※恋愛要素は皆無です。ほんのりホラー仕様になります。
神様のお仕事
00 事の始まり



これは私が大学一回生の時に遭遇した、とあるふたりの男との出会いから端を発した話である。
とにかく初見のインパクトからしてとんでもなく強烈な、そんなふたりだった。
しかし残念ながら、というかむしろ幸いなことに、これといったロマンスなどは欠片もない。
希望に胸を膨らませていたはずの私の大学生活一年目は、そんな彼らとの色々と波乱万丈に満ち溢れたものになった。
私はあくまで巻き込まれたに過ぎないので、あまり詳細は把握していないのだが――
まあ、道楽のひとつと思ってお付き合いくださいな。

さて、では始めるとしましょう。
長いようで短いような、理不尽で荒唐無稽な、神様達との非日常を。



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この春、晴れて大学へと進学した私は、とある事象に悩んでいた。
悩んでいたというかなんというか、困っていた。
――キャンパスに巣食う怪異にである。
そこ、引かない。中二病では決してないのだから。
私は所謂「霊感」なるものがあるらしく、やたら視えるのである。もちろん、視えるだけ。
そして今日もまた。賑わうキャンパスに、明らかにひとではないモノが紛れ込んでいた。



「…うーわー…」

思わず、そんな声が漏れた。
間違えようもなく、あれは幽霊さんです。
頭から血を流しているのに、誰も反応していないのが確たる証拠だ。しかし、

「…なんで学食に並んでるのアレ…」
「…おや。貴方、アレが視えるんですか。ご愁傷様です」
「は?」

急に声を掛けられて振り返ると、見知らぬ男性が立っていた。
長身で目が切れ長、なかなかのイケメン。しかもふたり。
…顔似てるけど兄弟かな。というか誰だ。こんな目立つ知り合い、私には居ない。

「うっわ…あれ絶対、自分が死んだこと理解してないな」
「鏡にも映りませんからね。その時点で気づけと言いたいですが」
「でもさすがに学食で気づかれなかったら、自覚するだろ?」
「どうですかね」
「………」

なんだろう、この人達。
顔色ひとつ変えずに、淡々と幽霊の評価始めた。

「…あの、視えるんです、か?」
「頭から血を流している男性の霊なら視えてますよ」
「君も視えてるんでしょ?」
「…あ、うん…私、視える人初めて会いました…」
「ちなみに、どれくらいはっきり視えますか?」
「え? 服の細部まで視えてますけど…でも色素は薄いです。…よね?」

確認するように尋ねると、ふたりは顔を見合わせた。
なんだろうか、この居た堪れない雰囲気。

「今時珍しいね、こんなはっきり視える子」
「何か憑いてるんじゃないですか?」
「藪から棒になんですか。というかあなた方誰ですか」

何か憑いてるとか、そんな無表情で怖い事を言わないで頂きたい。

「これは失礼しました。
 私は三回生の加々知と申します。こちらは同じく三回生の白豚さんです」
「し・ろ・さ・わ!です。可愛いお嬢さん、君のお名前は?」
「いちいち歯の浮くような台詞を混ぜないと喋れないんですか鬱陶しい。爆ぜろ」
「煩いな、僕は彼女と話してんの!」

三回生。先輩だ。見覚えが無いのも頷ける。
きっと普通の人には視えないものが見えていそうな私に、思わず声を掛けただけだろう。
…まあ、私なら声は掛けませんが。

「先輩でしたか。私は一回生のと言います」
ちゃんか、可愛い名前だね! ねえ、良かったら一緒にお昼でもどう?」
「は? はあ…」
「ああ、この馬鹿は脊髄反射で見境なくナンパするのでお気になさらず。
 ……ただ、私は普通に貴方に興味ありますね」
「えっ」

初対面の先輩とロマンス到来!?
…いや、でも冷静になろうか私。この人ずっと表情が『無』だ。
多分、次に飛び出してくる言葉はロクでもないに違いない。

「私達はオカルト研究のサークルに所属してましてね」
「はあ…つまり?」
「貴方のオカルト体験を是非お聞きしたいです」
「…………」

興味ってそっちか!
普通の興味って言わないです、それは。

「…や、でも…先輩方も視える人…なんですよね? わざわざ私の話を聞かなくても…」
「いやー、でも君くらいはっきり視える人って稀だよ? 是非お話聞きたいなぁ」
「…………ええと」

にこにこ、と効果音でも付きそうな良い笑顔だった。
物凄く自然に手を握ってきた白澤先輩に困惑していると、
彼の後頭部を思いっきり加々知先輩がぶん殴った。
……殴った。叩いたとかじゃなく、グーで。何の躊躇いもなく。

