「はァ? 家出娘の捜索を手伝えだァ?」
まったりお茶タイムを満喫していた私に、
土方さんと総悟が「頼みがある」とかいきなり言うから何かと思えば。
「なんで私がそんなこと手伝わなきゃいかんのですか。忙しいのに」
「呑気に茶ァ飲んでる不良家政婦が言えた立場か。暇だろ、付き合え」
「土方さん、そんな口説き方じゃあ女は釣れません。だからあんたはモテねぇんだ」
「余計な世話だ。誰がお前みたいな猪娘なんぞ口説くかよ」
「誰が猪かッ!!」
ダンッ、と私は湯呑を荒っぽく卓袱台に叩きつけた。
…あ、やべ。ヒビ入った。
「そうですぜ、土方さん。
さんみてェな別嬪さん捕まえて猪たぁよろしくねぇや。だからあんたはモテねぇんだ」
「よーし、総悟。良い事言った」
「まったく同じこと言うんじゃねぇよこのドSコンビが。
………なら総悟、お前だったらどうすんだ。言ってみろ」
「……」
少し考え込んでから、総悟が真顔で返した言葉は…まあ、予想通りだったが。
「おだてて持ち上げてその気になったら落としやす」
「私がそんな見え透いた手に引っかかるかよ。アホか」
「……」
「……」
「すいません、土方さん。やっぱ猪女でした」
「だろ?」
「オイぃぃぃ!! 結局猪扱いか!!」
どいつもこいつも! なんでこの世界の男どもは失礼なんですかちょっと!!
結局、手伝う羽目になった。
この暑い中、なんで外に出て人探しのお手伝い…。
…まぁ、暇だから良いですけどね。
「家出娘って将軍家の姫様なんですか?」
「あんま大きい声で言うな馬鹿。…現将軍、徳川茂々様の妹君だ。
大人しく穏やかな気性の姫様らしいが、何を思って家出なんてしたのか」
「んなもん政略結婚の道具にされかけたとかそんなんじゃね?」
「ンな話ねぇよ。姫様幾つだと思ってんだ。
…なるほど、やっぱお前が家出た原因はソレか」
「いやいやいや、なんで私の話になってんですかちょっと」
私は家出なんてしてないです。
…いつまでこの勘違い続くのかなぁ。面倒くさいなぁ。
「…っていうかよ、これだけ雁首揃えて、地の利の無い小娘ひとり見つけられないってなに?
警察辞めた方が良いんじゃね? うちの家主はガキんちょふたりと犬一匹で片づけますよ」
「万事屋と比べんな。こういうのは本来、俺らの仕事じゃねぇんだよ。こっちは荒事専門だ!
…つっても、上から探せと命じられりゃ探すしかねぇ。だからお前に手伝ってもらってんだよ」
「だからなんでだ」
「俺らみたいな女に縁の無ェ芋侍にゃ、姫様の家出の理由なんざ想像も出来ねぇ。
が、例え口が悪くて短気で庶民じみてて性格の悪いドS女でも、お前は一応貴族の姫さんだ」
「おーい、土方さーん。真顔で失礼なことぽんぽん言わないでくれませんかねー」
「そよ姫の考えや行先の見当くらい、何か思いつくんじゃねーかと期待したんだが…」
そこで言葉を切ると、ちらりと視線を向けられた。
かと思ったら、盛大にため息を吐かれた。なんでだ。
「………無理か。姫は姫でも猪姫だからな、お前は」
「なんで人をことあるごとに猪に例えますかねッ!!」
「実際、お前は扱い辛いからな」
「失礼な! だから言ってるでしょ、そういうこと言うからあんたモテないんだよ!
こういうときはですね、例え本心でなくとも、おだてて良い気にさせるくらいの手練手管くらい…」
「………そういうことを説いてくるお前に、その手練手管は通じねぇんだろ」
「……」
「……」
「…まぁ、さんは安くないですから」
「…なんだこの無駄な会話」
いや、そんな無駄とか酷いと思います。
っていうか、別に良いじゃん。私には通じなくても別のに通じるかもしれないじゃん。
「…っていうか土方さん、なんでそんなにイラついてんですか?」
「…暑いんだよ」
「あー、なるほど。黒い服は暑いですね。私もこの制服暑いです」
「…の、割には元気だな」
「スカートですから、まぁ、土方さん達よりは涼しいですよ?」
そもそも、夏服作れば良いと思うんだけど。
この黒服強面の集団が日中歩き回ってるの見ると、見てる方が暑苦しい。
「…あー、あつい。
なんで俺達の制服ってこんなカッチリしてんだ?
