時間は少し遡る。
神田もアレンも病室から抜け出して、少し経った頃。
ラビはひとり、寝付けもせずに頬杖をついていた。

彼の思考の波は深い。
《方舟》の中での経験は、決意は、そして彼が認めた事は、《ブックマン》としては失格だろう。

だがそれでも、彼は《ブックマン》だった。

無事に帰還出来た今、彼には考えなければいけないことが山とある。
リナリーのイノセンスが、自らの意志で彼女を護ったこと。
アレンのイノセンスが、破壊されてもなお再生し、宿主の命を救ったこと。
彼が、《方舟》を操ったこと。


そして――の、存在。

「……」

そこに思考が行き着くと、ラビは胸の奥がじくじくと痛むような錯覚を覚える。
思えば初めから、彼女は《特殊》だ。
なのに何故、自分達は彼女が《特殊》であることを忘れていたのだろう。

――いや、違う。
忘れていたのではない。
考えようとしなかっただけなのだ。

それほどまでに彼女の存在は、ラビの中で大きい。
それはアレンを始め、リナリーも、神田も同じだろう。

防護系、支援系のイノセンスは決して多くはないがあることは、ある。
ミランダのそれも支援系だし、ティエドール元帥のイノセンスは防護系という噂も聞く。
だがその中においても、のイノセンスはやはり特殊だった。

「なんだ。休める時に休まんか」
「…さっきまでぐーすか寝てた奴の言うコトじゃねぇさ、パンダジジイ…痛ッ!?」

生返事で返した瞬間、ラビは後頭部を張り飛ばされて無言で悶える。
…まったく、年寄りの拳にしては強力過ぎだ。

殴られた頭を押さえながら、ラビは軽く頭を振った。
そして、ジッと挑むような視線をブックマンに向ける。

「…なぁ、ジジイ。が《ハート》っていう可能性は…無いのか?」
「……」
「思えば――のイノセンスこそが、他の誰のものよりも特殊さ」

言葉にしてしまうと、それはしこりとなって胸の奥に落ちる。
進化し続けるイノセンス。
攻撃系でも防護系でもない、特殊な能力を持つそれ。
――思えば彼女だけは、寄生型の特徴をあまり持たない。

「…さて。《異例》という意味では、リナ嬢やアレンのそれも該当する」
「…《異例》が、三人」
「それだけでは《ハート》と判断するのは難しいだろう」

確かに、そうだ。
三人のうちの誰かなのかもしれないし、まったく別の誰かかもしれない。
目の当たりにした元帥のイノセンスは凄まじかった。あれが《ハート》だと言われても納得するだろう。

「…なんか、もう…わけわかんねぇさ…」

ため息混じりにそう呟いてから、ラビは思う。
もしも3人のうちの誰かが、《ハート》だとしたら。






それはきっと、身が引き裂かれるような痛みを生むのだろうと――――



Master Scene 揺れる教団




――クロス=マリアン元帥」

堅い口調で口を開いたのは、ルベリエに随従する青年だった。
名指しされたクロスは姿勢を正すこともなく、不遜な態度のままに視線だけをふたりに向けた。

「あなたは4年前、アクマ生成工場破壊任務を通達されてすぐ、教団本部から消息を断ち、
 以後現在まで一切の報告義務を放棄し、今回日本江戸地区にてクロス部隊、ティエドール部隊が戦闘中に方舟内に潜入」

見た目に反さず、青年は口調どころか声音まで堅い。

「その後敵側にハートの可能性をつけられたリナリー=リーと他5名のエクソシスト、
 のちに適合者と判明する青年1名が崩壊を始めた同方舟内に拉致されノアと戦闘、元帥は生成工場の探索、
 その発見後彼らの戦闘に参加。その場にいたエクソシストのひとりで元帥の弟子でもあるアレン=ウォーカーに指示し、
 方舟を操縦させ崩壊を回避。これにより方舟及び生成工場を奪取した」

口を挟む余裕がない程、長く淀みのない口上。
いっそ感心しながら、クロスは脚を組み直した。

「そしてそのまま独断で方舟を使用し、日本から4年ぶりに本部へ帰還。以上です」
「このイスに座るのも4年ぶり。いやぁ、ご苦労様でしたクロス元帥」

青年の言葉を引き継ぎ、ルベリエが口を開く。
緩やかな笑みを浮かべてはいるものの、クロスを見据える目は笑ってはいない。

「ですが? 正直こちらはヒヤヒヤでしたよ。あなたが突然姿を消されてしまって? 身内を疑いたくはないですから。ね」
「……」

白々しい。
恐らく、その場にいた全員がそう思っただろう。
あからさまな敵意を向けられたクロスは、逆に微笑を返した。

――敵の腹の中に潜り込まねばならない危険な任務でしたので。
 どこに潜んでるか判らない伯爵の手先を、警戒しての行動です。
 元帥狙いでハート狩りをはじめられたのには、少しヒヤッとしましたがね」
「……」