「無闇やたらと婦女子の手を握るんじゃありません、この淫獣」
~~~っ!? 痛いだろーが! なんでお前はすぐ殴るワケ!?」
「セクハラ撲滅」
「手を握っただけでセクハラかよ!」
「本人が嫌がっていたらセクハラでしょう」
「あ、あの、喧嘩しないでください、超目立つ」

これだけ目立つ男二人が喧嘩してれば、そりゃあ目立つだろうよ。
さっきから視線が集まり始めているのをひしひしと感じて、もう今すぐここから逃げ出したい。
…あ、そうか、喧嘩してる隙に逃げてしまえば良いのか。

「…失礼しました」

逃げようとした私の気配でも察知したかのようなタイミングで、何事もなかったように加々知先輩が振り返る。
で、言い合っていた白澤先輩は蹲っていた。何されたんだろう。頭抑えてるから殴られたのだろうか。

「…ふ、普通、踵落としとかするか…ッ?」
さんがいなくなりそうでしたので、手っ取り早く貴方を黙らせようと思ったら自然そうなりました」

踵落とし!? 180は超える身長同士で!?
どうやりゃそこまで足上がるんですか、加々知先輩凄いな!?

「お見苦しいところをお見せしてすみません。
 立ち話もなんですし、お昼にしましょうか。お好きなものをどうぞ。お礼に奢らせてください」

お礼。お礼ときた。もう拒否権がどこにもなかった。
というか、逆らっちゃいけないような脅迫概念に駆られた私は、もはや頷くしかなかった。



+++



「なるほど、さんは視点がズレているのですね」

逃げ場も無かったので、学食のご飯を奢られながら、掻い摘んで話を披露した後。
感想なのか違うのか、よくわからない言葉が飛んできた。

「…視点がズレてる?と言いますと??」
「普通は自分の生きている場所だけ見ます。彼岸に視点を合わせません。
 これは無意識に視点を合わせることを避けている、とも言えます。
 ですが、貴方は逆の無自覚で、両方視てるんです。これは非常に面白いですね」


……
………加々知先輩は、ちょっと電波さんなのかもしれない。

「かなりはっきり視えているようですが、別にずっと視えてるわけでもないでしょう?
 ふとした瞬間に視界に入り込んでくるとか、そういう感じなのでは?」

うん、当たってる。
…なんだろう、寒気がしてきた。この人何者ですか。

「先程は冗談でしたが、何かが憑いている可能性は高いですね」
「…いやあの、怖い事を真顔で言わないで頂きたいのですが。というか先輩何者なんですか」
「ただのオカルトマニアですよ」
「オカルトマニア…」
「ええ。稲川淳二氏が好きです、あの語り口良いですよね。まあ胆は一ミリも冷えませんが」
「ソレたぶんオカルトマニアじゃない」

確かにこの人、怖がったり驚いたりしなさそう。
…というか、ずっと表情が『無』なんだよ。自称オカルトマニアなのに。そっちの方が怖い。

「まあ確かに…なんかあるっぽいねぇ、ちゃん」
「えええ…白澤先輩まで…」

なんですか、後輩をからかってやろうという先輩の洗礼ですかコレ。

「貴方、何かわからないんですか? こういうの得意でしょう?」
「僕の何を見て得意そうとか思ったわけ? 無茶言うなよ、専門外だ」
「役立たずの豚め」
「いちいち臓物に来るなお前はッ!! 自分だってわかんないくせに!」
「…………」

さっきからずっと思っていたのだが、このふたりはどうしていちいち喧嘩するんだろうか。
そろそろこの居た堪れない空気から解放して欲しい。いったいなんなんだろう、この先輩方。

「…失礼、脱線しました。
さんは、その目のせいで、恐ろしい目に遭ったことは?」
「怖い目と言うか…痛い目にならしょっちゅう遭ってます」
「痛い目って」
「……もしかして、さんはかなり好奇心に任せて行動するタイプですか?」

若干呆れたように聞かれて、一瞬、私はぐっと言葉を詰まらせた。
…なんのことはない。ご指摘通りだったりする。

「………割と。オカルトとかは結構好きです」
「あ、これ危ないタイプだ。視えちゃうのに首突っ込むのは危ないよ」
「でも『怖い目』には遭っていないと?」
「少なくとも、命の危機を感じたり、持って帰ってきたりとかはしたことないです」
「「……」」

もそもそと答えると、ふたりはなんとも言えない表情で顔を見合わせた。
なんと表現すれば良いのか…呆れるのを通り越して感心したけど、やっぱり呆れたというか。

「…あのさぁ、あのさぁ…あんまり自信無いけど、この子、カミツキなんじゃないの?」
「有り得ますね。守護が厚いから、こうも危機感が無いのかもしれません」

とりあえず、ほんのり馬鹿にされた気がした。
カミツキって何かな。「噛みつき」?「神憑き」?
…どっちにしろロクなことじゃなさそうだから、聞くのはやめよう。

「…しかし…そうですね、それほど守護が厚いのなら…」
「え、なに。まさかこの子連れて行くの? 危ないんじゃない?」
「私と貴方だけでは、出てこない確率が非常に高いので…協力者は必要ですよ。
 本人も守護の厚い方のようですし、私と貴方が居れば滅多なことにはならないでしょう」
「お前、そういうとこ変に思い切り良いよな」
「それに、女性が一緒だと貴方を扱いやす…いえ、貴方のやる気が出るかなと」
「オイ今何言おうとした! でも確かに女の子一緒だったら僕頑張っちゃうけど!」
「単純ですね。わかってましたけど。ドヤ顔やめろ」

今、とても重大な何かが、決められた気がした。
私のことで。私自身の了承がないままに。

「…さん」
「は、はい」
「実は、いくつか面白い怪異の噂を耳にしまして」
「…〝かいい〟?」
「要するに怪談です。この場合は心霊スポットとでも思って頂いて構いません」

嫌な予感がした。
どっと、嫌な汗が噴き出す様な感覚がする。

「一緒に行きませんか。サークル活動の一環として」

なんだろう。
問いかけの形を取っているのに、私の頭の中ではこう変換された。
『四の五の言わずについて来い』。

「ハイ、ヨロコンデ」

咄嗟に応えてしまったのは、何かの呪いでしょうか?









To be continued?

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