『ようこそ、そしておかえりなさい、!』
口々に言われて、わたしはただ呆然と立ち尽くした。
…なんだろう。この、転校先で思いがけず絶賛大歓迎を受けました感のある恥ずかしさは…!
「……」
「お? 、顔が茹でタコみたいさ。照れた?」
「ぅお!? そ、そういう冷静なつっこみは要らないですよラビさんっ」
「おーい、みんなー! が照れて挙動不審になるほど感動してるさー!」
「ぎゃー!? やめてラビッ、マジで恥ずかしいからさぁ!」
慌ててラビの口を塞ぐと、どっと周囲から笑いが起こった。
「ってやっぱり面白いわ」
「あ、あははは…あ、ありがとう…」
…穴があったら入りたい、ってのはこういう状況を言うんだろうなぁ…。
いや、歓迎されているなら良いんだ。少しくらいの恥は忘れよう。
「出来る限りのフォローはするつもりだったけど…あなたなら上手くやって行けそうね、。故郷と勝手が違って戸惑うことも多いと思うけど…遠慮しないで私達に頼ってね」
「そうそう。ほら、同じ日本人の神田もいるしね!」
「いや…それは、ちょっと…難しいような…。そう言えば、その神田はどこ行ったの? 怪我してたのが気になってたんだけど」
なにより、彼も主要キャラクターだ。動向が気にならないわけがない。
出会い頭に殺気をぶつけられ、斬られかけたりしたけれど、それも誤解が生んだ悲劇。
わたしは寛容だ、すべて水に流して仲良くしようじゃないか。
「ああ、ユウならさっきあっちで蕎麦食ってたさ」
「蕎麦て。ホントに蕎麦ばっか食ってるんだあの人…」
呆れて良いのか感心して良いのかわからず苦笑すると、噂の渦中にいた人物がスッと隣を横切っていった。
おいおい、このムードの中で自室に戻るんですか。空気読めないにもほどがある。
「もうッ、神田?!」
「そいつが来るまで待ってたんだ。もう良いだろ」
眦を吊り上げるリナリーに、返した神田の声は素っ気ないものだった。
そしてそのまま、彼は食堂を後にする。…この流れで充分わかる通り、わたしには一瞥もくれないで、だ。
「……」
「あー…気ィ悪くすんなよ? ユウも別に悪気があるわけじゃあ…」
「…まあ、うん…そうかもね…」
ラビの友人想いなフォローに、わたしは曖昧に微笑う。
そうだね、あれは通常運転で、別にわたしがどうこうってわけじゃないのだろう。
…実は女の子には優しいなんて一面もあるんじゃないかとか、そんなものは儚い幻想だった。
正直に言えば、わたしはこの件に関しては不安だった。
そして後日、その不安は的中することになる。
――一週間後。
わたしは、結構快適に異世界をエンジョイしていた。
「ジェリーさーん、おはようございまーすっ」
「あらん? おはよう、。今日も元気ねぇ。相変わらず起きるの遅めだけど」
「枕変わると寝付き悪くて~…あ、今朝はスコーンとサラダと牛乳、量は少な目でお願いします~」
一週間も経てば、みんなのお母さん…もとい、シェフのジェリーさんともすっかり仲良しだ。
それ以上に、もうジェリーさんのご飯の虜。なにこれメニューどれでも美味しい。
「また? 朝はきっちり食べないと、お仕事に響くわよ?」
「ん~…そもそもお仕事無いし…代わりにお夕飯をたくさん食べます」
「朝の話よ! 朝をしっかり食べなさいって話をしてるのっ」
怒られた。
…しかし、どうにも生活習慣というのは抜けないもので、朝に弱いわたしは朝食がきちんと食べられない。
世界が世界、職業が職業だ。きちんと食べるに越したことはないんだけど…。
「も~…今は良いけど、外の任務が始まったら体保たないわよ?」
「大丈夫、大丈夫…」
外の任務と言っても、新人エクソシストであるわたしが、ひとりで行くわけはないだろう。
始まったら、その時はその時だ。運動量が増えれば、自然と食べる量も増える。…多分。
「!」
声を掛けられて、わたしは弾かれたように振り返る。
動かした視線の先に居たのは、大量の紙束を抱えたリーバーさんの姿だ。
「あれ、リーバー班長。おはようございます」
「おう、おはよう。もう昼近いけどな。室長が呼んでるぜ。10分でメシ食ってくれ」
「10分…」
思わず、わたしは手元の朝ご飯を見下ろした。
…まぁ、うん…食べられない量でもない、か…?
