※これは書くかどうかも未定のLH神田ルートを想定したSSです。
 ヒロインの恋人は神田さん、というIFストーリーとしてお読みください。




「はい」
「…ずっと前から思ってたんだがな」
「…なにかしら」

頬杖をつきながら、神田がじっとわたしを見つめてくる。
…残念というかなんというか、熱い視線ではない。

強いて言うなら、呆れたような?
更に悪く言うなら、どうしようもないものを見るような?
それを確信させたのは、にこりとも笑わずに言われた一言だ。

「…おまえ、俺が思ってるより馬鹿だろ?」
「神田に言われたくないし!?」

椅子を蹴倒して立ち上がり、わたしは怒鳴り返す。
…怒鳴るわたしを呆れたように見やる神田の背後で、アレン達が吹き出した。

「…笑うな!!」
「す、すみませ…だ、だって、それ…ッ!」
「無理、超無理! 笑うなとか無理さ!」

耐えきれなくなったかのように、ふたりは笑いながら蹲った。
そんなに可笑しいですか。そうかそうか…!

「もう…三人とも酷いわ。可愛いのに」

ひとり、穏やかな微笑みを崩さず言って、リナリーはわたしの頭に手を伸ばしてきた。

「このネコミミ」

リナリーが言った瞬間、笑いは収まるどころか感染して、神田まで肩を震わせて笑い出してるし!
わたしは無言で、握り締めた拳をぷるぷると震わせる。




…そう。
コムイさんの悪ふざけで、わたしに黒い猫耳と尻尾が生えました。



A HOUSE CAT --- 01




「あーーーっ! もうッ!! コムイさんのバカーーーーーーーーーッ!!」
「あっさり引っかかるおまえも馬鹿なんだよ、この馬鹿女」

毛を逆立てるわたしに、ようやく笑いが治まった神田がため息混じりに言った。

「コムイから出されたもんに口付けんな、っていつも言ってんだろうが」
「バッカ、好意を無下に出来ないのがわたしなんだよ!
 なにさッ、神田だってしょっちゅう引っかかってるくせにー!」
「少なくとも飲食物で引っかかった覚えはねぇよ!」

嘘だ! この中で一番引っかかりやすいの神田だもん!
わたしだけのはずがない! っていうかそんなん認めない!!

「いやー、見事な猫耳だねちゃん! 可愛いよ!」
「嬉しくなーい! わたしにはネコミミ属性もメイド属性も無いんだーーーッ!」
、言ってる意味がわからないわ」

冷静なリナリーのツッコミに、わたしは我に返る。
しまった、またやってしまった…。

…よし、今のは言わなかったことにしよう。
即座に思考を切り替えて、わたしはコムイさんの胸ぐらを引っ掴んだ。

「コムイさんッ」
「うん?」
「…すぐ戻せ」
「無理」
「即答!?」

思わず目を瞠るわたしに、コムイさんは、それはもう晴れやかに微笑った。
胡散臭さ全開の、笑みを。

「解毒薬作るまでに3日掛かるもん。ちなみに、その薬の効果も3日間」
「意味無いじゃん!?」
「うん、だから無理」
「誰のせいだと思ってんだコラーーーッ!」

胸ぐらを掴んだまま、わたしはガクガクとコムイさんを揺さぶった。
これだけやってもまだ笑顔って、どれだけ人をおちょくる気だこの巻き毛室長はッ!!

「お、落ち着け! ほら、深呼吸深呼吸ッ!」
「ふーーッ!」
「うわ、猫の反応だ」

ラビに後ろから羽交い締めにされて、それでも気の治まらないわたしの反応は猫そのものだった。
じたばた暴れるわたしにラビが手を焼いていると、横から神田がわたしとラビを引き剥がす。

「…ラビ。勝手にに触るんじゃねぇ」
「ぅえ!? だ、だったらユウが止めればいいのにっ」

六幻を突きつけられたラビが、冷や汗を掻きながら曖昧な笑顔を作る。
おいおい、神田。目が据わってるよ。怖いよ。
怒りはそれに拭い去られ、完璧に勢いを削がれたわたしは、ため息を吐いた。

