――本当に、信じられない。
目の前で穏やかな寝息を立てている少女に、僕はもうため息しか出なかった。
どんなに揺すろうが呼びかけようが起きないので、いっそ捨ててこようかと思ったほどだ。
…それを部屋まで運んで来たんだから、自分も大概、お人好しだと思う。
「…だいたい、初対面の男の前でここまで無防備に寝ますか、普通。
何かされても文句言えないですよ、警戒心が無さ過ぎですッ!」
怒ったところで、相手が起きないのはもうわかっている。
諦めにも似たため息が零れた。
「……」
眠っている姿は、どこか起きて喋っている時より幾分か大人びていて、なんだこの詐欺、とか思う。
喋らなければ美人、の部類かもしれない。
華やいだ容姿ではないけれど、決して整っていないわけではないのだ。
「………口開いてアレなら、容姿なんかなんでも一緒だけどね」
少しでも綺麗かも知れないと思ってしまった自分が悔しくて、そう付け加えて鼻で笑う。
ほら、こういうところも師匠にそっくりだ。
容姿と中身が比例しない人間なんて、ひとりで充分だったのに!
「……ん…」
…眩しい。
目蓋がちかちかするほどの朝日を感じて、わたしは身を起こした。
遮光カーテンにしてもらったはずなんだけどなぁ…閉め忘れたかなー…。
「…………あれ?」
微妙に、家具の配置が違う。
寝惚けているのかと、目を擦ってみる。
…あれれ? 変化がないですよ??
「おはよう、。
随分ゆっくり寝てましたね…熟睡出来て何よりです」
「…あれ?」
見慣れない存在を認めて、わたしは目を瞬かせた。
………なんでアレンがここにいるの?
「…ここ、僕の部屋ですけど」
「あ、そうなんだ。それは失礼しま…、って。なんだってーーーーーッ!?」
寝ぼけ眼で頷いてから、わたしは我に返って悲鳴に近い声を上げた。
あまりに大声を張り上げたせいか、アレンは顔をしかめる。
「~~~ッ! 朝っぱらから大声出さないでください…!」
「え、だって、え。あ。ええ!? なんで?!」
「覚えてないんですかッ?!」
狼狽えるわたしの様子に、アレンは信じられないものでも見るように聞き返してきた。
覚えてたらこんなに狼狽えません。
朝。男女。記憶なし。トドメは「覚えてないんですか」。
「………わ、わかった。責任取って結婚するよ!」
「誰がボケろって言ったんですか誰が!!」
速攻でクッションを投げつけられた。地味に痛い。
あれ? 間違った?
「…そうだよね! ここで責任取るのはアレンの方だよね!」
「……濡れ衣で責任取らされちゃ堪らないんですけど。そろそろ怒りますよ?」
アレンの声が、一段低くなった。
表情が笑顔だ。でも目が笑ってない。薄ら寒いものを感じます。
「覚えてないんですね、本当に。…昨日、あの後のこと」
「うん、まったく。あんた、わたしに何かした?」
「してませんよッ! 相手に何をしろって言うんですか、手袋でも投げつければ良いですか?!」
「なんで決闘申し込まれにゃならんのよ!?」
女の子を部屋に連れ込んでおいて、なんて言い草だ!!
よりによって手袋! 手袋投げつけるって!!
