別れてからの、ふたりぐらし 05





「おはようございます、学長」
「ああ、か。よく来てくれた」

返事も待たずにドアを開けたに、慣れているので特に気にせず夜蛾は返事を返した。
しかし、当たり前のように彼女と一緒に入室してきた五条に首を傾げる。

「…なんで悟と一緒なんだ?」
「同じとこに住んでるのに別々に来る必要ないでしょ」
「?」
「え、お前まさか学長に言ってないの」

すっかり報告済みと思っていたは、目を瞬かせて五条を見上げた。

「え? 言う必要あった?」
「あるだろ。適当過ぎるわ」

深くため息を吐き出して、は現状を掻い摘んで夜蛾に説明した。
話が進むにつれて夜蛾の表情には困惑の色が濃くなってきたが、最終的に彼はすべてのツッコミを放棄する。

「…………なるほど。いや、オマエ達も世間一般的には大人だ、とやかく言うまい」
「28になってその言い方をされるとは思いませんでした」
「ただ、学生達の前では節度ある態度で頼む。大人として」
「私って五条と同じ扱いなんですか!?」
「え。どう言う意味」
「そういう意味だよ言わせんな」

要するに問題児扱いなわけだが、としては甚だ遺憾である。

「…改めて仕事の話をしよう。には昇級のために東京に来てもらったが、監督官を務めることになった悟が教員の仕事と出張でバタバタしている」
「なんでもっと暇な時期に呼んでくれなかったんですか」
「そんな状況なので人手不足ということもあり、には臨時講師として東京校に暫く勤めてもらうことになった」
「詳細の説明をする気無いんですね?」

なぜこのタイミングなのかという理由を話す気は、五条にも夜蛾にも無いらしい。そもそも意味がなくて、思いつきなのかもしれない。

には主に悟のサポートを頼みたい」
「え」
「コイツの出張が最近多くてな。一年生が放ったらかしになるのは良くないだろう」
「ええええ~…コレのサポートぉ…?」
「なんで嫌そうなんだよ」

サポートと言えば聞こえはいいが、つまりは尻拭いである。余計な仕事も押し付けれそうだな、とげんなりしているの思いは、まあ通じないだろう。

「必然的に一年生との接点が増えることになる。伏黒とは面識があったな」
「ああ、はい。あと昨日、虎杖には会いました」
「虎杖に?」
「このバカが荷解き要員に連れて来ました」
「何やってるんだオマエは」
「暇そうだったから」

悪びれもしないその態度に、諦めたように夜蛾は深く溜息を吐き出した。諦めないでちゃんと叱ってっほしい。

「…不満は多々あるだろうが、現状、私が動かせる術師の中で悟のサポートが出来るのはオマエしかいない。苦労をかけるがよろしく頼む」
「……夜蛾学長にそこまで言われて断れると思います? 承知いたしました。出来る限りやらせていただきます」

問題児に苦労している恩師の頼みだ、断るわけにもいかない。そもそも断れる立場にもない。
自分のことは棚に上げて、は渋々頷いた。



.
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「…やっぱり今回の主犯はお前だな五条。夜蛾学長を巻き込めば私が逃げられなくなると思ってるだろ、コノヤロウ」
「否定しないけど、の昇級に学長が乗り気なのも本当だよ」

もはや誤魔化す気も無くなったらしい。
思いつきか嫌がらせかとも思うが、去年の乙骨憂太の件から始まり、今年の両面宿儺の一件。誘発されるように次々と起こる特級呪霊案件。偶然と片付けるには立て続けに事が起こり過ぎている。
五条が掛け値なしに信用して使える人材は、そこまで多くはない。だからこそを東京に戻したかったのだろう。

「手駒は多い方が良い、ってか」
「へぇ。手駒になってくれるの?」
「寝言かな?」
「だよねぇ」

まったく、回りくどい。
普通に「協力してくれ」とでも言えば、それで済んだ話だろうに。
そう思いつつも、は何も言わなかった。自分から言うのは癪に触る。
会話が途切れるのとほぼ同タイミングで、ふたりは一年生の教室前に到着する。

「みんなおはよ~」
「あー! 先生来た!」
「何で毎回、絶妙に怒られない程度の遅刻するのよ教師のくせに。腹立つわね」

挨拶より先に、文句が飛んできた。

「…開口一番文句言われてるけど」
「元気でしょ」
「いや、まあ、元気いっぱいだけれども」

要するにこれも、日常茶飯事ということか。
去年も似たようなことやってたなコイツ、と胡乱げに視線を送るが、それで何か反応を示すほど繊細でもない。

「はいはい、落ち着いて。今日は転校生を紹介するよー」
「誰が転校生だバカヤロウ」
「いてっ」

軽く蹴りを入れながら、も教室に顔を出す。
瞬間、同時に声が上がった。

さん!?」
さん!?」

面白いほど同時に声を上げたのは、ふたりの男子生徒――虎杖と伏黒だった。別々のタイミングではあるが、は彼らと面識がある。

「…え? あれ? 伏黒、さんと知り合い?」
「オマエこそ…」
「え? なになに? 誰よ?」

ひとり、事態を飲み込めていない女生徒が両隣に座るふたりに忙しなく視線を送る。

「臨時講師の先生ですよー。というわけで、、挨拶」
「…お前…。…えー、準一級術師、です。諸事情で臨時講師として東京校にしばらく詰めることになりました。2名ほど既に顔見知りだけど、改めてよろしくね」
「今日からしばらく、には僕のサポートをしてもらいます。ま、副担任とでも思ってよ」
「「「サポート?」」」

