私が日本に来て、一週間が経つ。
今日は休日で、学校は無い。
特にやることもないのでツナに付いていたのだが、
結果的に奈々さんの買い物の手伝いをすることになった。

中学生にもなって親と買い物なんて、とツナは景気の悪い表情だが、
まあ単なるささやかな反抗期だろう。

…で。
恐らく私は、たかが一週間足らずで平和な空気に毒気を抜かれたのだろうと思う。
あちこちに視線を巡らせながら歩いていたのも、いけなかった。


「……はぐれた……」


…いくら不慣れな異国の地とはいえ、ひとりで歩いてたわけでもないのに迷子って。
……少し、泣きたくなった。



標的07 ギミック・ゲーム




「…まあ、最悪学校まで行けば帰れるか…」

落ち込んでも仕方ない。
…ああでも、絶対捜されている気がする。
動かずに大人しくしていた方が良いだろうか。

「ああ、もう…っ」
「きゃ…っ」
「え」

勢い良く立ち上がると、誰かにぶつかった。
聞こえた微かな悲鳴は、少女のものだ。

「ごめんなさい! 怪我は?」
「あ…」

振り返ると、小柄な少女が大事そうに鞄を抱き締めながら立っていた。
ツナと同じくらいの年齢だろうか。
小さくて可愛い子だ。…が、服がなんか凄い。

「ごめんなさい、人が居るって気づかなくて…」
「…あなた…ボスと同じ匂いがする…」
「は?」

じっ、と私を見つめながら、彼女はぽつりと呟いた。
瞬間、彼女の華奢な手が私の腕を掴む。

「…こちらに」
「………」

――気配が、変わった?

先程までの、どこか緊張感を滲ませた雰囲気が、消えた。
何者だ、この子。
探るように彼女を見ながら、私は腕を引かれるままに歩き出した。


+++


「…それで。どこに連れて行くつもり?」

人気が極端に減ったあたりで、私は問いを投げた。
ピタリと、少女の歩みが止まる。

――マインドコントロールにかからなかったのは、アルコバレーノと沢田綱吉を除けば君が初めてですよ。
 さすが――と言っておきましょう。=フォンティーナ」
「……」

――私は、日本に来てから「」の名前で通している。
フォンティーナの姓を知るのは、マフィア関係者のみ。
そして先程の発言から照らし併せて――彼女の正体には、見当が付いた。

「…ボンゴレ10代目の霧の守護者,クローム髑髏…聞いていた話と、だいぶ印象が違うわね」
「わかっていてそう訊くとは、随分と意地が悪いようで」

そう返して、彼女は笑う。
ぞわりと、妙な悪寒が背筋にはしった。

――確かに、今、君の腕を掴んでいるこの体はクロームのものです。
 しかし、こうして君と言葉を交わしているのは彼女ではない」
「…でしょうね。その子にその口調は似合わない。あと笑い方もね」
「これは手厳しい」

独特の笑みを浮かべながら、彼女は振り返った。
その姿は徐々に霧に包まれ、やがて少年の姿へと転じる。

全体的に異質な空気を纏っているが…特にその、赤い右目。
冬でもないのに、ざわりと肌が泡立つ。

「…六道、骸。これが、有幻覚」
「ええ。理解が早くて助かりますよ。
 …もっとも、君には沢田綱吉の持つ超直感に近い能力があるようですが」
「…?」
「おや、無自覚でしたか。それは失礼」

慇懃無礼に言って、六道骸は意味深に笑う。

《復讐者》の牢獄からすら、脱走を企てた第一級犯罪者。
しかしその若さにそぐわない、希有レベルの術士。
本体でない有幻覚にも関わらず、アルコバレーノの術士をいとも容易く打ち破ったと聞く。

味方なら心強かろうが、もともとは敵であり、
今も味方とは呼べない存在――クロームの方はまともそうだが、この男は違うだろう。
恐ろしいのは、友好的ではないのに明確な殺気もないことだ。

「まさかこの日本で、君と会えるとは思いませんでしたよ」
「…まるで私を知っているような言い方ね?」
「知ってますよ。
 もともと、僕の標的は沢田綱吉ではなく、=カズマ=フォンティーナでしたから」