しかし、コムイさんからの呼び出しか…。
任務? だとしたら、わたしと一緒に行くエクソシストは誰だろう?
+++
「失礼しまーす」
そっと扉を開けた瞬間、中にいた面子にわたしは目を瞬かせた。
コムイさんは居て当然。で、その前にはラビと神田というエクソシストふたり組。
…なに、この豪華メンバー。
「おはよう、ちゃん。相変わらずお寝坊さんみたいだね」
「なんでわかるんですか」
「寝癖」
「きゃーっ?!」
ラビに笑いながら指摘され、わたしは慌てて自分の頭を押さえた。
嘘だ、ちゃんと鏡見て出てきたはずなのに! まさか見えない後ろの方に寝癖が!?
「よしよし、泣くな泣くな。はおねーさんとは思えないほどボケキャラさー」
「フォローしてんのか貶してんのかどっちだよ!」
ぐりぐりと頭を撫でられ、思わず怒鳴り返す。
…涙声なので迫力はない。自分でもわかるくらい。
「君ら仲良しだねー」
「オレらマブダチさ~」
「マブ…!? 出会ってまだ一週間ですよラビさん」
「なに言ってるんだよ、オレとおまえの仲じゃんか! 出会ったその日からマブダチさ!」
「なにその人類皆兄弟みたいな理屈?!」
いつ「オレとお前の仲」的な仲になったのわたし達?!
へらへら笑うラビ相手に、わたしは反論の言葉を探して口をパクパクさせる。
その時、ずっと黙っていた神田が口を開いた。
「……おい。どうでもいいが、俺はこいつらの漫才を聞くために呼ばれたのか? それなら戻るぞ。こんなくだらないことに割く時間はない」
「まぁまぁ、そう言わないで神田くん。大好きな任務のお時間だよ?」
その一言に、わたし達三人は顔を見合わせてから、まったく同じ動きでコムイさんを見た。
デスクに座るコムイさんの表情は楽しげな笑顔で、余計に不安を掻き立てられる。
「…コムイさん」
「なにかなちゃん」
「もしかして、この三人で?」
「うん、この凸凹トリオで」
笑顔のコムイさんに、わたしは思いっきり顔を引きつらせた。
え、待って。わたし自信ないよ、この面子で任務なんて。神田とふたりきりじゃないのがせめてもの救いだけど。
「え、なに、何か不満? でも我が儘は聞かないからね」
「コムイ。こんな成り立ての新人、足手まといだ。平和ボケした万年頭が春の馬鹿女だぞ? だいたい、まだイノセンスもまともに使えねぇんだろ」
「オイコラ。平和ボケまでは許すけど万年頭が春の馬鹿女、は聞き捨てならないよ?」
なんでこうも喧嘩腰なんだこの人。
さすがにムッときて、わたしはジロリと神田を睨め上げた。
だけど、返って来たのはわたしと同じくらい目つきの悪い視線。
「事実だろうが。この一週間でおまえがしていたことはなんだ? 飯食ってるか寝てるか、せいぜい教団内歩き回って知り合い増やしてただけだろうが。修練場で見かけた試しもない」
「ぐっ…それは…」
「どんな温室育ちのお嬢様か知らねぇが、ここはおまえみたいな甘い奴が生きていける世界じゃねぇんだよ。特殊なイノセンスの適合者だかなんだか知らねぇが、戦う気がないなら教団に引きこもってろ」
「…ちょっと、神田。わたし、そんなこと一言も言ってない」
自分の声が、こんなに低くなるのを、わたしは初めて聞いた。
だけど神田はまったく気にした風もなく、わたしから視線を外すとコムイさんに向かって言う。
「おい、コムイ。こいつは外せ、なんなら俺ひとりでも構わん。俺はこんな、世間知らずのお嬢様のお守りなんか御免だぜ」
「お、おい、ユウ…」
「事実だろうが。俺はおまえと違って、無駄な仲間意識なんか持たねぇんだよ、ラビ」
辛辣な神田の言葉に、ラビも困ったように言葉を探している。
――もう、我慢も限界だ。
「ふっ……ざけんなよこのヤロウ。ずいぶんと好き勝手言ってくれるじゃない。あんたは何様のつもりよ、クソガキ」
「…なんだと?」
「戦う能力が無くても、わたしはエクソシストよ。その事実は変わらない。わたしのイノセンスは傷を癒す能力がある。斬ったり殴ったりだけが戦いじゃないでしょう!」
「はッ…戦場を知らないお嬢様が知ったような口を叩くな。アクマを壊せないエクソシストに現場に出る価値はない。治癒能力が自慢なら、医療班と一緒に待機してろ」
徐々に苛立ちを濃くさせていく神田の表情に、わたしの中で何かがキレた。
足手まとい? 役立たず? お嬢様? なんだそれ、わたしだってイノセンスに選ばれたエクソシストだよ?
