ずざざざざーーーーッ!
と、物凄い音を立ててアレンが引きずられて行く。
…あれ、アレンの半身が削れたりしないだろうか。不安になってきました。
『アレンを手術室へ連行ーーーー!!』
「ぎゃああああっ! 何、あの入り口!?」
アレンの引きずられていく先は、コムリンのお腹の中だ。
…手術室、って書いてあるけど。
「さあ、リーバー班長! コムリンが餌に食いついてる隙にリナリーをこっちへ!」
「あんたどこまで鬼畜なんだ!」
リナリーを抱き起こしながら、リーバーさんが怒鳴り返す。
まったくです。餌って酷いよね。…いや、わたしもひとのこと言えないか。
『手術♪ 手術♪ とにかく手術♪』
小さいコムイさんが、うようよしてる。
でも明らかに手に持ってるものが手術道具じゃない。
「う…っ」
アレンの顔色が悪くなった。
そりゃそうだろうなぁ。手術っていうか改造だろう、あれの使用目的は。
「イノセンス、発動――ッ」
アレンの左腕が、銃器の形を取った。
目が本気だった。本気で壊す気だこの子
「おお、新しい対アクマ武器!」
目を輝かせるリーバーさん。
それを横目に、わたしはコムイさんの方を見る。
…あ。吹き矢。
「ふにゅら?」
吹き矢に射抜かれたアレンが、その場に崩れ落ちる。
見事な腕前です、コムイさん。油断してたとは言え、あの距離からアレンに当てるなんて。
「…アレン…」
「しびれるる」
あ、力尽きた。
「アレンーーーーッ」
「ウォーカー殿ーーー!!」
リーバーさんとトマの悲鳴が響き渡った。
でもなぁ。今、リナリーの傍を離れるわけにはいかないしなぁ。
「室長ぉーっ!!」
「吹き矢なんか持ってたぞ!」
「奪えッ」
「だってだってあんなの撃たれたらコムリンが…コムリンが…ッ!」
「大人になってください室長!!」
泣きながら吹き矢を振り回すコムイさんと、その吹き矢を奪おうと群がる科学班のみんな。
凄い絵面だ…。コムイさんも、ホント大人げない。
「リ、リーバーしゃん…。リナリーをちゅれて逃げてくらしゃい…」
おい、わたしは無視か。
痺れて舌っ足らずな響きになっているアレンの言葉に、わたしは顔を引きつらせる。
根に持ってる。絶対根に持ってる、あいつ。
「アレン…ッ」
「ぱやく…」
コムイさんそっくりな人形に、アレンがズルズルと引きずられていく。
ああ、ティムキャンピーまで…。
『アレン=ウォーカー。収容完了しました』
「アレンーーーーっ!!」
ドアからはみ出たアレンの団服の掴み、リーバーさんが叫ぶ。
トマもコムリンの入り口を叩いて、アレンを助け出そうと必死だ。
「あー…こりゃ大惨事だ…」
「、頼む! アレンを助けてくれーーっ!!」
「いや、わたし非力な女の子なんですけど…」
とは言え、さすがに中で何が起こってるかを考えると怖いものがある。
だけど、わたしには攻撃の手段がないし…。
「あー…でも、盾張って体当たりすれば、穴くらい開けられるかなァ」
仕方ない、やってみますか。
リナリーをその場に残し、わたしは軽く地を蹴ってコムリンに向かう。
「発動――《天蓋黒盾》!」
全身に盾を纏い、わたしはコムリンに突っ込んでいく。
…そこまでは、良かったんだけど。
「…え。あれ?」
すくっと立ち上がったコムリンは、向かっていくわたしを通り過ぎて行った。
…
……
………え、待って。コムリンに無視された!?
「! ちくしょう、次はリナリーかよ!!」
コムリンにぶら下がっているリーバーさんが、怒鳴り声を上げる。
わたしよりリナリーが良いってことですか。なにそれ、ムカつくんだけど!
『エクソシスト、リナリー=リー。手術シマス』
ドドドドド、と。
勢いをつけながら、リナリーに向かっていくコムリン。
「マッチョは嫌ーーーーっ!!」
「起きるんだ、リナリー!!」
叫ぶコムイさんとリーバーさんの声に、リナリーがようやく目を開けた。
リナリーの居た場所に向かって、コムリンがその巨体を突っ込ませた。
その攻撃力は凄まじく、バルコニーは跡形もなく破壊される。
「キャアアアアー! リナリー! リナリー!!