クロスの態度もまた、あからさまに喧嘩を売っていた。
不自然な沈黙の後、先に口を開いたのはルベリエの方だ。

「任務が成功したから通る言い分ですな。本来なら厳重処罰ものだ」

隠すつもりすらない、鋭い眼光だった。
視線を向けられた本人よりも、周囲の方が息を呑む。

「(うーん、相変わらずすごい眼力だねェ)」
「(奴を見てると大嫌いなヘビを思い出して寒気がするわ)」

オセアニア支部長,アンドリュー=ナンセンの耳打ちに、バクは顔をしかめて身震いする。
そんな彼に、最年長者である中東支部長,ルイジ=フェルミはどこかのんびりと声を掛けた。

「(ジンマシンは大丈夫かね)」
「(黙れ)」
「(アラ、そう? ワタシは好きよ、ヘビ)」

唯一の女性支部長,北米支部を任されるレニー=エウスタウニが、笑いながらそう告げて、どこか楽しそうに目を眇める。

「そこいらのカエル坊ちゃんよりはね」
「(それはオレ達のことかッ)」

顔を引きつらせるバクに、彼女は緩く微笑った。
そんな微笑ましい言い合いとは裏腹に、クロスとルベリエの腹の探り合いは続く。

――ですが今回の江戸戦は我々にとって戦況も大きく変えるものとなりました。
 生成工場を奪取し、アクマの供給を一時的でも阻止できた」

スッ、と立ち上がり、ルベリエは淡々と告げる。

「これにより伯爵は世界終末計画の『暗黒の三日間』の再来を遅らせねばならなくなるでしょう。
 それが一年か、半年か――たとえもっと短い時間であっても、我々にとって決戦までの時間が増えることはとても大きい」

確かに、そのほんの少しの時間は大きい。
――そう。エクソシスト達が、命を懸けて得た時間は。

「この間にイノセンストシとを集め、伯爵を打破する戦力をつくるためには!!
 そして奪った方舟の空間転移能力は、ノアやアクマとの大規模な戦闘に多いに役立つ武器となる」

ルベリエの言葉に、周囲は大きく目を瞠り、互いに顔を見合わせた。
そんな中、バクは思わず椅子を蹴って立ち上がる。

「方舟を使用するのですか!?」
「室長にはすぐその準備に入って頂きたい」

有無を言わせないその一言に、静かに、しかし良く通る声で言葉を発したのは、唯一の女性元帥であるクラウドだった。

「我々エクソシストに、方舟に乗れと…?」
「オレは構わん。戦地までの移動時間がケチれていいわ」

若干の難色を示すクラウドとは対照的に、ソカロはあっさりとそれを受け入れる。
ティエドールとクロスは黙して語らず、コムイは予想していたのか、他に比べれば冷静に見えた。

「ッ、700年間敵の船として使用されていた未知の代物です。よく調べてから使用を検討した方が…!」
「バク支部長ってば好奇心に負けて乗ったくせに!」
「だまれ七三!」

アンドリューの余計な一言を一喝で黙らせたバクだったが、ルベリエから返されたのは、斬って捨てるかのような即答だ。

「そんな時間はムダだ。これは大元帥と我らの教皇のお考えです」
「しかしですな、もしエクソシストに負担が掛かったら…」
「あなたは誰の為に意見しているのですか」

そこで言葉を切り、ルベリエはバクに視線を向ける。

「我々はエクソシストを守る為にあるのではない。この戦争に勝つ為にあるのです」

暖かみの欠片もない、言葉だった。
一瞬言葉を失い、バクは呆然と立ち尽くす。

誰の為でもない、《世界》存続の為に命を懸けた、神の使徒。
尊い命を散らして逝った者とて、少なくない。
生き残った彼らとて、命に関わるほどの怪我をして体力も気力も使い果たし、ひとりは意識すら戻っていない。

