色々なことを失念する。

例えば、ここが《物語》の世界であることとか。
彼らが《物語》の《登場人物》であることとか。

――それでもここは《現実》で、そしてわたしが居る場所は《戦場》なのだという事実を。


エクソシスト――神に魅入られた存在。
そのひとりが、わたし。

わたしに何が出来ただろう。
答えは一生、出てこないと思う。だけど考えずにはいられない。
紅蓮の炎を見つめながら、わたしはきつく唇を噛んだ。

「…行きましょう、

促され、わたしは無言で立ち上がる。
そしてもう一度、立ち昇る炎に視線を向ける。


この《世界》に居る限り、わたしは何度も思うんだろう。
ここは《物語》の世界だから。わたしは《傍観者》だから。
そう自分に言い聞かせて、誤魔化して、いつしか涙も出なくなって。


――きっとそうなっていく方が楽なんだと、思った。



Intermission01 闘神都市の夜 ----- File05 闘神都市の王者 ~ The 2nd Night




「…っていうか、本気かあのふたり…」

特別室のガラス戸越しに、わたしは闘技場を見下ろしてため息を吐いた。
八百長しろとは言わないさ。でも、なんだって本気でやり合う必要があるんだろう。

『男の子はそういうものなのよ、

そんなリナリーの声に、わたしは苦笑する。
ちなみに、この会話は無線ゴーレムで行われている。わたしとリナリーの拘束されている部屋は別だ。

「ってことは、男はみんな馬鹿ってことだね」
『もう…そんな風に言っちゃ可哀相よ? でも、これで怪我したら馬鹿らしいわね』
「確実にするって! あのふたりの初対面を思い出して、リナリー!」
『アレンくんをボロボロにしたのはじゃない』


……
………踏んだだけだよ! 斬りつけたのは神田だよ!!

主張しても笑って流されそうな気がして、わたしは口を噤んだ。
…今思い出しても悲惨な出会い方だった。あれはお互い、一生忘れられないだろう。

ため息を零しながら、わたしは再び眼下の試合を眺める。
スピードは神田が上。パワーはアレンが上。
やっぱり、技能的には神田が上か。ただし、かと言って勝敗はそんなものでは決まらない。