そりゃあ、仲良しこよしになれるなんて厚かましいこと思ってない。でも、明らかな攻撃を受ける謂われもない。
「あー、はいはい、そうですね神田さんはアクマ壊すしか能が無いもんね! で、あんたは一般人が怪我したら治してあげられる? 仲間が傷付いたら手当してあげられるの!?」
「…それはエクソシストの仕事じゃねぇんだよ! おまえ、自分がエクソシストだってことを自覚してんのか! いま世界に20人もいないエクソシストが、探索部隊と同じ仕事をするつもりかッ?!」
「なによ! 戦うだけがエクソシストじゃないって何回言わせんの話すり替えないで!?」
「ス、ストーップ! もユウも落ち着くさ! こんなとこで喧嘩してる場合じゃないっしょ?!」
慌てたように、睨み合うわたしと神田の間にラビが手を出した。
瞬間、ギッとわたしと神田の視線がラビに向く。
「あー、もうっ! のフォローはオレがするから、ユウはいつも通りにしてればいいさ! も、オレと一緒にいればいいから! 大丈夫、何かあってもオレが守ってやる!」
「「……………」」
しばらくラビを見つめてから、わたしと神田は顔を見合わせた。
もちろん、見つめ合ってるんじゃなくて睨み合ってるんだけど。
「「…ふんッ」」
で、思いっきり同時に顔を逸らした。
その様子にラビは深々と溜め息を吐き、コムイさんはあろうことか笑ってる。
「んー…女の子にもその態度かぁ…先が思いやられるねぇ…」
「………明らかな人選ミスだと思いますけど、コムイさん」
「可愛い子には旅をさせろ、ってね。とにかく、ちゃんは初任務だ。頑張ってね」
「…はい…」
一抹の不安を覚えつつ、わたしはコムイさんに頷いた。
ちらりと神田に視線を向ければ、思いっきりそっぽ向いてた。
…無理。絶対、無理。わたし、絶対こいつとは性格が絶望的に合わない…!
「…あー…胃が痛ェ…」
「…オレもさ、…」
溜め息混じりに呟いたラビに、わたしは心の中で謝る。
…ごめん、ラビの胃痛の半分はわたしのせいだよね…。
+++
徐々に遠ざかっていく汽車を見送りながら、わたしは顔を引きつらせていた。
だいたい、汽車の本数少な過ぎるんだよ。どこの片田舎ですかここは。
そもそも、指令出すならもっと早い時間に出して欲しい。あんまり早いとわたしは寝てるけど。
「おい、行くぞ。今回の担当探索部隊(ファインダー)は既に汽車の中だ」
なんで案内人が先に汽車に乗ってんのですか。
…ああ、わたし達が遅かったからですか…そうだよね、探索部隊は普通の人間だもんね…。
「…聞いてんのか、おまえ。置いてくぞ」
「っていうかマジですか。マジであれに乗るんですかねぇちょっと神田さん」
まさか異世界デビュー一週間で、アレンと同じ目に遭うとは想像もしなかったよ…!