復唱して、三人は顔を見合わせた。
そして、困惑と呆れを含んだ視線を、担任教師へと向ける。

「…つまり五条先生の尻拭い? 最悪ね」
「え、さんかわいそう…」
さんレベルの術師が臨時講師っておかしいでしょう。また五条先生は何かやらかしたんですか」

驚くほどに信用がない。
顔を合わせて数秒で同情の眼差しを受け、は隣に立つ五条をジト目で見上げた。

「…五条、お前…驚くほど信用ねェな…」
「おかしいなぁ」

厳密には、信用も信頼もされているが尊敬はされていない、という方が正しいのか。

「準一級って言ったら狗巻先輩と同じ等級よね」
「等級はな。…実際はあの人、一級相当だぞ。こんなところで遊ばせておける人材じゃない」
「喧嘩強そうだもんな。電車壊してたし」
「「え?」」
「虎杖ー! そこはオフレコで頼むー!」

あれは完全に不可抗力なので忘れて欲しい。

「と、いうわけで! 昨日言った通り、実技の訓練を始めるよ! 着替えて運動場に集合!」
「いきなりかよ!」
「いや、あの、なんでさん連れてきたんですか」
「そりゃもちろん、」

口々に声を上げる生徒たちに対して、五条が返したのは、どこか人の悪い笑顔だった。

「僕と相手に、戦ってもらうからだよ」


+++


「特級と一級相当相手に戦えってなに? 新手の拷問?」
「俺たち生きて授業終えられるのかなぁ…」

言われた通りに着替えて運動場に集合してきた三人は、口々に文句を口にする。
事前に『実技の訓練』とは聞いていたが、内容があまりにも突飛だった。

「はいはい、腐らなーい。こっちは術式使わないんだから気張れよ」
「そういう問題ですか?」

その程度でハンデになるのか、という疑いの目だった。
まあ、私が同じ立場なら同じこと言うよな――と思いつつも、その突飛な五条の提案に普通に乗ったのは自身でもある。
そもそも、も五条も運動をするような格好ではない。

「つーか、先生ジャージでもなければ足元ピンヒじゃん!」
「五条先生もそれ、私服? ふたりともわざわざ着替えたの?」
「なんでだよ! デートにでも行くのかよ!」

野薔薇が怒るのも無理はない。
着替えて運動場に集合――と言った大人ふたりが、どう見ても運動とはかけ離れた服装で待ち構えていたのだから。

「デートだって。行く?」
「ふざけてないでちゃんと授業しましょーね、五条先生」
「…に『先生』って呼ばれると、こう、なんかクルものがあるよね。もう一回呼んで?」
「バカ言ってないで授業やれよ」

冗談か本気かわからない五条に対して、は呆れたように目を細めた。
だが格好のせいで、これからデートに行くカップルがじゃれているようにしか見えない。

「なにあれ」
「あー…」
「あの人たちはいつもあんな感じだよ…」

諦めたような声とため息に、いつもの調子で言い合っていた大人ふたりはコホン、と小さく咳払いをする。
そして気を取り直したように、パンっと柏手を打った。

「と、まあ、冗談はこのくらいにして。今日は連携の実技訓練をやります」
「連携の実技訓練?」
「そ。クリア条件は単純。あそこのゴールに3人全員が時間内に到達したらクリア。僕とはその妨害役」

五条が示した彼らの背後には、赤い線で囲われた四角い謎のエリア。
その四角の中に入ればゴール、ということらしい。単純と言えば単純なルールだが――

「3人全員だよ。ひとりが僕らを抜いただけじゃダメ、ってこと。悠仁に特攻掛けさせるのはオススメしない。ちなみゴール地点に到達しても行動は自由とします」
「ゴール地点に到達した後でも動いて良い、遠隔攻撃は有り、ということですか」
「そうそう。でもゴール地点のあの線から出たら最終的には未到達とします。出入りは自由。
 なお、妨害役によってひとりでも続行不可能に追い込まれたら即終了としまーす。先生は手加減するのが死ぬほど苦手な困ったさんなので、三人とも怪我しないように気をつけてね~」
「人聞き悪ィな!」
「事実じゃん」

