「…相変わらず、胸焼けがするほどよく食べるわね」
「え、そうですか…?」

不思議そうに聞き返して、アレンはきょとんとしていた。
――そんな彼の横には、大量の空き皿が積み上げられている。

「いくら好きだからってみたらし団子20本とか有り得ないよ…」
「…よく飯と一緒にンな甘ったるいもんが食えるな」

わたし同様、アレンのとんでもない食欲に辟易している神田が、嫌そうに顔をしかめた。
そんなわたし達に、アレンはますます首を傾げる。

「違いますよ、これはデザートです。
 だいたい、みたらし団子の発祥地は日本でしょう。なんでこの味がわからないんですか?」
「俺は甘いものは嫌いだ」
「勿体無い! 日本の食文化の、素朴で上品な味をなんだと思ってるんですか!」
「てめぇと食について議論する気はねぇよ。黙って食ってろ」
「…そもそも、論点は味云々じゃなくて量なんだけどね…」

だってあんた。
いくら育ち盛りの15歳って言ったって。
………………余裕で成人男子10人分以上はあるだろ、その量。

「っていうか、。機嫌悪いんじゃなかったっけ?
 普段だったら半日くらいアレンを放置してるだろ、お前。今日はどうしたんさ?」
「………いやだな、ラビ! わたしはそんなに心狭くないよ!」
「じゃあ今の間は何さ」
「…わたしにも色々あるんだよ、ラビ」
「は?」

首を傾げるラビに答えるのも面倒というか、馬鹿らしい理由。
ため息を吐きながら、わたしはその『理由』に視線を向ける。

「ジャン、ちゃんと食べてる? 遠慮しなくても良いからね」
「アレンほどじゃないけど食べてるよ」

アレンの気遣いに答えながら、ふとジャンはわたしの方を見た。
で、くそ生意気な表情で舌出してくる。
……うっわ、ムカつく何あれ。

「…あんのクソガキ…」
。顔引きつってる」
「ほっといて」

突然舞い込んだ厄日。
本当はまだアレンに対して腹を立てているわたしが、こうして一緒にいる理由はひとつ。
…目の前に居る、くそ生意気なお子様の監視だ。



迷える恋羊 --- 02




「…ラビ。どう思います?」
「何が?」

朝食が終わった後のことである。
ジャンはリナリーとに連れられ、コムイの元へ挨拶に行った。
それが本来の目的なのだから、それは良い。
良いのだが、リナリーはともかく、何故が付いて行くのか。
ラビもそれは気になったが、どうやらアレンはそれ以上に何か思うところがあるらしい。

ですよ。なんだか態度がおかしくないですか?」
「んー…例えば?」

こいつら、揃いも揃ってオレをなんだと思ってんだ。
そう思うラビだったが、一応話を聞いてやるくらいには、懐の深い彼である。

「朝は確実に怒ってたのに、触っても嫌がられないんです」
「…なに、嫌がられたいの? どこまでサドいんさ、お前」
「そういう意味じゃないですよッ!!」

即答で返されたが、どうかなぁとラビは胡乱げにアレンを見る。
アレンはそれこそ、一見すれば穏やかで優しい少年だが、それだけではないことをラビはよく知っている。
時折飛び出てくる黒い発言が無ければ、歳相応の普通の少年なのだが。

「機嫌直ったんじゃねーのぉ?」
「ンなわけありますか。一度怒ったら、半日は何やっても怒ったままですよは!」
「お前も苦労してんな、アレン…」

何やっても半日はご機嫌斜めか。
どっちに非があるのかわからんけど、よく耐えられるな。
呆れ半分感心半分で、ラビは渇いた笑いを浮かべる。

「そりゃ僕も悪いですよ、でもだからってあんなに怒ることないじゃないですか。
 ちゃんと謝ったんですよ! 朝一番に! そしたらなんて言ったと思います!?」
「知らね。つか聞きたくねぇさ、お前らのノロケなんて」
「『反省を活かせない奴の謝罪なんて聞くだけ無駄』って言ったんですよ! 何様ですかあの人は!!」
「言う方も言う方だけど、言われる方も言われる方さー…」

もういい加減解放してくれないかなー…と。
くったりとソファーに背を預け、ラビは盛大なため息を吐く。

「なんでもいーけど、あんまの機嫌損ねんなよ。あっちこっちに二次被害が出るんさ」
「僕の機嫌はどうなるんですかッ!」
「知るかー。を独占出来る時点でお前は幸せさ、それ以外は諦めろー」