「「…………」」
思わず、わたし達は睨み合う。
逸らしたら負けだと言わんばかりに。
だけど、不意に深く溜め息をついて視線を逸らしたのは、まったく同時だった。
「……どうして朝っぱらから、こんな喧嘩しなきゃならないんですか?」
「わたしが聞きたいよ……」
おかしい。こんなはずじゃなかったのに。
っていうか、どうして早朝同じ部屋に男女がふたりで、甘い雰囲気の欠片も出ないんだ。
「…」
「なにさ」
「お腹空きました。食堂まで案内してください」
「は?! え、待って、昨日リナリーに案内してもらってたよね!?」
いきなり言われた言葉に、わたしは目を瞠った。
わたしの当然の疑問は、それはもう、胡散臭いほど爽やかな笑顔で切って捨てられた。
「さっと紹介されただけですよ、覚えてるわけないじゃないですか」
「笑顔で言うなよ! なに、なんでそんな偉そうなの?!」
「朝から余計な体力を使わせたのはなんですから、責任を持って案内してください」
「なんの責任? ねぇ、それなんの責任!? 何この人、朝から最悪なんですけど?!」
思わずぐしゃぐしゃと髪をかき回すわたしを眺めながら、アレンはさも心外そうに目を眇めた。
でも、次に吐き出されたこいつの言葉の方が、何倍も酷いと思う。
「朝起きて最初に会ったのがだって事実で、既に僕の気分は最悪です」
「最低! あんたホントに最低! 女の子の寝顔見ておいて気分最悪って何様!?」
怒鳴った瞬間、アレンはそれはもう優しそうに微笑んだ。
…あれ? なんだろう、笑顔の方が怖い。
「女の子? そんな崇高な存在ですか、君が」
「きゃー!? なんてこと言うのよ、このエセ紳士ッ!!」
「失礼ですね。女性には紳士的な対応をさせて頂いてますよ、以外は」
「わたしにも欠片で良いから紳士の態度取ろうよ!」
ビシッと指を突きつけて言うと、あろうことか鼻で笑われた。
え。なに。なんなのこの態度。
「そういうのが嫌だって言いませんでした?」
「わたしが嫌なのはあの気持ち悪い笑顔だけですッ」
「気持ち悪くて悪かったですね。…やっぱり君には、淑女扱いなんて必要ありません」
「ちょ、言い切るなよ?! 立派なレディだよ!」
今度はため息を吐かれた。
おまけに、妙に優しい仕草で肩を叩かれ、諭すように言われる。
「…は日本人でしたね、確か。英語がわからないんですよね?」
「それはどういう意味かなぁ!? ねぇちょっとおチビさんッ」
「僕より小さいひとに言われたくありません。…言語能力は低いようですね、嘆かわしい」
「きーーーっ! なにこいつムカつくーーーッ?!」
さっき投げつけられたクッションを、力一杯投げつける。
けど、あっさり片手で受け止められた。…なんだろう、余計に腹立ったよ。
「…あー、くそ。怒鳴ったらお腹空いた。
食堂行くよ。ついておいでー、詐欺師」
「誰が詐欺師ですか失礼な」
後ろでそんな不満そうな声が聞こえたけど、わたしは敢えて無視する。
ふん。品の良さそうな顔してとんでもない毒舌なんて、詐欺師以外のなんだって言うんだ。
「…ところで、。その格好で行く気ですか」
「は?」
「服。朝帰り、って言われても僕は責任持ちませんよ」
顔色ひとつ変えずに、何を言いやがるのかこの腹黒少年は。
今度は、わたしの拳が震えた。怒りで。
「もーーーーっ! あんたなんか嫌いだぁぁぁぁぁッ!!」
…思わず怒鳴ってしまったわたしを、誰も責められないと思う。
+++
人のごった返す食堂に辿り着いた頃には、わたしの機嫌は少し回復していた。
なんと言っても、ここにはみんなのお母さん,ジェリーさんがいるからね!
「おっはよー! ジェリーさん、今日も見事なフライパン捌きねッ」
「アラ? おはよう。早いじゃない、。珍しいわねー」
普段昼まで寝てるわたしだ、こんな朝早くに来たことはあんまりない。
不思議そうに言われて、わたしは哀愁を漂わせた微苦笑を返した。
「今日は新人の案内なんだー…。
朝から真面目な新人に叩き起こされてさんちょっと不機嫌」
「…自分の部屋でもないのによく熟睡出来ますよね」
「黙れそれ以上言ったら名誉毀損で訴える」
ギッ、とわたしは後ろにいたアレンを睨み付ける。
なんのためにわたしが着替えて来たと思ってんだ、こいつ。
「アラん!? 新入りさん? んまーこれはまたカワイイ子が入ったわねー!」
「どうも、はじめまして…」
「何食べる? 何でも作っちゃうわよアタシ!!」
ああ、ジェリーさん、騙されないで…!
