「…僕ねぇ、千年公から聞いてるんだー。
《創造主》の世界から来た、《イヴの娘》。お前だろ?」
そう訊ねながら、ロードは首を傾げる。
だけどそれは、問い掛けの形を取ってはいるが、実際には「確認」だった。
言ってる意味がよくわからない。《イヴの娘》ってなんだ。
だけど、ひとつだけ確かなことがある。
――ロードは、わたしが別の世界から来たことを、知っている。
「怖がらなくても良いよぉ?
僕はヘボい人間なんか大キライだけど、お前は違うからね」
どういう意味、なんて訊く余裕もない。
この子の能力は、未知数だ。得体が知れない。
――どう足掻いても、わたしには勝てないと言うことだけが、確かだった。
「でも、ここで会えるなんて思ってなかったなぁ。
まっさか、エクソシストの中に紛れてるなんてねー」
楽しそうに笑うロードを、わたしは睨む。
そしてゆっくりと後ずさり、距離を取った。
わたしの羽根なら、逃げ切れる。ある程度の攻撃は盾でいなせる。
ロードひとりなら、撒くくらいなら不可能じゃないはずだ。
「……」
脚にぐっ、と力を込めた瞬間、一陣の風に乗ってそれは現れた。
「ロード様」
「ん? ああ、連れて来たんだぁ」
「!! ミランダさん!」
風と共に現れたAKUMAが抱えているものを見て、わたしは目を瞠った。
知っていた。知っているはずだった。
だけどそれは、アレンの目を通した《物語》だ。――こんな《展開》は、知らない。
多分、わたしは予想外の事態に慌て過ぎたんだと、思う。
咄嗟にわたしの感情が訴えたのは、捕らえられたミランダさんを救うことだった。
「く…ッ!」
「やめといた方が良いよぉ? お前じゃ勝てないからさぁ」
知ってるよ。わたしには攻撃手段がない。
どうしてわたしには、闘う力がないの?
イノセンスは神の力。
イノセンスは対アクマ武器。
――なのにどうして、わたしのイノセンスは刃を持たないの!?
「倒せなくても良いわ。今は、奪い返せればそれで…ッ」
言い返してから、ハッと我に返る。
――わたしは、今、何をしているの?
「ホラホラ、考え事なんかしてると危ないと思うなぁ」
「ッ!」
ロードの声に顔を上げると、眼前にAKUMAの姿が迫っていた。
「――ッ! しまっ…」
慌てて、盾を発動させる。
だけど急場凌ぎの盾に、強度など期待するだけ無駄なのだ。
「…ッ…ぅ…ア…ッ!」
一撃で盾は破壊されて、わたしの身体が吹っ飛ばされる。
石畳を転がりながら、わたしは無惨に倒れ伏した。
…ああ、やっぱり駄目か。わたしの力じゃ、戦えない。
「ホラ、無駄だっただろぉ? バカだなぁ」
嗤いながら、そう言ってロードがわたしの前にしゃがみ込んだ。
…殺されるのかな。《物語》の中で。…虫けらのように、呆気なく。
痛みに身体が悲鳴を上げている。視界が歪み、目の前にいるロードの姿が滲んできた。
「――おかえり、《黒の聖女(リリス)》」
意識を失う直前。
耳に届いたのは、そんな言葉だった――。
『駄目レロ、ろーとタマ!