当然、わたしみたいな平凡な人間に、あんな人間離れした屋根渡りなんて出来るわけもない。
なので、猫みたいに屋根の上を走る神田と言い合いしているわたしは、地味に普通の路を走っていた。
「喋ってる暇があったら走れ」
「いやあれ走った程度じゃどうもならなくない!?」
「じゃあ飛べ。無駄に立派な羽根があんだろ」
「無茶苦茶だあんた!?」
「ま、まぁまぁ…」
怒鳴り返すわたしを宥めるように、いつの間に隣まで来たのか、ラビがフォローに入る。
すっかりわたしと神田の仲裁役になっている感がある。本当に申し訳ない。でもわたしは悪くない。
「ほら、はオレが運んでやるさー」
「ラビ…あんたなんて良い人」
思わず差し出されたラビの手を取ろうとした瞬間、神田の辛辣な一言が降ってきた。
「早速それか。やる気のねぇ女」
…ちょっと。なんですか、その尻軽女を軽蔑するような言い方は。
「…良い、ラビ。わたし自力で行く」
「ええええッ?! ちょ、変な意地張っても良いことないさ、! ユウも無駄にを挑発しないで欲しいんですけどッ」
「うるさい。ファーストネームで呼ぶな馬鹿兎」
「兎?!」
素っ気ない神田の言葉に、ラビも言葉を失った。
――ここまで馬鹿にされて、黙っているなんて女が廃る。
「…そりゃ、確かにわたしは体力もへなちょこで足も遅いけどねぇッ」
走りながら、わたしは意識を集中させる。
イメージは単純。バラバラになった鎖を繋いでいく感じ。
カチリ、カチリ、と。連結していくイメージ。
すべて繋がった瞬間、わたしは口を開く。
「――イノセンス、発動! 舞え、《黒曜(コクヨウ)》!!」
声と同時に、私の背には確かな存在感を持ってソレが現れる。
漆黒の羽根。わたしのイノセンス。名前は《黒曜》。
それを、わたしは意識を集中させて動かした。まるで鳥が羽ばたくように。
「…よし、浮いた!」
ふわりと、軽い浮遊感。足場が無いことへの不安定感は思ったほどない。
思わず、わたしは空中でぐっと拳を握り締めた。
それを見ていたラビが、大きく目を瞬かせる。
「その羽根って飛べたんだ!?」
「飛べるような気はしてた!!」
「ぶっつけ本番かい!!」
「そうとも言う! くっそ、ちょっと待てや馬鹿神田ーーーっ!」
「ーっ?!」
迷うことなく、わたしは汽車に向かって飛んだ。
先ほどまで屋根の上を走っていた神田の姿は見えない。もう汽車の中だろうか。…くそ、本当に置いて行く奴があるか。もう少しくらい気遣いの心を見せろ。
…ラビ、置いて来ちゃったけど…あの槌があれば大丈夫だよね…?
「あー、もうっ! どいつもこいつも好き勝手し過ぎさッ!
大槌小槌…伸ッ!! 伸伸伸伸ーーーーんっ!!!!」
あ、大丈夫っぽい。
ヤケクソ気味に怒鳴る声を背後に聞きながら、心の中で謝罪しつつ合掌する。
どちらにしても、ラビは放っておいても問題ないだろう。
意識しながら羽根を動かし、わたしは地を蹴るような感覚で空を蹴る。
ぐんっ、と上がるスピード。なるほど、感覚が掴めてきた――!
「っと、到着ー…って、…あれっ?」
トンッ、と汽車の屋根に降り立つ。
瞬間、思いっきり風に煽られてわたしは転倒した。
「わわっ?」
「ッ?!」
その瞬間に屋根が開いてたのはわたしのせいじゃない。
ついでに、その時ちょうど下には降り立ったばかりの神田が無防備立ってたのも!
「…ご、ごめん、神田…」
開いていた上扉から勢いを殺しきれずに滑り落ちたわたしは、思いっきり神田の上に着地した。
いや、着地ってのは間違いか。正確には、落下して上に馬乗りになった。ある意味蹴り倒したとも言う。
一応謝ったわたしに、返されたのは物凄く低い声で放たれた一言。
「………………重てぇ。退け」
いったい、年頃の女子に対してその発言を選ぶ精神構造どうなってんだよ。
「女の子になんてこと言うのよデリカシーのない男ね!!」
「やかましい! 文句は後で聞く、とにかく降りろ!!」
「なにさ、重くて悪かったわね! ええ、ええ、降りますとも! こんな座り心地に悪い椅…」
わたしの言葉は、最後まで声にならなかった。
…上から降ってきたものに潰されて。
「ぅぶっ!?」
「…あ、ごめん」
「なんでわたしを潰すのよラビ!!」
ほとんどわたしに潰された神田と同じ格好になったわたしは、降ってきたラビに怒鳴り返した。
なんで? なんでわたしが潰されてんの!?
