色々なことを失念する。
例えば、ここが《物語》の世界であることとか。
彼らが《物語》の《登場人物》であることとか。
――それでもここは《現実》で、そしてわたしが居る場所は《戦場》なのだという事実を。
エクソシスト――神に魅入られた存在。
そのひとりが、わたし。
わたしに何が出来ただろう。
答えは一生、出てこないと思う。だけど考えずにはいられない。
紅蓮の炎を見つめながら、わたしはきつく唇を噛んだ。
「…行きましょう、」
促され、わたしは無言で立ち上がる。
そしてもう一度、立ち昇る炎に視線を向ける。
この《世界》に居る限り、わたしは何度も思うんだろう。
ここは《物語》の世界だから。わたしは《傍観者》だから。
そう自分に言い聞かせて、誤魔化して、いつしか涙も出なくなって。
――きっとそうなっていく方が楽なんだと、思った。
「…っていうか、本気かあのふたり…」
特別室のガラス戸越しに、わたしは闘技場を見下ろしてため息を吐いた。
八百長しろとは言わないさ。でも、なんだって本気でやり合う必要があるんだろう。
『男の子はそういうものなのよ、』
そんなリナリーの声に、わたしは苦笑する。
ちなみに、この会話は無線ゴーレムで行われている。わたしとリナリーの拘束されている部屋は別だ。
「ってことは、男はみんな馬鹿ってことだね」
『もう…そんな風に言っちゃ可哀相よ? でも、これで怪我したら馬鹿らしいわね』
「確実にするって! あのふたりの初対面を思い出して、リナリー!」
『アレンくんをボロボロにしたのはじゃない』
…
……
………踏んだだけだよ! 斬りつけたのは神田だよ!!
主張しても笑って流されそうな気がして、わたしは口を噤んだ。
…今思い出しても悲惨な出会い方だった。あれはお互い、一生忘れられないだろう。
ため息を零しながら、わたしは再び眼下の試合を眺める。
スピードは神田が上。パワーはアレンが上。
やっぱり、技能的には神田が上か。ただし、かと言って勝敗はそんなものでは決まらない。
「…やっぱ男って馬鹿だねー」
『そう言わないの。本人達は真剣なのよ?』
「だってさ、やり合いたきゃ本部でも出来るのに」
『そんなことされたら被害が出るじゃない』
…なるほど。その通りだ。
リナリーさん、ツッコミが厳しいです。
白熱する試合を見下ろしていたわたしは、不意にイノセンスが疼くのを感じた。
アレン達も気づいたのだろうか。アレンと神田は同時に武器を引き、周囲を見回す。
――ぞわりと、悪寒がした。
「――――ッ!!」
感じた違和感に、わたしは立ち上がる。
ざわめくような、嫌な感覚。覚えがある。――これは。
『ッ!!』
「わかってる!」
リナリーの声に、わたしは頷いた。
ガラス戸の下――闘技場に、AKUMAが侵入した。
アレンと神田が下に居て良かった、と思う。
だけど安心は出来ない。ここは、人が多過ぎる。
「リナリー、《黒い靴(ダークブーツ)》でこのガラス、割れる?!」
『やってみるわ! 、窓から離れててッ!』
リナリーの言葉に相槌を打って、わたしはガラス戸から離れた。
しかし、あの数…ざっと見積もっただけでも、70はいる。
「…やっぱり、ここにイノセンスがある…?」
やはり、サルジュさんが持つという棍が、イノセンスなんだろうか。
もしかしたら、この混乱の中で彼に会えるのかもしれない。
「ッ!」
「リナリー!」
ガラス戸を蹴破って、リナリーが部屋に降り立った。
結構分厚いガラスだったんだけど…見事、欠片しか残ってない。
「すっごーい…さすが鋼鉄の破壊力…」
「感心してる場合じゃないわよ、。行きましょう!」
手を差し出され、わたしは頷いた。
そして、自らのイノセンスに意識を集中させる。
「――イノセンス、発動! 舞え、《黒曜》!!」
バサリと、羽音を立ててわたしのイノセンスが具現する。