確かに苦手だが、死ぬほど、と付くほど不得手なわけでもない。
ぎゃーぎゃー言い合うふたりを眺めながら、今のうちにと三人は額を寄せ合って作戦会議を始める。

「…あのふたり、というか五条先生って他人と連携とか出来なさそうだし、個別で対応するのが妥当ね。虎杖、アンタ的に先生相手だとどんなもんよ」
「うーーーん……ギリ互角、かなぁ…」
「げ。あの人そんな強いの」
「めちゃくちゃ強い。五条先生とも、真希さんともタイプ違うけど。あー…うーん…強いて言うなら東堂が近い」

は野薔薇と大して体格が変わらない。
あまりにも東堂とはかけ離れている。思わず、野薔薇は顔を顰めた。

「…アレと一緒にしたらダメだろ」
「見た目の話じゃなくて近接戦タイプの話だよ! だってあのナリで電車壊すような蹴りかますんだぞ? ろくに力溜められないような狭いところで。しかもガチでやったら電車真っ二つって五条先生が言ってた」
「真っ二つ!?」
「…まあ、確かに強いけど。五条先生相手にするよりかは勝算あるだろ」
「五条先生はどうする?」
「正直、どう動くかわかんないわね。普段を考えるとあんまり積極的に来ない気もするけど、守備範囲は広そう」
「五条先生は取り敢えず様子見。多分、さんが動き回って五条先生はのんびりゴール手前で待ってる気だろ。さんは確実に自分から前に出てくるから、先になんとかする」
「なんとか」
「虎杖の憶測は多分正しい。…あの人、近接戦めちゃくちゃ強いんだよ…基本の呪力操作と体術だけで準一級くらいまでは軽く祓う」

伏黒との付き合いもそれなりに長い。
何度か任務に同行させられたこともあるし、一緒に任務に就いたこともある。
準一級以下を祓っている姿しか見たことはないが――

「…前にビンタで祓ってるところ見た」
「ビンタ」
「逆に怖いな」

殴るとか、蹴るとかではなく、ビンタ。
低級呪霊を術式無しで祓う術師もそれなりにいるが、呪霊の方もまさかビンタで祓われることになるとは思ってもいなかっただろう。

「となると、遠隔攻撃で足止めるのが最適解ってわけね…」
「でもめちゃくちゃ足速かったらどうすんの? というか確実に速いだろ」
「それこそ足潰すしかないでしょ。正直な話、虎杖レベルに早かったら私じゃ絶対逃げきれないわ」
「あの靴でどこまで速度出してくるかわからないが…」
「よし、ヒール折ろう」
「マジで。超高い靴とかだったらどうすんの。俺怒られるのやだよ」
「……そのときは、そのときよ!」
「…まずは俺と虎杖で止めてる間に釘崎を抜けさせる。虎杖、いけるか」
「おう。術式無しならまあ、足止めくらいいけるだろ」

真剣に作戦会議に集中している三人を、既にいつもの痴話喧嘩紛いの言い合いを終えていたと五条は、軽い準備運動をしながら眺めていた。
ふたりが学生の頃は、この手の訓練はだいぶ雑な感じに受けていたものだが、三人は随分真面目である。

「なになに、随分慎重だね?」
「うーん? ちょっと甘く見積もられてますかね、私?」
「まー、の見た目じゃ強そうには見えないよねー」
「それは喜んで良いのかね」
「良いんじゃない? カワイイってことでしょ」
「…五条が言うとおちょくられてる感じしかしねェな」
「なんでよ。褒めたのに」
「お前がひとを普通に褒めたことがないからだよ」

そして、この場合の『カワイイ』は果たして誉め言葉だろうか。

「おーい、三人ともー。始めるよー?」
「えっ? あ、はーい」

元気良く返事を返したの虎杖だけで、伏黒と野薔薇は静かにジリと構えを取る。
自分から打って出てくることはないだろう。ふたりは肉弾戦タイプではない。

「まあ、いいや。まどろっこしいので私からいっちゃいまーす」
「マジか。大人気ないな」

ゆら、とは僅かに体の重心を傾ける。
低く下がった不安定な体勢から、溜めの動作無しで飛び出す。溜めの動作のない動きは威力が低いが、その分速い。移動における所作としては最適だ。意識して出来るかどうかは、個人差があるが。

一気に距離を詰め、は野薔薇の眼前に移動する。
その間、瞬きの如き数秒。距離を詰められた側は、瞬間移動でもされたように錯覚するだろう。

「釘崎野薔薇チャン、だっけ? 女の子の術師ってそんな多くないんだよな、仲良くしよーね。取り敢えずいまは腹に力入れた方が良いよ」
「は!? え!?」
「いや、まあ、」

困惑と驚愕の入り混じった表情で後ずさる野薔薇に向けて、はにこりと微笑う。

――脆いところから叩くでしょ、普通」

言った瞬間。ニヤリと悪役のような笑みを浮かべて、脚を振り上げた。
当てる寸前で勢いは殺したが、それでもそれなりの威力はある蹴りを受けて、野薔薇の体は軽く跳ね、転がっていく。