学校サボって勝手なことしたら、伯爵タマが困るレロ!』
「うっさいなあ、傘は黙ってろよ」
そんな声を聞きながら、わたしはゆっくりと目を開けた。
どうやら、わたしはまだ生きているらしい。
「……」
わたしは、ゆっくりと首を巡らせて自分の状況を確認する。
――両腕が拘束されていた。荊(いばら)で。
「あ、起きたァ?」
「……おはよう、ロード。この気持ち悪い拘束は何かな」
少しでも動けば、荊の棘は容赦なくわたしの腕を傷つけるだろう。
ヘタに鎖なんかで繋ぐより、ずっと効率的で悪趣味だ。
「オーロラ姫っぽくて可愛くなーい?」
「眠り姫は荊に絡まって眠ったりしないよ」
「そうだっけ? まぁいいや」
楽しそうに嗤うロードから、わたしは視線を外す。
周囲を見回す。不気味な壊れた人形。浮かぶ鋭利なロウソク。
ここは、ロードの創り出したまやかしの空間。
視界の端に、わたしは見知った姿を見つけて、その名を呟く。
「――…ミランダさん。…リナリー、…アレン」
時計に手を打ち付けられたミランダさん。
一切の表情を消し、虚ろな瞳をしたリナリー。
――左腕を壁に打ち付けられた、傷だらけのアレン。
そこには、わたしが『知っている』通りの、惨劇があった。
「やっぱ驚かないんだぁ? さっすが、《創造主》側の存在だよねェ?」
「…何が言いたいの」
「んー?」
わたしの声は、驚くほど平坦だった。
そんなわたしを、ロードは興味深そうに眺めている。
「こいつらがさぁ、こういう目に遭うってこと?
知ってたのに放って置いたんでしょぉ? 仲間のふりして怖いなぁ、って思ってさァ?」
「…ッ」
「言い返さないんだ? へぇ…?」
嫌な事を言う、と。
わたしは唇を噛み、キッとロードを睨め付けた。
「…フリなんかじゃ、ない」
「嘘吐き」
歪な微笑で、切って捨てられた。
思わず、わたしは拳を握り締める。
「大丈夫だよぉ? こいつらが死んでも、お前は僕らノアの一族が受け入れてあげる」
何を言い出すんだ、この子は。
わたしは、かくんと首を傾けて、鼻で笑う。
「…冗談でしょ。わたしはエクソシストよ」
「違うよ。お前はエクソシストじゃない」
たんっ、と軽い足取りで、ロードがわたしの眼前に近づく。
可愛らしい顔に浮かぶのは、歪な微笑。
「《イヴの娘》。愛しい愛しい、僕らの《世界》のお姫さま。
――お前は僕らノアの、新しい《聖母(マザー)》だよ?」
「え…?」
ロードの言葉に、わたしは目を瞠った。
マザー? …お母さん?
「…わたし、未婚でしかも十代よ」
「それ以前に処女でしょ」
おい、なんでそんなこと知ってんだよ!
しかも疑問系じゃなかった! 言い切りやがったこの小娘!!
「そこで見物してて。面白いもんを見せてあげるよぉ」
嗤いながら、ロードはわたしの傍を離れる。
次に彼女が向かった先は、虚ろな瞳で虚空を見るリナリーのもとだ。
黒いドレスを着せられた彼女の髪を、ロードは楽しそうに結い上げていく。
「うん、やっぱ黒が似合うじゃ~ん」
「ロード様、こんな奴きれいにしてどうされるのですか?」
「お前らみたいな兵器には、わかんねェだろうねェ。
エクソシストの人形なんてレアだろぉ」
AKUMA達と楽しそうに談笑するロードは、ひとまずわたしを放っておくことにしたようだ。
何気なく視線を巡らせる。――その時、小さく呻き声が上がった。
…アレンだ。
「起きたぁ~?」
――表情を強張らせたアレンと、目が合った。
+++
頭の中が、真っ白になっていた。
左腕の対アクマ武器が、杭のようなもので壁に打ち付けられている。
だけど、その痛みすらどうでも良くなった。
目の前には、杭で手を時計に打ち付けられたミランダさんがいる。
虚ろな瞳で虚空を見つめる、飾り立てられたリナリーがいる。
――――拘束され、蒼白な顔色で僕を呆然と見つめるが、いる。
「! リナリー!!」
『気安く呼ぶなよ、ロード様のお人形だぞ』
「こっちがリナリーで、あっちはって言うんだぁ。可愛い名前ェ♪」
楽しそうに嗤いながら、ひとりの小柄な少女が、リナリーに抱きついている。
AKUMAの中にいて、平然と嗤う少女。
――酷く異質なその存在に、僕は見覚えがあった。
「君はさっきチケットを買いに来た…!? 君が「ロード」…?」
そうだ。間違いない。
ミランダさんがスリに遭う直前に、僕に声を掛けてきた子だ。
「どうして、アクマと一緒にいる…?」
人間と見せかけて、AKUMAだった?