リナリーの手を取り、わたしは外へと飛び出した。
――酷い状況だった。
いくらアレンと神田でも、この人数を庇い続けるのは無理だったのだろう。
服だけになった人間は山のようにいたし、建物も無残に破壊されている。
「…レベル2以上はいないみたいね…」
「うん…でも、凄い数。いつの間にこんなに入り込んだの…?」
もともと都市に潜んでいたなら話は別だろうが、それは有り得ない。
こっちにはアレンが――AKUMAを識別する『眼』があるのだから。
「アレンくんの左目で看破出来なかったってことは、この瞬間に初めて現れたのよ。
見た感じ、統率も全然取れていない。イノセンスの気配に集まって来たんだわ」
イノセンスはAKUMAを引き寄せる。
これは彼らにプログラムされた『本能』だ。そして、彼らが『人間』を襲うのも。
最悪の状況が重なった――と言うべきだろうか。
「、彼らの防護をお願い。私も行って来るわ」
「任せて。気をつけてね、リナリー」
「ええ。もね」
小さく笑って、リナリーはわたしの手を離した。
着地してすぐに、地を蹴り、AKUMAの群に突っ込んでいく。
それを見届けてから、わたしはリナリーとは逆の方へ飛ぶ。
フィロを始め、リアルレイドの関係者達が集まっているところへ。
生きているひとだけでも。
眼に見える範囲だけでも良い。護らなくては。
「――護れ、《天蓋黒盾》!」
出力を最大まで上げて、わたしは盾を創り出す。
普段よりも大きい盾だ。いつまで保つのか、自分でもわからない。
――でも、やるしかない。
「一箇所に集まって! バラバラになられちゃ護れない!!」
逃げまどう人々を、わたしはなんとか一カ所に集めようと声を張り上げる。
だけど、混乱したこれだけの大人数をまとめるのは難しい。
思わず舌打ちが洩れた。…いけない、神田のが感染ったか。
「…あんた、」
「はい? え、ルージュさん?! ここは危ないです、下がって…」
「――こんなのと、戦うのかい。あんた達は」
静かな問いに、わたしは一瞬、言葉を失う。
ああ、そうだ。こんなのと命のやり取りをするのが、わたし達エクソシストだ。
――このリアルレイドという『世界』にはない、絶対的な非現実。
「はい。それが、わたし達の仕事です」
「……」
わたしは、エクソシストの表情を出来ていただろうか。
数回目を瞬かせてから、ルージュさんは一瞬俯き、そしてバッと勢い良く顔を上げた。
「――てめぇら! 天下のリアルレイド闘士が聞いて呆れるぞ!
こんなお嬢さんが命張って戦ってんだ、慄いて女の後ろに隠れるのがてめぇらの本性か!?」
そう怒鳴ると、ルージュさんはいつの間に用意したのか、武器を構えた。
槍? いや、違う。棍だ。
――って、そんなの冷静に観察してる場合じゃない。
「ル、ルージュさん! 良いんです、普通の人じゃアレは倒せないんですッ」
「誰が決めた、そんなこと」
「いや自然の摂理と言いますか事実なんですけど!
駄目ですって! あれの弾丸に当たったら、普通の人は骨も残らず消えちゃうんですよ!!」
慌てて、わたしは片手でルージュさんの服の裾を引っ張った。
その時わたしは、奇妙な違和感に気付く。
…ルージュさんの身長、伸びてない? なんか体つきもがっしりしてるような…あれ?
「…あの、ルージュさん。メロンばりに素晴らしいお胸はどこへいっちゃったんですか」
まじまじと胸元を凝視するわたしに、ルージュさんは苦笑した。
あ、思いっきり馬鹿を見るような目をされてる気がする!
「…サルジュ」
「ええ!? ル、ルージュさんが、サルジュさん?
え? あれ!?」
後ろにいたフィロの言葉に、わたしは本気で驚いた。
ちょ、ちょっと待って。頭が混乱してきた。
え? なに? ルージュさんが本当は男でその正体はサルジュさん??
いや! でも、確かにルージュさんは女の人だったよね!?