さらりと聞き捨てならないことを言ったな、今。
目を眇めた私に、骸はただ、嗤う。楽しそうに。

「フォンティーナはボンゴレに次ぐ、キャバッローネやジッリョネロに匹敵する格式と歴史、規模を誇る。
 その上、次代が幼い子供だ。僕にとっては、非常に価値が高かった」
「……ボンゴレを敵に回せば、一夜と保たないわよ」
「ええ、断念した理由のひとつはまさしくそれです。
 しかし僕にとって最大のネックだったのは君なんですよ」

私が、なんだと。
確かに、彼の企み――他者に憑依して操るというソレが仕掛けられたとしたら、私は本気で潰しに掛かっただろう。
だがこの男が、次代ボスの実姉で代理ボスを務めるというだけで私を、危険視するだろうか。

「若干10歳で代理とはいえボスに就任し、
 その日のうちに両親を殺した敵対ファミリーを粛正した少女。君のことですね?」
「!!」

さすがに、目を瞠った。
疑問系の形を取っているが、それは確認するという意味合いの方が強いだろう。
――その話は、ボンゴレでも上層部にしか知られていない、機密事項なのに。何故、知ってるんだ。

「…随分優秀な情報源ね。それは内々で処理された話よ」
「そうですね。その粛正を行ったのはボンゴレということになっていますから」

…そう、だ。
この話を内々で処理し、すべてを被ったのはボンゴレ9代目。
ボスを失い、幼い私がその座に代理とはいえ就くことが許されたのは、9代目が私の後見人になってくれたからだ。

「神の采配と謳われたボンゴレ9代目が、自ら後見人を買って出たという少女ボス。
 若くして《爆炎の魔女》の異名で恐れられる、天賦の才ある銃の使い手。
 まさかそんな君が、次代ボンゴレ10代目の花嫁候補とはね」
「……何が、言いたいの」

ぞわりと駆け上がる、悪寒。
だけどそれは、目の前の男に対する恐怖ではなく。

「本来、君のような人間は――沢田綱吉が最も嫌う人種ですよ?」
「……そうね」
「どちらにせよ、沢田綱吉は僕の標的です。
 君が彼につけば、守護者などよりよほど脅威だ。
 …早々に片づけるべきですかね。いえ、いっそ君と契約するのも悪くないでしょうか」
「……」

――感情が、暴走する。
無意識に、ホルスターに収めたショットガンに手が伸びた。
…ダメだ。ダメだ。こいつが危険因子なのは初めから知っていただろう、=フォンティーナ。
だけどそれでも、彼は選ばれた10代目の《霧の守護者》なのだ。早まるな。

「ああ、良い表情ですね。可愛らしい少女を演じているよりお似合いです」
――よく喋る男ね」

カチリと、ホルスターの楔が解かれた。
表情が消える。
上がる腕に握られるのは、殺すための道具。

――今の僕が有幻覚だと理解していて、銃を向けますか。
 この体は何の罪もない少女のものですよ?」
「だから?」
「顔色ひとつ変えないとはね。
 さすがは幼くしてで業を犯した、生まれながらのマフィアです」

銃口を向けられて、表情ひとつ変えないどころか笑顔の奴に言われたくは無い。
やはり、この男は危険だ。
その稀なる能力は確かに、今の弱く幼いボンゴレ10代目には必要かもしれない。
――だが、術士として優秀な人間なら他にも居るだろう。
そう――この男でなければいけない理由は、無い。

