「…今更だけどさ」
「うん?」
「黒の教団の権限って怖いくらいだよ」
複雑な表情で呟いたに、リナリーは首を傾げた。
そんなリナリーの反応に、はぐるりと部屋を見回した。
「ここ、宿って言うかアパートじゃん。しかも余裕で3LDK以上だよ」
「サンエルディーケー…?」
「…ごめん、気にしないで」
自らの失言に気付き、は苦笑する。
通じない単語を出すとは、とんだ失態だ。
「ここはたまたま、結構大きな街だったからよ。
どこにでもこんな施設があるわけじゃないんだから」
「かもしれないけど…でも本当に凄いと思うよ?
部屋三つに、居間とキッチン・バス・トイレ付き。わけわかんない」
「良いじゃない、楽でしょう?」
「自炊は楽じゃないです」
「もう、ったら。文句言わないの」
苦笑混じりに言うと、リナリーはごそごそと何かを取り出した。
首を傾げるに、リナリーはバスタオルを差し出す。
「はい、」
「なにこれ。タオル?」
「先にお風呂行ってらっしゃい」
何故か有無を言わせず告げて、リナリーはにっこりと微笑む。
きょとんと目を瞬かせ首を傾げつつ、はタオルを受け取った。
「ラビ。アレンくんは?」
「…言われたとおりに誘導したけどもー…」
を浴室に送り込んだリナリーは、浴室へと繋がる廊下でラビと顔を合わせていた。
対するラビは、複雑な表情で目を眇める。
「…つーか、本気かリナリー…」
「もちろんよ?」
疲れたように訊ねるラビに、しかしリナリーは満面の笑みだった。
これ以上はないと言うほどに、目がキラキラと輝いていた。
「ひとつ屋根の下で暮らす男女が、バスルームでバッタリ、ってハプニングはセオリーでしょ?」
「…何かあったらどうすんるんさ…アレンだって男だぞ…?」
「好き合っていれば良いんじゃない?」
爆弾発言である。
さすがにそこまで言うとは思っていなかったので、ラビは顔色を悪くした。
「待て! それで良いんか、リナリー! おまえはが可愛くないんか!?」
「何を言うの! 可愛いからこそよ!」
力説されても、理解出来ない。
暴走が加速しているリナリーに、ラビは今度こそ頭を抱えた。
+++
その頃。
浴室への廊下を、釈然としない顔でアレンが歩いていた。
「…なんなんだろう、今日のラビ…リナリーも様子が変だし。
ブックマンやクロウリーも知らないみたいだし…」
これがラビとという組み合わせなら、また馬鹿なことを企んでいると思うところだが。
如何せん、片方がリナリーでは見当もつかない。
「ったく、なんなんだ…よ…」
浴室のドアを開けた瞬間、アレンは硬直した。
中にいたも、きょとんとアレンを見つめ返している。
肩口に掛かる程度の髪は濡れていて、片手には掴んだばかりのタオル。
今までに無いほど無防備な状態で、はゆっくりと瞬きする。
「………」
「………」
しばらく、ふたりはその状態で互いに硬直し合っていた。
思わず、ふたりは同時に首を傾げる。
「…え?」
「き…」
ようやく、ふたりの口が動いた。
瞬間、とんでもない悲鳴が響き渡る。
「きゃああああああああっ!?」
「うわああああああああっ!?」
上がる悲鳴と同時に、アレンは勢い良く浴室から飛び出していった。
.
.
.
「…もーーーっ! どうしてアレンくんったら逃げちゃうの?
そこは怯えるを宥めるように、ドア越しに会話するところじゃない!」
「いや、それ普通に無茶だろ。怯えさせてる相手が何言っても下心があるようにしか聞こえねぇさ」
洗面所から飛び出していくアレンを追いかけそうな勢いのリナリーを、ラビはその腕を掴んで止めた。
ことあるごとに作戦が失敗にしているせいか、リナリーは相当ご立腹だ。
「おかしいわね…は結構グラマーだから、いくら紳士のアレンくんでもときめくと思ったのに」
「…欲情させてどうするんさ、リナリー…」
「品のない言い方しないで。アレンくんは紳士だからそんなことしないわ」
さらりと返された言葉は、先ほどの彼女の言動からすれば支離滅裂である。
シチュエーションに拘る余り、本来の目的を微妙に見失っていた。
「…なぁ、そろそろ目ェ覚ましてくんない? オレ、泣きたくなってきた」
「失礼ね。ちゃんと起きてるわよ?」
そう言う意味じゃない。
そういう意味ではないのだが、もはやまともな会話をすることを半ばラビは諦めた。
「とりあえず私はを宥めてくるから、ラビはちょっとそこにいてね」
「えッ?!」
止める間もなく、リナリーは浴室に向かって駆け出していった。
ひとり取り残されたラビは、さすがについて行くことも出来ずに彼女を見送る。
どうするかなぁ、と首を傾げた瞬間。
「…ラァァァァビィィィィ…?」
「ヒィィィィィッ!?」
思わず悲鳴を上げたラビは、明らかに妙なオーラを放っている後輩の気配に戦いた。
最も見つかってはいけない人物に見つかったことを、嫌でも理解させられる。
「ア、ア、アレ…ッ」
「どういうことか説明してもらいましょうか…?」
がっしりとラビの肩を掴んで、アレンは微笑んだ。
…目が笑っていなかったが。
+++
「……………事情はよーーーーくわかりました」
頭を抱えながら、ため息混じりにアレンはようやく吐き出した。
「…本っっ当に、リナリーってが好きなんですね…」
「そーなんだよなぁ…異常だよなー…」
苦笑いを浮かべつつ、ラビは頷く。
そんな彼の態度に、頬杖をつきながらアレンは不思議そうに首を傾げた。
「なんでリナリーは、そこまでを?」
「さぁ? なんかいつだったかの任務の後かららしいけど、オレは一緒じゃなかったから知らないさ」
そう言って肩を竦めるラビの様子から見るに、本当に知らないらしい。
なんでも記録したがる彼にしては珍しいな、とアレンが思っていると、ぽつりとラビは呟く。
「まー…に関わるとみんな概ね暴走気味にはなるけどねぇ」
リナリーが一番顕著な例かな、と。
苦い表情で呟いたラビに、アレンは目を眇める。
「…ラビもですか。嫌ですね、近寄らないで下さい」
「…をいこら。ってかおまえもだからな、アレン」
「僕は暴走なんかしてません」
「どの口がそれを言うかねー」
憮然として言い返してくるアレンに、ラビはため息を吐いた。
どいつもこいつも勝手ばかりだ、と言わないばかりに。
「自覚者の憂鬱と、無自覚者の幸福…ね」
「は? なんですか?」
訝しげに聞き返してくるアレンに、ラビはただ、口角を持ち上げて笑った。
「いーや、なんも?」
知らぬは本人ばかりなり。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。