※注意※ 仄かにBL臭がします。シズイザ的描写があります。ギャグですが。閲覧の際にはご注意を。

「…いい加減、俺の視界から消えてくれねぇかな臨也くんよぉ。
テメェの面見てると抱き締めたくなるだろ、……」
「あはは、気持ち悪いなシズちゃん。
嬉しいこと言わないでよますます好きになっちゃうじゃないか、……」

互いに自分の吐き出した言葉で、ふたりはダメージを受けて突っ伏した。
静雄は顔色を真っ青にし、臨也に至っては涙目だ。
そしてそんなふたりを、実に楽しそうに眺める女がひとり。

「遠慮なく喋って良いのよ?」
「「黙れ元凶」」

地獄の底から響くような声音だが、既に虫の息に近い。
普段の凄みのないふたりの眼光を前に、は実に意地の悪い笑みを浮かべた。



よろしい、ならば戦争だ!




事の起こりは、数十分程前に遡る。

池袋の街中で、自販機が宙を舞った。
それは池袋ではよく見掛ける光景。
《池袋の自動喧嘩人形》平和島静雄と、その天敵たる《情報屋》折原臨也のチェイス開始の合図…の、はずだった。

「臨也ぁぁぁぁぁぁッ! 池袋に来んな、って言っただろうが!!
 テメェを他の奴に見せたくねぇんだよ、……は?」
「…何言ってんの、シズちゃん…新手の嫌がらせ?
 そんな言葉で俺が動揺するわけないじゃない。君に会いにここに来たのに、……え?」

周囲の空気が、凍りついた。
しかし渦中のふたりも凍りついていた。

「…今なんて言ったノミ蟲」
「…君こそなんて言ったシズちゃん」

互いに、顔色が悪くなっていた。冷や汗が流れる。
落ち着け俺。認めちゃダメだ何も聞かなかった言わなかった!
内心同じ言葉が駆け巡っているふたりだったが、彼等は完全に混乱していた。

「…お、俺は仕事で来たんだシズちゃんに会いに来るわけないじゃないか。ねぇ?
 勘違いしないでよね、別に君に会いに来たわけじゃないんだからッ! ってか何このベタなツンデレ台詞!?」
「………」
「頼むシズちゃん何か言ってくれ無言は辛い! 死ねでもぶっ殺すでもノミ蟲でも良い!」
「あ、ああ、わかってる。
 テメェの気持ちはわかってるさ、照れることねぇだろ俺達の仲じゃねーか、ってどんな仲だよ!」

セルフ突っ込みの嵐である。お互いに。
もはや互いの言葉にも自分の言葉にも、安息を見出すことが出来ない。
サァ…ッ、と体温が下がるのを、ふたりは感じていた。

「…気持ち悪い! 気持ち悪いよシズちゃん!」
「テメェに言われなくても俺だって気持ち悪ィよ!!」

なんだか、様子がおかしい。
なんだかどころか明らかに、おかしい。
遠巻きに見ていたギャラリーが、それぞれざわめき出す。
その不協和音に、ハッとふたりは我に返った。
その瞬間、確かに彼らは、最初で最後の協力関係というものに成った。多分。