「僕は沢田綱吉のような甘い人間は嫌いですが、」

僅かにもブレない銃口を前に、まるで世間話でもするような口調で語る。
悪意の無い殺気。
それが彼が実体ではないからなのか、彼特有のものなのかは知らないが。

「君のような人間は大嫌いです。同族嫌悪ですかね?」
「安心して。私もあんたみたいな、悪意の無い殺気を放つ奴は大嫌いだわ」

どこまでも笑みを崩さない、それは余裕のつもりか。
反射的に、ショットガンのリミッターを外す。
放った弾丸は、軌道すら読ませない――

だけど、
瞬間――目の前に広がる、鮮やかな炎。

思わず目を瞠る私の眼前に立つのは、額と拳に炎を灯した見知った少年。
カラン、と小さな音を立てて、弾丸がアスファルトの上を転がる。

――退け、
「…ツ、ナ?」

思わず、呆然と目の前の彼を見つめてしまった。
一度、9代目が灯す死ぬ気の炎を見たことがある。
鮮やかで美しく、何より力強い色だった。

だけどそれと比べても、遜色無く――否、それ以上の炎だ。
神の采配と謳われた9代目が選んだ――これが、ボンゴレの10代目。

――お久しぶりです、ボンゴレ」
「…骸」

変わらない笑みを浮かべたままの骸を振り返ると、ツナの額から炎が消えた。
…つまりそれは、ツナが彼を危険だと思っていないということか。

「……お、お前なにやってんの?」
「また随分な言い草ですね」
「だっ、だって有幻覚みたいなことはしばらく出来ないって…」

え。なに、それ。
思わず目を瞠る私を一瞥して、骸は楽しそうに嗤う。

「ええ。こうして会話するだけで精一杯です」
「ホントに何しに来たのお前」
「9代目が選んだ君の花嫁候補に興味がありまして」
さんに何する気だよ! っていうかどこから聞いたソレ!!」
「何もしませんよ。会話するだけで精一杯と言ったでしょう?
 安心してください。幻覚を駆使する余力などありません」
「無駄なことに力使うなよ…」

怯え半分、呆れ半分といった相反する様子で、ツナは背後に私を庇うように骸と向き合う。

だけど…不思議だ。
空気が変わった。
あれほど冷えきった、刺々しい空気に満ちていたのに。
少しだけ、そう僅か――でも、和らいだ。

「そんなに警戒しなくても、何もしませんよ? 今は」
「不穏な発言すんな!!」
「やれやれ…まったく、甘い男だ。
 君がそうして後ろに庇う少女は、高い格式と伝統・規模を誇るマフィア、
 フォンティーナファミリーを率いる、生まれながらのマフィアですよ?」
「…でも、まだ15歳の女の子だ」

呆れたように目を眇める骸に、返したツナの声は静かだった。
――じわりと、広がる痛み。

「なるほど。
 君はあくまで、彼女をボンゴレの意志としてではなく、一人の少女として扱うと」
「当たり前だろ」

弱く小さな、巨大組織の次代。
正直、9代目が何故、彼を選んだのかわからない。
甥を相次いで亡くし、仕方なく選んだ次代ではない。それは、わかっている。
幼い思考。甘い感情。わからない。理解、出来ない。

「……」

じっとしばらくツナを眺めていた骸が、不意にため息を吐き出した。
そして、目を眇めて呆れたように口を開く。

「……やっぱり僕は君のこと嫌いですねぇ」
「藪から棒になんだよ!!」
「ですがまあ、その甘さで、クロームには優しくしてやってください」
「え…う、うん」
「では、そろそろお暇しましょうか」

そう言いながら、彼はツナに歩み寄ってくる。
思わず前に出ようとした私を見て、骸はまた、嗤った。

――また、いずれ」

骸がそう告げた瞬間、彼の体は傾ぐ。
濃い霧に包まれたその身は、小柄な少女に転じてツナの腕の中へ倒れ込んできた。

「あ!!」
「…ボス…」
「大丈夫、クローム?」
「平気」

受け止められた少女は、小さく頷いてから自分の意思で体制を直す。
華奢で頼りなげな印象だが、真っ直ぐにツナを見るその表情は、弱々しさは感じられない。
――彼女は、敵、ではない。
少なくとも、私が一存でどうこうしていい相手では、無い。わかっていたのに。

「…ツナ」
「え?」

振り返った彼の表情に、曇りは無い。
ああ、きっと彼は気づいていない。
私が、六道骸に銃口を向けたことの重大さを。

「…私、あなたの守護者を殺そうとしたわ」
さん」
「掟に反した罰を、受けなくては」

私の言葉を受けて、一瞬、ツナは困ったように視線をクロームに向けた。
彼女は軽く首を傾げる。表情は変わらず、ただ、どこか不思議そうに。

「…でも、クロームは無事だよ」
「あなたが止めなかったら、きっと殺していたわ」
さんはそんなことしない」

どうして、言い切るの。

じわじわと、痛みが内側に広がっていく錯覚がする。
違う。私は確かに「まだ15歳の少女」だけど、でも、既にこの手は業を犯した。
今更その中に、ひとつふたつの命が上乗せされても、私はなんとも思わない。