「…やっぱ男って馬鹿だねー」
『そう言わないの。本人達は真剣なのよ?』
「だってさ、やり合いたきゃ本部でも出来るのに」
『そんなことされたら被害が出るじゃない』

…なるほど。その通りだ。
リナリーさん、ツッコミが厳しいです。

白熱する試合を見下ろしていたわたしは、不意にイノセンスが疼くのを感じた。
アレン達も気づいたのだろうか。アレンと神田は同時に武器を引き、周囲を見回す。

――ぞわりと、悪寒がした。

――――ッ!!」

感じた違和感に、わたしは立ち上がる。
ざわめくような、嫌な感覚。覚えがある。――これは。

ッ!!』
「わかってる!」

リナリーの声に、わたしは頷いた。
ガラス戸の下――闘技場に、AKUMAが侵入した。

アレンと神田が下に居て良かった、と思う。
だけど安心は出来ない。ここは、人が多過ぎる。

「リナリー、《黒い靴(ダークブーツ)》でこのガラス、割れる?!」
『やってみるわ! 、窓から離れててッ!』

リナリーの言葉に相槌を打って、わたしはガラス戸から離れた。
しかし、あの数…ざっと見積もっただけでも、70はいる。

「…やっぱり、ここにイノセンスがある…?」

やはり、サルジュさんが持つという棍が、イノセンスなんだろうか。
もしかしたら、この混乱の中で彼に会えるのかもしれない。

ッ!」
「リナリー!」

ガラス戸を蹴破って、リナリーが部屋に降り立った。
結構分厚いガラスだったんだけど…見事、欠片しか残ってない。

「すっごーい…さすが鋼鉄の破壊力…」
「感心してる場合じゃないわよ、。行きましょう!」

手を差し出され、わたしは頷いた。
そして、自らのイノセンスに意識を集中させる。

――イノセンス、発動! 舞え、《黒曜》!!」

バサリと、羽音を立ててわたしのイノセンスが具現する。
リナリーの手を取り、わたしは外へと飛び出した。

――酷い状況だった。
いくらアレンと神田でも、この人数を庇い続けるのは無理だったのだろう。
服だけになった人間は山のようにいたし、建物も無残に破壊されている。

「…レベル2以上はいないみたいね…」
「うん…でも、凄い数。いつの間にこんなに入り込んだの…?」

もともと都市に潜んでいたなら話は別だろうが、それは有り得ない。
こっちにはアレンが――AKUMAを識別する『眼』があるのだから。

「アレンくんの左目で看破出来なかったってことは、この瞬間に初めて現れたのよ。
 見た感じ、統率も全然取れていない。イノセンスの気配に集まって来たんだわ」

イノセンスはAKUMAを引き寄せる。
これは彼らにプログラムされた『本能』だ。そして、彼らが『人間』を襲うのも。
最悪の状況が重なった――と言うべきだろうか。

、彼らの防護をお願い。私も行って来るわ」
「任せて。気をつけてね、リナリー」
「ええ。もね」

小さく笑って、リナリーはわたしの手を離した。
着地してすぐに、地を蹴り、AKUMAの群に突っ込んでいく。
それを見届けてから、わたしはリナリーとは逆の方へ飛ぶ。
フィロを始め、リアルレイドの関係者達が集まっているところへ。

生きているひとだけでも。
眼に見える範囲だけでも良い。護らなくては。

――護れ、《天蓋黒盾》!」

出力を最大まで上げて、わたしは盾を創り出す。
普段よりも大きい盾だ。いつまで保つのか、自分でもわからない。
――でも、やるしかない。

「一箇所に集まって! バラバラになられちゃ護れない!!」

逃げまどう人々を、わたしはなんとか一カ所に集めようと声を張り上げる。
だけど、混乱したこれだけの大人数をまとめるのは難しい。
思わず舌打ちが洩れた。…いけない、神田のが感染ったか。

「…あんた、」
「はい? え、ルージュさん?! ここは危ないです、下がって…」
――こんなのと、戦うのかい。あんた達は」

静かな問いに、わたしは一瞬、言葉を失う。
ああ、そうだ。こんなのと命のやり取りをするのが、わたし達エクソシストだ。
――このリアルレイドという『世界』にはない、絶対的な非現実。

「はい。それが、わたし達の仕事です」
「……」

わたしは、エクソシストの表情を出来ていただろうか。
数回目を瞬かせてから、ルージュさんは一瞬俯き、そしてバッと勢い良く顔を上げた。

――てめぇら! 天下のリアルレイド闘士が聞いて呆れるぞ!
 こんなお嬢さんが命張って戦ってんだ、慄いて女の後ろに隠れるのがてめぇらの本性か!?」

そう怒鳴ると、ルージュさんはいつの間に用意したのか、武器を構えた。
槍? いや、違う。棍だ。
――って、そんなの冷静に観察してる場合じゃない。

「ル、ルージュさん! 良いんです、普通の人じゃアレは倒せないんですッ」
「誰が決めた、そんなこと」
「いや自然の摂理と言いますか事実なんですけど!
 駄目ですって! あれの弾丸に当たったら、普通の人は骨も残らず消えちゃうんですよ!!」

慌てて、わたしは片手でルージュさんの服の裾を引っ張った。
その時わたしは、奇妙な違和感に気付く。
…ルージュさんの身長、伸びてない? なんか体つきもがっしりしてるような…あれ?

「…あの、ルージュさん。メロンばりに素晴らしいお胸はどこへいっちゃったんですか」

まじまじと胸元を凝視するわたしに、ルージュさんは苦笑した。
あ、思いっきり馬鹿を見るような目をされてる気がする!

「…サルジュ」
「ええ!? ル、ルージュさんが、サルジュさん? え? あれ!?」

後ろにいたフィロの言葉に、わたしは本気で驚いた。
ちょ、ちょっと待って。頭が混乱してきた。
え? なに? ルージュさんが本当は男でその正体はサルジュさん??
いや! でも、確かにルージュさんは女の人だったよね!?

