――耳の奥から響く、その《声》が。


わたしの心を、掻き立てる。


急き立てるように、わたしを追い詰めていく。


イノセンスが叫ぶのだ。
戦えと、その声が耳の奥で響く。


戦う為に生きているんじゃないの。
護りたいから戦うの。
だけど…






――だけどそれが『望み』なら、わたしは戦おう。



File36 《神ノ道化(クラウン・クラウン)




「何が…起こった?」

目の前の光景に、バクさんは目を瞠った。
それがイノセンスだなんて、同じエクソシストでもなければわからないだろう。

「これは…? 俺達を助けてくれたのか…?」

白銀のそれが、バクさん達を庇うように彼らを包み込んでいる。
その腕が握るのは、AKUMAの放ったダークマターの糸。

『何だ? また変なのが出てきた』

AKUMAの足下に、壊れ掛けた右腕が水の中から伸ばされていた。
次に起こることを知るわたしは、羽根を羽ばたかせ、宙に浮かび上がる。


「ウォーカ…?」

フォーが、微かに呟く声がする。
彼女は『守り神』の欠片。微かな気配を感じ取ることが出来るのだろう。

『邪魔だよ。――そこ、全部消えちゃいな』

AKUMAが、水を蹴って駆けた。
さすがに、この距離じゃ追いつけないか。
だけど、アレンのイノセンスがふたりを護ってくれるから、大丈夫だ。

『分解!』
「!」

ガバッと開いたAKUMAの口から、小さな腕のような糸が伸びた。
それがバクさん達に、向かう。

「わああっ」

バクさんがフォーを抱き込み、目を閉じた。
その頃には、ようやくわたしもAKUMAの背後に追いつく。

「…あれっ? なんともない…?」
「大丈夫だ…よ、バク…ウォーカーのイノセンスだ…」

小さく、フォーが呟いた。
その視線が、わたしの方を見る。

――切り裂け、《時空斬盾》」

わたしの腕にまとわりつく刃が、AKUMAの左手の指を落とした。
それとほぼ同時に、アレンのイノセンスが動く。
その白銀の光は、一瞬でAKUMAを『解体』した。

『あがぁあぁァあァア!!』

悲鳴を上げながら、それでもAKUMAはまだ動いていた。
アレンのイノセンスが、バクさん達から離れる。
それと入れ替わるように、わたしはふたりの元へ辿り着いた。

「…ふたりとも、大丈夫?」
「……」

酷く鈍い動きで、フォーがわたしの方へ顔を向けた。
スッと、わたしはふたりに触れる。

「今、《再生》させます」
…」
――《瞬癒結盾》」

短く告げる言葉と共に、『分解』されかけていたふたりの肌が、本来の姿を取り戻す。
――わたしのイノセンスは、進化している。生身に負った傷以外のものも、少しなら治すことが出来るようだ。

「……」

視線を向けた先には、水の中から延ばされた、壊れ掛けの右腕。
そこに、白銀のイノセンスが舞い降りる。


ドクン、と。
脈打つ音が、聞こえた。


イノセンスに包み込まれた右腕が、再生される。
水の中から、水面を割るようにして現れたのは、白銀の光。

「行コウ…共ニ…」

神々しいまでの輝き。
白い髪すら、白銀に見える。

真っ直ぐにAKUMAだけを映す左眼。
――その為だけにある、姿。

『貴様ぁ…』

両腕を落とされたAKUMAが、ゆらりと立ち上がった。
既にAKUMAに、ダークマターより生まれた糸を操る能力はない。

『ああアぁあぁぁぁァアあァッ!!』

それは恐らく、AKUMAとしての本能なのだろう。
能力を失ってなお、AKUMAはアレンに向かって走る。

それをひらりと上に飛んで避けると、すり抜けざまにAKUMAの下半身が『壊れた』。
既にそれは、初めの形を保ってはいない。

――哀れなアクマの魂よ」

バッと、アレンの左腕が鋭利な爪を見せる。
以前の左腕よりもずっと、『壊す』力を増した、イノセンス。

「安らかに眠れ」

静かな言葉と共に、振るわれた爪。
――AKUMAを構成する『部品』、が、音を立てて崩れていく。


+++


――戦いは、終わった。
…いや、それを戦いと称して良かったのかどうかすら、わたしにはわからない。
ただ、目の前には完全なイノセンスを得たアレンと、既に頭だけになったAKUMAがいる。