「釘崎!」
「い、生きてる生きてる! でもめっちゃ痛い!! 腹に呪力集中させてなかったら死んでた!!」

腹に力を入れろ、と言われた段階で無自覚なまま意識がいっていた。転がったものの、目立った怪我はない。

「いや殺さねーよ、そんなに強くしてないって。ひとのことなんだと思ってんの」
「でもさっきの、相当悪人面だったよ」
「悪かったな」

即座に立ち上がった野薔薇を見て、は目を細める。
最悪、防御が間に合わないことも想定していたが、思ったよりも野薔薇の運動神経が良い。

「想定より断然速いじゃん! ピンヒでなんであんな動けんの!! ほとんど瞬間移動じゃない!」
「着地、爪先しか使ってないから…かなぁ…」
「縮地法ってやつ!? どこの武術の達人だよ!」
「縮地は瞬間移動じゃねぇよ?」
「縮地は踵使うだろ、あの靴じゃ無理だ。…さんのは我流だよ。格闘技ごちゃ混ぜの所謂喧嘩技。金蹴り目潰し当たり前、確実に嫌なところ突いてくる」
「現実的な分、別の意味で五条先生より厄介じゃん…」

五条の底知れない強さとは、方向性がまるで違う。
の強さは、三人の尺度で測れる強さだ。対処法も力量の差もわかりやすい。だからこそ、攻略の困難さを自覚させられる。

「作戦会議が長過ぎないかな。私は3対1でも構わねェよ?」
「めっちゃ煽ってくるなあの人!?」
「しょーがねぇ、やるか!」

即座に飛び出して来た虎杖のスピードに、は目を瞠る。足を狙って繰り出される低い位置からの蹴りを跳んで避けながら、器用に拍手を送った。

「おお。速いな」
「この状況で言う…? 先生やっぱ変だわ…」
「あれ? 先生呼びなんだ?」
「臨時でも先生は先生でしょ?」
「なるほど。素直で良い子な悠仁クンには花丸あげますねー」
「小学生じゃねぇんだけど!?」

蹴り、掌底、それぞれ速度も重さも十分にある攻撃。それらを紙一重で避けながら、少しずつ野薔薇と伏黒から距離が離れていることに気づき、なかなかやるなぁとは感心して虎杖を見る。

「当…ったらねーな! もう!」
「そう簡単には当たらねーよ」

さすがに当たったら痛そうだな、などと考えながらステップを踏むように拳をいなす。
あまり調子に乗ってじゃれてるいると、野薔薇と伏黒が動くだろう。彼らの術式は遠隔攻撃が強い。
さてどうしたものかな、と呟いた瞬間、思わぬ距離から来た拳を、は反射的に腕で防いだ。

「お?」
「でも、ちょーっと慣れてきた…!」
「へぇ…?」

いくらが動きにくい格好をしているとはいえ、速度に慣れるのが、格段に早い。
これは確かに逸材だ。無自覚なままに、は笑みを深くする。僅かに、脚に力が入った。

。下」
「!」

後ろから雑に掛けられた声に、ハッと我に返っては姿勢を崩した。
足から力を抜いて、低く沈み込むように腰を落とし、そのまま体を捻る。
地面に手を着くことなく方向を変え、虎杖とは逆方向――野薔薇の方へと駆け出した。

「え…えぇぇぇ…ウソだろなんであそこから方向変えられんの…」
「膝抜きだよ。と悠仁の体格差だと一瞬消えて見えるかな。あれは体質関係ないから、悠仁にも出来るよ」
「膝抜きはあの靴じゃ出来ないだろ、…って、あれ!? 先生!?」

いつの間にこんな近くまで来たのか。
相変わらず神出鬼没な五条に驚き、虎杖は目を瞬かせる。

「ごめんねー、悠仁。が悠仁とはやりたくない、って言うからさ。悠仁の相手は僕がするよ」
「えっ」
「いくら訓練でも隙だらけなのは良くないね」

手を伸ばして、虎杖の頭を軽く掴み――そのまま、地面に叩きつけた。

「い~~~っ、てぇ! 容赦ねーな! デコ割れた!」
に蹴られるよりマシだと思うよ。僕はホラ、ちゃんと手加減できるから」

手加減して額を割られるなど、堪ったものではない。
虎杖からするば擦り傷程度ではあるが、ダラダラ流れる血で若干視界が悪い。

先生だって手加減してくれてるだろ?」
「今はね。闘ってると楽しくなっちゃうタイプなんだよ、アイツ。いやぁ、危なかった」
「意外」
「あと悠仁とは体質的に相性悪いね」
「同じ肉弾戦タイプなのに?」
「うん。は周囲の呪力を吸収しちゃうからさ、宿儺と間接的に接触する可能性があるからね」
「!」
「普通にしてる分には大丈夫だよ」

そーですか、と返して、不意に虎杖は不思議そうに首を傾げた。

「…それ、体質なんだろ? 『普通にしてる分には大丈夫』、ってなに?」
「……」

虎杖の疑問に、五条は曖昧に笑うだけで答えることはなかった。


.
.
.