世の中の連中はどんどん薄着になってきてるってのに」
「そりゃ警察の制服が緩かったらダメでしょーが」
「おまけにこのクソ暑いのに人探したァよ、もうどーにでもしてくれって」
「話聞けよ。っていうか暑いならタバコ消せ」
冷たい飲み物飲んでても、火のついたタバコがそのままだったら熱いだろうに。
片手に持ったままの煙草を奪い取って、私はそれを地面に落として火を踏み消した。
土方さんは何か言いたそうではあったけど、熱いとは思っていたらしく結局何も言いはしなかったが。
「そんな暑いなら夏服作ってあげますぜ、土方さん…」
「!」
物凄く聞き覚えのある声に、私は反射的に土方さんの傍から離れた。
瞬間、突風のような勢いで何かが過って行った。
…何かっていうか、まぁ、総悟なんだが。
「うおおおおおお!!」
おお、避けた。さすが土方さん。
「あぶねーな。動かないでくだせェ、怪我しやすぜ」
「あぶねーのはテメーそのものだろーが何しやがんだテメー!!」
「なんですかィ、制服ノースリーブにしてやろーと思ったのに…」
「ウソつけェェ!! 明らかに腕ごともってく気だったじゃねーか!!」
うん、普通の人なら絶対避けられなかった。
避けると思ってやってるなら良いけど、本気だったらおっかねぇな、こいつ。
…今更か。
「実は今、俺が提案した夏服を売込み中でしてね。
土方さんもどーですか、ロッカーになれますぜ」
「誰が着るかァ! 明らかに悪ふざけが生み出した産物じゃねーか!!」
差し出された、両袖の千切られた隊服を土方さんは叩き落とした。
まぁね…今どきのロッカーはこんなの着てないわな…むしろアキバに居そう。
「総悟、それ、私にも着せる気?」
「いや、さんは多分似合わないんで。
…って。暑いのはわかりやすが、第二ボタンまで外すのはどうかと思いますぜ」
「ん?」
「あんた態度でけぇくせに背はちっせぇんだから、もうちっと自己防衛してくだせェ。
うちは女っ気ゼロの芋侍集団ですぜ? っていうか、こういうのを俺に言わせるってよっぽどだろ」
「態度でかくて悪かったなコノヤロウ。人を露出狂みたいに言うな」
そりゃあ、確かに私は、神楽と大して身長が変わらないくらいだが。
………態度でかいのも自覚してるが。いやでも、総悟には言われたくない。
「見て良いなら凝視しやすが」
「そういう言われ方するとなんか凄く嫌だ! こっち見んな!!」
「だったらボタン閉めてくだせぇ。正直目のやり場に困るんで」
「~~~~ッ!!」
全然困ってるように聞こえませんが!!
なにこれセクハラ!?
「お前ら、そういう会話やめろよ…風紀が乱れんだろ」
「好きでこんな会話してるんじゃないですよ!? っていうか私が悪いの!?」
これだから男は!
ああ、頭痛くなってきた…。
「おーう。どーだ、調査の方は?」
「「…………………」」
妙な空気をものともせず、そう言って会話に割り込んできたのは近藤さんだった。
さすがは局長、どっしり構えてますね。
…と、言いたいが、なんで総悟の悪ふざけの産物を着こなしてますか。
「…土方さん」
「…何も言うな」
ツッコミは、やんわりと却下された。
…いや、でも、あれで良いの? 仮にも真選組のトップだよ?
「さんもすみませんな。手伝っていただいて」
「いえいえ、お気遣いなくー」
…いかん、直視すると笑いそうだ。
なんで平然としてるの近藤さん! おかしいと思いましょうよその格好!!
「…潜伏したテロリスト捜すならお手のモンだが、捜し人がアレじゃあ勝手がわからん」
何事もなかったように進む会話。
…短気な割に、こういうとこよく耐えられるよね、土方さん…。
「お姫さんが何を思って家出なんざしたんだか…。
人間、立場が変わりゃ悩みも変わるってもんだ。俺にゃ姫さんの悩みなんて想像もつかんよ」
「立場が変わったって年頃の娘に変わりはない。
最近お父さんの視線がいやらしいとか、お父さんが臭いとか色々あるさ」
「お父さんばっかじゃねーか」
世の娘は、家出する程お父さんを嫌っちゃいませんよ。
…あれ。そもそも今の将軍の親って誰なんだろ。生きてたっけ?
「さん、同じ女性の視点で何か見当つきませんかね」
「いや、さすがに将軍様の妹姫と私じゃ立場違い過ぎますって。
私なら気に入らないことあったら出ていく前に周囲に当たり散らします」
「近藤さん、姫様とこのドS姫一緒にしちゃ駄目だ。時間の無駄過ぎる」
「ちょっと土方さん!? 失礼ですよ!!」
だから、さんはドSじゃないから! なんなのまったくもう!