「お嬢さん。確かとか言ったな」
「え、あ、はい?」
「アレはどうすれば倒せる? 弱点はどこだ」
そう訊いてきたルージュさん、いや、サルジュさん?の手に握られた棍を見て、わたしは目を瞠った。
そして、わたしは腕を伸ばして、その棍に触れる。
脳に流れ込んでくるイメージは、暖かな光。イノセンスの気配だ。
「…そ、その棍で叩けばどこからでも致命傷です…」
「そうか。単純明快だな」
ニヤリと口角を持ち上げて笑うと、サルジュさんはスッと棍を構えた。
イノセンス独特の輝きが増し、棍は風を纏う。
「、フィロを頼む。…俺の家族なんだ」
「は、はい」
反射的に頷くと、サルジュさんは穏やかに微笑んだ。
その微笑を見て、思う。ああ、やっぱりこの人は女の人だ。
風を纏う棍を片手に、サルジュさんはAKUMAの群に飛び込んでいった。
加速するスピード。重い一撃。どれをとっても、かなりの能力。
「…凄い…」
AKUMAを屠るその姿に、わたしは感嘆の息を漏らした。
さすがに『闘神』になるだけある――これなら、もし決勝でアレンか神田が当たっていたとしても、勝てたかどうか。
――いや。今は、戦いに見入っている場合じゃない。
わたしは、盾に意識を集中する。
今はただ、ひとりでも多くの人を護らなければ――。
+++
「…アレーン、神田ー、リーナリー。生きてるー!?」
「え、縁起でもない呼びかけしないでください…ッ」
「あ、いた」
瓦礫を掻き分けるようにしながら出てきたアレンに、わたしは駆け寄った。
無傷とはいかないけど、大怪我を負っている様子はない。
「怪我は、大したこと無いね」
「そうですね。今回は対アクマ武器も壊してないですよ」
そんなにコムイさんの治療が怖いのか。
苦笑して、わたしは顔や腕に出来た裂傷や打撲にそっと指を触れる。
裂傷はともかく、打撲はちょっと治しにくい。つくづく、使い勝手の悪い能力だ。
「、大丈夫だった?」
「うん、平気平気。で、あの、」
少し離れた場所から瓦礫を退けて出てきたリナリーと神田に、わたしは言葉を濁す。
…どうしよう。なんて説明しよう、サルジュさんのこと。
「――やはり、ルージュがサルジュ=アルサールだったのか?」
「神田、気付いてたの?!」
「気付いていたと言うより…勘だな」
「ああ、武人は武人がわかるっていうアレか」
「おまえにしちゃ物わかりが良いじゃねぇか、」
「おい、喧嘩売ってんのかこのサムライボーイ」
いちいち一言多いんですよ、このパッツン男児は。
ああもう、怪我治してやるのやめようかな。腹立ってきた。
「それにしても…酷い有様ですね…」
ぐるりと周囲を見回して、アレンがぽつりと呟いた。
その一言に、わたし達は押し黙る。
流れた沈黙を破ったのは、神田の静かな声だった。
「…もうこの都市は駄目だな。
ここは無認可地だ、誰かが投資でもしねぇ限り、ここが機能することはないだろう」
「…たくさん、死んだしね」
AKUMAの砲弾で死んだ人間は、死体すら残らない。
だから屍累々というわけじゃない。
だけどわたし達は、覚えていかなきゃいけない。――守れなかったことを。
「…守れなかったね」
「…そうね…」
わたし達は、そっと黙祷を捧げた。
気休めでしかないのはわかっている。
ただそれでも、わたし達はそうする以外に、死者の悼み方を知らない。
「――仕方ないだろうさ。そういう運命だろ」
そんな、どこか平坦な声に、わたし達は振り返った。
そこにいたのは、ルージュさん――否、サルジュ=アルサール。