虎杖の援護をするつもりでいた野薔薇と伏黒は、急に方向を変えて向かって来たに思わず一瞬、動きを止めた。

「ぎゃー! 待って待ってこっち来ないで!」
「いやいや、その反応はどうよ」

言われて止まっては訓練にならない。
虎杖とじゃれている間にだいぶ離されていた距離を、一気に詰める。
遠隔攻撃を得意とする術師は総じて近接戦が苦手な傾向にある。野薔薇は割と出来る方ではあるが、それでものように肉弾戦派の術師を相手にするのはだいぶ不利だ。

「助けろ伏黒ぉ!」
「釘崎! 右に飛べ!」

野薔薇の声に呼応して届いた伏黒の声に、はハッと目を瞠る。

――鵺!」
「!!」

眼前に顕れた『鵺』に、一瞬、はどう動くべきか迷った。
迷いは隙を生む。鵺の体当たりをまともに喰らったの体は、勢い良く吹っ飛んだ。

「ちょ、伏黒! 助かったけどアレさすがにやり過ぎじゃない!?」
「いや…さん頑丈だし、この程度だと擦り傷にもならないと思う」
「吹っ飛んでるでしょーが!」

今日会ったばかりの野薔薇に、の実力を測るの難しい。
頑丈だから大丈夫、などと根拠の曖昧な理由で言われても困惑は拭えない。

「君ら手加減出来る余裕ないでしょー。全力でやりな」
「はァ!? 生身だぞ!?」
「大丈夫、野薔薇の金槌で思いっきり殴ってもなら死なないよ」
「そんなわけ――

いくら呪力で肉体強化していても、術式で弾くか散らすか出来なければ、金槌で殴れば確実に怪我をするし、下手をすれば死ぬ。

「…そもそも当たる気ないけどもぉ」
「うぉ!? ホントだ無傷!!」

吹っ飛ばされた向こうから平然と戻ってきたは傷一つなかったが、若干髪型が崩れていた。それを嘆くように、深く息を吐く。

「避けるべきだったなぁ…髪型が崩れた…」
「せっかく朝1時間掛けてセットしたのにね」
「……お前はさっきから私の周りをうろちょろしてるんじゃねーよ、ゴールを守れ。なんで私ばっかり動き回ってるの? 働けよ」
は守るの向いてないじゃん。大丈夫だよ、術式使わなくても僕、最強だもん」
「…これは授業ですよね五条先生?」

オイ、またかよ。
一年生三人の心に共通の思いが駆け抜けた。
厄介なのは、ふざけているようにしか見えないのにふたりとも隙がまったく無く、今のうちにゴールに走ろうと思えないところである。恐らく、走り出した途端に捕捉される。

「またイチャつき始めたんだけど。なんなのよ」
「あれがあの人たちの普通だ、いちいち突っ込むと馬鹿見るぞ。…クソ、帯電の影響も無しか…嫌になるな、本当に」

吹っ飛ばされても髪型が崩れたことしか気にしない、というのもデタラメが過ぎる。
思わず舌打ちする伏黒に、野薔薇は不思議そうに首を傾げた。

「あれどういうこと? 当たったように見えたけど、寸前で避けられたの?」
「違う。ちゃんと当たってる。俺の呪力がさんの呪力に負けた、…というか相殺された」
「術式無しって言ったじゃん」
「術式じゃねぇよ。さんはそういう体質なんだ」

相手にすると、実に厄介。
生半可な攻撃は通らないし、かと言ってやり過ぎれば死にかねない。このさじ加減が非常に困難だった。

「砂埃とかは防げないの、ほんとクソだわ」
「相変わらず頑丈だよね。ほんとに生身?」
「お前がそれ聞くの…?」

五条の場合は無下限呪術による弾く防御だが、の場合は呪力を鎧とした通さない防御である。当たることは当たる。

「野薔薇の遠隔攻撃を考えると先に対処したいところなんだが、恵の式神はさすがに厄介だな。ああいう古式ゆかしい正統派の術式相手にするの、苦手なんだよねぇ…やっぱ先に落とすか」
「ガチじゃん。そういう訓練じゃないよ、まあ良いけど。手加減忘れないでね。無駄に怪我人出すと硝子に怒られるよ」
「既に虎杖の額割ってる奴に言われたくないんだけど」

聞こえて来た呑気な会話に、一年生三人の反応はバラバラだった。

「怒られることじゃなくて生徒の心配しろぉ!」
「言うだけ無駄だろ。…虎杖、無事か」
「へーき! 五条先生ならいつものこと!」
「「確かに」」

戻ってきた虎杖が即答で返した言葉に、伏黒と野薔薇も大きく頷く。
この担任教師の手加減は『死ななきゃ大丈夫』レベルだ。額を割られるくらい今更である。

「俺が動くと五条先生が出てくるからなぁ…どうしよ」
「逆に言えば、先生は虎杖の方には行かない。虎杖を抑えている間は、五条先生は私と伏黒の方には来ない。つまり、虎杖が五条先生を抑えている間に、私と伏黒が先生を抜いて、ゴールに到達する」
「ゴール地点から遠隔攻撃で俺と釘崎が援護して、虎杖がゴールに到達すればクリア、か」

それならなんとかいけそうな気もする。
…するが、最終的に虎杖がほぼひとりでふたりを相手にしなければならない。

「…虎杖の負担が大きくないか」
「気張れ」
「はい…」

頷き合って、三人は妨害役の大人ふたりへ視線を向ける。
――訓練は、まだ始まったばかりだ。


.
.
.



