「……………………やっと見つけた」
「…見つかっちゃった」
目の前で腕を組みながら立つツナに、は引きつった笑みを浮かべた。
だが、それに対してツナはにこりとも笑わず、明らかに怒りのオーラを纏っていた。
「説明してもらっても良いかな、?」
そう言って首を傾げた様は、さすがのをも萎縮させるには充分な迫力があり。
…確かに、マフィアのボスらしい貫禄があった。
部屋には、守護者の面々が揃って居た。
中央の椅子にはツナと、それに向かい合う形でが座らされている。
珍しく、と言っては何だが、真剣な表情でツナはジッとを見つめていた。
「…。ここはどこでしょう?」
「……抗争真っ最中のボンゴレ臨時アジト」
「はい、良く出来ました。………で、なんでここにいるの」
「………」
「目を逸らさない」
「………」
「」
「…………………お弁当を届けに?」
「怒るよ」
「…ごめん」
眦を吊り上げるツナに、さすがに萎縮したは素直に謝罪の言葉を口にした。
小さくなる彼女の様子を見て、山本が取りなすようにふたりの間に割って入る。
「まぁまぁ、来ちまったもんは仕方ねぇよ。なぁ、?」
「そうよね、山本」
「コラコラ。自分を正当化しない!」
山本とほのぼのとした口調で言い合う様子は、単なる日常のワンシーンだ。
だが、その内容は決して笑って許して良い内容ではない。
「しかし十代目。ここから彼女をひとりで帰す方が危険です」
「僕で良ければお送りしますが?」
「お前に送らせる方が心配だ。別の意味で」
「失礼な」
あくまでも笑顔を崩さない骸に、獄寺は舌打ちした。
そんないつもの光景を眺めつつ、は口を開く。
「大丈夫よ、ツナ。私なら闘える」
「…闘って欲しいなら、最初から連れて来てるよ」
「…………」
厳しい表情で言われて、ぐっとは言葉に詰まる。
ツナがに、闘いに関わることを望んでいないことは彼女もよくわかっている。
銃を握ることすら、快く思っていないツナだ。言いつけに背いて付いてきたのだから、怒るのも無理はない。
「まぁ、来てしまったものは仕方ないですし。
彼女の世話はクロームに任せれば如何でしょう?」
「うん…まぁ、それが妥当かな。クローム、頼むよ」
「はい。…行きましょう、様」
「あ…うん」
クロームに促され、少し躊躇いながらもは彼女と共に部屋を出た。
その気丈な瞳に、微かに涙の気配を見て、山本は苦い表情を作る。
「…良いのか、ツナ? しょげてたけど」
「仕方ないよ。まったく、こんなところまでついてくるなんて…」
怒っているのか罪悪感を感じているのか、あるいはその両方か。
口調こそ厳しいが、その表情は非常に頼りない。
「…さん泣いてましたけど。良いんですか、ボス?」
「え」
気怠げに首を傾げた骸の言葉に、ツナは硬直した。
これ以上はないほど動揺したその表情に、守護者達は呆れたような溜め息を吐く。
その反応に狼狽えるツナに、襲撃の合図が伝えられたのはそれから数秒後のことだった。
+++
クロームは困っていた。
あまり表情には出さないが、かなり困っていた。
――目の前で、静かに涙を流すに。
「…あ、あの…様…」
とりあえず名前を呼んでみるが、続く言葉は思い浮かばない。
あまりにも静かに泣いているから、逆にどうしたら良いのかわからず、
クロームは行き場のない手を胸の前でぎゅっと握り締めた。
「、様」
必死に言葉を探しても出てくるわけがなく、結果、無意味に名前を繰り返すだけだ。
どうすれば彼女が泣き止んでくれるのか、わからない。
同性の友人を持たないクロームには、それも無理のない話だった。
「あ、あの、ごめんなさい、私、」
「…どうしてクロームが謝るの」
涙を拭う姿すら毅然とした彼女に、クロームは無意味な言葉を飲み込んだ。
笹川京子、三浦ハルと並び、この==フォンティーナもまた、クロームの周囲にいる数少ない同世代の女性。
だがクロームの中で彼女らは、敬愛するボスの傍らにいるべき女性であり、「友人」というカテゴリに分類されない。
なので、こういうときにどう対処して良いのか、皆目見当もつかないのだ。
…いっそ、爆弾処理の方がまだ勝手がわかる。
もっともそんなことを言おうものなら、彼女の敬愛するボスは哀しそうに顔を歪めるだろうが。
「…あ、あの…様」
「うん。ごめん、恥ずかしいところを見せて」
涙を拭って微笑むに、クロームは「いいえ」と緩く頭を振った。
「様…本部に戻りましょう。私がお送りします」