ボクのリナリーーーー!!! コムリンのバカーーーっ」
「室長、落ちる!!」
ああ、コムイさんが大変だ。
大暴れするコムイさんを、科学班のみんなが必死に止めていた。
それでも暴れるコムイさんの横で、ジョニーが声を上げる。
「! し、室長。あれ! 大砲の先…」
「リナリー!」
いつの間にか、リナリーは大砲の上に立っていた。
どこかぼんやりとした表情で、コムリンを見下ろしている。
「…アレンくんの声が聞こえた…帰ってきてるの?」
「うん、でも今超ピンチ」
「」
麻酔の影響か、ふらふらしているリナリーの傍に、わたしはふわりと降り立った。
リナリーの視線がわたしに向く。小さく頷くわたしに、リナリーは小さく笑う。
「、飛んで?」
「おっけい、リナリーのお望みとあれば。さァお嬢様、御手をどうぞ」
このくらいの改変なら、まぁ許容範囲内でしょう?
スッと手を差し出すと、リナリーはわたしの手をしっかりと握った。
わたしもその手を握り返し、リナリーを連れて地を蹴った。
『エクソシストは手術ーーーー!!』
コムリンが、わたしとリナリーに向かって飛んできた。
…凄いジャンプ力だなぁ、コムリン。ホントに怖いよ。
「あれ。あの中にアレンが捕まってるの。ほら、リーバー班長がぶら下がってるところ」
「あそこね。、行きましょう」
「はぁい」
言われて、わたしは宙を蹴る。
リナリーの《黒い靴》と相乗効果で、わたし達の移動速度はかなりのスピードだ。
「」
「ん。離すよ!」
促され、わたしはリナリーの手を離した。
《黒い靴》の鋼鉄の破壊力が、真下にいたコムリンを真っ二つに…
………あれ? この場合、中にいたアレンはどうなるんですか??
「アレン! 無事か!?」
「なんとか…」
あ、無事だ。
包帯でぐるぐる巻きにされてるけど、喋れるくらいには大丈夫みたい。
「リーバー班長! 掴まってッ」
「!」
アレンを救出したリーバーさんの手を掴んで、わたしはエレベーターの上に着地する。
着地、というより落ちたという方が、表現は正しいかもしれないけど。
さすがに、成年男性と十代後半の少年ふたりを抱えて飛ぶのは辛い…。
「うわー、アレンがミイラ男に」
「…ッ」
顔に巻かれた包帯を引き剥がしながら、アレンは低い声でわたしを呼んだ。
あ、ヤバイ。怒ってる。
「見捨てましたよね? 思いっきり見捨てましたよね!?」
「あら、元気だねミイラさん」
「誰がミイラですか! ひとの話を聞いてくださいよ!?」
「無事だったんだから、結果オーライだよ?」
「~~~~~ッ!!」
わたしが冷や汗を掻きながら笑顔で首を傾げると、アレンは握り拳を震わせた。
でも、何か言おうと口を開いた瞬間、その身体がふらりと傾ぐ。
「え? うわッ?!」
ほとんど無意識なのか、ガシッと肩を掴まれて、そのままアレンは倒れ込んできた。
わたしはバランスを崩して、その場に尻餅を着く。
「ええと…アレン?」
「………」
反応なし。
完全に気を失ってる。
「…リーバー班長ぉー。アレンが気絶しましたー」
「だ、大丈夫かッ?! いったいどんな酷い目に!」
それは経験者本人しか知りませんよ。
「いやー、無事で良かったですネ」
「…おまえ、それをアレンに向かっては言うなよ…」
脱力したように言われた。
なんで。労いの言葉じゃないですか。
「ほら、アレンを運ぶから貸せ。おまえじゃさすがに無理だろ」
リーバーさんがそう言ってくれたけど、わたしは緩く頭を振った。
しがみついてるアレンの背中を軽く叩いて、苦笑を返す。
「一応コムリンが片づいてからで良いですよー。
それまでわたしが面倒看てます。大怪我とかしてるわけじゃないみたいなんで」
まぁ多少は重いけど、支えられない程じゃない。
今回のは多少、わたしにも責任ありそうだし。アレンひとりで怪我してちゃ可哀想だしね。
「リナリー、コムリンは任せた!」
