※注意※ 10年後設定で、ボスツナ&婚約者ヒロインです。



「……………………やっと見つけた」
「…見つかっちゃった」

目の前で腕を組みながら立つツナに、は引きつった笑みを浮かべた。
だが、それに対してツナはにこりとも笑わず、明らかに怒りのオーラを纏っていた。

「説明してもらっても良いかな、?」

そう言って首を傾げた様は、さすがのをも萎縮させるには充分な迫力があり。
…確かに、マフィアのボスらしい貫禄があった。



my home




部屋には、守護者の面々が揃って居た。
中央の椅子にはツナと、それに向かい合う形でが座らされている。
珍しく、と言っては何だが、真剣な表情でツナはジッとを見つめていた。


「…。ここはどこでしょう?」
「……抗争真っ最中のボンゴレ臨時アジト」
「はい、良く出来ました。………で、なんでここにいるの」
「………」
「目を逸らさない」
「………」

「…………………お弁当を届けに?」
「怒るよ」
「…ごめん」

眦を吊り上げるツナに、さすがに萎縮したは素直に謝罪の言葉を口にした。
小さくなる彼女の様子を見て、山本が取りなすようにふたりの間に割って入る。

「まぁまぁ、来ちまったもんは仕方ねぇよ。なぁ、?」
「そうよね、山本」
「コラコラ。自分を正当化しない!」

山本とほのぼのとした口調で言い合う様子は、単なる日常のワンシーンだ。
だが、その内容は決して笑って許して良い内容ではない。

「しかし十代目。ここから彼女をひとりで帰す方が危険です」
「僕で良ければお送りしますが?」
「お前に送らせる方が心配だ。別の意味で」
「失礼な」

あくまでも笑顔を崩さない骸に、獄寺は舌打ちした。
そんないつもの光景を眺めつつ、は口を開く。

「大丈夫よ、ツナ。私なら闘える」
「…闘って欲しいなら、最初から連れて来てるよ」
「…………」

厳しい表情で言われて、ぐっとは言葉に詰まる。
ツナがに、闘いに関わることを望んでいないことは彼女もよくわかっている。
銃を握ることすら、快く思っていないツナだ。言いつけに背いて付いてきたのだから、怒るのも無理はない。

「まぁ、来てしまったものは仕方ないですし。
 彼女の世話はクロームに任せれば如何でしょう?」
「うん…まぁ、それが妥当かな。クローム、頼むよ」
「はい。…行きましょう、様」
「あ…うん」

クロームに促され、少し躊躇いながらもは彼女と共に部屋を出た。
その気丈な瞳に、微かに涙の気配を見て、山本は苦い表情を作る。

「…良いのか、ツナ? しょげてたけど」
「仕方ないよ。まったく、こんなところまでついてくるなんて…」

怒っているのか罪悪感を感じているのか、あるいはその両方か。
口調こそ厳しいが、その表情は非常に頼りない。

「…さん泣いてましたけど。良いんですか、ボス?」
「え」

気怠げに首を傾げた骸の言葉に、ツナは硬直した。
これ以上はないほど動揺したその表情に、守護者達は呆れたような溜め息を吐く。
その反応に狼狽えるツナに、襲撃の合図が伝えられたのはそれから数秒後のことだった。


+++


クロームは困っていた。
あまり表情には出さないが、かなり困っていた。
――目の前で、静かに涙を流すに。

「…あ、あの…様…」

とりあえず名前を呼んでみるが、続く言葉は思い浮かばない。
あまりにも静かに泣いているから、逆にどうしたら良いのかわからず、
クロームは行き場のない手を胸の前でぎゅっと握り締めた。

、様」

必死に言葉を探しても出てくるわけがなく、結果、無意味に名前を繰り返すだけだ。
どうすれば彼女が泣き止んでくれるのか、わからない。
同性の友人を持たないクロームには、それも無理のない話だった。

「あ、あの、ごめんなさい、私、」
「…どうしてクロームが謝るの」

涙を拭う姿すら毅然とした彼女に、クロームは無意味な言葉を飲み込んだ。
笹川京子、三浦ハルと並び、この=フォンティーナもまた、クロームの周囲にいる数少ない同世代の女性。
だがクロームの中で彼女らは、敬愛するボスの傍らにいるべき女性であり、「友人」というカテゴリに分類されない。
なので、こういうときにどう対処して良いのか、皆目見当もつかないのだ。
…いっそ、爆弾処理の方がまだ勝手がわかる。
もっともそんなことを言おうものなら、彼女の敬愛するボスは哀しそうに顔を歪めるだろうが。

