なし崩しに、オカルト研究サークルに入ることになってしまった。
聞けば「オカルト研究サークル」は通称で、本来は「民俗学研究サークル」らしい。
…オカルト好きが集まった結果、何かよくわからないサークルに変貌したようだ。
とはいえ毎日集まってオカルト話に花を咲かせているわけでもないらしく、割とフリーダムなサークルのようだった。
そして今日は、そんなサークルのメンバーから聞いたという心霊スポットに行くらしく…
私は、なんとも言えない気分で待ち合わせの校門前へ向かったのである。
「お疲れさまです、さん。来て頂けて良かったです」
「はあ…まあ、はい…興味がないわけでもありませんし。
ところで、アレは良いんですか?」
「アレ、とは?」
「学食に居た男の霊です」
「ああ…」
物凄くわかりやすく、幽霊だったのだが。アレには興味ないのだろうか。
「安心なさい、もう出ませんよ」
どういう意味ですか。
どこまでも表情変化が乏しいせいか、いちいち怖い。
「…加々知先輩は、その…祓い屋とかそういう…」
「アニメや漫画の見過ぎですよ。そんなわけないじゃないですか」
「で、ですよね」
「私には物理的に叩き潰すくらいしか出来ません」
「…え? 何を?」
幽霊を? 幽霊に物理攻撃利くの?
「…というかあの馬鹿どこ行った」
「え。ああ、白澤先輩ですか?」
そういえば、白澤先輩がいなかった。
軽くぐるりと視線を巡らせると…あ、居た。
「私の見間違いでなければ、あそこで女の子に囲まれてます」
「…………」
私が応えて指を差すのと、加々知先輩が動いたのは、ほぼ同時だった。
数人の女の子に囲まれて上機嫌の白澤先輩を、加々知先輩は思いっきり蹴り倒したのである。
「ぅわっ!?」
「………オイ、駄獣。貴方の頭は豆腐ですか? 人を待たせておいていいご身分ですね」
「…なんの前置きもなくこれか、コノヤロウ…」
「いい加減にしないとその粗末なモノ引っこ抜きますよ」
「粗末じゃないし! 恐ろしいこと言うなよこの鬼!」
「鬼ですよ。…馬鹿言ってないでさっさと来なさい、この色狂い」
ため息交じりにそう言ってから、加々知先輩は呆然としている女の子達に視線を向けた。
「この馬鹿がご迷惑をお掛けして申し訳ありません。
…さん、行きますよ」
え、ここで私に振るの?
女の子達に軽く頭を下げてから白澤先輩を引きずって加々知先輩はさっさと行ってしまう。
慌てて、私はふたりを追いかけた。
+++
「まったく、白澤さんには困ったものですよ」
「…いちいち暴力振るうお前にも困ったもんだよ」
「貴方が馬鹿なことをしなければ殴りませんよ。校内では」
「嘘吐け!」
…うん、まあ、嘘だろうと私も思うけど。
でもですね、白澤先輩。突っ込むのはそこじゃないと思います。
今、加々知先輩は「校内では」って言ったんですよ。
…校内から出たら、馬鹿な事しなくても殴るってことですよね??
なんなんだろう、このふたり。どんな関係性だ。SとMか。ナニソレ怖い。
「………」
「ん? どうしたの、ちゃん。顔色悪いよ」
「…いえ…あの、…おふたりって、どういう関係なんですか…?