「いやー、上手く止まれなくて。コレ、力加減が難しいんさー。ごめんごめん」
「きゃーっ!? どこ触ってんのあんたは!? 金取るわよ!?」
「ふ、不可抗力! 不可抗力だからッ! っていうか金払ったら良いの?!」
「良いわけあるかーーーっ!」
「~~~ッ! 俺の上で暴れんじゃねぇッ!!」
一番下敷きになっている神田が、声を張り上げた。
う。耳元でやられると頭に響く。っていうか、さすがにわたしのせいじゃないだろこれは!
「…あのぅ…」
「「「あ」」」
困惑顔で覗き込んでくる探索部隊の人に、わたし達三人は硬直した。
これから任務に赴こうというエクソシスト三人が、団子状態でぎゃあぎゃあ言い合ってる姿を、見られた。
呆れるでもなく、心底困惑した表情で見られてる。とても恥ずかしい。上手く反応が返せない。
「だ、大丈夫ですか?」
「…大丈夫大丈夫! 気にしないで! ほら、もユウもさっさと立つさ!」
「「まずおまえがそこを退け!」」
「あ」
ラビのおかげで我に返ったわたしと神田の声が、綺麗にハモった。不本意ながら。
ふたり仲良くラビを睨め上げ、視線で「退け」と脅したのは言うまでもない。
「うぅ…踏んだり蹴ったりだぁ…」
「ごめんって。怪我してねぇ?」
「なんとか…神田は大丈夫?」
ラビの手を取って立ち上がり、わたしは同じく立ち上がった神田に訊ねた。
対する神田は、軽く団服を払ってから、憮然と応える。
「そこまでヤワじゃねぇよ。おまえと違ってな」
「…ホント、可愛くない奴ね」
「……それが人を踏み潰した奴の態度か?」
「わたしそこまで重くないッ!!」
思わず怒鳴り返したら、あろうことか鼻で笑われた。は、腹立つ…滅茶苦茶腹立つ…ッ!!
ひとを象のように言わないでいただきたい。うっかり蹴倒しただけで踏み潰してはいない。
それでも悪かったと思っているから、素直に謝ろうとしたし心配もしたのに、なんて言い草だ。
「ああ、ハイハイ! おまえらが仲悪いのはもうわかったから、ちっと落ち着くさッ」
「だって神田が滅茶苦茶失礼なんだよ!?」
「それ、そっくり返すぜ。馬鹿女」
「なんだとぉ!?」
「だからやめろってばッ! ったく、なんでこうなんのかなー…」
言い合うわたしと神田の間に割って入って、ラビが深々と溜め息を吐いた。
こっちが聞きたいわ。素直に謝ろうとしたのに、憎たらしいことを言う神田が悪い。
「あ、あの…そろそろお話を進めさせて頂いても、よろしいでしょうか…」
「「「あ」」」
困惑しきった探索部隊の青年の声に、わたし達は我に返る。
そう言えば、任務のことをすっかり忘れてた…。
「…すみません」
「いえ…。…あ、申し遅れました。私は今回の任務地へお供致します、探索部隊のヴァルと申します」
そう言って、彼――ヴァルさんは深々と頭を下げる。
なんて礼儀正しいひとだ。しかも温厚だ。素晴らしい。涙出そう。
「=です。こっちのふたりは、説明の必要もないかな」
「はい。存じ上げております。様、あなたのことも」
「え、そうなの?」
「最近入団された方は、様だけですので…」
なるほど、絶対的に数の少ないエクソシストだ。
それなら名前くらい、知れ渡っていてもおかしくないか。
「緊急の指令でな、まともな説明は一切受けていないんだ。資料を読ませて貰いたい。…客室は?」
「はい。既にご用意させて頂きました。ご案内します」
こちらです、と。
ヴァルさんに促され、わたし達は客室へと向かう。
初任務…奇怪の調査、イノセンスの回収か。緊張してきた。
知らず微かに震えたこぶしを、ぎゅっと握り締める。深く呼吸した瞬間、背後から淡々とした声音で言葉を投げつけられる。
「…おい、足がおぼついてないぞ。もうバテたのか」
「~~~ッ! 誰がだ! 武者震いだよ、武者震い!!」
「だぁから喧嘩すんなって!」
緊張もしていられないんですかわたしはッ!!
毒舌全開の神田と、必死に宥めるラビに挟まれて、わたしは思わず頭を抱えた。
…ここに来た初日に感じた不安、的中。こんなもん、当たっても嬉しくもなんともない。
良い男に囲まれつつも、道行きは前途多難。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。