「お嬢さん。確かとか言ったな」
「え、あ、はい?」
「アレはどうすれば倒せる? 弱点はどこだ」

そう訊いてきたルージュさん、いや、サルジュさん?の手に握られた棍を見て、わたしは目を瞠った。
そして、わたしは腕を伸ばして、その棍に触れる。
脳に流れ込んでくるイメージは、暖かな光。イノセンスの気配だ。

「…そ、その棍で叩けばどこからでも致命傷です…」
「そうか。単純明快だな」

ニヤリと口角を持ち上げて笑うと、サルジュさんはスッと棍を構えた。
イノセンス独特の輝きが増し、棍は風を纏う。

、フィロを頼む。…俺の家族なんだ」
「は、はい」

反射的に頷くと、サルジュさんは穏やかに微笑んだ。
その微笑を見て、思う。ああ、やっぱりこの人は女の人だ。


風を纏う棍を片手に、サルジュさんはAKUMAの群に飛び込んでいった。
加速するスピード。重い一撃。どれをとっても、かなりの能力。

「…凄い…」

AKUMAを屠るその姿に、わたしは感嘆の息を漏らした。
さすがに『闘神』になるだけある――これなら、もし決勝でアレンか神田が当たっていたとしても、勝てたかどうか。

――いや。今は、戦いに見入っている場合じゃない。

わたしは、盾に意識を集中する。
今はただ、ひとりでも多くの人を護らなければ――


+++


「…アレーン、神田ー、リーナリー。生きてるー!?」
「え、縁起でもない呼びかけしないでください…ッ」
「あ、いた」

瓦礫を掻き分けるようにしながら出てきたアレンに、わたしは駆け寄った。
無傷とはいかないけど、大怪我を負っている様子はない。

「怪我は、大したこと無いね」
「そうですね。今回は対アクマ武器も壊してないですよ」

そんなにコムイさんの治療が怖いのか。
苦笑して、わたしは顔や腕に出来た裂傷や打撲にそっと指を触れる。
裂傷はともかく、打撲はちょっと治しにくい。つくづく、使い勝手の悪い能力だ。

、大丈夫だった?」
「うん、平気平気。で、あの、」

少し離れた場所から瓦礫を退けて出てきたリナリーと神田に、わたしは言葉を濁す。
…どうしよう。なんて説明しよう、サルジュさんのこと。

――やはり、ルージュがサルジュ=アルサールだったのか?」
「神田、気付いてたの?!」
「気付いていたと言うより…勘だな」
「ああ、武人は武人がわかるっていうアレか」
「おまえにしちゃ物わかりが良いじゃねぇか、
「おい、喧嘩売ってんのかこのサムライボーイ」

いちいち一言多いんですよ、このパッツン男児は。
ああもう、怪我治してやるのやめようかな。腹立ってきた。

「それにしても…酷い有様ですね…」

ぐるりと周囲を見回して、アレンがぽつりと呟いた。
その一言に、わたし達は押し黙る。
流れた沈黙を破ったのは、神田の静かな声だった。

「…もうこの都市は駄目だな。
 ここは無認可地だ、誰かが投資でもしねぇ限り、ここが機能することはないだろう」
「…たくさん、死んだしね」

AKUMAの砲弾で死んだ人間は、死体すら残らない。
だから屍累々というわけじゃない。
だけどわたし達は、覚えていかなきゃいけない。――守れなかったことを。

「…守れなかったね」
「…そうね…」

わたし達は、そっと黙祷を捧げた。
気休めでしかないのはわかっている。
ただそれでも、わたし達はそうする以外に、死者の悼み方を知らない。

――仕方ないだろうさ。そういう運命だろ」

そんな、どこか平坦な声に、わたし達は振り返った。
そこにいたのは、ルージュさん――否、サルジュ=アルサール。
その姿はやはり完璧な女性で、男性的な要素は外見からは見い出せない。