いや、あり得ない。さっきも、そして今も――歪んだ魂は、左目に映らない。
「アクマじゃない…君は何なんだ?」
「僕は人間だよぉ」
歪な微笑を浮かべながら、少女は大仰な身振りで疑問を表現する。
だがその表情には、どこか酷薄さが見て取れた。
「何、その顔? 人間がアクマと仲良しじゃいけないぃ?」
「アクマは…人間を殺すために伯爵が作った兵器だ…人間を狙ってるんだよ…?」
「兵器は人間が人間を殺すためにあるものでしょ?」
言い放たれた言葉に、思わず息を飲む。
何かが軋む音が、耳の奥で聞こえた気がした。
「千年公は僕の兄弟。僕達は選ばれた人間なの」
そう語りながら、少女――ロードは、嗤う。
その白い肌が、徐々に浅黒い色に染まっていった。
「何も知らないんだね、エクソシストぉ。
お前らは偽りの神に選ばれた人間なんだよ」
ロードの額に現れた、傷。
――聖痕? そんな、馬鹿な。あり得ない…!
「僕達こそ、神に選ばれた本当の使徒なのさ。僕達ノア一族がね」
「ノアの…一族…? 人間…!?」
――信じられなかった。
人間? AKUMAを手足のように使い、世界を混沌に導く存在が…
――――人間?
『シーーーーーーー!!!
ろーとタマ、シーーッ! 知らない人にウチのことしゃべっちゃダメレロ!!!』
「えー、何でぇ?」
『ダメレロ! 大体、今回こいつらと、ろーとタマの接触は伯爵タマのシナリオには無いんレロロ!?
レロを勝手に持ち出した上、これ以上勝手なことすると伯爵タマにペンペンされるレロ!』
「千年公は僕にそんなことしないもん」
かぼちゃ頭のあの傘は、AKUMAだろうか。
独特な喋り方をするそれに、ロードはおざなりな対応をしてから、僕に向かって嗤う。
「物語を面白くするための、ちょっとした脚色だよぉ。
こんなんくらいで、千年公のシナリオは変わんないってぇ」
――シナリオ? 人の命を、なんだと思っているんだ。
人間が、人間を兵器に変えて、人間を殺す。殺させる。
そんなこと、あって良いわけがない!!
壁に打ち付けられた左腕に、力を込める。
痛みはある。上手く動かせるかどうかの保証すらない。
だけど、この腕は。僕にとって唯一の武器。
「何で怒ってんのぉ?」
杭を引き抜けても、腕はやはり上手く動かなかった。
痛みと失血に、目の前がチカチカする。
「僕が人間なのが信じらんない?」
僕の眼前まで近づいて来たロードが、膝をついた。
そして、そっと小さな手が伸ばされる。
小柄な身体が、ふわりと抱きついてきた。
――聞こえるのは、確かな心音。生命の鼓動。
「あったかいでしょぉ? 人間と人間が触れ合う感触でしょぉ?」
「………っ」
左腕が、動く。
本能が囁く。
――殺せ。今が好機。仲間を助けるためには。
「同じ人間なのに、どうして…」
ロードは応えない。
くすくす、と嗤いながら、僕に抱きついたままだ。
「く…」
「――「同じ」? それはちょっと違うなぁ」
ニタリと嗤って、ロードは僕の左腕を掴んだ。
そして、その爪に自ら頭を打ちつける。
「な…っ!? 自分から…」
小さな身体が、傾いだ。
だが倒れる寸前、その手が僕の胸ぐらを掴む。
「僕らはさぁ。人類最古の使徒、ノアの遺伝子を受け継ぐ「超人」なんだよねェ」
溶けた皮膚が、端から再生し始めていた。
その異様な光景に、思わず目を瞠る。
「お前らヘボとは違うんだよぉ」
蔑むような酷薄な笑み。
ロードの手が、杭を掴む。
――鋭利なそれが、振り下ろされた。
+++
「ぐああぁあああぁッ」
「…ッ」
きつく、わたしは目を瞑った。
激痛に喘ぐアレンの姿が、眼裏から消えない。
「アハハ!」
カラン…、と、杭が投げ捨てられる音。
甲高いロードの笑い声。
「キャハハハハッ!!」
「…っ!!!」
――もう、限界だった。
《物語》だとわかっていても、もう、見ていられない。
嫌だ。
これ以上は無理だ。
傷つけないで。お願いだから…!