バクは、沸き上がる怒りにきつく唇を噛む。

彼らを労る時間すら、無駄だと言うのか。
命を懸けて戦って、満身創痍の彼らを――

「……ッ」
――座るんだ、バク支部長」

爪が皮膚に食い込むほど強く拳を握り締めたバクに、コムイが感情を抑えた静かな口調で告げた。

「………コムイ……」
「座って」

コムイの声音は静かだったが、その表情に浮かぶ色はバクと同質のものだった。

彼らは――中央庁は、エクソシストを人として扱わない。
彼らにとってエクソシストは、神から与えられた生け贄だ。
千年伯爵にとっての、AKUMAと変わらない。
少しでも反抗の意を示せば、反乱分子の汚名を着せられて教団から追われる身となるだろう。

それを知ったからこそ、コムイは本部室長の地位を勝ち取ったのだ。

エクソシストとなった、最愛の妹を守る為。
そして、彼女と同じ境遇に身を置くエクソシスト達を、守る為に。

「危険かどうかなら、方舟よりもっと検討しなければならないものがあると思いませんか?」
「……え?」

突然切り返され、バクは訝しげに顔をしかめる。
構わず、ルベリエはその名前を口にした。

「『アレン=ウォーカー』という人物」
「!?」

ハッと息を呑むコムイとは対照的に、バクはわけがわからず首を傾げた。

「は?」
「あなたの言うとおり、方舟は伯爵の未知の舟。
 それをなぜ、アレン=ウォーカーは操れたのでしょうかねぇ…マリアン元帥?」

再び、ルベリエはクロスに視線を向ける。
しかし応えたのは不遜な態度のクロスではなく、その隣に座るティエドールだった。

「寝てるよ」
「コラァーーーーーーッ!!」

確実に、わざとだ。
苛立ちに声を荒げるルベリエに、クロスは欠伸混じりに言い返す。

「あの時は土壇場でしたからね。人間死ぬ気でやれば何でも出来る」
「あーーー、なるほど。あなた私をナメてますね」

あれは相当怒っているな、と。
ハラハラしながら見守る一同の中、ほとんど反応を返さなかった青年が口を開いた。

「…元帥。あなたは生成工場破壊任務を通達されてすぐ、アレン=ウォーカーを弟子にされてますね」

顔をしかめたクロスの様子に、ルベリエは軽く唇の端を持ち上げ、笑った。

「彼の正体を知っていて、教団に送り込んだんではないのか?
 ――それが『14番目』の意思だったのでは?」
「!!」
「アレン=ウォーカーは『14番目』が残した、《奏者の資格》なのでしょう?」

ルベリエの言葉に、さすがのクロスも目を瞠った。
教団に報告してないはずの、《14番目》の情報。
当事者である弟子にすら告げなかったその存在を、よりによって中央庁の人間が知っている。

「!? 何を言ってるのだ?」
「さぁ?」
「14番目…?」

当然、他の面々にしてみれば寝耳に水の話だろう。
その単語だけならば、いったい何のことかわからない。

「我々が何も知らず、あなたに生成工場の任務を与えたと思っていたのですか?」
「…わざと行かせたのか」

否定も肯定もせず、心なしか低い声音でクロスは呟く。
そんなクロスの反応に、ルベリエはただ薄く嗤うだけだ。

「否定しないということは、14番とご自身の関わりは認められるのですね? さ、答えて頂きますよ」
「あんたらの口から『14番目』が出てくるとは…だれにそこまで聞いたんです」
「質問しているのはこちらです」

そして、次に飛び出した彼の言葉は、コムイ達に衝撃を与えるには十分過ぎた。

「私が知りたいのは、アレン=ウォーカーが敵側の人間かどうかということ」

瞬間、耐え切れずにバクは声を荒げた。

「なっ…どういう意味ですか、それは…!! 彼はエクソシストだぞ!!」
「エクソシストであっても、敵と関わりがあるのなら危険な異端分子ですよ」

あくまでも淡々と語るルベリエの言には、人間らしい情は欠片もない。
彼にとっては、エクソシストは《兵器》でしかないのだ。…AKUMAと同じような。

「スーマン=ダークの件をお忘れですか? 我々は邪と交わらない、高潔な神の軍でなければならない」
「はっ、方舟は使うくせに…っ」
「それはそれ」

何が「それはそれ」だ!
よっぽと怒鳴り散らしてやりたいバクだったが、それを言ったところでルベリエは何も感じはしないだろう。
しかしそんなバクの予想を遙かに上回る言葉が、冷徹なまでに言い渡された。