「教えて下さい、アクマ」

辛うじて『存在している』AKUMAに、アレンは静かに問いかける。

「誰に何処へ、僕達を連れてくるよう言われていたんですか?」
『「ダレに、ドコへ」…? くはは…助けテくれるナら、答エルよ!』

その言葉に、アレンは一瞬、きょとんと目を瞬かせる。
そして次の瞬間には、酷く穏やかで優しい微笑みを浮かべていた。

「…いいですよ」

AKUMAの動きが、止まる。

「教えて?」

軽く小首を傾げて訊いたアレンに、一瞬沈黙してから、AKUMAは笑い出した。
アレンもまた、緩く口角を持ち上げて嗤う。

『あはははは! そんな気ナイくせに!
 そんなキ無イクセに! この道化役者!!』

よく喋るAKUMAだな、とわたしは思う。
そしてこの後の情報は、わたしは『知っている』ことだから、あまり意味はない。

『くくくっ、ノア様だ。ティキ=ミック卿ダよ!!』

言いながら、AKUMAは高笑いをする。
狂ったように嗤うAKUMAが告げた言葉は、『知って』いても、胸を抉った。

『江戸じゃ今ゴロどうなっテルかなァ!? オマえの仲間!!
 あそコにハ、ミック卿以外に4人のノア様ト伯爵様ガイル!!』

アレンの表情が強張った。
それを見て、ますますAKUMAは嗤う。

『アァれ~~~ん? ヤバイんジャなイ?』
――ありがとう」

スッと、アレンは左腕の爪を滑らせた。
額から、直線に引かれた光。
それは少しずつ、AKUMAを壊していく。

『ソコニある…ノアの方舟に乗っテイケ、アれん…』

AKUMAの示した先には、薄っぺらい、どこか機械的な物体があった。
ノアの方舟。その周囲に、ティーズがひらひらと優雅に舞っていた。

『空間を超エテ、江戸ニイケルヨ…』
――…どうしてですか?」

不思議そうに訪ねるアレンに、AKUMAは消えかけながらも言葉を紡ぎ続けた。

『ドウシテ…? ノア様ノ命令ダカラダヨ』

少しずつ、AKUMAの気配が消えていく。

『イヤ…ドウダロウナ…』

どこか語る声は、穏やかだ。
――レベル3。悪化しきった魂を器に繋ぎ止めた存在。

『ナンダカネ――気分ガ、スゴクイインダ…』

そんな存在にすら、『救い』を与える者。
――ああ、存在自体が、AKUMAの為に在るかのようだ。

「おやすみ」

優しくそう呟いたアレンの姿を、わたしは複雑な思いで見つめていた。
それは、アレン自身が望んだ姿。
わたしは彼の望みに応え、共に歩む道を選択した。

なのに、どうして…

「ウォーカー」

バクさんに呼ばれて、アレンが振り返る。
完全なイノセンス。AKUMAの為に存在する、AKUMAの為の姿。
《愚かな道化(オーギュスト)》を追い回す、《白い道化(クラウン)》。



記されたその名は――――《神ノ道化(クラウン・クラウン)



この道を選択したのは彼自身。
そして、わたしの意志。

なのに、
――こんなにもその姿を哀しいと思うのは、どうして…?


+++


それから数時間後。
わたしとアレンは、簡単な検査を受けてバクさんの研究室へ来ていた。

「…アレーン、ちゃんと服着てくれないかなぁ?」
「何恥ずかしがってんですか、そんな歳でもないでしょ」
「なんて失礼なこと言いやがるのかね、この子はッ!!
 わたしが同じ格好してたら同じコト言うでしょ? 言うよね!?」
「当たり前です。はっきり言って、検査でも肌晒して欲しくないくらいですよ」
「…………」