名字が違うから、兄弟ではないですよね…従兄弟…とか?」
聞いた瞬間、ふたりは物凄く嫌そうな顔をした。
「コレと親戚とか冗談じゃないよ」
「私の台詞ですよ。どこ見てそう思ったんですか」
「え、だってなんか顔が似て………………ませんでしたごめんなさい!!」
加々知先輩の表情がさらに険しくなったので、私は慌てて謝った。
…似てると言われると怒るのか、覚えておこう。
「…まあ、腐れ縁ですかね」
「…今適切に表現するならそうとしか言えないよね」
「無駄に付き合いも長いですしね…」
「うん。で、今なんで舌打ちした? こっちだって不本意だよ」
「んー…ああ、幼馴染とか?」
私にはいまいちピンとこないけれど、男同士の幼馴染なんて基本どつき合いなのかもしれない。
…多分、多分。ガチ殴りじゃないよね、だって白澤先輩、殴られてもケロッとしてるし。
「…幼馴染…?」
「説明が難しいので、もうそれで良いです」
「え?」
あれ? 違うのかな。
まあでも、それ以上詮索するようなことでもないので、私は話題を変えることにした。
それ以上に気になっていたことがあるからだ。
「それで、加々知先輩。どこ行くんですか?」
「あそこです」
指し示された方向へ視線を向ける。
そこにあったのは、一軒の喫茶店だった。
「………喫茶店ですね」
「コーヒーショップが勢力を広める中、ああいった古き良き喫茶店は貴重ですよね」
「イメージ的には、コーヒーショップは若い子が多くて賑やか、喫茶店は中年以上が多くて静かって感じだよね」
「ああ、確かにそう言うイメージはありますね」
ありますけれども。今それ必要な情報ですか?
心霊スポットに行くはずが、なぜ喫茶店に。
「で、なんで喫茶店なんですか? 作戦会議?」
「何の会議ですか? 目的地があそこなんですよ」
「え…」
喫茶店が、目的地。
飲食店が心霊スポット。
…なんか嫌だなぁ。
「昨今は霊も行き場がないんですかね…」
「その発想凄いね」
「そもそも、この世に留まっていること自体がおかしいんですがね」
確かに。
でも本当に、こんな場所に出るのだろうか?
疑問を感じつつ、店内に足を踏み入れた瞬間――違和感を覚えた。
なんの変哲もない、喫茶店だ。
普通の店だ。でも、なんだろう。
目の奥がチリチリと痛む、そんな感覚がする。
何か、そう、何か…妙な気配を感じるというか、
――度の合わない眼鏡を掛けて、遠くを見ているあの感覚に近い、何かが。
「…あまり一点を凝視しないように。持って行かれますよ」
「!!」
軽く肩を叩かれて、ハッと我に返る。
促されるままに、窓際の一番奥にある席に、私は腰を下ろした。
「あの、」
「視線を下へ。そのまま視線だけ通路側へ向けて下さい」
「…?」
いきなり、何を。
そう思いながらも、言われた通りに視線を落とし、横へと逸らす。
瞬間、私は息を飲んで硬直した。
「!?」
足が見えた。
それだけなら、ウエイトレスさんかなと思うだろう。でも。
靴を履いていない。裸足だ。
なにより、店に入った瞬間に感じた違和感が、強くなった。
つまりこれは、
「これがこの店で噂の『彷徨う足』。
大抵は足しか視えないらしいですが、私と白澤さんは上も視えますね。
これを見ながら飲食するのはなかなか微妙な気分です」
「な、そ、」
「大丈夫、大丈夫。何もしてこないから。歩いてるだけ」
そういう問題じゃないと思う!
硬直している私に構わず、ふたりはウエイトレスさんを呼んでコーヒーを注文した。
なんなんだ、いくらなんでも平然とし過ぎだ。
「ここはね、『溜まりやすい』んだよね」
「近くに所謂『霊道』があるんでしょうね。それはそれで問題ですけど…
まあ別に悪さはしてないようですが、さっさとあの世に行けという話ですね」
「どうせすぐまた新しいのが溜まって来るよ」
「困ったものです」
なんなんだ、この軽いノリの会話は。
恐る恐る顔を上げる。目の前には変わらず、無表情な加々知先輩と笑顔の白澤先輩が居た。
足の持ち主の上半身は、どうやら私には視えないらしい。少し安堵する。
「…で、さぁ。ここ、僕らは何回も来てるわけ。
でも、一度も怪異に遭遇したことなかったんだよね…今日までは、さ」
「え…」
言われた瞬間、ぞわりと鳥肌が立 った。
だって、さっきの裸足の足は私達の座る席の横を、何往復もしてる。
その間に、別の足もちらほら見かけた。
たまたま遭遇しなかった? いや、今の言い方は本当に何度も来てる。来てるけど、一度も遭遇していない?