「アレン=ウォーカーは異端審問にかけます」
「!!」
「バカな…ちょっと待て…っ」

予想外の言葉に、さすがにコムイも顔色を変えた。

異端審問――処刑確定の拷問裁判だ。

それはもはや罪の有無を求めるものではなく、見せしめ的なものでしかない。
その神の名を借りた惨たらしい儀式は、如何に神の使徒を名乗る者であっても嫌悪を示しざるをえない、凄惨なものだった。

「ルベリエ長官!」

ここへ来て初めて、コムイが声を荒げた。
普段温厚な彼からは想像もつかないような、険しい表情で。

「『14番目』と『奏者』について、我々は何の報告も受けてません! この場の発言は公正にして頂きたい!」
「それは失礼。では今からご説明しましょう」
「いいえ」

あくまでも冷静に返し、語り始めたルベリエの言葉を、コムイは一言で遮った。

「この審議の中断を求めます。説明は書面で」
「……」

コムイとルベリエの視線が、真っ向からぶつかり合う。
不穏な雰囲気を色濃くし始めた空間の中、不意に笑みすら浮かべてクロスが口を開いた。

――好きに調べろ、ルベリエ長官」

その瞬間、全員の視線がクロスに集まる。
集まる視線の中、彼の態度は常の不遜なものに戻っていた。

「あいつをどうするかは、それから決めればいい」
「ッ何を言ってるんですか、クロス元帥!」

眦を吊り上げて、コムイが円卓を叩きつけながら立ち上がった。
しかしクロスは平然と――否、静かにルベリエを見据えている。

「…では、そうさせて頂きましょう?」

対するルベリエもまた、唇の端を持ち上げてゆるりと嗤う。
そして、スッとクロスに向けて人差し指を突きつけ、言い放った。

「マリアン元帥。あなたには当分教団に留まり、中央庁から世話役をつけさせて頂きます。
 アレン=ウォーカーとの会話は一切禁止。彼には監視を付け、24時間見張らせていただく」

そこで一旦言葉を切ると、ルベリエは自分の背後に視線を送る。
控える青年は、小さく頷いてみせた。

「担当はハワード=リンク監査官」
「はっ。承知いたしました、ルベリエ長官」
「…そしてもうひとつ」

青年――リンクは、崩れることのない堅い口調のまま、びしっと敬礼を返す。
それに満足そうに頷き、ふと思い出したようにルベリエは口を開いた。
まるで世間話のような、気軽さで。

という少女について」
「!!」

思いもよらないところで飛び出してきた名前に、コムイは思わずその姿勢のまま硬直した。

――否、予想はしていたのだ。
の持つ特異性は、もはや隠し通せるものではなくなっていた。

彼女を無傷で欲するノア側の動向。右手に現れた傷痕。
進化するイノセンスと、高いシンクロ率。
そして何より――イノセンスの《声》を、聴く能力。

どれかを隠す為には、どれかは明るみに出る。
そしてコムイは、彼女の命を守る方を選択した。

「…彼女が何か。さして注目すべき点はない、一般的なエクソシストですが」
「ヘブラスカより予言を受けた彼女を指して、「注目すべき点はない」と?」

ルベリエの言から、コムイはの能力が既に中央庁に露見していることを確信した。

彼女は自分の特異性を、あまり自覚していなかった。
外に出せば、こうなることはわかっていた。覚悟はしていたのだ、コムイも。

「コムイ室長。あなたは彼女の持つ特殊な能力について、我々に報告されていませんね?」
「…何のことです?」
――《神(イノセンス)》の《声》を聴く能力」
「…それ、は。…何かの間違い…では、」

せめてもの抵抗とばかりに、コムイは言葉を濁す。
だが逆にそれは、相手の疑念を確信に変えただけだ。

「なに、わかっていますよ。イノセンスを感知するその能力、外部に漏れれば彼女を危険に晒すことになる。
 なるほど、確かに切り札に相応しい能力です。伯爵側より先にイノセンスを見つけるためには、必要不可欠だ」

――そう、そうだ。
の持つ能力は、恐らく彼女自身が認識している以上に、この《戦争》に於いて大きな意味を持つ。

「しかし、彼女は件のアレン=ウォーカーと常に行動を共にしてきた。
 それはすべてコムイ室長、あなたの指示ですね? 彼女はいったい何者です」
「何者、などと! は優秀なエクソシストだ、それ以外の何だと言うのです!?」