顔だけは可愛いアレンをすっかり気に入ったのか、ジェリーさんは笑顔で言った。
アレンは少し思案するようにして、例の台詞を口にする。
「何でも…それじゃあ…、
グラタンとポテトとドライカレーとマーボー豆腐とビーフシチューとミートパイとチキンにポテトサラダと、
スコーンとクッパにトムヤンクンとライスあとデザートにマンゴープリンとみたらし団子20本で」
…直に聞くと、複雑な気分になるなぁ。
想像しただけでも胸焼けがしそう。なに、みたらし団子20本て。
「あんたそんなに食べんの!?」
「全部量多めで」
「すごーい」
目を丸くするジェリーさんに、アレンはこくりと頷いて見せた。
無駄に仕草が可愛いのは計算だ。絶対そうだ。
「胃袋は四次元か」
「ヨジゲンってなんですか」
「ああ、知らないなら良い。結局悪口だから」
「……、よっぽど僕に喧嘩売りたいんですね?」
「…………謝るからその笑顔仕舞ってクダサイ。
あ、ジェリーさん。わたしはベーグルとサラダとコンソメ野菜スープっ」
「相変わらず小食ねー。OK、牛乳もつけてあげるから飲みなさい!」
「はーい、ありがとー!」
栄養バランスまで考えてくれるジェリーさん。まさに母親だ。
そんな気遣いににこにこしながら応えると、アレンが複雑そうな顔でこっちを見ていた。
…なんだろう。別に喧嘩売られてる感じはしないけど。
「何だとコラァ!!」
後方で聞こえた大声に、わたしは反射的に振り返った。
…ああ、そうか。あのイベントか…。
「…なんだろう?」
「…馬鹿と馬鹿の平行線会話」
「は?」
わたしが呟いた言葉を、アレンは怪訝そうに聞き返す。
もちろん、わたしはもう一度言ってやったりはしない。
――その間にも、イベントは進行中だ。
+++
「早死にするぜ、お前…キライなタイプだ」
「そりゃどうも」
睨み合うふたりを、周囲の皆は遠巻きに見ていた。
なんかね、変なオーラが見えるんですよ。闘気と言うか殺気と言うか。
…その間にも、わたしは出来上がった朝食を食べていたりするわけですが。
「あ、いたいた! 神田! アレン! !」
その妙な雰囲気をものともせず、否、ぶち壊して声を掛けて来たのはリーバー班長だ。
その後ろには、荷物を抱えたリナリーもいる。
「10分でメシ食って司令室に来てくれ。任務だ」
え。わたしも??
これって『土翁と空夜のアリア』だよね? え、なんでわたし?
「…早く食べちゃいましょう」
「え? あ、うん」
戻って来たアレンに促されて、わたしは頷いた。
…でも、目の前に積まれたアレンの朝食に、ちょっと食欲後退気味。
「…は、」
「ん?」
不意に、アレンが呟くように声を掛けてきた。
わたしはもぐもぐとベーグルを食べていたので、返事はおざなりだ。
「…君は、ああいうの、許さないと思ってました」
「え? 神田のこと? なんで怒らなかったのか、って?」
視線は食事に向けたままのアレンに、わたしは小さく首を傾げる。
何を気にしてるんだろう、この子は。
「怒らないよ。どっちもどっちだからね」
「は?」
「まず、神田が言った「メシが不味くなる」。これは賛成」
「なッ」
「よく考えて。命張ってるのは探索部隊だけじゃない。
もちろん、エクソシストだけでもない。両方よ」
席を立ち掛けたアレンを手で制して、座り直させる。
アレンの表情が険しい。ああ、割と直情的なんだな、この子は。
「ここにいる人間はね、誰もが命張って戦ってるの。
だから教団内にいる時に、安らぎを得られなかったらどうなるの?
外で命を張って戦って、内で死んだ仲間の追悼されたんじゃ、休まる暇もないよ」
そこで言葉を切って、わたしは食堂をぐるりと見回す。
学校みたいなものだ。色んな人がいて、色んな人と色んな関係を持って。
ただ、そこに、『死』という別れが身近に存在している。それがこの世界。
「…良い迷惑よね、勝手に追悼されて、勝手に諍いの種にされてさ」
バズが悼んでいる同僚と言うのが、誰なのかわたしは知らない。
ただひとつだけ言えるのは、彼が望んで死んだのではないこと。
そして、こんな風に話題にされたくなかっただろうということだけ。
「死者を悼むなら、聖堂でやれば良い。食堂や談話室でやることじゃないわ。
ここはホームよ。帰りたくないと思わせる場所に、なっちゃいけない」
「…………」
「あ、でも神田に全面的に賛成してるわけじゃないよ?