「ええ、。任されたわ」
頷いて、コムリンの上に立つリナリーが脚を振り上げた。
科学班の面々からも、喝采とエールがリナリーに送られる。
その時、立ち塞がる人影があった。
「待つんだ、リナリー!」
ぴたりと、リナリーが動きを止める。
臨戦態勢は崩していないけれど。
「コムリンは悪くない! 悪いのはコーヒーだよ!!」
また、何を言い出しますかこのひとは。
キラキラとした眼差しでリナリーを見つめながら、コムイさんはコムリンを守るように腕を広げた。
「罪を憎んで人を憎まず。コーヒーを憎んでコムリン憎まずだ、リナリー」
「兄さん…」
ゆらり、とリナリーの身体が揺れた。
だけどこの次の行動を、わたしはよく知っている。
「ちょっと反省してきて」
「あーーーーーーー………」
ドゴッ、と。
あり得ない音を立てて、リナリーの放った蹴りがコムリンごとコムイさんを地下へ叩き落とした。
聞こえるのは、轟音と弱々しい悲鳴。
「なんだかな、もう…」
「…ま、自業自得だよね」
気を失ったアレンを抱えたまま、わたしは肩を竦めて息を吐く。
斯くして、黒の教団壊滅事件改め、黒の教団壊滅未遂事件は幕を閉じたのだった。
+++
「…ん…」
ひんやりとした感触に、うっすらと目を開ける。
微かに聞こえるのは、何かを修理する音だ…。
――え? ここどこ!?
「!」
「わっ。ビックリした」
バッと身を起こすと、傍に居たリナリーがきょとんとした表情をしていた。
リナリーの頭の上にはティムキャンピーが乗っていて、心配そうにゆらゆら揺れている。
「リナリー」
「まだシビれる? ごめんね、兄さんの発明のせいで…」
申しわけなさそうに言われて、逆に僕は萎縮する。
…で、比べてしまうわけだ。にリナリーの半分でも、こういう殊勝な態度があればと。
…………………なんでここで、を思い出さなきゃいけないんだろう。
「ここは…?」
「みんなの研究室。城内の修理でみんな出払っちゃってるけど。ほら、あの音」
リナリーが示すのは、どうやら部屋の外を修理している音のようだった。
そして、僕は昨夜の惨劇を思い出す。…ああ、確かに、修理しないと生活出来ない。
「…僕、どうしたんでしたっけ?」
「覚えてない? コムリンの中から助け出した後、に抱きついて、そのまま気を失ったの」
「抱き…ッ?!」
言われて、絶句した。
そういえば、なんとなく覚えている。
に助けられて、結局怒鳴り合って、それから――?
「あ、大丈夫よ! アレンくんのせいじゃないもの。
それにほら、も全然気にしてなかったし!」
「………」
それはそれで、腹が立つのはなんでだろう。
同じ部屋でも平気で寝るし、は女性としての危機感が著しく低いような気がする。
…もしかして、僕じゃない相手だったら、もう少し女らしいんだろうか。
…………だんだん腹立ってきた。
「リナリー、水替えてきたよ…あ、アレン気がついたんだ」
そう言いながら、部屋に入ってきたのは、水の入った器を持っただった。
傍にはの無線ゴーレム――確か、ソルトレージュ――が、ふわふわと飛んでいる。
「おかえりなさい、」
「ただいま、リナリー」
笑顔でリナリーに応えて、は水の入った器をテーブルに置いた。
そして、ひょいっと軽い動作で僕の顔を覗き込んでくる。
「大丈夫?」
「え。あ…はい、大丈夫、です…」
「そ。なら良かった」
そう言って、安堵したようには微笑んだ。
今まで見たこともない、柔らかなその表情に、思わず目を瞠る。
…だけど、次の瞬間、やっぱりはだった。
「あれで怪我でもしたら目覚め悪いしねッ」
「……そう言えば見捨てましたよね、それはもうわかりやすくッ!!」
「あははは、気にしちゃダメー!」
「少しは気にしてくださいよ!?」
けたけたと笑う彼女に、僕は頭痛を覚えて頭を抱えた。
…ああ、僕は馬鹿だ。自分を見捨てたひとを一瞬でも可愛いとか思ってしまったなんて!