半ば投げやりに言い返し、ラビはふと浮かんだ疑問を口にした。

「そういや、あのお子さまどうすんの?」
「ああ。今日一晩泊まってから帰るそうですよ。僕が面倒見るんです」
「へぇ?」

普段は何かと『一番年下』という立場上、世話を焼かれる方が多いアレンが、他人の世話を。
意外な気分で、ラビはどうなることやら、とどこか楽しみにさえ思えてきた。

「…それはまぁ、良いんですけど」
「ん? なんだよ。顔が暗いさ」
「いえ…ジャンが居たら、と何も出来ないなー…って」

まるでこの世の終わりだとでも言うように、深刻な声で呟かれた一言。
ピシリと、空気に亀裂が入るような幻聴が、聞こえた気がした。

「……」
「……」

変な沈黙が流れる。
なんとか立ち直り、ラビが笑みを引きつらせながら口を開いた。

「…なぁ。お前ら、明日から任務だよな?」
「はい」
「…っていうか、昨日ヤったんだろ?」
「はい」

即答かよちくしょう。しかも顔色ひとつ変えないし。
だんだん自分が苛々してきている自覚はラビにもあったが、彼は恐るべき強固な理性でそれを押し留める。

「………お前、がなんで怒ってるかわかってる?」
「わかってますよ?」
「…オレが言うのもなんだけど、お前サイテーさ」
「何言うんですか。ラビが僕の立場だったら、四六時中盛ってるでしょ」
「…………………」

さも心外だと言わんばかりに、目を眇めてアレンが言い放った。
しばらく沈黙が続き、いきなりラビは立ち上がる。

「…なんてこと想像させるんさッ!?」
「人の恋人相手に何想像してるんですか!?」

想像を促したのはどこの誰だ! お前だろ!!
よっぽどそう怒鳴り返したかったが、ラビは精神的に疲れ果てて気力も無い。
ソファーに座り直し、重苦しく息を吐く。

「もー…お前キライ…」
「良いですよ、僕はさえ居ればそれで充分です」
「平然とノロケんな。嫌味かソレ。さすがに泣くぞ」
「好きなだけ泣き喚け、負け兎」
「負…っ…おいおいおいッ!?」
「冗談です」

目が本気だった気がするのは、気のせいだろうか。
相変わらずの隙の無い笑顔の向こうに、魔王のような角が見え隠れしているのは錯覚だろうか…。
いっそ泣きたいような気分で、ラビはくったりとソファーに突っ伏した。
そんな彼の耳に、小さな足音が二つ、届く。

「アレーン! 教団の中案内してくれよー!」
「はーいはい、アレンは方向音痴だからおねーちゃんが案内してあげますよー!?」
「いいよ! 誰もあんたには頼んでないよ!」
「人の好意は黙って受け取れっつーのよクソガキ!」

何故か、ジャンとが怒鳴り合っている。
身長で勝っているがジャンを抱え上げて連れて行こうとしているが、ジャンも負けじと暴れた。
なんだか奇妙な光景に、アレンとラビはきょとんと目を瞬かせる。

「…何やってるんですか…」
が子供好きだったとは知らなかったさー」
「え? そそそ、そうそう! わたし子供大好きなんだよ! 世話焼きたくなっちゃうの!」
「いててててッ! 離せよ痛いだろ!」

…その割には、嫌がられているが。
挙動不審なに、ラビはゆるりとアレンに視線を向けて、口を開く。

「…やっぱオカシイな」
「…でしょう?」


+++


「…疲れた…」
「大丈夫ですか…?」

すっかり夜も更けた頃。
散々教団内を暴走しまくったわたしとジャンは、疲れきって談話室でぐったりしていた。

「なんだってそんなに頑張ってるんですか? 普段の任務以上の張り切りようですけど」
「わたしにはわたしの事情があるの。ほっといて」
「…そ、そう」

即答すれば、アレンが曖昧に苦笑する。
…どうやら、わたしの機嫌がまだ悪いことくらいは、察しているらしい。

「すっかり夜ですねー…あ。、明日の準備しました?」
「あ。してない…」
「やっぱり」

そりゃ、一日中ジャンを追い掛け回していたんだから、準備なんて進んでるわけもない。
明日からの任務は、コムイさんの話では長丁場になるかもしれないとのことだ。
そうそう荷物は必要ないとは言え、女であるわたしは、それなりに持っていく物もある。
…こういう時、男って気楽だよね。羨ましい…。

「アレン、風呂行くぞー」
「あ、はい。じゃあ、はまた後で」
「んー。…って、ちょっと待て」
「はい?」

普通に返事を返し掛けて、わたしは慌ててアレンを呼び止めた。
アレンは素直に立ち止まり、わたしの方を振り返る。

「……ジャンは?」
「は? そりゃ、一緒に行きますけど」
「………」

そ、そう来たか…。
不思議そうに首を傾げるアレンに、わたしは「いってらっしゃい」と引きつった笑顔を向ける。
アレンはラビとジャンと連れ立って、共同浴場へ向かって行ってしまった。



……
………さて。



いよいよピンチのような気がしてきた。
……どうしよう?






緊急事態発生。



To be continued?

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