いくらなんでもあれは言い過ぎ。
不平不満を持たずに働いてる奴なんかいないんだから、上司があれじゃダメね」
言っていて、ふと、アレンが神妙な面持ちになっているのに気付く。
…しまった。また偉そうなことを言ってしまった。
「…なんてね。わたしは滅多に外に出ないから、説得力ないんだけどさ」
「外に出ない?」
「わたしのイノセンス、ちょっと能力が特殊でさ。
単独でアクマを壊せないの。だからほとんど教団にヒキコモリ」
そう答えて、わたしは笑う。
冷ややかに「口だけですか」とでも言ってくれれば良いのに、アレンが返した一言はそれには程遠かった。
「だから、何も言わなかったんですね」
「…面倒くさかっただけですよー」
居心地悪そうに視線を逸らすアレンに、わたしは務めて軽い口調で返す。
銀灰色の瞳が、何か言いたそうにわたしを見る。
わたしはそれに対して、へらりと笑った。上手く笑えただろうか。
「…の言うことは、たまに、妙に重苦しいですね」
「それ誉めてないよねぇアレンくん!? っていうかあんたに言われたくないよ!!」
「なんでですか。誉めたのに」
「嘘だ! 目が嘘って言ってる!!」
ばしばしっ、とテーブルを叩いて抗議するわたしに、「行儀悪いですよ」とアレンは言い放った。
だけど、その表情が、本当に純粋に笑っているように見えたのは、わたしの錯覚だろうか。
「――おい、。いつまで食ってんだ、行くぞ」
「ぅお!?」
いきなり背後から声を掛けられて、わたしは女らしさの欠片もない声を上げた。
勢いで振り返ると、不機嫌そうな神田が見下ろしてる。
「なに、神田じゃん! まだ居たの?!」
「…そうか、斬り捨てられたいか」
「違う、ごめん、今のなし! 待っててくれたんだね、わたし嬉しいッ」
「気色悪い」
「ンだとこのやろー!」
理不尽な物言いに、わたしは思いっきり嫌な顔をした。
何を言っても気に入らないのか。喧嘩売りに来たのかこいつはッ!!
「…で? 食い終わったのか、終わってねぇのか、どっちだ!」
「あとサラダだけッ」
「……その偏った食い方改めろ。ガキかおまえは」
「失礼だなサムライボーイ。一品食べを注意するなんてお母さんですかあんたは」
鼻で笑ってやると、いきなり目の前に六幻が突きつけられた。
…ヤバイ。地雷を踏んだ模様。
「…。おまえも日本人なら知ってるよな。
日本には相手に無礼を働いた場合、腹を切らされる極刑があるぞ」
「切腹か! 切腹しろってか!」
「介錯は任せろ。腹を切るより先に首を落としてやる」
「それじゃ介錯の意味ねぇよ!? あ、いや、切腹したいわけじゃないけどッ」
短気だよ! 半年経ってもやっぱり短気だよこのひと!!
なんだかうっかり本気で切られそうで、わたしは動けなくなった。
そんなわたし達の様子を見ていたアレンが、最後の食器をテーブルに置く。
…ちょっと待って、その細い身体のどこにあれだけの量が収まったの。しかもこの短時間に。
「…の食事の邪魔してるのって、神田じゃないですか…?」
「「……」」
アレンの言葉に、わたしと神田は思わず顔を見合わせた。
…確かに、そうだ。
「やーい、言われてやんのー」
「うるせぇ、さっさと食え!!」
怒鳴ってから、神田は六幻を引いた。
ああ、良かった。これが最後の晩餐なんて笑えない。
「…で。食い終わったてめぇはなんでまだここに居るんだ、モヤシ」
「モヤシじゃないです。…神田こそ、さっさと行けばどうですか」
食事を再開したわたしの横で、今度は神田とアレンが衝突する。
まぁ、さっきの今だしね。仲悪いね、ホントに。
「この馬鹿見張ってねぇと逃げるからだ」
「それなら大丈夫ですよ、僕が連れて行きますから」
「あ?」
「なんですか?」
…なんか雲行きが怪しくなってきた。
会話だけ聴くと、まるでわたしが取り合いされているかのようだ。
あり得ない。
「…そこはなんの喧嘩ですか、パッツン男児とモヤシっ子」
「「おまえは黙ってろ」」
ふたり同時に、まったく同じ言葉で突っ込まれた。
神田はともかく、アレンに同じ事を言われたのはさすがにショックだ。
「…今、おまえって言った。アレンまで言った!」
「空耳ですよ。さっさと食べて下さい、本当に」
「なんなんだよ、いったい。そんなにわたしの面倒が見たいかね」
わたしが適当に言うと、ふたりがぴたりと動きを止めた。
そしてお互い顔を見合わせてから、ゆっくりとわたしの方へ視線を戻す。
「…の面倒なんて死んでも見たくないですよ」
「…寝言は寝てから言うものだぞ、」
「なんでそう心底嫌そうな顔するかなぁ!? だったら良いよ、わたしを置いて行けばいいさ!」
「それが出来ればやってるッ」
「出来ないからこうして待ってるんですよッ」
同時に怒鳴られた。なにこれ、凄く理不尽。
怒鳴るときだけ息ぴったりってなによ。こいつら打ち合わせしてるだろ。絶対してるね。
「…なんですか、息ぴったりじゃないですか。わたし要らないじゃん、ふたりで行って来いよ」
「おまえがすぐそうやって逃げようとするから見張ってんだろーが!」
「神田と息ぴったりなんて冗談じゃないです!」
「あ? 今なんて言った、このモヤシ」
「アレンですッ」
言い合って、ふたりはまた睨み合う。
ああ、また変なオーラ出てるよ。もう誰も近づけなくなってるよコレ。
「…だからさ、なんでふたりして仲良くわたしを待ってんのさ?」
「「………」」
心底不思議に思って、わたしは首を傾げる。
ふたりは複雑そうな表情で一瞬沈黙してから、本当に渋々と言った感じで、吐き出すように応えた。
「…の面倒を見るのは死んでもご免ですが!