「「何見てんだ、散れ!!」」



射殺しそうな眼光で、そう怒鳴ってふたりは周囲の野次馬を散らせたのである。



+++



「…それで仲良く僕のところに来たわけ?」
「「仲良くって言うな」」

旧友の呆れたような笑顔に、二人は同時に言い返した。
そこだけ聞けば、確かに「仲良し」である。

「この街で起こる妙な事の大半は臨也が原因だが、そのコイツがこの状態だ」
「で、俺達で遊ぶような命知らずな奴は、二人くらいしか心当たりがないわけさ」

半眼で睨みつけられ、新羅は首を傾げた。

「誰?」
「「お前と以外に誰が居るんだよ」」
「えー?」

即答されて、彼は困ったように逆方向へ首を傾げる。
彼の愛しいセルティは仕事で不在だ。もしかしたらこれは、生命の危機かも知れない。

「さあ吐け。俺達に何をした」
「ちょっと待ってよ…僕がそんなことして何が楽しいのさ?
 内容で考えれば向けな悪戯だよ」
ひとりで出来るわけない。お前、共犯だろ」

決め付けた。
反論を許さない勢いで詰め寄られ、まぁ落ち着いてよと新羅は手を振る。

「…僕がに渡したのは、自白剤から派生した惚れ薬だよ?」
「なんてモノをなんて奴に渡してんだテメェは!」
「…それ改良したのか…ホント早く死なないかなあいつ」

怒鳴る静雄とは対照的に、臨也はぐったりと頭を抱えた。
そんな彼らの背後から、二人の肩に同じ重みが掛かる。

「物騒だなぁ。可愛い悪戯じゃないの」
「「居たのかよ!?」」

本気で驚いて、ふたりは仰け反った。
彼らの背後からひょっこりと顔を出したのは、容疑者二人目のその人である。
新羅の家に、彼女が居る。しかも明らかに、臨也と静雄より前に。
もはや状況証拠としては、決定的であった。

「なんだってこんな気持ち悪いことしてくれたのかなちゃん?」
「…ごめんね! 私、大好きな二人に少しでも仲良くなって欲しくて!」
「「嘘つけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」」
「てへ。バレた」

今更、可愛く首を傾げて見せても逆効果である。
しかもさらりと、自分のしでかしたことを肯定した。

「って言うかいつの間に薬盛ったの!? 全然記憶に引っ掛かりが無い!!」
「臨也に盛るのは簡単だよ。問題はシズちゃんだったさ」
「いや俺も心当たりは無ぇぞ!?」

一生懸命、ふたりは朝から今までの行動を振り返る。
どこで彼女が介入してきたのか、ふたりともまったく持って見当もつかない。
臨也は彼女と同じ部屋に住んでいる為その機会は多そうだが、今日に限っては無い。
何故なら臨也は所用で、昨夜は自宅に戻っていなかったからである。

「…そもそも、シズちゃんに薬効くのか不安でね…色々改良した結果がこれだよ!
 普通に惚れ薬盛って池袋の名物☆乙女ロードに恥じない展開を期待してたのに!!」
「馬鹿だ! ホントに馬鹿だな君は! 今までで一番殺意沸いたよ!
 っていうか対静雄用に改良した劇薬を俺に投与するな死んだらどうしてくれる!?」
「すげー臨也が素で怒鳴るのレアだー」
「感想はそれだけか! 本気で殺そうか?!」

がしっと臨也に両肩を掴まれ、莉深は前後に揺さぶられる。
コレは見た目以上に相当混乱してるな、と傍観者を決め込んだ新羅は思った。

「とりあえず喧嘩は外でやってよー。私とセルティの愛の巣で暴れないで」
「なに自分は無関係みたいな面してんだ! 大変なもんをとんでもない奴に渡しやがって!」
「渡した時点で俺の手を離れてるんだよ? 巻き込まないで欲しいな」

そう。
「こいつらのことは笑って流す。」
それが、高校時代からの新羅の基本スタンスだ。
誰の味方もしない彼は、ひとりだけ楽しそうなを振り返った。

「あ、報酬頼むよ
「うん。ちゃんとレポート提出するよ、新羅センセ」
「「おい」」

明らかに利害が一致してる会話だった。
つまり新羅にしろにしろ、その「元・惚れ薬」の実験がしたかったのだ。
そこで色んな意味で「実験しても平気そう」な臨也と静雄が、犠牲者になっただけ。
…つまりそういうことなのだろう。なんだ、この非人道っぷり。

「…もう今日は仕事キャンセルして新宿帰る。シズちゃんと会話しなければ良いだけの話だろ」
「帰れ帰れ、そんで二度と来るな。顔合わせるとしたくもないのに喧嘩しちまうからな、………」
「だから話し掛けるなって言ってんだよ! そうだよ本当は君と喧嘩なんてしたくないんだ、………」