その姿はやはり完璧な女性で、男性的な要素は外見からは見い出せない。
「ルー…サルジュさん」
「おう。無事だったか」
「…女の人ですよね?」
「まぁな」
苦笑して、彼女はスッと何かを差し出してきた。
――横笛、だった。だけど、素材は鋼か何かだと思う。
「これを手に入れてから、変な体質になってな。
――さっきなんて言ったっけ? イノセンス?」
――ああ、この横笛が、あの棍の正体か。
発動時に巨大化するなんて、ラビの槌みたいだ。
「」
「…うん。間違いなくイノセンスだよ…」
神田に促され、わたしは小さく頷いた。
触れたわたしには判る。あれはイノセンスだ。
そして恐らく、発動と共に彼女の性別が反転する。それがあのイノセンスが起こしていた奇怪。
「――サルジュ=アルサール。俺達と一緒に来て貰う」
「坊や達のボスのところへか?」
わたし達が、なんらかの組織に属しているということには、気付いていたんだろう。
そう言って笑ったサルジュさんは、しかしゆっくりと頭を振った。
「…悪いが、俺はフィロをひとりにするわけにはいかないんだ」
「フィロ? 受付の?」
リナリーが不思議そうに問いかけた、その瞬間だった。
静かな少女の声が、響いたのは。
「――その必要はありません、サルジュ」
その声に、わたし達は振り返る。
そこには、瓦礫の中に立つフィロの姿があった。
「フィロ?!」
「何をしてるの!? 瓦礫が崩れてきたら…ッ」
リナリーの言葉に、彼女はどこか壊れたように微笑む。
邪気も何も無い、ただ、笑っているだけの顔。
目を瞠るわたし達の前で、フィロは自分の背後の瓦礫に向かい、何かを投げつけた。
轟音と共に、赤く染まる空気。
爆薬? いや、もっと強力なもの。爆弾? なんでそんなものを?
「サルジュ。やはり、あなたはこの『世界』を『壊す』のですね」
「…おまえの為だとは言わないよ、フィロ」
「…酷いひと。いつでも私が悪者なんですね」
そう言って、フィロは小さく嗤った。
自嘲気味なその笑顔は、暴悪的な炎に煽られ、酷く歪に映る。
「この『世界』は壊れたぞ。フィロ、もう良いだろう?」
「…夢を、見なかったわけじゃない。
サルジュ。あなたと一緒にここから出て、姉妹のように仲良く過ごす日を。
…だけど無理です。私はここから出られない。私の『世界』はここだから」
そう告げたフィロの声には、迷いがなかった。
哀しいほどに真っ直ぐなその声に、サルジュさんは何を思うのだろう。
――わたしには、わからない。
ふたりの関係も、その会話の意味も、わたしにはわからない。
だけどどうして、こんなにもやりきれない気持ちになるんだろう。
「…フィロ」
「この世界が壊れる時、私も壊れるの。…さようなら、サルジュ。私の親愛なる叔母様。
お祖父様とお母様に、伝えてきます。あなたのことを」
そう言って。
彼女は、作り物じゃない、穏やかな微笑みをサルジュさんに向けた。
そして、炎の海と化した朽ちた都市へと、戻っていく。
「フィロ!!」
「――待て。追うな」
追い変えようとしたわたしを、サルジュさんの手が制した。
わたしは、驚愕に目を瞠る。
「サルジュさん!?」
「フィロが選んだことだ。それに、あんた達には関係ない」
「なんで! 家族だって、言ってたじゃないですか!」
「…ああ。たったひとりの肉親だ。あの娘は、俺の姉の娘だ」
「だったら!」
「――結局、外では生きられないんだよ、あれは。だからもう良い」
その声は酷く静かで、言いようのない怒りが込み上げてくる。
なんで諦めるの。たったひとつしかない、命の未来なのに!