「ルー…サルジュさん」
「おう。無事だったか」
「…女の人ですよね?」
「まぁな」

苦笑して、彼女はスッと何かを差し出してきた。
――横笛、だった。だけど、素材は鋼か何かだと思う。

「これを手に入れてから、変な体質になってな。
 ――さっきなんて言ったっけ? イノセンス?」

――ああ、この横笛が、あの棍の正体か。
発動時に巨大化するなんて、ラビの槌みたいだ。


「…うん。間違いなくイノセンスだよ…」

神田に促され、わたしは小さく頷いた。
触れたわたしには判る。あれはイノセンスだ。
そして恐らく、発動と共に彼女の性別が反転する。それがあのイノセンスが起こしていた奇怪。

――サルジュ=アルサール。俺達と一緒に来て貰う」
「坊や達のボスのところへか?」

わたし達が、なんらかの組織に属しているということには、気付いていたんだろう。
そう言って笑ったサルジュさんは、しかしゆっくりと頭を振った。

「…悪いが、俺はフィロをひとりにするわけにはいかないんだ」
「フィロ? 受付の?」

リナリーが不思議そうに問いかけた、その瞬間だった。
静かな少女の声が、響いたのは。

――その必要はありません、サルジュ」

その声に、わたし達は振り返る。
そこには、瓦礫の中に立つフィロの姿があった。

「フィロ?!」
「何をしてるの!? 瓦礫が崩れてきたら…ッ」

リナリーの言葉に、彼女はどこか壊れたように微笑む。
邪気も何も無い、ただ、笑っているだけの顔。
目を瞠るわたし達の前で、フィロは自分の背後の瓦礫に向かい、何かを投げつけた。

轟音と共に、赤く染まる空気。
爆薬? いや、もっと強力なもの。爆弾? なんでそんなものを?

「サルジュ。やはり、あなたはこの『世界』を『壊す』のですね」
「…おまえの為だとは言わないよ、フィロ」
「…酷いひと。いつでも私が悪者なんですね」

そう言って、フィロは小さく嗤った。
自嘲気味なその笑顔は、暴悪的な炎に煽られ、酷く歪に映る。

「この『世界』は壊れたぞ。フィロ、もう良いだろう?」
「…夢を、見なかったわけじゃない。
 サルジュ。あなたと一緒にここから出て、姉妹のように仲良く過ごす日を。
 …だけど無理です。私はここから出られない。私の『世界』はここだから」

そう告げたフィロの声には、迷いがなかった。
哀しいほどに真っ直ぐなその声に、サルジュさんは何を思うのだろう。
――わたしには、わからない。

ふたりの関係も、その会話の意味も、わたしにはわからない。
だけどどうして、こんなにもやりきれない気持ちになるんだろう。

「…フィロ」
「この世界が壊れる時、私も壊れるの。…さようなら、サルジュ。私の親愛なる叔母様。
 お祖父様とお母様に、伝えてきます。あなたのことを」

そう言って。
彼女は、作り物じゃない、穏やかな微笑みをサルジュさんに向けた。
そして、炎の海と化した朽ちた都市へと、戻っていく。

「フィロ!!」
――待て。追うな」

追い変えようとしたわたしを、サルジュさんの手が制した。
わたしは、驚愕に目を瞠る。

「サルジュさん!?」
「フィロが選んだことだ。それに、あんた達には関係ない」
「なんで! 家族だって、言ってたじゃないですか!」
「…ああ。たったひとりの肉親だ。あの娘は、俺の姉の娘だ」
「だったら!」
――結局、外では生きられないんだよ、あれは。だからもう良い」

その声は酷く静かで、言いようのない怒りが込み上げてくる。
なんで諦めるの。たったひとつしかない、命の未来なのに!