「が役に立たねぇとなると、やっぱり虱潰しに捜すしかねぇか…」
「役に立たないとはなんだこのマヨ副長めが」
「江戸の街全てを正攻法で捜すなんざ無理があるぜィ。
ここは一つ、パーティでも開いて姫さんをおびき出しましょう!」
「そんな日本昔話みてーな罠にひっかかるのはお前だけだ」
「大丈夫でさァ、土方さん。
パーティはパーティでもバーベキューパーティです」
「何が大丈夫なんだ? お前が大丈夫か?」
「局長ォォ!!」
本気とも冗談ともつかない総悟と土方さんのやりとりに、また聞き慣れた声が乱入してきた。
あー、この声はジミーことザキですね。落ち着きが無いな真選組は。
「!! どーした、山崎!?」
「目撃情報が!」
「「…………………」」
視線を向けて、思わず、私と土方さんは動きを止めてしまった。
…だから、なんで、その悪ふざけの産物を着こなしてるの。
「…土方さん」
「…頼む、何も言うな」
ツッコミ拒否がほとんど懇願になっていた。
「どうやら姫様は、かぶき町へ向かったようです」
「かぶき町!? よりによってタチの悪い…」
「…………あ」
そこまで聞いて、やっと思い出した。
あーあーあれかー。神楽がお姫様と出会うあれかー。
うわぁ、全然思いつかなかった。私の記憶力大したことないなぁ。
「どうした、」
「え? いえいえ、なんでも?
今日は卵の特売日だったなぁって」
「…………卵って」
う。ちょっと苦しかったか。
いやでも、卵の特売日も嘘ではない。
「今日の夕飯は卵料理ですかィ?
さんのだし巻き卵は絶品ですからねぇ」
「そう言われると作ってあげたくなるわねー」
「飯の話は後にしろ」
「私、そっちが本職なんですが」
実際、私はなんだと思われてるんだろう…。
私、真選組の女中さんだよね? あれ?
+++
――さて、程なくして、目的のお姫様は見つかった。
かぶき町と限定されれば、余所からきたお嬢さんを見つけるのは簡単だ。
なんせ特徴的な街だからなぁ、ここは。
茶屋の前に座るお姫様の隣には、見知ったピンク頭の女の子。
…ああ、やっぱりこの話か。
「――でも、最初から一日だけって決めてた。
私がいなくなったら、色んな人に迷惑がかかるもの…」
寂しげに微笑うお姫様――そよ姫、だったか。
彼女の言葉が終わるタイミングで、土方さんがふたりの前に進み出た。
「――その通りですよ。さァ、帰りましょう」
「………」
一瞬だけ目を伏せてから、そよ姫は静かに立ち上がった。
その手を、隣に座る神楽がはしっと掴む。
「!」
「何してんだ、テメー」
土方さん、それじゃ悪役です。
だけど対する神楽も、悪役よろしく口角を持ち上げて嗤う。
そして、咥えた団子の串を土方さんに向かって吹き矢のように放った。
「!!」
土方さんが串を叩き落とすのと同時に、神楽はそよ姫の手を取って駆け出す。
「オイッ、待てっ!! ――確保!!」
「!!」
土方さんの指示に、あちこちから真選組隊士が姿を現した。
…あの、色々突っ込みたいけどまず、その仮称・夏服…
………もう、いいや。好きにしろ。
「さん、目が死んでますぜ」
「…ああ、うん。今ちょっと頭痛が酷くなったわ」
「そりゃ大変だ。女が腰冷やしちゃいけませんぜ」
「頭だって言ってんだろバカヤロウ」
血の巡りが悪くて頭痛いんじゃないっての。
…あれ。これ、セクハラじゃね?
