※注意※ 来神時代編です。相変わらずらぶがないです。閲覧の際にはご注意を。



今思えば、まるで陳腐な小説みたいな出会いだった。

「私、D組のよ。よろしくね」

何の脈略も無く現れた彼女は、そう言って微笑った。

睨み合う静雄と臨也、それを楽しく観察する新羅。
普通なら近づきたくもないはずの状況にも関わらず、彼女は平然と近づいてきて呑気に自己紹介をしたのだ。



絶対運命 01




睨み合っていたのも忘れて、静雄と臨也はその乱入者をまじまじと見る。
長い黒茶の髪を背に流した、小柄で可憐な、まさに「美少女」と称する以外に表現がないような少女だった。
まず、悪評の絶えない彼等と関わることのなさそうな人間。
人好きのする笑顔を浮かべている彼女の、その勝ち気そうな瞳にあるのは、好奇心の3文字だった。

「ええと…さん?」
「うん。君は岸谷くんだよね、岸谷新羅くん」
「あれ。僕って有名人?」
「まあね。顔も頭も良いのに中身は変人って」
「うわぁ…」

それを人は悪評と言う。
無論、新羅はそんなことは気にしない質だが。

「自覚はあるけど、君みたいな可愛い子に言われると凹むなぁ」
「あら、お上手ね? 首から上のある女に興味ないんでしょ?」

なんでそれ知ってるの。
新羅は思わず目を瞠ったが、しかし女子の情報網は侮れないとは、悪友である臨也の言だ。
女子特有のネットワークは、時にとんでもない速さで情報共有が行われるらしい。

「そんなコアな情報握ってるんだ、俺やシズちゃんの情報だって持ってるんでしょ?」
「その呼び方やめろ」
「突っ込むところそこかよシズちゃん。
 …ホラ、お友達が心配そうにこっち見てるよさん?」

取って食いやしないのにねぇ、と。
好奇心と若干怯えを含む女生徒達の視線を受けながら、臨也は笑う。

「あらあら。あの子達はお花ちゃんだから、折原くん達の魅力がわからないのよ」
「………お花ちゃんって」

笑顔で返された言葉の奇妙さに、臨也はどう答えたものかと固まった。

「…あのよ…俺が言うのも変な話だが、友達に心配かけねぇ方が良いと思うぜ?」
「男の子と友達になるのには、女友達の審査を通らなきゃダメかしら?
 平和島くんは今時珍しい、結構古風な意見を持ってるのね」
「古風って」

ことごとく、奇妙な返事が返ってくる。
どうやら、彼女は「普通」というわけでもないらしい。
彼等の胸中には、図らずしも同じ考えが浮かんでいた。

「まあ良いわ、今日は挨拶だけでも」

困惑気味の3人に、そう言っては微笑む。
そして、そのままくるりと背を向けた。

「じゃ、これからよろしくね! 楽しい学園生活を過ごしましょう」

まるで三流小説のような、無駄に爽やかな台詞である。
女子生徒達を引き連れて去って行く彼女を見送りながら、残された3人は首を傾げた。

「…………なんだあれ」
「いやぁ、驚いた! 彼女が凄い美人なのもだけど、
 まさに一触即発状態の臨也と静雄に普通に近づいてきたことに驚いたよ!」

確かに、新羅の言う通りである。
自覚がある分、静雄も臨也もますます頭に疑問符を浮かべた。

「臨也なら知ってるんじゃないの? 彼女、結構目立つよね?」
「…まあ、噂話程度ならね」

些か困惑的に、臨也は新羅に促されるままに彼女の情報を口にした。

。1-D在籍。成績優秀、スポーツ万能、見た通りの容姿端麗。
 普通、そこまで揃えば同性からは反感買いそうなものだけど、
 人当たりの良さと徹底したフェミニスト精神で男女問わず慕われてる。
 当然、教師からの信頼も厚い。D組のクラス委員だしね」

ますます、彼等とは縁遠い人物像だった。

「学園でも五本の指に入る美人だと思うよ。
 少なくとも、学祭でミスコンでも開催されたら、俺は彼女に一票入れるだろうね」
「臨也が言うならよっぽどだなぁ」

しかし、臨也の情報網はいったいどれだけ範囲が広いのだろうか。
どちらにせよ、彼女が彼等に声を掛けてきた真意は謎のままだ。

「…で。そんな奴がなんだって俺達に声掛けたりしてきたんだ?」
「さあ? 好奇心?」
「物好きだよねぇ」

好奇心。なるほど、それはわかりやすい。
発言からしてどうにも変わった感性を持っているようだし、一番理由としては妥当だろう。

「さーて、シズちゃんがキレてたことを思い出す前に俺は退散しようかな」
「あ!! てめっ、待ちやがれ臨也ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「わー逃げろー」

