今まで色んな組み合わせで任務に勤しんできましたよ。
ある程度偏った面子であったことは否めないけど、そこそこ上手くやって来た。
中でも一番大変だったのは、マテールでの任務。あれはひとえに組み合わせのせい。

…で。

その日の再現が、今ここに。

「…なんでしょうね、この面子」
「…俺が聞きてぇよ」
「…喧嘩しないでね、ふたりとも」

始終ピリピリした空気が前方から漂ってるわけですが、なんでしょうかこれは。
いや、そもそもですよ。なんでコムイさんはこんな組み合わせにしてきたんでしょうか。鬼だ。

「あのねぇ、この組み合わせが気に入らないのはお互い様なんだから、その空気なんとかならない?」
「なりませんね」
「ならねぇな」
「即答かよ」

…おかしいなぁ、初めの頃より仲良くなったと思ってたんだけどなぁ…。
相変わらず仲の悪いふたりを前に、わたしは溜め息を吐いた。



Change Crisis!! --- 01




「これね、この奇怪。イノセンスである可能性が高いんだよね。多分」
「また多分ですかッ!」

そんな相変わらず適当なコムイさんの指令にも、もう半ば慣れっこだ。
いつも「多分」とか「きっと」とか、確実性のない指令ばっかりだったから。

「そう言わないでよー。こっちはこっちで頑張ってるんだよ?」
「それはよーくわかってますが」
「じゃあ行ってくれるよね?」
「…いや、良いですけどもぉ…」

室長が行けと言えば行く。それがエクソシストだ。
そうだけど、でもなぁ…、と。
納得のいかない気分で、わたしは自分の両隣に陣取る男性陣を交互に見る。
…ふたりとも、なんとも複雑そうな表情でコムイさんを見ていた。

「と、いうわけで。いつぞやの三人トリオで行ってもらうよ!!」
「「「異議あり」」」
「あれー?」

笑顔で言われた言葉に、言い返したは3人同時だった。
こんな時ばかり息ピッタリっていうのはどうなのかと思うけど。
…いや、普段だって仲良くないわけじゃないけどね。

「攻撃専門のアレンくんと神田くん、支援系のちゃん。何も変な組み合わせじゃないと思うんだけどなぁ」

しきりに首を傾げるコムイさんに、小さくため息を吐いて、アレンが口を開いた。

は充分戦力になりますよ。神田なんて要りません」
「それはこっちの台詞だ。モヤシは要らねぇ」
「なんですか! は僕の恋人です、他の男とふたりきりになんてさせられませんッ!」
「仕事に私情を挟むんじゃねぇよ! てめぇ仕事ナメてんのか!?」
「あーもーふたりとも落ち着いてッ! 恥ずかしいから!!」

論点ズレてるし!
そもそも、わたしを間に挟んで言い合うのはやめて欲しい。

「でもコムイさん? 三人も投入する程の任務なんですか?
 こう言っちゃなんですけど、アレンも神田も攻撃火力しか取り柄が無」
「言うに事欠いて神田と同列とは何事ですか」
「人のこと言えた義理かこの無鉄砲馬鹿女」
「いたたたたっ! なんでこういうときだけ仲良いんだあんたらはッ」

今度は両隣から同時に頬を抓られた。
だからなんでこういう時ばっかり仲良しかなぁ、もう!
ダメだ。このふたりに囲まれてたら生きた心地がしない!