…真顔で言われると反応に困ります。
これはどう返せばいいんだろう。わからない。

「そもそも、男と女じゃ肌晒す重みが違うでしょ、重みが」
「…いや、そうかもしれないけど…」

見せられるのも恥ずかしいと言うか。
…なんか、もういいや…。
言い返すのも面倒になってため息を吐くと、丁度バクさんが振り返った。

「!」

バクさんが気付いてくれたので、わたしとアレンは大きなモニターの方へ近づく。
そこにはアレンの姿が映し出されていて、周囲のモニタにはわたしの姿もある。

「『道化(クラウン)』…まるでそれみたいですね、僕の姿」

モニターを見上げながら、アレンがしみじみと呟いた。
ふわふわと浮かび上がるモニターを指でつついたりと、やたら悪戯しながら。
…この子、こういうの好きなんだろうか。

「ウォーカー、。検査は済んだのか」
「ウォンさんが「異常ナシです」って」
「わたしもです」
「そうか。…ウォーカー、左腕は?」

訊かれて、アレンは羽織ったシャツをはだけて左腕を見せる。
…なんの躊躇いもなく脱ぐのはやめて欲しい。わたしがいるんだから。

「まだ少し感覚がボケてますが、大丈夫です」
「そうか」

軽く手を握ったり開いたりを繰り返すアレンに、バクさんは笑って頷いた。
だけど、その声にはどこか元気がない。

「あ。でもまだちょっとイカサマはできないかなー…」
「ンなこと出来なくても良いでしょ、とりあえずは…」
「出来ることが出来ないのは落ち着かないんですよ」
「…良いから服を着てください」
「はいはい」

頭を抱えるわたしをからかうように笑いながら、アレンはようやくはだけたシャツに腕を通す。
まだ動かしにくいのか、上手くタイが結べない様子を見かねて、わたしは横から手を伸ばした。

タイを結んであげている間、アレンは大人しくそれを眺めていた。
…やだわー。ナニコレ、新婚さんじゃないんだから。

「……」
「バクさーん? 何しょんぼりしてんですか」

ふと視線を向けると、バクさんがしょんぼりと肩を落としている。
アレンが不思議そうに声を掛けると、すぐにハッと顔を上げた。

「あ、いや。なんでもない。
 《神ノ道化(クラウン・クラウン)》か…そう呼ばせてもらうよ」
「強かったですか?」

アレンが発した一言に、わたしは一瞬、どう反応して良いかわからなかった。
思わず、アレンを見上げる。

「ん?」
「強かったですか? 僕のイノセンス」

重ねて言われた言葉。
わたしは何故か、胸の奥が痛んだ。

自らの左腕を、どこかで憎んでいたアレン。
なのに今、それを指して訊ねた言葉は――『武器』の評価を訊ねるようで。

その違和感に、バクさんも気付いたのかもしれない。
一瞬言葉に詰まってから、バクさんは慌てて口を開いた。

「あ、ああ! 強い対アクマ武器だったぞ、ウォーカー」
「そっか」

嬉しそうに、アレンが笑う。
屈託のない笑顔は、年相応のもののはず、なのに。
わたしの胸を支配する――この無力感は、何だ。

「……」
? どうしたの?」
「え…あ、ううん。なんでもない。ちょっと検査疲れ」

苦笑して手を振ると、アレンの右手がわたしの頬に触れた。
じっとわたしを不安そうに見つめて、口を開く。

「…そうだね、少し顔色が悪い。
 少し休んでて。僕はフォーの様子を見てくるから」
「うん…わかった…」

無理矢理、わたしは微笑んだ。
そんなわたしの頭を軽く撫でてから、アレンはバクさんの方を振り返る。

「バクさん、をお願いします」
「ああ」

バクさんが頷いた瞬間、電話が鳴り響く。
そのけたたましい音に、わたしたちは一斉に振り返った。


「支部長、本部との回線復旧しました!」
「あ、うむ! ではウォーカー、後でまた会おう」
「はい」

バクさんに頷き返して、アレンは背を向けた。
フォーのお見舞いだ。わたしも行きたいところだけど、顔色が悪いと言われては休んでいるしかない。

「バクさん」

不意に立ち止まり、アレンは顔だけをこちらへ向けた。
受話器を片手に持ったバクさんが、何事かと目を瞬かせる。

「コムイさんが何と言っても、僕は方舟に乗りますよ」

それだけ言って、アレンは研究室を出ていった。
一瞬、困惑したような顔をしていたバクさんが、慌てて受話器に向かう。


電話の相手はコムイさんだろう。
わたしやアレンの検査の報告から始まり、方舟の話に移行して。
話が進むにつれて全然意味がわからなくなってきたので、わたしは聞き耳を立てるのもやめた。