「もう、はいつも一言多いんだから…。
アレンくん。はね、みんなの前ではこんな感じだったけど…」
そこで小さく笑うと、リナリーは悪戯を思いついたような顔をした。
そして、そっと僕に耳打ちしてくる。
「ここで3人だけになったら、それはもうアレンくんを心配してたのよ?
全然落ち着かなくてね、水を替えに行ったのも実はこれで6回目」
「あーあーあー! リナリー、勝手に何言ってるのよぅ!」
聞こえていたようだ。
慌てるを見ながら、僕は思わず笑った。
「……へぇ?」
「わぁ、なにその勝ち誇ったような笑み!」
「」
名前を呼ぶと、は不思議そうに首を傾げる。
ああ、そういう表情は、確かに幼くて可愛い部類に入るだろう。
「結構可愛いところ、あるんですね?」
「~~~ッ!!」
にっこりと微笑んで言ってみると、は一瞬言葉を失ってから、バッと耳まで赤く染めた。
何度か口を空回りさせて、おろおろしている。そして、そのまま勢い良くリナリーの腕を掴んだ。
「リナリー! リナリー、聞いた?! 今のムカつく笑顔見たー!?」
「誉められたのよ、。素直に喜べば良いのに」
「そうですよ、。なんですか、反応が可愛いですよ」
「だっからそのムカつく笑顔で言うなよ! 嬉しくないよ!」
いつもの憎まれ口も、顔を赤くしながら言われたら何か憎めない。
なるほど、これは確かに面白い。
「って普段は誰かをからかって遊んでるけど、逆にからかうと可愛いでしょ?」
「そうですね、案外反応が素直で」
「ちょっとちょっとふたりともー!」
騒ぐの頭を、リナリーが撫でてやった。
歳を考えれば、明らかにおかしい光景なんだけど…妙にしっくりするのはなんでだろう。
「…そうだ。おかえりなさい、アレンくん。」
気が付いたようにそう言って、リナリーが穏やかに微笑んだ。
優しいその笑顔に、僕は返す言葉を一瞬無くす。
「ただいま、リナリー」
「た、ただいま…」
の言葉に我に返って、僕もようやくそれを口にする。
途端に、がバッとリナリーに抱きついた。なんで。
「アレン! いくらリナリーが可愛くてもダメよ、リナリーはわたしのよ!」
「誰がそんなこと言ったんですかッ!!」
「出会った時からリナリーとわたしは結ばれてるの」
「そっちの話じゃないですよ!?」
とリナリーが仲が良いのは知ってる、僕が言ってるのはそっちじゃない。
わかってて言ってるんじゃないだろうか、このひと。
「もう、ったら。大丈夫よ、私もが大好きだから」
「きゃー、リナリー愛してるー!」
「……」
…何、コレ。
じゃれ合うふたりを前に、僕は言う言葉を失って、なんとなくため息を吐いた。
その時、部屋の外から騒がしい声が聞こえて、僕はひょいっと顔を出す。
「もー! なんで料理長のアタシが大工しなきゃなんないのよ!」
「人手が足んないんスよ」
「あんた達朝ごはん抜きだからね!!」
ジェリーさんと、科学班のみんなだった。
手に大工道具を持って、力仕事に励んでいる。
「おー、アレン。目が覚めたか」
「いったい夜に何があったの、アレンちゃん。もー、城内ボロボロよ」
「アレン、おまえの部屋壊れてた。ボロンチョ」
「ええッ?!」
言われて、思わず絶句する。
僕、一晩しかいなかったんですけど、あの部屋…。
呆然とする僕の横で、リナリーがジェリーさんに声をかけた。
「そうだわ、ジェリー。準備の方は?」
「ばっちりよ。ちょっと予想外のことは起こったけどぬかりはないわ!」
…準備?