余計なことを言わなきゃ良いものを。
自ら追い掛けられる理由を蒔いて、臨也は笑いながら屋上階段を駆け降りて行った。


+++


「…相変わらず派手にやったねぇ、静雄」
「……うるせぇ」

放課後。
既に見慣れた光景だが、屍累々の中央に立つ静雄に、新羅は近寄って行った。
静雄の手に握られているのは道路標札だ。相変わらずデタラメである。

「いけないな平和島くん! 道路標札は公共物だよ!」
「「!?」」

笑いを含んだそんな声に、ふたりは驚いて振り返った。
振り返った先に居たのは、場違いな笑顔の少女。

「…?」
「なんでいるの君」
「尾行してきたからだよ」

さらりと凄いことを言う。
思わず顔を見合わせる静雄と新羅に、彼女は不自然な程自然に近づいてきた。

「あらら、道路標札で殴られて怪我で済むなんて、なんて悪運!
 これを期に更正出来ると良いね、強面のおにーさん達」

屍のように転がる男達を眺めながら、彼女は怯えるでもなくその中を歩いてくる。
だが、不意に男のひとりが起き上がった。

「…っの!!」
「お?」
ッ!」

背後から迫る銀色。
だが、男との距離の方が近い。
成す術もなく、彼女の肌が切り裂かれる光景を、静雄と新羅は想像した。
しかし、だ。

「…ああ、ダメね。全然ダメ」

そう呟いた彼女は――確かに、嗤った。
艶然と、ただしどこか退屈そうに。

「攻撃が単調。リーチも無けりゃ、スピードも並以下。凡人ね、つまらない」

さらりとナイフの切っ先をかわし、手首を捻ってナイフを奪い取る。
そして彼女は、男の鼻先にナイフを突き付けた。

「その程度でナイフなんて持つものじゃないわよ?
 こんなものを振り回して良いのは、死ぬ覚悟が出来てる奴だけだ」

僅かにも、彼女の握るナイフはぶれない。
気圧されたように、男は冷や汗を流しながら硬直していた。

「ちなみに私はもちろんあるけど! …ねぇ、死んでみる?」

場違いな、無邪気な笑顔。
あまりにも自然で、いっそ不気味だった。
悲鳴を上げ、緊張の糸が切れたのか男は彼女に背を向け逃げ出した。

「まあ、なんて根性の無い」

逃げ去る男を見送りながら、はナイフの柄をハンカチで拭うと、
無造作にアスファルトの上に投げ捨てた。指紋を拭ったのだと、彼らが気づくのはずっと後だ。

「スポーツ万能ってこういう意味か…」
「…………」

否、スポーツというよりは喧嘩技だ。
あまりにもこの可憐という形容詞の似合う少女と、彼女の行動が噛み合わない。

「あらやだ、そんな顔しないで? 穴という穴に香辛料を突っ込みたくなるじゃない」
「「は!?」」

冗談でも、笑顔で言うセリフか。
セリフのチョイスが、色々と台なしにしている。

「なんかさんって、顔と言動と行動がちぐはぐだよね」
「うん、よく言われる。
 ああ、で良いよ。私も新羅って呼ぶから」
「ああ、うん。わかった」

あっさり順応した新羅を満足そうに見遣り、深は静雄の方へ向き直る。

「で、シズちゃん?」
「いやちょっと待て。その呼び方はやめろ」
「気に入っちゃったから、ダーメ。あ、私のことは好きに呼んで?」

一方的に告げると、彼女は実に楽しそうに笑う。
一瞬静雄は言葉を失い掛けたが、ハッと我に返った。

「…って、そうじゃねぇだろ。アホかお前は!
 喧嘩してる最中に近づいて来やがって、怪我したらどうすんだ!!」
「平気だよー。シズちゃん相手なら怪我しそうだけど、たかが不良学生くらい」
「馬鹿! さっきの見りゃ、護身術みたいなのは身につけてるのはわかる。だが、お前は女だろ!!」
「………」

何を当たり前なことを、と。
真っすぐに自分を見ながら説教をする静雄を、はきょとんとしながら見つめ返した。
しかし次の瞬間、彼女は腹を抱えて笑い出す。

「……あははははっ! なるほど、女だからか! ああ、うん、確かにそうだね!」

ひとしきり笑った後、は笑い過ぎて目尻に滲んだ涙を拭いながら、笑顔で言った。

「シズちゃんは面白いなぁ。思った以上だ」

その物言いが、どことなく臨也に似ているな、と。
そんな風に思えて、さてどうなることかと新羅は肩を竦めた。

「ねぇ、シズちゃん」
「あ?」

本能的に彼女に何かを感じたのか、静雄は困惑気味に彼女へ視線を向ける。

不自然な程自然な笑顔で、首を傾げながら。
はまるで晴天を喜ぶ遠足当日の小学生のように、無邪気に言い放った。






「私は君を好きになってしまいそうだよ」






恋愛はゲームだ。



To be continued?

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