椅子に座ってぼんやりとモニターを見る。
研究員が、気を遣ってくれてコーヒーを煎れてくれた。
それをなんとなしに飲んでいると、バクさんから声を掛けられる。

。おい、!」
「え? あ、はい?」

顔を上げたわたしに、バクさんは手招きをしながら受話器を差し出してくる。

「コムイが話をしたいと」
「え?」

この展開は予想してなかった。
わたしは、差し出された受話器を受け取る。
その手が、微かに震えた。

「………コムイさん?」
ちゃん?』
「はい」

聞こえてきた声に、思わず涙が浮かんできた。
ああ、コムイさんだ。なんだか懐かしい。

『本物かい?』
「ニセモノなんかいませんよ、そこまで有名人じゃないし」
『ははっ…ああ、ちゃんだね』

どういう意味さ。
妙に納得したように言われて、わたしは苦笑する。
受話器の向こうで、絞り出すようにコムイさんが呟いた。

『…無事で、良かった…』
「…ごめんなさい、心配させて」

謝ると、「君達が無事ならそれで良いんだよ」、と言われた。
その言葉に、泣きそうになる。

『で。あのね、例の方舟なんだけど』
「はい」
『そっちでデータ摂って貰って、こっちで解析するから、少し時間掛かるよ』
「えっ…」

…時間、掛かったっけ?
記憶を辿っても、方舟突入までせいぜい数時間だけだった様な気がする。

『あと、ちゃんとアレンくんのイノセンスのデータも、こっちでちょっと見るから。
 辛いのは充分理解してるけど、早まった真似はしないでね』
「えっと…はい…」

歯切れの悪いわたしの返事をどう解釈したのか、コムイさんの声が厳しさを帯びた。

『特に、アレンくんが勝手に方舟使わないように止めてて。ちゃんだけが頼りだよ!』
「うわー、アレン信用ないなー。わかりました、殴ってでも止めておきます」

これは責任重大だ。
笑うわたしに、また、コムイさんが呟くように、どこか哀しげに告げた。

『…行かなくて良い、って。今すぐ戻っておいで、って言えたら…良いんだけどね』
「言われて聞くような奴ですかアレンが」
『そうだよねー。ああ、君もだからね、ちゃん』
「あそこまで無謀じゃないですよ、わたし」
『シンクロ率一桁の状態で、イノセンスを発動しようとした子が言う台詞じゃないなぁ』


……
………ああ、一桁台まで落ちたのか。
いざ告げられると、薄ら寒いものを感じる。

『…お願いだから、もう無茶はしないでね』
「コムイさん。あの、でも…わたし、」
『わかってる。でも、君達に無事に帰ってきて欲しいから、勝手だけど無茶をしないで欲しい』
「……」

静かに告げられた言葉は、コムイさんだけの言葉じゃないんだろう。
目を閉じる。リーバーさんや、ジョニーさん。科学班のみんな。ヘブラスカ。
たくさんの人達の顔が、脳裏に浮かんだ。

「…はい…帰ります。必ず、みんなで」
『うん…。あ、そうそう、ちゃんとアレンくんの新しい団服はもうそっちに届いてると思う。
 もうふたりの団服もボロボロだろうからね。日本へ向かうなら、あった方が良い』
「ありがとうございます、コムイさん」
『…こんなことくらいしか、出来ないからね』
「……」

そんな、哀しそうに言わないで欲しい。
教団で待っているコムイさん達の存在が、どれだけ外で戦うわたし達の支えになっているか。

「…ね、コムイさん?」
『ん?』
「新しい団服、可愛いですか?」
『…うん、きっとちゃんも気に入ってくれると思うよ』
「楽しみですねー」

明るく笑うわたしに、コムイさんも笑ってくれる。
そんな些細なことに、泣きたくなった。

『…じゃあ、そろそろボクは仕事に戻るよ。
 リミットは半日。それまでに何も判明しなかったら、最悪その方舟は使用しないように』
「…はは…半日、アレンを止めるくらいしか出来ないですよ、わたし」
『かもしれないね』
「わたしだって、早くリナリー達のところへ行きたい」
『うん…わかってるよ』

