鬼が振り返った時
03.名前




「………あのよ」
「ん?」
「………久坂って誰だっけ」
「は?」

一瞬、何の冗談かと思った。
いやいや、攘夷志士は今やお尋ね者も同然だ、警戒は持って然るべきだろう。
同志を語って近づく者を警戒し…ている顔じゃないんだが。なんなのこいつ。

「いや、なんかどっかで聞いたことあるよーな気はするんだよ?
 でもあれ、なんだっけ。ここまで出掛ってるんだけど、あれ?」
「あんたホントに攘夷志士!? 久坂家って言ったらあんた、あれだよ!?
 萩藩の毛利家に仕える藩医だよ!? なんで知らねぇのよおかしいだろ!!」
「あー、はいはい。あれね。毛利さんとこの主治医ね」
「間違ってないけどなんか違う! 毛利さんて知り合いじゃねーだろあんた!!」

仮にも萩藩の藩主…まあ、廃藩置県で藩主ではなくなったが、
その毛利家をなんだと思ってるんだ…。これだから暴れるしか能のない攘夷志士は嫌なんだ。

「…なんかバカらしくなってきた…。で、怪我人どこだ。案内しろ」
「あれ、そういう方向で話決まったの?」
「もう面倒臭いからそれで良い…」

攘夷だなんだとそれらしいことを言いながら、暴れるだけの志士など嫌いだ。
だが好意を持てないからと、怪我人を放置するわけにはいかない。

「助けられるもんを放置したとあっちゃ、幕府と同じになるからな」
「…お前さん、変な奴だなァ」
「あんたに言われたくないよ」

確かに私は、多少変わり者だろうが。
変、というならこの男の方が変だ。
先程までの、抜身の刃のような雰囲気が消えている。
掴みどころのない――奇妙な男。

「…お家の名前は聞いたが、お前さんの名前を聞いてねぇな」
「…面倒臭いだろ、名前知ったら」
「袖触れ合うも多生の縁ってな。名乗りたくないならそれでも構わねぇが」
「……人に名前訊ねる前に、自分で名乗ったらどうだ?」
「あー、それもそうだな。俺は坂田銀時だ。お前は?」

本当にあっさりと、当たり前のように言ってくれる。
まったく、これで名乗らないわけにはいかなくなっただろうが。

「…久坂
「ナリの割には可愛い名前だな。
 腕に覚えがあるんだろうが、良い家柄なら淑やかにしてねーと嫁の貰い手無くなるぞ」
「んな…っ」

余計な世話だ!!
と、言い返す前にその男――坂田銀時は、私の横をすり抜ける。
視線で追う私を振り返り、軽い口調で、それでいて視線に僅かな鋭さを孕ませ、告げた。

「まあいいや。…ついてきてくれ。助けて欲しい奴が居る」









To be continued?

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