「アレンッ! アレンーーーーッ!!」
なんとか拘束を外そうと、わたしは藻掻く。
荊の棘が、肌を裂く感触と鋭い痛み。
だけどそんな痛みがなんだ。この程度の痛みが何だ!!
「暴れない方が良いよぉ、~?
ヘタに暴れるとぉ…腕が千切れちゃうかもね! キャハハハハッ!」
そう言って嗤うロードの言葉に、それでもわたしは藻掻く。
激痛に悲鳴が上がった。だけどそんなの、もうどうでもいい。
「…くッ…ッ! 駄目です、動かないで! すぐに助けるから!!」
「~~~ッ…」
痛みに歯を食いしばりながら、一部だけ冷静な頭が訴える。
違う。違う。
これは違う。わたしの知る《物語》じゃない。直せ。修正しろ。導くのはお前だ、と。
「…助ける? 誰が、誰を? 「お前」が「」を?」
わたしとアレンを交互に見て、くすくすとロードは嗤う。
やがてその笑いは大きくなり、高笑いに近いものに変わった。
「アハハハハハ! お前、バッカじゃねーのぉ?
お前みたいなヘボい人間が、そんなこと出来るわけないじゃん!」
ひとしきり嗤った後、ロードは不意に蔑むような表情を取る。
気怠げに首を傾げ、語る口調は酷く軽い。
「僕はヘボい人間を殺すことなんて何とも思わない。
ヘボヘボだらけのこの世界なんて、だーーいキライ♪
お前らなんてみんな死んじまえば良いんだ。神だってこの世界の終焉(デス)を望んでる」
その言葉に、アレンの表情は険しさを増していく。
それを楽しそうに眺めながら、ロードはちらりと一瞬だけ、わたしを見た。
「千年公と僕らに与えられたアクマ、そしての存在がその証拠!
安心しなよ。お前らが死んでも、は僕らが大事に大事にしてあげるからさぁ!」
「…そんなの、神じゃない…本当の悪魔だ!!」
アレンが、傷だらけの身体を引きずるようにしながら立ち上がった。
その左腕が、銃器型に転換される。
「は…渡さない! お前らなんかに、渡すものかッ!!」
「――どっちでもいいよぉ、そんなモン」
嗤って、ロードは傍にいたAKUMAを促した。
3体のAKUMAが、一斉にアレンに向かう。
「お前に僕は殺せないしぃ、を僕らから奪い返すことなんて出来ないんだからさぁ」
ロードが、羽織っていたアレンの団服を脱ぎ捨てる。
AKUMAの攻撃の集中砲火が、アレンを襲った。
アレンの身体が、壁に打ち付けられる。
それでもアレンは起き上がり、わたしの方へ腕を伸ばす。
「……ッ」
ギリッ、とわたしは唇を噛む。
何をしてるんだ、わたしは。
――《物語》を正しい形へ導く。それが、わたしが自分に課した使命だろ?
「…ア…レ、ン…ッ」
「……ッ!」
「――来るなァッ!!」
わたしの方へ腕を伸ばしてくるアレンに、わたしは怒鳴った。
ぴたりと、アレンの動きが止まる。
「――ッ」
必死に、痛みに叫びそうになる自分を抑える。
このくらいの痛みがなんだ。アレンの怪我を見ろ。リナリーの状態を見ろ。
――わたしに出来ることはなんだ! この《物語》を正常に動かすことじゃないのか!!