――一時間近く経過しただろうか。
一年生三人は、誰一人倒れてはいなかったがゴールに到達も出来ずにいた。

「なかなか決定打にならないねぇ」
「まあ、優秀なんだけどね。まだバテてないし」
「うん。でもさすがに時間が掛かり過ぎかな」
「初日は仕方ない。…セーブしてやり合うの疲れてきた。そろそろ落としてきて良い? 良いよな? もう手加減するのダルい」
「オマエ、ほんとにガラ悪いな」

ざっとは現在の配置を確認する。
少し、伏黒までの距離は遠い。彼の手持ちの式神から考えると、この距離だと千切られる。

「五条」
「んー」
「肩貸せ」
「どーぞ」

了承の声が返る前に、は軽く地を蹴る。

「…相変わらずデケェな」
「縮むわけないだろ」
「そりゃそうだ」

足場にした五条の肩を蹴って、は大きく跳躍する。
これで空を飛べるわけではない。単なる目くらましと、移動の短縮だ。

「……ピンヒールはさすがにちょっと痛いな」

足場にされた肩を軽く回して、五条は虎杖たちへ声を掛ける。

「悠仁ー、野薔薇ー。恵の方援護しに行った方が良いよー」
「え? あれ!? 先生どこ行った!?」

きょろきょろと虎杖が視線を巡らせるのと、彼の後方にが着地するのは、ほぼ同時だった。

「…いた! 釘崎!」
「私!? 無茶言うなよ!」

それでも虎杖の言葉の意味を正確に受け取って、野薔薇は釘に呪力を込めた。

「こ、のっ!」
「甘い。殺す気で来いよ」

飛んできた釘を叩き落として、はそのまま走る。速度は一切落ちない。
呪霊相手、もしくは無機物に打ち込んで使う場合は思いっきり力を込められるだろうが、相手が生身の人間ともなれば無意識に力にセーブが掛かる。それを警戒して足を止めることはない。

「釘崎、俺のことはいいからゴールに走れ! 虎杖は釘崎のサポート!」
「は? アンタどうすんの!?」
「なんとかする!」
「え? なんとかなるのか!?」
「いいから!」

さっさと行け、と追い払うように手を振った伏黒は、ふと気づく。
――自分の方へ向かってきていたはずのがいない。

「私から一瞬でも意識逸らすとか余裕かな?」
「!!」

急に背後から現れたが、ぐっと伏黒の手を握り締めた。影絵を作るのを妨害するためだと瞬時に気付き、思わず息を呑む。

「今の選択は無いわ。この条件だし、確かに最後にひとり残すのが定石だろうけど、残すなら虎杖だろ。今のお前ひとりで私と五条を相手にするのはさすがに無理だよ」
「…っ」

振り払おうにも、握り込まれた手はピクリとも動かせない。肉体強化の呪力操作に関しては、の方が分があった。

「…相変わらずの馬鹿力ですね…」
「影を媒介にする十種影法術。手が使えないと何も出来ないよな。私をここまで接近させた時点で詰みだ、呪力を防御に回せ」

言った瞬間、は握り込んでいた手を片方離し、思いっきり腕を引いた。
空けた片手で額を押さえつけるように力を込めて、そのまま地面に叩きつける。

「…ハイ、おしまい」

蹴りではなかっただけ、一応、優しさだろうか。

「「伏黒ぉ!!」」
「…ねー、ちょっと、その悲壮感煽る悲鳴やめて? 私が殺したみたいになってるじゃん…。恵ー、ほら起きろー」

倒れた伏黒の横に膝をついて、は軽く彼を揺さぶる。

「…やめて下さい、脳が揺れる…」
「は? バカ、頭守れよ!」
「…いや…蹴りが来ると、思ったんで…一応、呪力の防御は間に合ってるので大丈夫です…」
「あの速度で反応出来たならまあ良いっしょ」
「…お前ほんとに神出鬼没だな」

いつの間にか横にいた五条に、若干引きつつは伏黒を抱き起した。多少血は出ているが、大きな怪我はなさそうだ。

「ハイ、じゃあ今日はここまでにしよっか! みんなお疲れー」

その一言で、初日の連携訓練は終了した。
は裾の砂埃を払って立ち上がる。

「僕たちの勝ちー」
「イェーイ」

暢気にハイタッチしている大人を視界の端に入れて、野薔薇は疲れたようにその場に崩れ落ちた。

「大人気ねぇぇぇ…」

そもそも、ゴールに到達どころかあのふたりを突破すること自体が難問だ。下手な呪霊よりよほど厄介な相手だった。
姉妹校交流会でそれなりの戦績を積めたはずだが、その自信も軽やかにへし折られる。やっていられない。