きょろきょろと周囲を見回すと、他のみんなはにこにこしていた。
だけは、僕と同じようにきょとんと目を瞬かせる。
「準備?」
「うん」
訊ねると、リナリーは笑顔で頷く。
そして、小さく小首を傾げながらどこか楽しそうに言った。
「アレンくんの歓迎会よ」
+++
――その後。
滅茶苦茶な歓迎会を終えて、コムイさんに呼ばれた僕はヘブラスカの元に来ていた。
「来たね、アレンくん」
「…昨夜は酷い目に遭いました」
「そう言わないでよー。みんなに怒られた後なんだからさぁ」
包帯ぐるぐる巻きのコムイさんは、そう言って泣き真似をする。
…だんだん、このひとがどういう人かわかってきた…。
「さて、ヘブくんにイノセンスを届けに行こうか」
そんな言葉に、イノセンスを手に僕は頷いた。
.
.
.
ヘブラスカへの帰還報告と、イノセンスを届け終わった僕は、室長室に来ていた。
あのあと部屋に戻るつもりだったんだけど、呼び止められたのだ。
「さて、遅くなったけど、初任務ごくろうさま。
歓迎会も無事終わったし、これで君自身もこのホームの一員になった自覚が出てきたんじゃないかな?」
「…あ…はい…」
言われて、思い出したのは先ほどの歓迎会。
優しい笑顔で「おかえり」と言われて、ああ、帰って来たんだな、としみじみ思った。
「初任務はどうだった?」
「…あの、どういう意味の質問ですか?」
コムイさんの笑顔に、何か含むものを感じて聞き返した。
すると、コムイさんはにっこりと微笑む。
「さすがはアレンくん。聡いね」
「はぁ…」
「アレンくん。ちゃんをどう思う?」
「…………は?!」
唐突な質問に、思わず目を瞠った。
え、なんですか。何訊かれたんですか今。
「あははは! 違う違う、女の子としてとかそういう意味じゃなくだよ!」
「わ、わかってますよ!!」
「照れない照れない。ちゃんも口は悪いけど可愛いしね!」
「コムイさんッ?!」
「リナリーの方が可愛いとボクは思うけど!」
「そんなことは訊いてないですよ!
だいたい、とリナリーじゃタイプが全然違うし比べたりするのはふたりに失礼…」
言った瞬間、ハッと我に返った。
コムイさんもきょとんと目を瞬かせている。
「「………」」
気まずい沈黙を破ったのは、コムイさんの笑い声だった。
「…アレンくん、結構ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
「ああもう早く用件を言ってくださいッ!!」
これ以上この話題を続けていると、大きく脱線していきそうだ。
変なことを言い出す前に、話題を逸らさないといけない。
「じゃあ、本題に入ろう。…ちゃんの能力を、どう思う?」
「……」
急に真面目な顔で言われて、僕は口を噤んだ。
そんな僕を見て、コムイさんは紙束をスッと差し出してくる。
「これ、ちゃんが就いた任務の報告書。
あんまり数はないけどね。ちょっと見てごらん」
差し出されるまま、僕はそれを受け取った。
パラパラと報告書を捲ると、それはが関わったイノセンス捜索の任務について書かれていた。
と一緒に任務に就いたエクソシストは…神田、リナリー、それにラビ、ブックマン。
…最後のふたりは知らない。まだ会ったことがないエクソシストだろう。
「…随分…一緒に任務に就く人が偏ってますね」
「そうだね。ちゃんの能力は、あんまり人目に晒したくないからさ」
「…?」
「アレンくん。ちゃんの就いた任務、結構イノセンスの発見率高いと思わないかい?」
「あ…」
言われて、もう一度紙束を捲る。
確かに、そうだ。半年分にしては少ない任務、だけどイノセンスの発見率はその半数以上。
「そう言われてみると…そうですね」
「どうしてかは、もうわかってるかな?」
「…イノセンスの《声》を聴く、能力…?」
半信半疑に訊ねると、コムイさんは神妙な表情で頷く。
――ああ、やっぱりあの時、ララのイノセンスに触れた時のの反応は――。
「どうして彼女に、そんな能力があるのかはわからない。
イノセンスとは、神のちからそのもの――その《声》を聴く彼女は、とても異質な存在なんだ。
ヘタをすれば、多方から狙われる可能性もある。…ヴァチカンからも、伯爵側からもね」
「…どういう、意味ですか」