神田に押しつけるのは、どうにも気に入らないんですよ!」
「モヤシに押しつけて、あとでしわ寄せが来たら迷惑被るのは俺だからなッ」
「…よくわかんないけど、わたしの為に争わないで!」
「「いいからさっさと食え!!」」
「は、はい」
キッと睨み付けられて、わたしは反射的に頷いた。
…やだやだ、冗談の通じない男共め。
+++
さて、デンジャラスな朝食を終えた後。
わたし達は、リーバーさんとリナリーに連れられて、司令室に来ていた。
「…おまえらな…変な注目集めるの、やめてくれよ…」
「わたし悪くないですよね?!
わたしは普通にごはん食べてただけですよねリーバー班長ぉぉぉっ?!」
「わ、わかった! おまえは悪くない、だからちょっと落ち着け、!」
「…朝からテンション高いわね…」
宥めるようにリナリーに肩を抱かれて、わたしはなんとか落ち着きを取り戻す。
ちなみに元凶共は、後ろで不機嫌そうにしていた。仲悪いなら並んで歩かなきゃ良いのに。
「…さて」
司令室の中央。
デスクの上に、コムイさんは突っ伏して寝入っていた。
その肩を揺すりながら、リーバーさんが大声で呼びかける。
「室長! コムイ室長!」
「んごーーー…」
豪快な寝息を立てて、一向に起きる気配がない。
ちなみにこの後一発殴られたが、やっぱり起きなかった。
…となると、あれだ。必殺の一言だ。
「…リナリーちゃんが結婚するってさー」
ガバッ!
…コムイさんが跳ね起きた。
「リナリィィーーーーー!!」
叫んだ。
むしろ泣いてる。滝のように涙を流してる。
「お兄ちゃんに黙って結婚だなんてヒドイよぉーーーっ!」
「「「…………」」」
おいおい泣き始めるコムイさんを、わたし達はなんとも言えない表情で眺めていた。
そんなわたし達を見て、リーバーさんが事も無げに言う。
「悪いな。このネタでしか起きねぇんだ、この人」
「…愛されてるね、リナリー」
「…そうね…」
思わずぽむ、と肩を叩いたわたしに、リナリーは恥ずかしそうに俯きながら返した。
…これを見られるって、恥ずかしいだろうなぁ。妹として。
「いやーごめんね、徹夜明けだったもんでね」
「オレもっスけど!」
「さて、時間もないので粗筋を聞いたらすぐ出発して。
詳しい内容は今渡す資料を行きながら読むように」
あっさり無視されたリーバーさんが可哀想です、コムイさん。
しかし、毎回毎回この人、任務をまともに説明しないのはどういうことだ。
「………またですか、コムイさん」
「誰かさんがご飯食べるのが遅かったんだもんね、ちゃん」
わたしか、それは。
さっきまで寝てたひとが言う台詞じゃないよねソレ!
「…で? なんでわたしまでこの資料渡されてんですか」
「うん。今回は3人トリオで行ってもらうよ」
「「「ゲッ」」」
思わず、わたし達3人の声がハモった。
…多分、まったく同じ表情してるんだろうなぁ。
「え、何ナニ? もう仲悪くなったの、キミら? でもワガママは聞かないよ」
「……っていうか、なに、この尻拭いポジション……」
一応抵抗として呟いてみたけど、コムイさんは綺麗に無視した。
…あれ、絶対聞こえてた。意図的に聞こえないふりしたよね、今。
恨めしげなわたしの視線をものともせず、コムイさんはシャッと地図を引き下ろした。
そして、急にキリッとした表情になる。…いつもそういう顔していてください。
「南イタリアで発見したイノセンスがアクマに奪われるかもしれない。
早急に敵を破壊し、イノセンスを保護してくれ」
前門の虎、後門の狼。逃げ道? そんなもんは無い。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。