「姫を抱えて屋根に飛びあがりやがったぞ!!」
「何者だアイツぅ!!」
「…ありゃ万事屋のトコのチャイナ娘じゃないか? 何故姫と」
「さァ」
口々に騒ぐ隊士達の中、妙にのんびりした近藤さんの横で総悟が何かを取り出した。
…そのバズーカをどこに隠していたのか問い質したいところだが、無駄だろうか。
「ちょっとォ! 総悟君! 何やってんの物騒なモン出して!」
「あの娘には花見の時の借りがあるもんで」
「待てっ!! 姫に当たったらどーするつもりだァ!!」
慌てて、近藤さんが総悟を止めようと掴みかかる。
が、それでもまったく慌てない総悟は大物なのか、ただの馬鹿なのか。
「俺はそんなヘマはしねーや。
俺は昔、スナイパーというアダ名で呼ばれてたらいいのにな~」
「オイぃぃぃぃ!! ただの願望じゃねーか!!」
「夢を掴んだ奴より夢を追ってる奴の方が時に力を発揮するもんでさァ」
「良い事言ってるようで全然良い事言ってないよねソレ」
…その理由じゃ、誰だって止めるわ。
そんな背後のやり取りを呆れたように見やってから、土方さんは声を張り上げた。
「チャイナ娘、出てこい!! お前がどうやってそよ様と知り合ったかは知らんが、
そのお方はこの国の大切な人だ。これ以上俺達の邪魔するならお前もしょっぴくぞ! 聞いてるか!」
返る応えは無い。
だけどこの先の展開を知る私には、なんとも居心地の悪い瞬間だ。
「…あー、総悟」
「はい?」
「お姫様見つかったし、私、屯所に戻るわ。
帰りに隊員の皆様とスーパーで特売の卵買ってきてー」
「はぁ…。
いーんですかィ? 俺達に任せちまっても」
「……」
…
……
………どういう意味かね、まったく。
小さくため息を吐き出してから、私は振り返る。
相変わらず何考えてるかわからない総悟に、胡散臭い程の満面の笑顔で。
「――何の話?」
「…あんた、意外と薄情ですねィ」
「だから、何が? さんは芋侍共の夕飯作らなきゃいけないの邪魔すんな」
「それで良いなら、俺も別に構わないんですがね。…あんたホント、掴みどころの無ェ女だな」
「褒め言葉と受け取っておくわ。じゃ、お仕事頑張ってー」
ひらひらと手を振って、私は歩き出した。
私は銀さんでも新八でもないから、余計なことなんかするわけない。
だって私は、万事屋の一員でも真選組の隊員でもない。
――私が、何かする理由がどこにある。
「………」
…そりゃあ、なにかこう、しっくりこない気もするっちゃするけども。
楽しければそれで良いし、物語を改変する必要もないし。
――「観客」に過ぎない私が、何かする理由もしていい道理もないだろう。
「…なんでこう、メンドクサイかな。夢のくせに」
屯所への道を歩きながら、私は盛大にため息を吐き出した。
+++
――仕事が終わった後。
そこに行ったのは、別に、何か確信があったわけではなかった。
もちろん、何かしてやろうと思ったわけでもない。
じゃあ何故かと聞かれれば、気紛れとしか答えられないけど。
「――神楽ちゃん」
しょんぼりと肩を落として座り込む小さな背中に、私は声を掛けた。
弾かれたように顔を上げた神楽は、不思議そうに私を見つめ返してくる。
「……? なんでこんなとこにいるアルか」
「いいじゃん、そんなのどうでも」
訊かれても、自分でもわからないし。
「帰ろうか」
「…うん」
小さく頷いて、神楽は立ち上がった。
とぼとぼと歩き出した神楽の歩調に合わせて、私ものんびり歩く。
――ああ、今日も暑いな。夏はなかなか日が落ちないから、暑くてしょうがない。
「…」
「んー?」
「…私、友達が出来たアル」
「そっか、良かったねぇ」
「…でも…その友達、助けてあげられなかったアル。
もっと一緒に居たかったのに、一緒に遊びたかったのに…」
「……」
しょんぼりと肩を落とす神楽に、私は小さくため息を吐き出した。
「神楽。…友達ってなんだろう?」
「え?」
「いつも一緒に居るのが友達? どんなときでも助けてくれるのが友達?
だったら世の中の人は、いったい何人「友達」が居るんだろうね?」
「?」
らしくないことを言ってる自覚は、あった。
私は人に説教したり、諭したりするような人間じゃない。
だけど言わずにはいられない言葉が、あった。
「――きっとまた、一緒に遊べるよ。あの子と」
「……」
確約なんて出来ない。根拠だってない。
将軍家のお姫様と、庶民が手を取り合って遊ぶなんて不可能に近い。
そんなことはわかっていたけれど、それでも可能性がゼロじゃないから。
「」
「ん?」
「…手、繋いでも良いアルか…?」
「うん、いいよ」
おずおずと出された手を握り返して、私は歩き出した。
季節は夏。まだまだ日は高いけど、そろそろ夕飯の時間だ。
万事屋では銀さんと新八が、お腹を空かせて待ってる。
「今日は夕飯何にしようか。神楽の好きなものにしてあげるよ」
「の作るものなら何でも美味しいアル」
「あはは、どこで覚えてきたかな、そういう口説き文句」
そう言い返す私の手を握る神楽の指先に、少しだけ力が籠る。
別に、私が何かする必要はない。
神楽は歳よりずっとしっかりしてるから、自分の中で消化出来ただろうし、
この向こう見ずの無鉄砲娘なら、城に特攻かけてそよ姫に会いに行けるかもしれない。
私が居ても居なくても、何も変わりはしない。
それで良いし、そうじゃないと困る。
でも、まぁ――
たまにはこんな一日も、悪くない。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。