が、伯爵に狙われる――その上、黒の教団と繋がりを持つヴァチカンからも。
その言葉に、自然と表情が険しくなったのだろう。コムイさんも険しい表情で頷き、答えた。
「イノセンスを見つけるのは、容易なことではないんだよ。
だけどちゃんの能力があれば、かなり優位になる。伯爵が目をつけないはずはない」
「……!」
「ヴァチカンからすれば、彼女は神の声を聴く存在ということになる。
それこそ《聖女》として祭り上げれば、良い象徴になると考えるかもしれない」
「そんな…!」
あまりに、という個人を無視した考え方だ。
だけど、それがあり得ないと言い切れないところがやるせない。
「…アレンくん。君には教えておこうと思うんだ。
ちゃんはここに来たときに、君と同じようにヘブラスカから予言を貰っている」
そこで言葉を切ると、コムイさんは自分を落ち着けるように、小さく息を吐いた。
そして、真っ直ぐに僕の目を見ながら、静かに語る。
「〝=のイノセンスは、いつか黒い未来を壊し、新たな未来を奏でる…。
その力は偉大なる《時の破壊者》を護り、導き、その運命すらも切り開く《双黒の使徒》を呼ぶだろう〟」
「…《双黒の使徒》…」
耳慣れない言葉を、反芻する。
《時の破壊者》――それは、ヘブラスカが僕に与えた予言だ。
強く、鼓動が脈打つ。これは偶然か、それとも――、
「ボクはね、アレンくん。ちゃんと君に、パートナーになって貰いたいと思っている」
「…僕とが、ですか?」
「まず、単純に戦力バランス。アレンくんのイノセンスは攻撃型。ちゃんは支援型だ。
でもこれは、建前だね。本音は――」
単独ではAKUMAを破壊出来ないだ、確かに彼女の能力なら、パートナーが必要になる。
だけどそれは、別に僕である必要がない。神田でも良いし、リナリーだって構わないはずだ。
他に理由があるとするなら、それは。
「《時の破壊者》と予言された君と、その守り手《双黒の使徒》と予言されたちゃん。
これは偶然なんかじゃないと思う。君達の能力は、まるで対のようだ」
「…《アクマ》を見分ける僕の目と…イノセンスの《声》を聴くの耳…」
そっと、僕は自身の左目に触れる。
マナの遺した、呪い。AKUMAを見分ける奇怪の目。
――ああ、そうか。
の持つイノセンスの《声》を聞く耳は、僕の左目に似ている。
「まぁ、パートナーなんて急に言われてもわかんないかな。
アレンくんとちゃん、初対面から仲悪いもんねー」
「…別に、喧嘩したいわけじゃないんですけど」
ぽつりと、呟いた自分の言葉に、僕は軽く驚いた。
思わず口元に手を運ぶ僕に、コムイさんが優しく微笑む。
「じゃあ、なんで喧嘩するの?」
「…わかりません! が相手だとああなりますッ」
なんだか恥ずかしくなって、咄嗟に怒鳴り返した。
耳まで赤くなってないだろうか。顔が熱い。
「ふんふん? 思ったより問題なさそうだね」
「は?!」
「こっちの話。長々と引き止めて悪かったね、もう戻って休んで良いよ」
楽しそうに笑うコムイさんが、憎たらしいのは気のせいじゃないだろう…。
うっかりこれがに伝えられたりしないだろうかと、そっちの方が気になってしょうがない。
「でもアレンくん。本当にちゃんと合わないようなら言ってね。
こっちの都合で合わない人間と組ませて、君達を危険に晒すわけにはいかない」
「……」
打って変わった真剣な表情で言われた言葉に、目を瞬かせる。
確かに、は何を考えてるかよくわからないし、一言多いし、人を怒らせる天才だ。
だけど、でも。僕はある一点では、を信用している。
「…コムイさん」
「ん?」
「それは大丈夫ですよ。
――僕もも、互いを死なせることは絶対に許せませんから」
傷を負うことは見過ごしても、それでも。
彼女は、自分を犠牲にしてでも――そのちからを、使い続けるんだろう。
右手に盾を。
左手に癒しの光を携えて。
冷静な自分に徹しようと、無表情を作ってみても――、
結局、目の前で誰かが傷付くのを、黙って見ていられる性格じゃないのだから。
人を生かすために、彼女は躊躇い無くその翼を広げる。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。