一点の灯りもない、暗闇の中。
《彼女》は夢を見ていた。
それは確かに《夢》だった。
しかし、《ヒト》が見る《夢》とは違っていた。
何もない虚空。
空を掴むしか出来ない腕。
早く。
早く。
早く、ここから逃れなければ。
自らの一部となったソレを見下ろし、《彼女》は嗤う。
動かぬ片腕を引きずるように、《彼女》は立ち上がった。
《始まり》の終わり。
さァ、門は開かれた。
――――今、物語は始まらん。
「――――――扉よ」
薄暗い部屋の中。
ロウソクの明かりのみに照らされた、ローブ姿の人物は朗々と唱える。
「扉よ、その固く閉ざされた門を開け」
高めの声音は、まだ幾分幼さを残す。
ローブを纏う人物は、まだ年端もいかぬ少女だ。
「開け、異界の門よ! 力有る者よ…我が元へ、馳せよ!!」
声高に唱えられる、力有る言葉。
爆発的な魔力の発動と共に、周囲のロウソクの炎が、大きく揺らめいた。
――――――青く。
(………来る!)
確信を持って、少女は手を伸ばした。
――魔力の、中枢へ。
「――来たれ魔力の宰! 我が意に応えし者!
我が名は 。異界に愛されし者!!」
いっそ、暴力的なまでに吹き上がる魔力の波。
確かな手応えを感じ、少女――は、《ソレ》を掴んだ。
虚空に浮かぶ魔力の粒子。
青く輝く《ソレ》は、形を取った。
――ヒトの、形を。
「……! 汝、名を問う! 何処より来し者か!?」
法則に則った、契約の問いかけ。
徐々にヒトの形を取り始めた粒子は、姿が明確になるより先に、鋭く通る声音で応う。
「――俺は、《カ=リメア》から来し者…」
《カ=リメア》。
馴染みのないその名に、は一瞬たじろぐ。
――力有る者は、力有る者を呼び寄せる。
ならば、名も無き低級サーヴァントではない。
そんなことは有り得ない。
「…応え。汝は、」
「――《カ=リメア》を知らないの?
召喚士(サモナー)のくせに勉強不足なんじゃない?」
「な…ッ」
「もう一度言うよ」
の眼前にふわりと降り立ち、《ソレ》は小さく笑った。
晴れた視界の中に現れたのは、小柄な少年。
「俺は《カ=リメア》から来し者――」
よりも小柄に見える少年は、しかし《ヒト》ではない存在。
凛とした強い輝きを持つ、その瞳を前にして、ぞわりとの肌が総毛立つ。
そして、少年は――否、少年の姿をした《ソレ》は。
予想外の、とんでもない一言を。
笑いながら、告げた。
「――俺は、魔族の王子だよ」
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。