「帰らない」
「…様…でも、ボスもそれを望んで」
「わかってる。だけど帰らない」
きっぱりと言い切られて、クロームは困惑した。
だけど、と。
クロームは敬愛するボスの為に、必死に言葉を紡ぐ。
「…様。ボスは、様に危険なことをして欲しくないだけ」
「うん、わかってる。私が普通の女性なら、それも許容出来たのだろうけれど」
だけど私は、この世界で生まれ育った女だから――と。
少しだけ寂しそうに言って微笑むに、クロームは再び言葉を飲み込む。
「ツナの方が心配なのよ、私は」
「ボスにはみんながついてます、心配は…」
「それでも、心配なの」
そう返して微笑み、は持ってきた手荷物を広げた。
その中から出てきたのは救急箱で、予想外のものにクロームは目を瞬かせる。
そういえば、と。
ふと思い出した事柄に、クロームは難しい表情を作った。
臨時アジトにも医療スタッフは居るが、ちょっとした手当てをするような医療器具が、無い。
言うなれば、大怪我には対処出来ても小さな怪我には対処し辛い。
「…ほら、やっぱり。その様子だと、大怪我した時のことしか考えてなかったわね」
呆れたように笑いながら言われて、クロームは恥じ入るように顔を伏せた。
大らかなツナのせいか、守護者の面々も大雑把な思考を持つ者が多い。
如何に優れた戦略知略を持っていても、こういった日常的な事柄には気が回らないのだ。
「何年、何十年経っても…やっぱりツナはどこか抜けてるわよね」
「…私の口からは、なんとも…」
「はっきり言っちゃって良いのに。愚鈍だ、って」
「そんな…」
「だけど、…だから、私が一緒に居るの」
困惑するクロームに、はただ静かな声で、そう告げた。
「私はきっと、ツナよりこの世界を知っている。
…だから、一秒でも長く、一緒に居たいの。少しでも長く、少しでも多く…」
「………」
「私も《守護者》だったら、良かったのに」
今更言っても仕方のないことだけど、と。
苦しそうに告げられた言葉に、クロームは表情を曇らせる。
彼女を戦場から遠ざけるのは、ツナの優しさだ。
そして、その言いつけに背いてでも彼の傍に在り続けようとするのは、の優しさ。
きっと、お互いにそれはわかっているのだろうと、クロームは思う。
だからこそ、その願いだけは平行線だ。
どう声を掛けて良いのかますますわからなくなったクロームは、それでも何かを言おうと口を開く。
その瞬間、ドアが勢い良く開けられた。
「!! 居る!?」
「ツナ?」
「ボス」
反射的に立ち上がったクロームに、ツナは「ご苦労様、クローム」と労いの言葉を掛ける。
それに彼女が頷くと、ツナはの方に視線を戻した。
視線を向けられた当人は、ツナの片腕を凝視しながら、大きく目を瞠る。
その様子を見て、クロームはようやくツナが怪我をしていることに気が付いた。
「……ツナ。あなた、その怪我」
「あ。…あはは…ごめん、やっちゃった。助けて?」
「あなたってひとは…」
呆れたように息を吐いて、だが何の躊躇いもなくは、救急箱を片手にツナの傍に駆け寄る。
甲斐甲斐しく傷の手当を始めると、治療を受けるツナを交互に見て、クロームは首を傾げた。
ツナは怒っていたはずで、は泣いていたはずだ。
なのに今は、いつものように仲良しで。
ゆっくりと目を瞬かせるクロームは、不意に聞こえた聞き慣れた声に我に返った。
「犬も食わないなんとやら、ですねぇ」
「骸様」
「ご苦労様でした、クローム」
そう労いの言葉を掛けてきたのは、クロームにとって絶対の存在。
意見することも考えられず、ただ、その言葉に従っていれば間違いはない、そんな存在。
だが今日は、クロームは自らの意志で骸に問いかけた。
「…骸様、あの…」
「彼女には彼女の役割があるのです」
皆まで言わずともわかる、と。
言外に含まれたその意志を感じ取り、クロームは骸の言葉に耳を傾けた。
「――彼女は、彼の…そして僕達の『家』なのですから」
「…『家』…」
家――帰る、場所。
ああ、なるほど、と。
彼女と一緒に居ると落ち着くのは、だからか――そう、クロームは妙に納得して頷いた。
自分も《守護者》であったら良かったのに、と。
そう嘆く彼女は、リングの縛りを持たない《守護者》なのだ。
その姿はしなやかで美しく、そして何よりも暖かな。
END
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