しばし、痛いほどの沈黙が流れる。
そしてほぼ同時に、ふたりはぐったりと崩れ落ちた。

「あ。撃沈した」
って天才なんじゃないかと私は思うんだよね」
「ありがとう。でも解剖はさせないからね」

笑って返すと、は項垂れている臨也と静雄の肩をぽむぽむ、と叩く。
気怠るそうに顔を上げたふたりに、彼女は至極穏やかに微笑んだ。

「ちなみに薬の効果は一定以上言葉の応酬をするか、いつかを願って放置するかだね」
「「なんだそれ!」」

まったく同じ反応を見せる辺り、本当は似た者同士のような気がする。
そんなことを思いながら、はふたりの眼前に液体の入った小瓶を差し出した。

「これ、なんでしょう?」
「「?」」
「解毒剤だよ。試作だけどね」
「「!!」」

目を瞠るふたりの眼前から、はひょいっと小瓶を手の平に収める。
ふたりの絶望的な表情を眺めながら、は、それはもう可憐な笑顔で首を傾げる。

「私を満足させてくれたら、解放してあげるよ」

可憐な笑顔で吐き出されたのは、まさしく死刑宣告だった。



+++



「……周囲の視線が痛いと思ったのは初めてだ」
「そりゃ良かった。臨也もたまにはそんな気分を味わうべきだよ!
 まあシズちゃんと臨也が静かに一緒に歩いてりゃ注目もされるさ」

池袋の街中は、騒然としていた。
ただし、水面下で。

敵に回してはいけない人物。
そんな認定を受ける筆頭たる、平和島静雄と折原臨也。
そんなふたりが、間に別の人物が入っているとはいえ、静かに一緒に歩いているのだ。
ただし、殺気を滾らせながら。
さながら、表現するならデス・マーチ。

「そして私はまるでお邪魔虫のように真ん中ポジション! …離れて歩こうか?」
「黙ってそのポジションにいろ。俺の視界にノミ蟲を入れるな」
「いや、身長的に無理だわ。私一番小さいもん」
「…く。腹が立っても迂闊に言い返せないなんて屈辱だ。
 ああ、でもを介しての会話なら成立しそうだね…、シズちゃんに死ねって言っといて」
「テメェが死ね。
 言いたいことがあればちゃんと言えよ、なんでも聞いてやるから、……って何言わせんだ!!」
「なんで話しかけてくるんだ本っ当に馬鹿だなシズちゃんは!!
 でもそんなところが好きだよ、…って、あああああああやっちゃった誰かこの口止めてくれぇぇぇぇぇぇ!!」

お互いの言葉と自分の言葉とに、ふたりは盛大に鳥肌を立てていた。
それはそうだろう。
殺し合うのがデフォルトの、心底嫌い合っているふたりである。
それが本人達の意思を無視して、言葉を暴走させられているのだ。
そんなふたりを、ただひとり、だけは心底楽しそうな笑顔で眺めている。

「いやー、滾るわー」
「君ってホントに変態だよね!? ウザい通り越してキモいんだけど!」
「その笑顔やめろ、本気でやめろ、殴りたいのを必死に我慢してる俺の身にもなれ!!」
「あははーふたりとも酷いなー」

大抵、このふたりに凄まれたら大の男でも泣いて逃げ出すだろう。
しかしはまったく堪えない。
思えば初めから、という女は一般規格から外れた感性の持ち主だ。
彼女は臨也が謀略を張り巡らせようが静雄が人外に近い力を見せようが、まったく怯えたことが無い。

「ああもう! なんで俺はこんな変態女が好きなんだか!」
「まったくだな。有り得ねぇ、なんでこんな苛つく女なんか好きになったんだ!」

怒りに任せて言葉を紡いでいた二人は、はたと我に返る。

「「……………………………………………」」

思わず顔を見合わせたふたりは、今の自分の言動を解析した。
今までは静雄と臨也の間だけにあった、「意思とは無関係に紡がれる言葉」。
しかしふたりは、もうひとり――に対してもそれが作用したことに、顔色を変えた。