「コムイさんっ! どっちかラビかリナリーとチェンジしてくださいむしろわたしをチェンジしてーっ」
「ダメだよー、ちゃん。ワガママは聞かないからねー」
「鬼ーーーっ!!」

なんですかその笑顔! 絶対確信犯だ、でなければ愉快犯だッ!
ジロリと睨め上げても、コムイさんはまったく気にもしない。

「じゃあ資料は渡しておくから、早速明日から頼むね三人とも」
「「「……………………」」」

変わらない調子で言われた指令と、渡された資料。
それに視線を落としつつ、わたし達三人はほぼ同時にため息を吐き出した。


+++


…と、そんなことがあったのがつい数日前のこと。
件のイノセンスがあると目された街に入り、探索部隊と連絡を取ったわたし達は、早速情報収集にかかった。
と言っても、改めて調べることなんて無いんだけど。

「まぁ来てしまったものは仕方ないよ。早く片づけて帰ろう」
「そうですね…」
「…ああ」

散々喧嘩を繰り返したふたりは、疲れたのか割と素直に返事を返してきた。
いつもこのくらいだと良いんだけど…。いや、それはそれで違和感がありそう。

「それで。今回イノセンスと目されているものは?」
「資料によると…宝珠、のようですね」
「宝珠? …玉?」

ふと呟いた瞬間、ふたりは反応に困ったような表情で、わたしを見た。
…え。なに、その反応。

「玉って…」
「身も蓋もねぇな」
「なんですかふたりしてッ」

だからなんで駄目出しする時ばっかり仲が良いんだよ!
眦を吊り上げるわたしに、アレンが宥めるように苦笑した。
誰のせいだと思ってるんだろうか。腹立たしいです。

「話を戻しますよ? で、その宝珠は街の外れにある祭壇に安置されてるらしいです」
「奇怪はどんなものなの?」
「近づけない、だそうですよ」
「近づけない…?」

訝しげに顔をしかめたわたし達に、アレンは神妙な表情で頷いた。

「ええ。姿は見えるのに近づけない。触れることも出来ない。それが奇怪です」
「そんなもん、どうやって持って帰るのよぅ」
「…今まで調査していたのは探索部隊の連中だ。
 俺達エクソシストが接触することで、何か変化があるかもしれんな…」
「コムイさんはそれを期待しているんだと思います。《巻き戻しの街》と同じケースですね」
「ふぅん…」

《巻き戻しの街》か…。
確かに、あの時は誰も入れない街に、わたし達エクソシストだけは入れたっけ。
今回もそのケースだったとしたら、これはもしかしたら当たりかな…?

「じゃあ、早速現物を見てみよう。とりあえずそれからだね」

ここで考えていても仕方ない、エクソシストは行動あるのみです。
わたしが促すと、ふたりも同じ考えだったのだろう、頷き返してくれた。


+++


「…遺跡なんて聞いてませんけど」
「祭壇って時点で、考慮しておくべきでしたかね…」
「ちょっと範囲が広くなっただけだろうが。いちいち弱音吐くんじゃねぇよ」
「だってー…」

目の前に広がる石の建造物に、わたし達は思わず頭を抱えた。
…広い。無駄に広い上に、迷路みたいに入り組んだ造りをしてる。
こんなところから、形状も詳しくわからないイノセンスを探し出すなんて…。

「…砂漠のど真ん中で、特定の石ころひとつ探し出すようなものじゃない」

無理だって。何時間、いや何日掛かると思ってんだ。
食料とか水とか、持ってくるべきだったかなぁ…?
そんなことを考えてため息を吐くと、ぽむ、と両肩を掴まれた。
振り返ると、胡散臭いほど笑顔のアレンがわたしの肩を掴んでるわけで。

「大丈夫です、この為にがいるんですから」
「は?」
「…ああ、なるほどな」
「へ?」

え、何。神田まで。
思わず交互にふたりを見やると、さも当然と言わんばかりの調子でふたりは口を開いた。

「お願いします、イノセンス探知機さん」
「ちょっとぉ!?」
「しっかり捜せよ」
「おおい!?」

探知機って! 探知機ってどういう扱い!?