同じ霊が毎回居るわけじゃないだろうけど、これだけ居るということは、まったく居ない日などあるわけない。
「どうやら私達は相当嫌われているようでしてね。
怪異の噂を聞いてはいろいろな場所へ出向くのですが、痕跡はあれど遭遇出来ずにいました」
ああ、視えるけど嫌われてる人いるって聞くしね…。
あれかな、守護霊が馬鹿強いとかそういう系かな。
でもなんか、守護霊なしでも恐れられていそうな感じ。特に加々知先輩。
…そんな馬鹿なことを延々と考える程度には、私は軽く混乱していた。
「でね? お願いがあるんだけどね?」
「………お願い?」
「私達はあるモノを探しているのですが、その為にはこういった怪異を追いかける以外、今のところ方法がないのです」
「あるモノ…?」
「ええ。ですが先程も言ったように、我々はそう言った怪異に嫌われています」
正直な話をすれば、私は足だけしか見えない幽霊よりも、
淡々と無表情で話す加々知先輩の方が今は怖い。
「にも関わらず、今日、貴方と一緒に居ると奴らはホイホイ姿を現した」
「つまり嫌いなものを我慢してでも現れてしまう程、彼らにとって君が魅力的ってことだね」
「嬉しくないです」
幽霊にモテても何にも嬉しくない。
…でもそうか、私、あいつらに好かれてたのか…遭遇率高いのはそのせいなんだ…。
「君の身の安全は保障するよ。だからちょっとだけ、協力してくれないかな?」
「…協力、って…何をしろと?」
「簡単です。怪異の噂があった場所に同行して頂ければいい。
白澤さんが言った通り、貴方の身の安全は保障します。要は囮になって欲しいということですね」
…
……
………加々知先輩、それはあんまりにも直球過ぎやしませんか。
「…お前さ、その説明で快く了承してくれる人が居るとは思えないんだけど」
「必要なことは隠さずお伝えしないと詐欺じゃないですか」
「それ以前に無駄に不安を煽るのは駄目だろ」
どっちの言い分もある意味正しいけれど、どっちもそういう問題ではないと思う。
…予想は、なんとなくついていたけれど。
「…あの、」
「はい」
「…それ、協力したとして、私になんのメリットが…?」
「「………」」
私がそう問い返すと、ふたりは一瞬、虚を疲れたような表情を浮かべて、互いに顔を見合わせた。
「…あははははっ、良いねそういう発想! しっかりした子だね!」
「そうですね、ギブアンドテイクは必要な概念です。その逞しい思考、良いと思いますよ」
褒められてるのか、馬鹿にされてるのか…。
なんとも判断の付きにくい反応をくれたふたりに、私は胡乱な視線を投げる。
本当に、この人達はなんなのか。
「謝礼をお求めということですか?」
「いや、お金は別に要りませんけども」
「身体で支払えってことかな!」
「丁重にお断りさせていただきます」
「即答された!?」
「何を馬鹿なこと言ってるんですか、白澤さん。失礼ですよ」
そんなやり取りを眺めながら、思う。
…多分、本当は見返りなんて必要ないのだろう。
私自身、彼らの話に興味を持ってしまっていたのだから。
「うーん…そうだねぇ…わかったよ、じゃあ君が協力してくれたら」
少し考えてから、白澤先輩は何かを思いついたように言って、にこりと微笑った。
そして、私が予想もしていなかった一言を、口にする。
「――怪異を、視えなくなるようにしてあげる」
そんなこと、出来るわけがない。
そう言い返したいのに、何故か。
――――白澤先輩の言葉は、嘘でもなんでもない、ただの真実なのだと、直感的に思えてしまった。
To be continued?
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