「…え。な、なに? 今の何? お、俺、なんか言った??」
「いやいやいいや有り得ないって。気のせいだ、俺もお前も何も言ってねぇ聞いてねぇ」
「そそそそぉだよね! さすがシズちゃん、愛してるよ!」
「ああ、俺も愛してるぜ臨也!」
「「…………………………………………」」

取り繕った笑顔の果てに、油断していたふたりは完全に自滅した。

「…盛大に自滅したね、今。色んな意味で」

項垂れるふたりの前に、もしゃがみ込んで首を傾げる。
のろのろと顔を上げたふたりの表情は、既に絶望を超えて死に掛けだった。

「「………………もう帰って良いですかさん………………」」
「わぉ…ふたりとも涙目になってるよ…」

さすがのも、ここで笑うほど歪んだ性癖ではなかったらしい。
見たことも無いような二人の反応に、彼女の表情は引きつった。

「…耐えられない…もう色々耐えられない…生きるのが辛い…」
「あー…ごめんね、臨也? 泣かないで? ね?」
「…泣いてない…泣いてないよ、ちゃん…ははは、人間って面白いなぁ、そうは思わないかい?」
「うん、今は臨也が面白いよ…」
「ああ、君は常に俺の予想外の行動ばかり取ってくれる…実に面白いよ…?
 これだから人間って奴は! 人、ラブ! 俺は人間が好きだ愛してる!!」

ああ、壊れたなコレ。
よっぽど、屈辱だったらしい。
どうしようかなぁと思案するは、もうひとりが大人しいことにふと気づく。

「…おい、そいつ大丈夫か?」
「なんでシズちゃん平然としてるの? 臨也なんか壊れ始めてるのに」
「……薬のせいだ俺は悪くねぇ。そう考えたらすっきりした」
「君はホントに最強のおバカ様だよねぇ、シズちゃん…」

それだけで克服しやがりますか。
単純なひとは良いな、簡単で。

「臨也ぁ、大丈夫かー?」
「シズちゃんに心配されるほど落ちぶれてないよ…ッ」
「なんだ、余裕あるじゃねーか」

おいおい、なんだよ仲良しじゃないか。
苦笑しながら眺めつつ、ふとは彼らの会話に「意思を無視した言動」が消えたのに気づく。
どうやらふたりは気づいていないようだが。

「…マジで馬鹿かな、こいつら」

もう効果切れたか。薄め過ぎたのかな。
そんなことを思いつつも、もうあの薬はこいつらに利かないだろうなぁとも考える。
特に静雄は特異体質と言わざるを得ない。薬物抵抗力がついてもおかしくはないだろう。

「あ? 、なんか言ったか?」
「いいや、なんにもー?
 さすがに可哀想になってきたから、もう解放してあげよう。ふたりともお疲れっ」

そう返して、は液体の入った小瓶をそれぞれふたりに渡した。
薬の効果が切れた今ではまったく意味の無いものだが、まぁ、本人気づいてないから良いだろう。

「ありがとう、良いデータが取れました!」

さすがに「楽しかったよ」と告げるのは可哀想だと思ったのかもしれない。
そんな言葉を微妙な笑顔で告げて、はその「悪戯」を終了させたのだった。



+++



「で、楽しかったかい。?」
「ええ、とっても」

そう言って小首を傾げたの表情は笑顔だった。
だがその笑顔を更に細かく区分分けするとしたら、悪意の塊としか称せない。

「……………君って、たまにとんでもなく腹立つ笑い方するよね?」
「あっはっは、新羅は実に辛辣だな! セルティちゃん以外には」
「そこはホラ、僕の感性と思って諦めて欲しいな。これでも君のことは嫌いじゃないよ」
「わかってる、わかってる。新羅と私は友人だ、そう、親友だとも!
 だからそこに愛は無い、あるのは憧れと信頼と尊敬さ。ねぇ新羅センセ?」
「私も一人称がころころ変ったりして、そこをよく指摘されるけど。
 、君は常にキャラクターが安定しない子だよね。主に口調が」
「ははっ、「私らしい」とか「新羅らしい」とかって概念、ナンセンスだと思わないか?
 そもそも「自分らしい」という言葉からしてもナンセンスだよ。要は「演じやすい自分」じゃないかそれは」