「何かあったらすぐにフォローしますから、心配はいりませんよ?」
「あー、はいはい。そんな心配しちゃいねぇってのよ」
「しょうがねぇだろ、イノセンスの《声》が聴こえるのはおまえしかいないんだ」
「わかってるってば!」

まったく! まったく!!
実際に《物語》の世界に入ってみて痛感したね。
異世界から来たヒロインが、みんなにちやほやされるなんてあり得ないってのがさ!!
…いや、初日から知ってたけどそんなの。しかし、便利な道具かなんかですかちくしょうめ。

舌打ちしつつ、わたしは意識を集中させた。
実際、イノセンスの《声》は、意識を集中させても微かにしか聴こえない。
触れるまで聴こえなかったことを考えれば、これでも進歩した方なんだろうけど、中途半端な能力だよなぁ…。

「ッ!」

耳の奥で、異音が微かに響いた。
この《声》は、アレンと神田のイノセンスじゃない。

?」
「…聴こえる」
「今回はガセじゃなかったってことか…」
「どっちですか?」

微かな音を頼りに、わたしはきょろきょろと方角を確認する。
…《声》が、微かに大きくなった。方角は――

「あっち。東の方」
「東ですね」
「…おい、そこの方向音痴。東は右手の方角だ、そっちは西だぞ」
「あ」

思いっきり逆方向に歩き始めたアレンは、神田の一言で足を止めた。
西と東の区別もつかない程の方向音痴って、どれだけ…。

思わず神田と顔を見合わせて、互いにため息を吐いた。
そしてわたし達は、誤魔化すように笑うアレンを伴い、東の方角へ歩き出す。

「…方向音痴は治らないねぇ」
「…あの、方向音痴は病気じゃないんですけど」
「いっそ病的だと思うがな」
「神田の短気さ程じゃありません」
「あ?」
「喧嘩すんな」

なんでいちいちいがみ合うかな、こいつらは。
…かと思えば、これでいて割と仲良しなもんだから、妬けちゃいますよまったくもう。

仲良く喧嘩してるふたりを放っておいて、わたしは微かな音を頼りに歩く。
だんだんと、《声》が大きくなってきた。それに伴って頭痛がしてくる。…近いな。

「…あった。あれだ」

強い気配を感じて、わたしは足を止めた。
目の前にあるのは、簡素な祭壇。
その中央に鎮座する、薄い緑色の宝珠。
資料の通りだ。間違いない。

「…確かに、何か妙な感じはしますね」
「適合者のいないイノセンスは、俺達には感知出来ないはずだ。どういうことだ…?」
「近くに適合者がいるとか?」
「それなら、イノセンスはその適合者の傍に行こうとするはずですよ」
「うーーん……」

通常、わたし以外のエクソシストがイノセンスを感知出来るのは、
イノセンスが発動状態かそれに近い状態である場合のみのはず。今のところは他に事例がない。
アレンの左目みたいに、わたしの傍に居ることで聴こえるようになるとか、そういうこともないはずだ。
なら、目の前のイノセンスは発動状態にあるのか?
でもアレンの言う通り、もしそうだとしたらイノセンスは、適合者の傍に行こうとするはず…。

「でもまぁ、これを回収すれば任務は終了です。
 とにかく、近づけるかどうか試してみないと…」

そう言って、アレンが一歩、前に出た。
反射的に顔を上げると、アレンは安心させるように微笑んでみせる。

はここで待っていてください。何かあったら困りますから」
「いやいや、それを言うならアレンが行っても危険度は変わらないのでは」
「大丈夫ですよ。より頑丈ですから」
「そういう問題かなぁ…」

確かに、同じ寄生型にしては、わたしはアレンほど頑丈じゃない。
寄生型っていうのは、超人的な身体能力を持つという特徴があるはずなんだけど。
わたしもアレン達と同じように、普通より傷の治りは若干早いけど…他は、身体的には全然超人じゃない。