「伏黒、大丈夫か?」
「大丈夫…まだ頭クラクラするけど」
「脳震盪かな。釘崎は?」
「私はまあ、平気だけど…むしろアンタのそのデコは大丈夫なの?」

わちゃわちゃしている三人の仲の良い姿は、実に微笑ましい。指摘すれば「そんなことない」と言いそうではあるが。

「仲良しなのは良いんだけど…なるほど、五条が言いたかったのはアレか…」
「あ、わかった?」
「うん。いまは虎杖が頭一個抜けてるね。…つまりそういうことだろ」
「話が早くて助かるね。も教員に転職したら? 案外向いてるかもよ」
「ははっ、ご冗談。私は暴れてる方が合ってる、手加減は疲れるよ」

正直に言えば、この一年生三人組は優秀だ。二年生組にも見劣りしない。だからこそ、手加減のさじ加減が難しい。
もともとそう言った微妙な調節が苦手なにとっては、余計に。

「どう見ても好き勝手に動いてんのに、なんであのふたりは連携取れてるっぽくなるのよ…」
「…付き合い長いんだよ、確か12年…お互いの力量、性格、動き、クセに至るまで完全に把握してるだろうし…」
「それはちょっと狡いだろ…知ってたなら教えろよ。今日私、良いとこ無しじゃん…」

そんなことを言い合いながらぐったりしている三人の会話に耳を傾けていたと五条は、顔を見合わせた。

「…まあ、私が五条に合わせるのは正直しんどい通り越して無理だけどね」
「そうだよね~」
「わかってても腹立つなお前は」
「そんなことないよ、って言っても怒るじゃん」
「そうね」

そもそもの前提が違うタイプが連携を取るのは、非常に困難だ。

「じゃ、教室戻って反省会しようか!」
「その前に君らは硝子のところ行ってきな。全員一発ずつ貰ってるだろ」

のろのろと立ち上がり、言われた通りに彼らは医務室へ向かう。
やったのは誰だよ、と思いはしたが三人に言い返す気力はなかった。


+++


一応、硝子に怪我の具合を確認してもらい、処置を受けて三人は教室に戻って来た。
五条は夜蛾に呼ばれて席を外しており、一年生三人組の前には気怠そうに座っているだけがいる。

「三人とも無事かー?」
「まあ、はい」
「それは何より」
「家入さんからの伝言です。「訓練は怪我しない程度に留めろ馬鹿コンビ。オマエらは核兵器とクラスター弾だ、適切な手加減が出来ないならやるな」…だそうです」
「おう…」

割と怒ってるな、それ。
昔から静かに怒るタイプなので、次に会ったら叱られるんだろうなぁとは視線を泳がせる。 

「五条先生は?」
「学長からの呼び出しー」
「また何かやらかしたんですか?」
「多分任務関係だと思うけど…君らにとってはそういう印象なのね…」

それなりに慕われてはいるのだろうが、この信用の無さよ。
苦笑するに構わず、三人はそれぞれの席に着席する。

「五条先生いないけど良いわよね、反省会?やっちゃいましょ。先生に聞きたいことも山のようにあるし」
「何聞かれるんだろー。…じゃ、五条居ないけど反省会しちゃおうか」

五条が不在の際には、ある程度の采配で進めて良いとは言われている。
椅子から腰を上げて、教壇の前に立った。

「さて、結局ひとりもゴールに到達出来なかったわけだが」
「…先生ー、さすがに相手が悪過ぎましたー」
「君らは警戒し過ぎ。もっと大胆に来いよ」
「特攻ダメって言ったじゃん…」

理不尽、横暴、と口々に出てくる文句を手で制して、大人しくなったタイミングでは口を開く。

「君ら三人、一緒に任務とか多いだろ? そのせいかな、息は割と合ってるんだけどねぇ」

この訓練で気づかせたかったのは、恐らく連携の大切さより「連携の精度を上げるために必要なもの」の方だった。

「…まず、野薔薇と恵は打たれ弱いな」
「普通よりは上です」
「虎杖が異常なだけよ」
「異常ってひでぇ」
「まぁね、ふたりとも古式ゆかしい術式だし、肉体強化にあんまり呪力割くのに抵抗あるのもわからなくはないけど。でもホラ、基本が一番大事っていうじゃん? 呪力操作が適切に出来て初めて一人前よ」
「それは結構言われるしわかってるつもりだけど、具体的にどうやるのが正解かわからん」
「正解は…うーん…あるのかな」