また、変なことを言い出した。
彼女の感性は、新羅の友人である臨也にとても近い。
だが、近いだけでイコールではない。

あくまで情報屋である臨也は、限りなくそれに近いが詐欺師とは少し違う。
だがは情報屋というよりはその詐欺師に近い。
生きることを演じることだと言い切るのだから、そう言われても仕方ないと新羅は思う。

って詐欺師に向いてるよねぇ」
「それは褒め言葉? でも私は金の為に他人を騙したりしないよ。
 そもそも、可愛い嘘なら吐くけど、騙そうと思って人を騙したことなんて無いね。必要が無いから」
「どの口がそれを言うかな」
「本当だよ。私に「騙された」と感じる奴はね、一方的に「私」というキャラクターを信じて、
 私が自分の意にそぐわない行動をとれば「裏切った」となるんだ。少なくとも私にそのつもりは無いのにね?」

そう言いながら、は目を細める。

「特に「恋愛感情」は厄介だよ? 恋愛の半数は心の誤認だ、相手に自分の理想を妄想する。
 そう、「妄想」なんだよ。恋は相手に酔ったふりをして、自分に酔ってるだけなんだ。片思いなんて特にね」

本来なら、くらいの歳の女性なら恋愛に関してこんな感性、持ち得るはずが無い。
よほど酷い恋愛履歴でも持ってるのかと思えば、聞く限りその経歴におかしな点は無い。
トラウマになるような恋愛経験があるわけでもないのに、何故このような思考が生まれたのだろうか。

「…君さ、その持論に到達したのっていつ?」
「高校時代かな?」
「それはそれは、最低な青春時代だよねぇ…」
「やーね、私の高校時代なら知ってるでしょうに」

確かにそうだ。
当時の新羅にとって、臨也と静雄のふたりを遠くから観測するのは一種の趣味だった。
なので必然的に、そのふたりに絡んでいったのこともついでに観測している。

まぁ、楽しそうではあったよなぁ、と。
当時の彼女を思い出し、新羅は頷く。しかし改めて容姿の変わらない女だな、とも思った。

「でもね、そこまで最低な青春時代でもなかったわ。
 臨也とシズちゃんがいたからね。あ、ついでに新羅もね」
「ついでって付け足さなくても。余計切ない」
「それは失礼。新羅はあの当時から普通じゃないけど、その分私が何かする余地も無かったからね。
 私は新羅には憧れを抱いてるよ、君は完全に自分の世界を保っているから」

本当に、独特の感性を持っている女である。

「つくづく興味深い思考回路だよ。一度解剖したいね、君の頭」
「褒め言葉と受け取るけど、さすがに死んじゃうからねソレ」

それはそうだ。
解剖されて生きてる人間なんて、居るわけがない。
幸か不幸か知らないが、は普通の人間だ。少なくとも身体は。

「新羅。惚れ薬ってなんだと思う」
「へ? 読んで字の如く、だろ?」
「違うね。全然違う」

そう答えつつも、新羅の返答に彼女は満足そうだ。
いったい、どこまでを計算して、どこからを偶然に任せているのだろうか。
彼女との会話は疲れるなぁ、と新羅は曖昧に微笑った。