「…ね、がい…」
「…?」
「…お願い、…」
喉が震える。
目の前が赤い。
アレンの顔がよく見えない。
だけど今は、その方が良かった。
「…アレン! ミランダを護ってッ!」
――それが、わたしの『答え』だ。
この状況を覆すのは誰。
ミランダさんと時計のイノセンスだ。
じゃあ、彼女を護るのは。適合者として覚醒させるのは。
――アレンしか、いない。
「ああ、そう言えば居たねェ」
ロードの視線が、ミランダさんに向けられた。
彼女は嗤いながら、すっと片腕を持ち上げる。
「お前もそろそろ、解放してやるよぉ」
無数の鋭利なロウソクが、ミランダさんに向かって放たれた。
わたしは唇を噛んで、視線を逸らす。
――ああ、本当に。『仲間』って何? わたしがしていることは何?
ミランダさんを庇ったアレンの背に、腕に、足に。
ロードの放ったロウソク型の杭が、突き刺さっていく。
――彼らを《仲間》と呼び、共に在りながら、《物語》の為に傷付くことを容認するわたし。
エクソシスト? 世界を護る者? じゃあ、わたしが護る《世界》って何?
護りと癒しの力。イノセンスの声を聴く力。
――どうして、《運命》はわたしにこんな力を与えたの?
「アレンくん…!?」
壁に背を張り付かせながら、それでもミランダさんは泣きながら訴える。
それを聞くわたしは、強く噛み過ぎて自分の唇に傷が出来たことにすら、無頓着になっていた。
「しな…死なないで…アレンくん、死なないで…」
「…だ…大丈夫…」
力無く微笑むアレンの、その傷だらけの姿。
震えながら駆け寄る、ミランダさん。
――わたしの中の何かが、音を立てて軋んだ。
「!?」
「何だ、メス?」
「何やってんだ~?」
AKUMA達が、小馬鹿にするようにミランダさんを見下ろす。
エクソシストでもない普通の、しかも女性に、何が出来るのかと侮っているのだ。
「は…はは…ホント、何やってんの私…でも…でも…」
震えながら、ミランダさんはそれでもアレンを庇うように抱き締めた。
アレンは辛うじて意識はあるようだけど、ぴくりとも動かない。
「人間に何ができんだよ~」
「でも…ッ」
その声は、悲鳴に近かった。
瞬間、ミランダさんの時計が動き出す。
回り出す針。
輝くその光は、イノセンスの発動の証。
アレンとミランダさんが、発動したイノセンスのドームに包まれた。
…ああ、これで、わたしのこのシーンでの役目は終わりか。
視界から傷付いたふたりの姿が消えたことで、わたしは小さく息を吐いた。
息が詰まるようなこの感覚に、わたしはあとどれだけ耐えれば良いのだろう。
――辛い。痛い。苦しい。
頬が熱い。涙? どうしてそんなものが。
ああ、そうか。痛みに耐えきれずに流れる、生理的なものだ。
「――ねーぇ? 、どういうつもりぃ?」
「…何が」
荊で傷付いた腕が痛い。
だから、きっとこの痛みも苛立ちも、そのせいだ。
「さっき僕の注意を、あっちの女に向けたね。
僕はすっかり忘れてたのに、に言われて気付いちゃった」
「……」
「わざとでしょ。『僕があの女を攻撃して、アレンが助けなきゃいけなかった』んだ?」
苛々する。
胸の奥が痛い。
この感情は何。
この痛みは何。
――わたしは、何?
「それでぇ? は結局どうしたのかなぁ?」
リナリーの座らされた椅子の手すりに座ったロードが、そう言って首を傾げた。
目の前がちかちかする。だんだん、周囲の景色が赤く染まっていく。
「…、…な…」
「んー?」
自分の声が聞こえない。
周りの音が聞こえない。
それでも、わたしは自分が『動いている』ことは感じていた。
「――…調子に、乗るな…!」
何かが外れる音がした。
肌を裂く感触がする。
聞こえる《音》に支配される。
鼓動。ああ、これは――
――イノセンスの、《声》だ。
「…イノセンス、第二解放――切り裂け、《黒金(クロガネ)》」
世界がひび割れる音が、した。
To be continued?
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。