「…いいえ。有幻覚だってわかってた。その子が無関係なのもわかってた」
「…さん。もう、いいから」
「ダメよ」

罪には罰を。
赦しは乞わない。だから、相応の裁きを。

――掟に反した者には相応の罰を。それがマフィアよ」
「……」

出来ないとは、言わせない。
花嫁候補に選ばれた私が、その甘さを許すわけにはいかないじゃないか。
だけど、対するツナは仕方無さそうにため息を吐き出した。

「だったら尚更だ。オレ、マフィアじゃないし」
「は? 何言ってるの。あなたはボンゴレの10代目よ」
「なりたいと思ったことはないよ」
「なっ、」
「そんなものの為に闘ったことも、ないんだよ」

軽く、理解の範疇を超えた。
だったら、彼は、そして彼の守護者達は、何の為に命を賭けて闘ったんだ。

「何を言っているの…
 XANXUSと10代目の資格を賭けて闘ったのは、他でもないあなただわ」
「違うよ、さん」

穏やかな、だけど真っ直ぐな声だった。
多分、私は相当酷い顔をしていたんだと思う。
困ったように、だけどどこか優しく、彼が微笑んだから。

「…花火がね、見たかったんだ」
「え…?」
「去年の夏祭りで、みんなと出店をやったんだ。
 色々大変だったけど、最後にみんなで見た花火が綺麗だった」

呆然とする私を置き去りにして、彼の話は続く。
取り留めの無い、思い出話。

「海水浴もやった。オレ、泳げないのにさ。リボーンは無茶ばっか言うし」
「何の話…?」
「冬は酷かったなぁ。雪合戦で命賭けなのはオレ達くらいだよね」
「ツナ」

ちゃんとこっちを見て。何の話をしているの。

「今年も、みんなでそうやって過ごしたかったんだ。
 だから闘った。強くなろうとした。それだけなんだよ、さん」

少し強い私の呼びかけに、振り返った彼の表情は。
――――どこまでも真っ直ぐで、偽りの無い、笑顔。

「今年は、さんも一緒だね」
「…私、も…?」

返す言葉を失った私の袖が、僅かに後ろに引っ張られた。
振り返ると、クロームが遠慮がちに私の袖を掴んでいる。

「…え、なに…?」
「あなた、ボスと同じ…お陽さまの匂いがする……」

今度こそ、本当に私は絶句した。
間接的とはいえ、自分を殺そうとした相手に、何を言うんだ。

「…私は、あなたを殺そうとしたのよ」
「あなたが本気だったら、もう、私は死んでいると思う」

真っ直ぐな、視線。
不思議な子だと、思う。
事前情報を元に考えるなら、言い方は酷いが、彼女は六道骸の「部品」だ。
だから自身の意思も無い、人形のような様を想像していた。
でも、違う。彼女の意思は鋼のように固く、真っ直ぐでブレていない。