「惚れる、ってのは「感情」だ。
 だから惚れ薬なんてものが存在したら、相当質が悪い。媚薬の方が実用的だよ」

うわ、凄いこと言ったこいつ。
さすがに、外見は少女にしか見えない女が発した言葉に、新羅も顔を引きつらせた。
さらりと真顔で媚薬を「実用的」などとのたまう女なんて、そうそう居るわけが無い。

「性欲は一過性のものだからね。あれは感情じゃなく本能だ、薬のせいにしてその瞬間だけ狂っていられる。
 だけど惚れ薬ってのは違う。もしも効果が切れても相手に対して執着があれば、それは薬を言い訳に使えない」

冗談で言う奴は居るだろう。妄想や空想の産物として語る奴も居るだろう。
だが彼女の場合はどれも違う。
本気で、ソレが存在することを前提として、その先の話をしている。
もし仮に、自分がソレを盛られたとしても、彼女は今の発言を撤回はしないだろう。

「…ねぇ、はさ。だからあの薬を改良したの?」
「ん?」
「あれは、僕が見たところ――何かしらの強い「感情」…怒りでも執着でもいいけど、それを向けた相手に対して、
 その「感情」を「愛」に強制的にすり替える。そんなところかな。言動は油断すると感情がむき出しになるもんね」

どうやったらあんなものを作り出せるんだか、と。
新羅がため息と共に吐き出せば、は偶然だよと笑う。

「…本当はね、別に臨也とシズちゃんのふたりで実験するつもりじゃなかったんだよ。
 あくまで、ふたりが「私」に向けてる「感情」で実験するつもりだった」

ぽふ、と彼女はソファの背もたれに頭を預けた。
その表情には、邪気の欠片も無い。
それはそうだ。「実験」自体に彼女は違和感なぞ抱いていない。
それは好奇心の先にあるもので、それを満たす為の手段だから、彼女は悪いことだとは思わない。
――狂っているとも、思っていないのだ。

「でも意外だった。予想以上に、あのふたりは互いを強く意識し合ってるらしい」
 
出されてから少し経ち、冷め始めたコーヒーへ彼女は角砂糖を放り込んだ。
当然、角砂糖は溶け切れずに外壁を少しずつ、少しずつ水分に剥がされていく。

「執着は恋じゃない。極端に言えば愛に近しい。
 相手のことを考えると幸せだ。…いや、違うな。相手のことを考えずには居られない、が正しい」
「ふむ…なるほど」
「そういう意味では、臨也とシズちゃんも恋愛してるよーなものだよねぇ。
 四六時中相手のことを考えているのだから、無関心とは真逆の意味で好きと嫌いは同義だよ」
「…まぁ、うん…その見解は理解出来るけど。それ、君が言っちゃうんだ」

酷い話だ。
その「愛に近しい感情」を自分に向けさせたのは、他でもない彼女自身だというのに。
いや、それともその発言は彼女なりの嫉妬だろうか? 誰に対しての?

「でもさ、やっぱあいつら面白いよ。
 薬だって投与したんじゃない、飲ませたの。だから一日二日であんな薬の効果は消える。
 だって水分として摂取したんだから、当たり前でしょ? 解毒剤ってのも嘘。そんなの作れるほど知識ないよ」

それは嘘だろう。
知識が無いなら、薬の改良など出来るわけがない。
時間が無かったか、材料が足りなかったのか、――初めから作る気がなかったのか。

「二重三重の意味で、実験は成功だよ。ああ、私は今、最高に機嫌が良い」

満足そうに微笑む、彼女の瞳に浮かぶのは濃い愉悦の色だ。
細められた瞳は熱を帯びて潤み、僅かに頬は紅潮している。
それはさながら、情事に興奮している状態に近しい。歪んだ性癖と言えるだろう。


「うん?」
「やっぱり、君は最低だ」

慈愛の笑みを浮かべて、新羅はそう言い放った。
だが対するは、一瞬きょとんとしてから、それはもう綺麗な微笑を浮かべる。









「ありがとう。私を理解してくれていて嬉しいよ、新羅」






24時間いつでも〝恋愛〟戦争。



END

気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。