偉そうに言ったところで、自身の呪力操作のやり方はかなり歪だ。そもそもの前提条件が異なる。これで説得力のある話は出来ない。

「参考までに、先生のやり方ってどんな感じ?」
「んーーー…なんて言えば良いかな…こう、ひょいっとやって、ぐわーっと込めて、じわっと浸透させて、場合によっては爆発させる、ような…感じ…」
「「なるほどわからん」」
「…結果さえ出せれば、やり方はなんでも良いんじゃないかな…」
「……さん、教える気ないでしょう?」
「私は教師じゃねェんですよ、恵クン。…私から言えることがあるとすれば、…五条はなんかゴチャゴチャ言ってたけど、やっぱり個々人の地力を底上げするのが一番手っ取り早いんじゃないかなぁ…せめて私とか、いや、クセが強いのはダメだよな、うん。理想は七海…」

最低ラインがそこでは、現状ではあまりに厳しい。そこが基準なのはやり過ぎだ。

「ナナミン、一級術師じゃん…」
「……五条先生のせいで目立たないだけで、さんも十分規格から外れかけてるんですよ。自覚ないんですか」
「呪霊相手にしてる方が幾らかマシだったわよ…」
「えー。…でも他人と連携って、ある程度以上実力が無いと無理じゃねェ? 実力差が大きいと絶対ズレるだろ。強い方が合わせる気があれば別だけど」
「「「…………」」」

遠回しに「お前らはまだ実力不足だから連携以前の問題だぞ」と言われたようなものである。

この人、五条先生と同じタイプだな――と、三人は言葉に出さずとも同じ印象を持つ。

自分が強いと自覚していて、かつ他者を自分基準の強いか弱いかで判別している。
五条には教育する気があるので、言葉は強くても助言もするし個々人に合った訓練も施すが、は違う。弱い奴のことなんて知るかよ、というのが彼女の本音だろう。まず教師には向いていない。そもそも連携が取れる術師も限られてくるタイプだ。

「はい! 先生! あの瞬間移動みたいなのどうやるんですか! 教えてほしいです!」
「ハイ、良い質問ですね虎杖クン。結論を先に言うと無理だよ。あれ呪力で作った靴履いて走ってるようなものだから、五条くらい呪力量無いと実戦で使えない」
「五条先生並の呪力って」
「…ごめんさすがに盛り過ぎた。でも呪力量多くないと無理なのは本当。物凄く精密な呪力操作が出来ればまあ、なんとか実用化できるかな…?」
「乙骨先輩とさんの肉体強化はタイプが近いですよね」
「あの子は~……ホラ、呪力量が規格外だから…特級術師って生き物としての規格がそもそも違うからね…」

肉体強化は術師の基本だが、それも呪力量に比例する。如何に呪力を低いコストで回すか、が重要になるわけだが、術式を持たない虎杖にはあまりピンと来ない問題かもしれない。

「元々の足の速さとか体幹とかも関係してくるから、虎杖なら可能っちゃ可能だよ。ただ精度の高い呪力操作が出来るようになるまでは、実戦で使うのはおすすめしない。私は体質のせいでああせざるを得ないだけだから、普通に考えたらコスパ最悪」
「そっかぁ…」
「そもそも君、素で速いからあんまり意識する必要無いと思うよ。変なところに呪力使わない方が良い、悪いクセが付く。それより、まずは古武術の動きを取り入れたら良いよ、虎杖なら確実にパワーアップする」

意識して出来るかどうかは君次第だけどね、と。
そこで話を締め括ったに、伏黒は若干驚いたような様子で呟く。

「…さん、先生みたいなこと言えるんですね」
「恵は私をなんだと思ってるのかな?」
「…いや、基本的に五条先生と一緒にいるときのさんは、本当に、その、色々アレなので」
「アレってなにかな怒らないから言ってごらん」
「絶対怒るから嫌です。
 ……付き合い長いと似てくるものなんですか?」
「え。私と五条が似てるって言ってる? やめて?」

心底嫌そうに顔を顰めるに、まあそうだよなと三人は曖昧に笑う。
似ている部分も多々あるのは、本当だが。

「これは好奇心で聞くんだけど」
「?」
「先生たちが初めて会ったのって、俺らと同じ歳くらいだって言ってたけど、どんな高校生だったの?」
「私らが学生のとき…?」

聞かれて、過去に思いを馳せる。
術師として逸材揃いであったと同時に、全体的にガラが悪い集団だった。

「うーん…君らみたいに可愛げはなかったかな…」
「五条先生は絶対、生意気なクソガキだったでしょ」
「アタリ」

野薔薇の遠慮のない言葉に、はくつくつと笑う。
五条だけではない。あの頃は自身も含めて、どいつもこいつも生意気盛りのクソガキ集団だ。当時の夜蛾の苦労が窺える。

「…12年前、かぁ…」

――約12年前の初冬。
自身の体質も術式もひた隠しにしてきたは、当時はまだ一教員であった夜蛾正道に偶然見出され、東京都立呪術高等専門学校に編入することになった。
別になりたくもなかった術師になろうと決めたのは、夜蛾の人柄と、なにより自身が力を持て余していたことが大きい。
今を思えば、平凡とは言えずともそれなりに平和な日常だった。
…あの時までは――










To be continued?

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