…あ。しまった、リナリーの話題は出すべきじゃなかった。
コムイさんにとって、リナリーはたったひとりの肉親。
きっと、酷く傷つけてしまった。…どうしよう。なんてバカなんだろう、わたし。

『…でも、ただ今は休んで。休めるときに休むのも、必要なことだよ』
「はい…」

神妙に返事を返して、わたしは受話器を研究員に返した。
それを待っていたのか、バクさんが資料を片手に持ったままわたしに声を掛けてくる。

「終わったのか?」
「あ、はい。ごめんなさい、長電話して」
「いや、構わん。そんなことを気にするな」

そう言ってから、何かを言いかけてまた口を噤む。
首を傾げるわたしに、思案してから、バクさんは再び口を開いた。

「…。ウォーカーのあの左腕、キミにはどう映る」
――以前より、接合部分が綺麗だな、と」

素直で率直な感想を言うと、小さく頷かれた。
以前のアレンの左腕は、まるでイノセンスに侵食されているかのように見えたのだ。
それが、今は完全に繋がっていた。

「…ああ、そうだな…。人体とイノセンスが以前より完全に接合されている。
 ウォーカーの心とイノセンスが完全に繋がった証拠だ」
「バクさん」
「ん?」
――わたしに、何か言いたいことがあるんじゃないんですか?」
「……」

真っ直ぐに、わたしはバクさんを見る。
一瞬目を瞠ってから、どこか哀しげにバクさんは微笑った。

「…ああ。キミのイノセンスについて」
「はい」
「今まで、治癒と盾、刃は…同時には使えなかったんだったな」
「はい…そういうもんだと思ってたんですけど…」
「だが、あの時キミは、盾を張ったまま治癒の力を同時に使った」

無自覚だったで、よく覚えていない。
ただ、記録されている映像を見る限りでは、確かにわたしは盾を纏っていた。

つまりわたしは、盾を纏ったまま宙を飛び、バクさんとフォーの傷を治した。
今までだったら、絶対出来なかった――盾と治癒の、同時発動。

「この資料を見てくれ。
 こっちが過去の検査記録、そしてこっちがさっきの検査結果だ」

示された資料を覗き込む。
書かれていることはよくわからないけれど、羽根の大きさや形状が少し変わっていた。

「君のイノセンスの姿は、漆黒の羽根。しかし恐らく、今までは片翼ずつしか使っていなかったんだろう」
「片翼ずつ…」
「《双黒の使徒》か――こういう意味だったのかもしれんな。
 ふたつの力を、二対の羽根に秘めた使徒…」

――《双黒の使徒》。
ヘブラスカがわたしに下した予言。
未だにその意味はわからず、そしてわたしには、もうひとつ、気になる名称があった。

《イヴの娘》。
ロードがわたしに告げた名称。
そして、最初にイノセンスを得た瞬間に聞こえた、イノセンスが告げた名。

――まるでキミとウォーカーは、対のようだな。
 漆黒と白銀のイノセンス。イノセンスの《声》を聞く耳と、アクマの魂を見る左眼…」

思考に没頭し掛けたわたしは、その言葉に意識を引き戻される。
対、か。
もしそうだとしたら、それが《物語》に取り込まれたわたしの《運命》なのかも、しれない。

「…ボクはキミに、謝らなければいけないのかもしれない」
「……」

不意に。
俯きながら、辛そうにバクさんが呟いた。
それは自らへの怒りと、やるせなさの混在した、声。

――ああ、きっと、寄生型の適合者を『存在自体が武器』と譬えた、あの言葉のことだろう。

「…良いんですよ、バクさん」

わたしは、微笑う。
バクさんが言ったから、そうなったんじゃない。
初めから――『そう』だった。
わたしは『知って』いた。
それでもこの道を選んだのは、わたしの意志だ。







――わたしは、すべて理解した上で、それでもアレンと一緒に生きると決めたんです」






白と黒の世界で、わたしは生きる。



To be continued?

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