「…。やめろ」
「止めないで、神田ッ」
「俺達の任務は、イノセンスの回収及び適合者を連れ帰ることだ」
「そんなのわかってる! わかってるけど!!」
神田の言うことの方が、正しいのはわかってる。
フィロの、サルジュさんの決断を、わたしがとやかく言える立場じゃないことも。
だけど、それでも。誰かが死ぬのが嫌だった。せめて目の前にある命だけでも、救いたかった。
「こんなの…嫌だよ…ッ」
「…」
崩れ落ちたわたしを、リナリーがぎゅっと抱き締めてくれる。
同じように膝を着いて、アレンが頭を撫でてくれた。
神田はわたしの代わりに、一部始終を見届けてくれている。
わたしが泣くのはおかしい。だけど。
涙は零れ――胸を締め付ける痛みが、消えない。
+++
――列車の上級車両客室。
わたし達は、教団へ戻るために汽車で移動中だった。
その中には、サルジュさんの姿もある。
「…俺の父親は、リアルレイドの闘士だった」
口数が少ないわたし達に、ぽつりとサルジュさんは語り出した。
それはきっと、彼女の独り言に近いものだっただろう。だからわたし達は、静かに耳を傾ける。
「恋人をパートナーに闘った父は、敗者となり恋人を奪われた。
結果…彼女は自ら命を絶ち、父に遺されたのは彼女との間に生まれていた娘がひとり」
サルジュさんの声には、明確な感情の色は見て取れない。
ただ、その表情は僅かに、哀しみを孕んでいた。
「その後、父は俺の母と出会い、結婚した。
だが、どうしても忘れられなかったんだろうな。自分のせいで命を絶った女の存在が」
淡々と語るその物語は、酷く哀しい。
想像するだけで、胸に疼くような痛みが走る。
「俺がまだ、3歳くらいの時だった。
父は姉を伴い、家を出た。――行き先がディングレイだと知ったのは、10年以上経った後だ」
家族を奪われた哀しみは、どれほどのものだっただろう。
どんな思いで、サルジュさんはその十数年を生きてきたのか――。
「父は『闘神』となり、やがて『オーナー』となった。
姉は若い戦士と恋に落ち、あの都市で結婚したらしい。しかし、相手は闘士だったんだ」
「…まさか」
「そう。――姉は、彼女の母親と同じ途を辿ったよ。そして遺されたのが、フィロだ」
痛い程、胸が締め付けられる錯覚を覚えた。
リナリー達は、痛みを堪えるような表情をしている。わたしもきっと同じだ。
「孤児でも、『闘神』であり『オーナー』の孫娘。
生活の保証はされた。だが引き替えに、フィロは表情を失っていったんだ」
幼い少女が育つには、あまりにも酷い環境だっただろう。
あそこにあったのは、悲哀と、欲望と、策謀と――命のやり取りだ。
「俺が来たときには、もう手遅れだったんだろう。
父も死に、ひとりになったフィロには、もうあの世界しか残されていなかった」
そこで言葉を切ると、サルジュさんはきつく拳を握り締める。
「それでも願ってしまった。
救えなかった姉の代わりに、せめてこの手で姪を救い出したいと」
その声は明瞭。
だけど、泣いているように聞こえた。そう見えた。
「…馬鹿だろ。フィロも、俺も」
自嘲気味に呟かれたそれに、わたし達は応えられなかった。
応えられるわけがない。
数奇な運命に翻弄された家族。
伯爵に目を付けられなかっただけ、マシだとでも言えばいいのか。
「――なぁ。俺でもなれるんだろうか」
不意に、サルジュさんがそんなことを呟いた。
問いかけるその言葉は、どういう意味だ。
「やり場のないこの感情を、誤魔化すように武器を振るう俺でも。
――神の使徒とやらに、なれるだろうか?」
その真っ直ぐな声に、わたしの隣に座るアレンが顔を上げる。
わたしはつられるように顔を上げて、アレンを見た。
アレンは、真っ直ぐにサルジュさんを見つめて、ゆっくりと口を開く。
「…あなたが、イノセンスと共にある限りは」
「そう…」
どこか寂しげに微笑って、サルジュさんは視線を窓の外に向けた。
…彼女は、エクソシストの道を歩むだろう。
その心に、闇を抱えて。やりきれない想いを、AKUMAを壊すことで誤魔化しながら。
わたしに何が出来ただろう。
別の次元から来た《傍観者》。神に魅入られたエクソシスト。
――知らない《物語》の前では、わたしはただのちっぽけな人間でしかない。
わたしはどうしようもなく非力で、無力だった。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。