』
「ンな抽象的な案内でわかりますか。部下のひとりでも迎えに来させようとか思わないの?」
『悪い。これからこっち仕事なんだ』
「酷ォ!?」

笑いながら言うことじゃないよ!
始めて来た日本で、初めて行く家まで案内人無しって酷くない!?

「…ディーノ。あんた実は私のこと嫌いでしょ?」
『待て待て待て! 拗ねるのは良いけどそれは誤解だって!』
「知りません。…私がこのまま行方不明になったら、ディーノのせいだからそのつもりで」
『ちょ、』
「じゃあねッ」

まだ何か言ってるディーノの言葉を無視して、私は携帯の通話を切った。
…どうせこのまま喋ってても、途中で仕事を理由に切られるのは目に見えている。

私とて、代理とは言えひとつのファミリーを預かるボスだ。
マフィアのボスが、表も裏も仕事で忙しいのは充分、理解している。

しかし。
仮にも、ボンゴレ10代目の花嫁候補を、だ。
――部下のひとりも付けずに、放り出すってどういうこと。

「あ~~~…ッ…最悪…!!」

盛大なため息を吐いて、私はそう呟いた。



標的01 予想外の邂逅




「…んー…今ってまだ、こっちの学生は学校に通ってる時間かな…」

日本の時刻に合わせた腕時計を見下ろし、私は首を傾げた。
家は案内がいなければわかりにくい。なら、学校に行った方が本人にも会えるし、案内人も得られて一石二鳥だ。
聞けばボンゴレ10代目は、なんと一般人の通う学校に通っているらしい。
おいおい、いくら平和な日本とは言えどうなのそれ、と呆れたものだ。

そしてどうやら、私もその学校へ通うことになるらしく。
…まぁ、私が彼の花嫁候補に選ばれた時点で、気付いて然るべき事態だった。
何せ同盟ファミリーの王者たるボンゴレだ、10代目と同世代の娘が居る幹部なんて、それこそ腐るほどいるはず。
にも関わらず、別のファミリーの、しかも次期ボスの実姉である私が選ばれた理由は――

――護衛兼任、家庭教師兼任…ってところか。
 守護者もまだ全員学生だって言うし、さすがのアルコバレーノもひとりじゃ大変だろうしね」

人間はこうやって無理矢理納得していくことで、望まない世界でもなんとか生きられるんだろうなぁ。
さすがに順応性有り過ぎだろ自分、と思わなくもないが。

「…ま、いいか…ええと、並盛中学、か…」

ディーノに渡された数枚のメモを見下ろし、私は足を止めた。
…住所は書いてあるけど、地図がない。
………本当に嫌われてるんじゃないか私、とか思ってしまった。

「仕方ない、人に訊くか…」

幸い、学校なら地元の人間は誰だって知ってるはず。
私の外見は、見る人が見なければ普通の少女だ。何も怪しまれる要素もない。

そうと決まれば善は急げ。私は、きょろきょろと周囲を見回した。
そして、友人も家族も恋人も伴わず、ひとりで颯爽と歩く少年に目を留める。

「すみません、道をお訊ねしても良いですかー?」

駆け寄って声を掛けた。
…掛けたのだが。

「……」

彼は無言で、私に一瞥をくれることもなく歩いていった。
…無視? 無視ですか…?

「ちょっと! 訊いてる?」
「……」

また無視された。
…いい加減頭にくる。

「人の話を訊けッ」

がしっ、と。私は彼の腕を掴む。
ようやく私に気付いた、という様子で、彼は振り返った。

「…何?」
「何って。…道を教えて欲しいんですけど」
「面倒くさい」
「おい」

思ってても言う事じゃないと思う、それ。
彼は整った綺麗な顔に、不機嫌そうな表情を浮かべて言った。

「離してくれない?」
「道を教えてくれたら離すわ」
「何様なの、君? …殺すよ」

今時の日本の学生って、随分物騒だ。
とは言え、強面の部下5000人を従えるマフィアのボスたる私が、一介の学生に怯えるわけもない。

「殺し合いなら間に合ってるわ、今は道を訊きたいの」
「……君、変わってるって言われない?」
「多々」
「…………」

真顔で応えた私に、彼は一瞬目を瞠ってから、小さく嗤った。
とてもじゃないが、微笑むとか、無邪気な笑顔とか、そういう形容詞を当てられない、笑みで。

「…変な女」
「失礼ね…」
「気が変わったよ。…で、どこに行きたいの」

どうやら、教えてくれる気になったらしい。よくわからないけど。
まぁ、気が変わったというのなら、次に気が変わる前に訊いておこう。

「並盛中学…あ、住所はこのメモに…」
「…何、僕の学校に何か用?」
「は?」

〝僕の学校〟?
言葉に含まれた尊大さに、変な違和感を感じて思わず顔をしかめた。
自分が通う学校、という感じには、聞こえない。
どちらかと言うなら、まるで自分の所有物へ向けるような、そんな響き。

「…君、名前は?」
「……」
「ああ――転校生か。聞いてるよ」
「は…?」

今度こそ、私は目を瞠った。
私の転入手続きは、既にボンゴレの徹底した情報改竄を持って、完了している。
転入予定日は3日後。一般の生徒が知るような情報では、無い。

「…あの。あなた、何者?」

学生だとばかり思っていたけど、もしやボンゴレの情報操作を行う特殊工作員か?
いや、そもそも、中学生には見えない。
――もしかして、私は接触してはいけない存在に、声を掛けてしまったんじゃないのか…?

「……」

スッと、私は彼から手を離した。
警戒した私の表情を見てか、彼は小さく嗤う。


そして、その綺麗な顔に何とも物騒な笑みを浮かべて、彼は告げる。
まったくもって予想外の、ある意味拍子抜けするような、自分の素性を。






――並盛中風紀委員長、雲雀恭弥」






並盛のボスと予想外遭遇。



To be continued?

気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。