「………あのよ」
「ん?」
「………久坂って誰だっけ」
「は?」
一瞬、何の冗談かと思った。
いやいや、攘夷志士は今やお尋ね者も同然だ、警戒は持って然るべきだろう。
同志を語って近づく者を警戒し…ている顔じゃないんだが。なんなのこいつ。
「いや、なんかどっかで聞いたことあるよーな気はするんだよ?
でもあれ、なんだっけ。ここまで出掛ってるんだけど、あれ?」
「あんたホントに攘夷志士!? 久坂家って言ったらあんた、あれだよ!?
萩藩の毛利家に仕える藩医だよ!? なんで知らねぇのよおかしいだろ!!」
「あー、はいはい。あれね。毛利さんとこの主治医ね」
「間違ってないけどなんか違う! 毛利さんて知り合いじゃねーだろあんた!!」
仮にも萩藩の藩主…まあ、廃藩置県で藩主ではなくなったが、
その毛利家をなんだと思ってるんだ…。これだから暴れるしか能のない攘夷志士は嫌なんだ。
「…なんかバカらしくなってきた…。で、怪我人どこだ。案内しろ」
「あれ、そういう方向で話決まったの?」
「もう面倒臭いからそれで良い…」
攘夷だなんだとそれらしいことを言いながら、暴れるだけの志士など嫌いだ。
だが好意を持てないからと、怪我人を放置するわけにはいかない。
「助けられるもんを放置したとあっちゃ、幕府と同じになるからな」
「…お前さん、変な奴だなァ」
「あんたに言われたくないよ」
確かに私は、多少変わり者だろうが。
変、というならこの男の方が変だ。
先程までの、抜身の刃のような雰囲気が消えている。
掴みどころのない――奇妙な男。
「…お家の名前は聞いたが、お前さんの名前を聞いてねぇな」
「…面倒臭いだろ、名前知ったら」
「袖触れ合うも多生の縁ってな。名乗りたくないならそれでも構わねぇが」
「……人に名前訊ねる前に、自分で名乗ったらどうだ?」
「あー、それもそうだな。俺は坂田銀時だ。お前は?」
本当にあっさりと、当たり前のように言ってくれる。
まったく、これで名乗らないわけにはいかなくなっただろうが。
「…久坂」
「ナリの割には可愛い名前だな。
腕に覚えがあるんだろうが、良い家柄なら淑やかにしてねーと嫁の貰い手無くなるぞ」
「んな…っ」
余計な世話だ!!
と、言い返す前にその男――坂田銀時は、私の横をすり抜ける。
視線で追う私を振り返り、軽い口調で、それでいて視線に僅かな鋭さを孕ませ、告げた。
「まあいいや。…ついてきてくれ。助けて欲しい奴が居る」
To be continued?
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