「…。やめろ」
「止めないで、神田ッ」
「俺達の任務は、イノセンスの回収及び適合者を連れ帰ることだ」
「そんなのわかってる! わかってるけど!!」

神田の言うことの方が、正しいのはわかってる。
フィロの、サルジュさんの決断を、わたしがとやかく言える立場じゃないことも。
だけど、それでも。誰かが死ぬのが嫌だった。せめて目の前にある命だけでも、救いたかった。

「こんなの…嫌だよ…ッ」
…」

崩れ落ちたわたしを、リナリーがぎゅっと抱き締めてくれる。
同じように膝を着いて、アレンが頭を撫でてくれた。
神田はわたしの代わりに、一部始終を見届けてくれている。

わたしが泣くのはおかしい。だけど。
涙は零れ――胸を締め付ける痛みが、消えない。


+++


――列車の上級車両客室。
わたし達は、教団へ戻るために汽車で移動中だった。
その中には、サルジュさんの姿もある。

「…俺の父親は、リアルレイドの闘士だった」

口数が少ないわたし達に、ぽつりとサルジュさんは語り出した。
それはきっと、彼女の独り言に近いものだっただろう。だからわたし達は、静かに耳を傾ける。

「恋人をパートナーに闘った父は、敗者となり恋人を奪われた。
 結果…彼女は自ら命を絶ち、父に遺されたのは彼女との間に生まれていた娘がひとり」

サルジュさんの声には、明確な感情の色は見て取れない。
ただ、その表情は僅かに、哀しみを孕んでいた。

「その後、父は俺の母と出会い、結婚した。
 だが、どうしても忘れられなかったんだろうな。自分のせいで命を絶った女の存在が」

淡々と語るその物語は、酷く哀しい。
想像するだけで、胸に疼くような痛みが走る。

「俺がまだ、3歳くらいの時だった。
 父は姉を伴い、家を出た。――行き先がディングレイだと知ったのは、10年以上経った後だ」

家族を奪われた哀しみは、どれほどのものだっただろう。
どんな思いで、サルジュさんはその十数年を生きてきたのか――

「父は『闘神』となり、やがて『オーナー』となった。
 姉は若い戦士と恋に落ち、あの都市で結婚したらしい。しかし、相手は闘士だったんだ」
「…まさか」
「そう。――姉は、彼女の母親と同じ途を辿ったよ。そして遺されたのが、フィロだ」

痛い程、胸が締め付けられる錯覚を覚えた。
リナリー達は、痛みを堪えるような表情をしている。わたしもきっと同じだ。

「孤児でも、『闘神』であり『オーナー』の孫娘。
 生活の保証はされた。だが引き替えに、フィロは表情を失っていったんだ」

幼い少女が育つには、あまりにも酷い環境だっただろう。
あそこにあったのは、悲哀と、欲望と、策謀と――命のやり取りだ。

「俺が来たときには、もう手遅れだったんだろう。
 父も死に、ひとりになったフィロには、もうあの世界しか残されていなかった」

そこで言葉を切ると、サルジュさんはきつく拳を握り締める。

「それでも願ってしまった。
 救えなかった姉の代わりに、せめてこの手で姪を救い出したいと」

その声は明瞭。
だけど、泣いているように聞こえた。そう見えた。

「…馬鹿だろ。フィロも、俺も」

自嘲気味に呟かれたそれに、わたし達は応えられなかった。
応えられるわけがない。
数奇な運命に翻弄された家族。
伯爵に目を付けられなかっただけ、マシだとでも言えばいいのか。

――なぁ。俺でもなれるんだろうか」

不意に、サルジュさんがそんなことを呟いた。
問いかけるその言葉は、どういう意味だ。

「やり場のないこの感情を、誤魔化すように武器を振るう俺でも。
 ――神の使徒とやらに、なれるだろうか?」

その真っ直ぐな声に、わたしの隣に座るアレンが顔を上げる。
わたしはつられるように顔を上げて、アレンを見た。
アレンは、真っ直ぐにサルジュさんを見つめて、ゆっくりと口を開く。

「…あなたが、イノセンスと共にある限りは」
「そう…」

どこか寂しげに微笑って、サルジュさんは視線を窓の外に向けた。
…彼女は、エクソシストの道を歩むだろう。
その心に、闇を抱えて。やりきれない想いを、AKUMAを壊すことで誤魔化しながら。



わたしに何が出来ただろう。
別の次元から来た《傍観者》。神に魅入られたエクソシスト。
――知らない《物語》の前では、わたしはただのちっぽけな人間でしかない。






わたしはどうしようもなく非力で、無力だった。



To be continued?

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