「資料では、半径2メートル以上近寄れないとあったな」
「それ以上近づくことが出来れば、問題ないってことですね」

そう言いながら、何の躊躇いもなくイノセンスに近づいていくアレン。
わたしは、神田と顔を見合わせてから、互いに小さく頷いてその後を追った。

結界か何かでも張ってあるのかと思えば、その場には何もない。
ただ普通に近づいて、わたし達はあっさりとイノセンスの一歩手前まで辿り着いていた。

「…あっさり近づけたな」
「…やっぱり《巻き戻しの街》と同じケースかぁ…」
「……あの。向こうで待ってて下さいね、って言いませんでしたっけ?」

唸るわたし達を振り返り、アレンが表情を引きつらせた。
…あ。なんかちょっと怒ってる。

「いや、だってほら! アレンに何かあったら困るし!」
「おまえら揃ってどっか抜けてるからな。ヘマされちゃ困る」
「…いや、良いですけどね、別に…」

そう言いつつも、アレンはそれはもう深いため息を吐き出した。
…いや、別に信頼してないわけじゃないんだよ。ただ心配なだけで。

「なんだかんだで神田ってアレンの心配してるよね」
「アホか。頭おかしいんじゃねぇのか、おまえ。医者に行け」
「なんだよ照れちゃってこのツンデレボーイが」
「照れてねぇよ。また変な言葉使いやがって、なんだそれ」
「うん? ツンデレってのはですねぇ…」

訊かれたからには答えましょう、とばかりに説明を始めるわたしに、神田は心底嫌そうな顔をした。
そして、呆れたようなため息を吐きつつ、口を開く。

「いい、やめろ。おまえのその手の話は長くて下らない」
「なんだとー!?」
「絡むな、うるせぇから! おい、モヤシ。こいつ黙らせろ」

食ってかかるわたしに怒鳴ってから、神田は珍しく静かなアレンにも怒鳴る。
なんだってこう、神田は静かに会話が出来ないんだろうか。ただしわたしかアレン限定。

「…だから神田とを一緒にしておくの嫌なんですよね…なんであんな仲良いんだろ…」
「聞いてんのか、モヤシ!」
「はい?」

再度怒鳴られ、ようやくこっちを向いたアレンを見て、わたしは「あ」と小さく呟いた。
正確には、アレンが持ち上げたもの――イノセンスを見て。

「おまっ…馬鹿! まだイノセンスには触るな――――ッ!」

神田がそう言ってアレンに近づいた瞬間に、それは起こった。
アレンの持つイノセンスが、突如眩い光を発した。
その光は目を焼きそうな程に強く、周囲を呑み込むように覆っていく――
反射的に、わたしはきつく目を閉じた。


やがて、瞼に感じる光が徐々に収まってくる。
わたしは、恐る恐る目を開く。…う、なんか視界がちかちかしてて目が痛い。

「い、いたた…目が痛い…なに今の光…。
 アレーン! 神田ぁ! 大丈夫ー!?」

まだ視界がクリアにならず、よく見えない。
とりあえず大声で呼びかけると、元気な声が聞こえてきた。

「っ…こ…っの、バカモヤシ! 不用意にイノセンスに触る奴が居るかッ」
「す、すみません…大丈夫です、か…」

ああ、なんだ元気じゃない――と、安堵した瞬間に視界が正常に戻る。

「「………」」

まだ痛む目を擦りながら、わたしは小さく安堵の息を吐いた。
クリアになった視界に飛び込んできたのは、見つめ合うアレンと神田。

「…神田!?」
「モヤシ…!?」

なんで見つめ合ってんのちょっと、と。
言おうとして、わたしは事の異常さに気付いた。

「…あの、さぁ…これって目の錯覚かなぁ…」

周囲の景色に、変化はない。そしてわたし自身にも。
ただ、目の前で呆然と見つめ合ってるふたりを除いては――だが。

「…アレンが大きくなってて、神田が小さくなってる気が、するんだけど…?」






わたしの目の前にある、異様な光景。
明らかに成長してるアレンと、少し幼くなってる神田が、お互いを指さして固まっていた。






これはまったくの予想外です。



To be continued?

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