「骸様が言ってた。
 あなたの腕なら、一瞬も要らないって」
「……」

絶句する私の反応を、彼女がどう受け取ったのかはわからない。
ただほとんど表情を変えず、クロームは私からツナを視線を向けた。

「…ボス。私、もう行くね」
「え? もう?」
「骸様に言われて、会いに来ただけだから」
「そ、そっか…」

小さく頭を下げて、クロームはぱたぱたと走り去った。
その背を見送り、ツナは私の方へ視線を戻す。

「…オレ達も帰りましょうか、さん」
「…ええ」

歩き出すツナに従って、私は彼の少し後ろを歩く。
――道中、会話らしい会話を交わすこともなく。


+++


「…すべてに染まりつつ、すべてを飲み込み抱擁する大空…か」

――謳われるその言葉の、体現。
マフィアとしては、矛盾している。

「あれが、ボンゴレX世」

マフィアとして、私は間違っていない。
今までそうしてきたのだから、正しいのだ。

――でも。
自分の方が間違っていたようにも、思う。

「……」
「理解出来ねーって顔だな、
「リボーン」

いつの間に部屋に入ってきたんだろうか。
いや、考えるだけ無駄だ。彼は私如きに測れる人物ではない。

「食欲無いなんて言うから、ツナもママンも心配してたぞ」
「……ごめんなさい」
「ま、お前が何に戸惑ってるかは見当つくがな」

お見通し、ということか。
思わず、服の裾を握り締めた。

「…ごめんなさい。まだ未熟ね」
「当たり前だ。お前だってまだガキなんだからな」

ごもっともです。
結局、どんなに大人ぶっても、私は15の小娘なのだ。

「9代目がお前をツナの所に寄越した理由がわかるか?」
「…それは、私がボスとしての教育を受けてきたから、家庭教師と護衛を兼任出来ると…」
「そんなもんは建前だ。オレがいれば事足りるからな」

確かに、それはそうだろうが。
だって、そうじゃないのなら、私がここに来た意味なんてわからない。

「あの穏健派の9代目が、僅か10歳で敵対ファミリーを粛正したような、
 根っからマフィアのお前の後見人を買って出たのは、なんでだと思う」
「…フォンティーナが、ボンゴレの同盟ファミリーで、」
「やっぱなんもわかってねーな」

だって、わからない。
私でなければならない理由なんて無いはずだ。

「お前には足りないもんがある。
 9代目はそれを、ツナと一緒にいることで学んで欲しいと望んでいるんだぞ」
「足りない、もの」
「花嫁候補、なんてもとから建前だからな。他はどうあれ、9代目にとっては。
 …だがそうなってくれたら良いと、9代目は願ってるんだろう」
「……」
「お前、真面目過ぎるからな。
 ツナが心配してたぞ。あんまり表情が変わらねーから、なんか無理してるんじゃねーか、ってな」
「ツナ、が」

マフィアに不向きな、性情。
幼い思考。甘い感情。
だけど、決してそれは、脆弱だという意味ではない。

「…リボーン。
 私、ボンゴレ10代目に興味あったけど…ツナ自身には、興味なかったわ」

平凡な家庭で平凡な生活を送ってきた、表の世界に生きる人間。
それがマフィアの、しかもあのボンゴレの次期ボスに選ばれたのだ。
私が興味を持つのは当然だと言える。だけど私が興味を抱いたのは「沢田綱吉」ではなかった。
将来夫となるかもしれない相手だと言われても、その感覚は変わらなかった。

「私達マフィアにとっての婚姻なんて、血を繋ぐ為の契約よ。ボンゴレのような特殊な血は特に」
「そうだな。ブラッド・オブ・ボンゴレ無くして、ボスは名乗れないのがボンゴレの掟だ」
「それで良いと思ったの。だって、仕方ないことだから。でも、今は」

優しさは人間の美徳だ。だがマフィア向きではない。
だから苛立った。理解出来なくて、呆れもした。だけど。

真っ直ぐに見据えてくる、強い瞳。
強く響く、言葉。

私をひとりの少女として受け入れた、偽り無い感情。
そこには同情も打算もない。
理解出来ない。出来ないから、私は――

「…私…ツナ自身のことを、ちゃんと知りたい」
「悪くねぇ答えだぞ、

そう言って頷き、リボーンは小さく笑った。
それとほぼ同時に、ドアの向こうから遠慮がちなノック音と声が聞こえる。

「あの、さん。居る?」
「ツナ?」

慌ててドアを開けると、そこにはおにぎりの乗った皿を片手に、ツナが立っていた。

「いや、あの、母さんが持っていけって。
 何も食べないのは体に悪いしさ、だから」
「……」
さん…?」

思わず固まる私の態度をどう受け取ったのか、おずおずと伺うように私を見る。
…ああ、本当に。理解出来ない。なんなんだ、この子は。

――ありがとう、ツナ」

だから、きっと。
あまりにも彼が、不自然なほど自然に微笑うから。
だから私も、つられて微笑ってしまったんだと思う。


――ああ、なんだか、泣きそうだ。
悲しいとき。悔しいとき。
それ以外で泣きそうになったのなんて、きっと初めてだった。






この感情に、名前をつけるとしたら。



To be continued?

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