我慢出来なくなったのか、バクが怒鳴るように聞き返した。
短い間とは言え、彼はアレンとのふたりと共に過ごしたのだ。
ただでさえ数奇な運命を背負う彼らを、これ以上苦しめたくないのはバクも同じだった。

「我々はこう考えているのです。
 彼女、はアレン=ウォーカーの監視役なのでは?」

あくまでも冷静に語るルベリエの言葉は、ある意味では的を射ているだろう。
監視というのは行き過ぎだとしても、は《傍観者》としてアレン達とは別の観点から物事を見つめてきたのだから。

「馬鹿な…何を根拠にそんなことを!」
「根拠ですか。まぁ、あくまで憶測ですよ。
 彼女は、アレン=ウォーカーと対を成す予言を受けた。そこが根拠のひとつです」

《双黒の使徒》――を指して、ヘブラスカが与えた予言。

その真の意味は未だにわからない。
ただひとつだけ明確なことは、彼女は対の予言を受けたアレン=ウォーカーと常に行動を共にし、
まるでそれが当然であるかのように惹かれ合い、寄り添い合ってここまで歩いて来たということだ。

「《神(イノセンス)》の声を聴く娘――彼女は我らにとって、《聖女》か《魔女》か。
 今現在はエクソシストだが、スーマン=ダークの例もある。さて、どう扱ったものか――

一度扱いを間違えれば、劇薬に変わる存在だ。
ルベリエはしばらく考え込み、考えがまとまったのか、満足そうに頷いた。

「…アレン=ウォーカーとの接触を禁止します。
 聞けば彼女は、高いシンクロ率の保有者。空いた元帥の椅子には彼女を据え、イノセンス探索に加わって頂く」

その宣言に、周囲はざわめく。
教団に入って1年程度の少女が、空きがあるとは言え元帥に任命される。
その上、彼女にはまだ師に当たる元帥が居ない。…これ以上の異例が、あるだろうか。

「彼女にも世話役を付け、今後は元帥としての勉学に励んで頂きましょう。
 元帥の皆様方、よろしくお願いしますよ。ゆくゆくは《聖女》として教皇に仕えて頂く身です」
「…ッ!!」

ギリ…ッ、とコムイは唇を噛む。
予想はしていた。
覚悟も出来ていた。
だがそれでも、守ってやれなかったという感情の方が強い。
そんな彼の心情を余所に、ルベリエは厳かに告げる。

「会議はこれにて中断します。…では各々方、また後ほど」

リンクを伴ってルベリエが退席すると、室内は静寂に包まれた。
そんな中で、バクがポツリと呟く。

「…あのふたりを…引き離せと言うのか…ッ」
「……バク支部長」
「ふざけている! それが、命を賭けて戦う彼らに与えるものなのか…ッ」

血を吐くように吐き捨て、バクは握り締めた拳を円卓に叩きつけた。

「あの子が…ッ…ウォーカーが、年相応に笑えるのは…ッ、の存在だけが支えだと、言うのに…ッ」

それは、私情と言われればそれまでなのかもしれない。
だがを、アレンを個人として知る彼らに、情を捨てろというのは酷だった。

彼らはまだ十代の子供で、戦いを望んでエクソシストになったわけではない。

――一度も、望まなかったわけがない。
一般人として、ただ平凡な幸せを得ることを。
それは当然のことであり、誰にも彼等を責める権利などないのだ。

「…気に食わねぇな」

心なしか低い声音で、クロスがそう呟いた。
何が、とは言わずに彼は面倒くさそうに立ち上がると、視線を向けずにその名前を呼ぶ。

「…クラウド」
「なんだ」
「ひとつ、頼みたいことがある」

物珍しそうに目を眇め、クラウドはゆるりと視線をクロスに向ける。

「珍しいな。お前が私に頼み事とは」
「一緒に酒を飲まねぇか。ひとりじゃ味気ない」
「貴様はふざけてるのか」
「ウソウソ」

少しも表情を変えないクラウドの言葉に、クロスは緩く笑う。
そこには昔馴染みへの気安さがあり、対するクラウドもまた、小さく呆れたように息を吐いた。

「茶化すな。本題はなんだ」
――のことだ」

不意に、クロスの表情から笑みが消えた。
その変化を見て取り、クラウドは小さく頷く。




「…聞こう」




彼女が短く告げたのは、既に承諾の意も同じだった。






さまざまな思惑を孕み、《セカイ》は揺れ動く。



To be continued?

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