「まあまあ良いじゃない! せっかくネコミミ可愛いしさ、楽しめば!?」
「「は?」」

ムダに明るいコムイさんの言葉に、わたしと神田は同時に声を上げた。
そして、お互いに顔を見合わせ、僅かに首を傾げる。

「…コムイさん。まともに女の手も握れない男にそれは酷な注文ですよ」

今まで黙っていたアレンが、笑顔で言い放った。
…なんだってこう、この子は神田に喧嘩を売るんだろう…。

「てめぇ喧嘩売ってんのかこの黒モヤシッ!! 手くらい握れるに決まってんだろ!」
「モヤシじゃありませんアレンです。何回言えば良いんですか?
 だいたい、神田がと手を繋いで歩いてる光景なんて想像も出来ないんですが」
「知るか! ンなもんは人に見せるようなことじゃねぇ!」
「それじゃムッツリですよ。嫌ですね、が可哀相です」
「おまえ思ってもいねぇことを淡々と口にするんじゃねぇぞ…!!」
「思ってますよ、ムッツリスケベ」
「そっちじゃねぇよ! ていうかおまえ本ッ当にムカつくなクソモヤシ!」
「そっくりお返しします、それ」


……
………恥ずかしいから人を巻き込まないで頂きたい。

「…ホンットに、あのふたり仲悪いよね」
「ね。もう少し仲良く出来ないのかしら…」
「…ンなもんどう見たって無理さ」

そうかなぁ。どっちかが歩み寄れば仲良くなれると思うんだけどなぁ。
……………ああ、そもそも、歩み寄るのが無理なのか。

「…あー、そうだ。リナリー、お願いがあるんだけど」
「なぁに?」
「服貸して」
「え??」

きょとん、と目を瞬かせるリナリーに、わたしは自分に生えた猫の尻尾に視線を落とした。

「…尻尾のせいでね…わたしのスカートだと別の意味で危険なんだよね…」
「あー…」

そういうことなら、とリナリーは苦笑しつつ頷いた。
わたしよりリナリーの方が身長が高いし、ミニスカートでもそこまで際どいことにはならないだろう。多分

「ミニスカートの方が危険じゃねぇの??」
「長いのが捲れ上がるよりはまだマシじゃない?」
「短いのが捲れ上がったらそっちの方が大問題さ」
「うーーーん…」

…いっそ、尻尾用に穴開けた方が良いのか…?
いやいや、別に一生このままじゃないし、服が勿体ないよそれは。

唸るわたしに、アレンと喧嘩していた神田が、何の脈略もなしに近づいてきた。
顔を上げるわたしに、神田は自分の団服をバサリと被せてくる。無言で。

「ぅわっ…ちょ、いきなり何、神田!?」
「…着てろ」
「なんで」
「いいから着てろ!」
「ハ、ハイ」

怒鳴られて、反射的に返事を返した。
…あれ? なんでわたしが怒鳴られんの? 理不尽じゃない??

「…とにかく、3日はこのままなんだな? コムイ」
「うん。そうなるね」
「ちっ…おい、行くぞ。

舌打ちして、神田は唐突にわたしの手を掴んだ。
こいつが主語を抜かして話すのは珍しくないけど、それを解読するこっちの身にもなって欲しい。

「ど、どこに?」
「どこでも良いだろ!!」
「ええー…!?」

ちょっと待ってなんでこんな理不尽なんですかこの人。
思わず言葉を失ったわたしを問答無用で引きずって、神田はそのまま行き先も告げずに歩き出した。


……
………で。


わたしはどこに連れて行かれるんでしょうか。









「…行っちゃった」
「ま、行くとしたらユウの部屋かの部屋だろ」
「下心が見え見えですね」

辛辣な言葉を吐き出して、アレンは鼻で笑った。
…リナリーが居る場で猫被りを忘れるほど、機嫌が悪いらしい。
恐る恐る、ラビが声を掛けた。

「おーい、アレン? ユウはお前と違って色ネタが苦手なシャイボーイなんさ、苛めてやるなよ」
「はっ。大の男が、しかも恋人がいるのに色ネタが苦手? ンなわけないじゃないですか、ただのムッツリですよ」
「…お前、相当ユウのことキライ…??」
「大ッッ嫌いです」

即答だった。
しかも力一杯断言した。

絶句するラビに代わり、それを微笑ましい気分で眺めていたコムイが笑う。

「アレンくーん、ちゃんを取られたからってそう怒らないのー」
「ッ誰がですか! なんかいりませんよ!」
「素直じゃないなーーー」
「コムイさんッ!!」

ようやくアレンの不機嫌の理由に気付いたリナリーが、「あらあら」と穏やかに微笑む。
その反応は大物過ぎるだろ、とラビはそんな彼女を見て顔を引きつらせた。

「ところで三人とも! ここにちゃんに盛った動物変化薬があるんだけど、」
「「「いりません」」」

コムイの続く言葉を両断する勢いで、3人は真顔で即答した。






少しは警戒心を持ちましょう。



To be continued?

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