「…あ、あの…様」
「うん。ごめん、恥ずかしいところを見せて」

涙を拭って微笑むに、クロームは「いいえ」と緩く頭を振った。

様…本部に戻りましょう。私がお送りします」
「帰らない」
「…様…でも、ボスもそれを望んで」
「わかってる。だけど帰らない」

きっぱりと言い切られて、クロームは困惑した。
だけど、と。
クロームは敬愛するボスの為に、必死に言葉を紡ぐ。

「…様。ボスは、様に危険なことをして欲しくないだけ」
「うん、わかってる。私が普通の女性なら、それも許容出来たのだろうけれど」

だけど私は、この世界で生まれ育った女だから――と。
少しだけ寂しそうに言って微笑むに、クロームは再び言葉を飲み込む。

「ツナの方が心配なのよ、私は」
「ボスにはみんながついてます、心配は…」
「それでも、心配なの」

そう返して微笑み、は持ってきた手荷物を広げた。
その中から出てきたのは救急箱で、予想外のものにクロームは目を瞬かせる。

そういえば、と。
ふと思い出した事柄に、クロームは難しい表情を作った。
臨時アジトにも医療スタッフは居るが、ちょっとした手当てをするような医療器具が、無い。
言うなれば、大怪我には対処出来ても小さな怪我には対処し辛い。

「…ほら、やっぱり。その様子だと、大怪我した時のことしか考えてなかったわね」

呆れたように笑いながら言われて、クロームは恥じ入るように顔を伏せた。
大らかなツナのせいか、守護者の面々も大雑把な思考を持つ者が多い。
如何に優れた戦略知略を持っていても、こういった日常的な事柄には気が回らないのだ。

「何年、何十年経っても…やっぱりツナはどこか抜けてるわよね」
「…私の口からは、なんとも…」
「はっきり言っちゃって良いのに。愚鈍だ、って」
「そんな…」
「だけど、…だから、私が一緒に居るの」

困惑するクロームに、はただ静かな声で、そう告げた。

「私はきっと、ツナよりこの世界を知っている。
 …だから、一秒でも長く、一緒に居たいの。少しでも長く、少しでも多く…」
「………」
「私も《守護者》だったら、良かったのに」

今更言っても仕方のないことだけど、と。
苦しそうに告げられた言葉に、クロームは表情を曇らせる。

彼女を戦場から遠ざけるのは、ツナの優しさだ。
そして、その言いつけに背いてでも彼の傍に在り続けようとするのは、の優しさ。
きっと、お互いにそれはわかっているのだろうと、クロームは思う。

だからこそ、その願いだけは平行線だ。
どう声を掛けて良いのかますますわからなくなったクロームは、それでも何かを言おうと口を開く。
その瞬間、ドアが勢い良く開けられた。

!! 居る!?」
「ツナ?」
「ボス」

反射的に立ち上がったクロームに、ツナは「ご苦労様、クローム」と労いの言葉を掛ける。
それに彼女が頷くと、ツナはの方に視線を戻した。
視線を向けられた当人は、ツナの片腕を凝視しながら、大きく目を瞠る。
その様子を見て、クロームはようやくツナが怪我をしていることに気が付いた。

「……ツナ。あなた、その怪我」
「あ。…あはは…ごめん、やっちゃった。助けて?」
「あなたってひとは…」

呆れたように息を吐いて、だが何の躊躇いもなくは、救急箱を片手にツナの傍に駆け寄る。
甲斐甲斐しく傷の手当を始めると、治療を受けるツナを交互に見て、クロームは首を傾げた。

ツナは怒っていたはずで、は泣いていたはずだ。
なのに今は、いつものように仲良しで。
ゆっくりと目を瞬かせるクロームは、不意に聞こえた聞き慣れた声に我に返った。

「犬も食わないなんとやら、ですねぇ」
「骸様」
「ご苦労様でした、クローム」

そう労いの言葉を掛けてきたのは、クロームにとって絶対の存在。
意見することも考えられず、ただ、その言葉に従っていれば間違いはない、そんな存在。
だが今日は、クロームは自らの意志で骸に問いかけた。

「…骸様、あの…」
「彼女には彼女の役割があるのです」

皆まで言わずともわかる、と。
言外に含まれたその意志を感じ取り、クロームは骸の言葉に耳を傾けた。

――彼女は、彼の…そして僕達の『家』なのですから」
「…『家』…」

――帰る、場所。
ああ、なるほど、と。
彼女と一緒に居ると落ち着くのは、だからか――そう、クロームは妙に納得して頷いた。


自分も《守護者》であったら良かったのに、と。
そう嘆く彼女は、リングの縛りを持たない《守護者》なのだ。






その姿はしなやかで美しく、そして何よりも暖かな。



END

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