類稀な美貌を持ち、その能力も一級品。
普通の人間から見れば、超能力にでも該当するような特殊な能力の保有者。
しかしその能力を除いたとしても、この男は非常に優秀だった。
…その性格以外は。
「……」
彼女――==フォンティーナは、眼前の男を見上げた。
特徴的な髪型と左右色違いの瞳の、酷く整った顔立ちの青年。
その男はに拳銃を突きつけ、片手にこれ見よがしにロープを携えていた。
「レディ・。一緒に来て頂きましょう」
無駄に、笑顔で。
「お前何やってんの!?」
「何って。ボスの命令に忠実に従っただけですが?」
「どこが!? なんでが縛られてんの!?」
「普通にお連れしてもつまらないので、奇をてらってみました」
「要らんサプライズすんなーーーっ!?」
目の前で言い合うふたりの青年を交互に見て、は深々とため息を吐いた。
拳銃を突きつけられた時点で、何か下らないことを考えているとは思ってはいたが。
……まさか縛られた上にヘリで運ばれるとは、思いもしなかっただった。
まったくもってこの男――ボンゴレ10代目霧の守護者は、何を考えているのかよくわからない。
「…あの、ツナ。これはどういう…」
「ごめん、本当にごめん。骸に頼んだオレが馬鹿だった」
「頼んでおいてなんですか。職務は全うしてますよ失礼な」
「やり方! やり方の問題だからこれ! 仮にもオレの婚約者だよ!?」
「知ってますよそんなこと。
むしろいい加減籍入れたらどうですか、子作りは早い方が母体に負担が掛かりませんし」
「なっ!? ちょ、骸っ、お前何言ってんの!?」
「24にもなってそんなことに動揺しないでください、ボス」
いけしゃあしゃあと言い放って、骸はわざとらしく溜め息を吐いた。
確実に相手を怒らせるタイミングと仕草。絶対計算してやってるんだろうな、とは人事のように考える。
「まったく、やってられませんね。
彼女は女盛りの25ですよ? 今結婚しないでいつするんです」
「余計なお世話だよッ!!」
「24にもなって婚約者の手も握れないようでは困りますね、彼女が」
「手くらい握れるよ! なに、馬鹿にしてる!?」
「はい。思いっきり」
骸が笑顔で応えた瞬間、ガッとツナは骸の胸ぐらを掴んだ。
かつての彼らの関係からすれば信じられない光景だが、今ではこれが日常茶飯事だ。
「…あのさぁ、骸? もうオレはどこに突っ込んで良いのかわかんないんだけど?
なに、お前いったい何がしたいの? オレに喧嘩売りに来たの?
なぁ、そうだったら殴っても良い?」
「クフフ、いやですねぇボス。僕に殴られて悦ぶような性癖はありません」
「誰もそんなこと言ってないし!?」
そこでなんで楽しそうに笑うのお前!、と。
胸ぐらを掴んだまま怒鳴るツナに対して、骸は余裕の微笑を崩さない。
既に見慣れた感はあるが、やはり奇妙なその光景に、はかくんと首を傾げた。
「…骸はいったい、何をしたいのかしら」
「単にボスで遊んでるだけだと思う…」
「あら? 居たのね、クローム」
「はい。縄、解きますね」
近づいてきた気配にが首を動かせば、背後から彼女と同世代の女性が姿を現した。
もうひとりの霧の守護者、という特殊な存在である彼女、呼び名はクローム髑髏。本名は凪という。
「まったく…やんちゃが過ぎるのも困りものね」
「ごめんなさい。でも、骸様はボスと様がお気に入りなの」
「そうみたいだね…まぁ、良いけど。
…で! 喧嘩は後にしてちょうだい、ふたりとも!
というかここはどこなの?」
ようやく拘束から解放されたは、声を張り上げた。
その問いに、ツナと骸は一瞬動きを止め、彼女の方を振り向く。
「ごめん、言い忘れてた」
「ここは日本ですよ、さん」
「…日本…え!? 日本!?」
普段は何が起きようと冷静さを失わないだが、さすがにこれには驚いた。
随分長い時間を掛けて連れてこられたとは思っていたが、まさか目的地が日本だったとは!
「仕事で日本に来たんだけどね。なんか並盛中の同窓会があるんだって」
「…は?」
「折角だからも呼ぼう、って話になって」
「で、急遽僕がお迎えに上がりました。
ボスはおろか守護者のほぼ全員を日本に呼び寄せるなんて、うちのボスは前代未聞の大馬鹿者ですね」
「…じゃあお前帰って良いよ」
「嫌ですよ。僕は日本観光するんです」
「じゃあ文句言わずに…って。観光!? 観光して帰る気だったの!?」
『イタリアの本部を空けるなんて』という趣旨の言葉を口にした同じ口で、遊ぶ気満々の宣言だった。
思わず掴んでいた胸ぐらを離して、ツナはゆっくりと瞬きをする。
それに対して返されたのは、それはもう胡散臭いほど晴れやかな笑顔だ。
「当たり前じゃないですか。何の為に山のような仕事を片付けて来たと思っているんです。
せっかくの日本ですよ、楽しんで帰らなくては古き良きこの島国に失礼でしょう?」
「骸…あんた、本っ当に日本好きよね…」
「ええ、とっても。さん、一緒に古都・京都巡りなど如何ですか?」
「…どさくさに紛れてを口説くの、やめてくれない?」
「ボス、絞まってます。さすがの僕もこれは死にます」
首が絞まって死にかけてる人間とは思えない、呑気な口調だった。
呆れたように溜め息を吐いて、ツナは骸から手を離す。
「もう、観光だろうがなんだろうが好きにしろよ。
クローム。骸が馬鹿やらないように見張ってて、何かあったら連絡して」
「はい、ボス」
「行こう、」
クロームが小さく頷くのを確認すると、ツナはの手を取った。
そのままどこかへ連れていこうと歩き出したので、慌てては口を開く。
「ちょっと待って、ツナ」
「ごめん、あんまり時間ないんだ。着替えとかなら勝手だけど、こっちで一通り揃」
「そうじゃなくて」
いったい、突然どうしたの。あなたらしくもない、と。
困惑気味にが言うと、ツナはぴたりと足を止めた。
「…折角、日本に帰ってきたから、さ」
「?」
「母さんに報告しておこうと思って。手紙じゃなんだし。…オレ達の事」
「……」
振り返らずに言われた言葉に、はゆっくりと瞬きをする。
言われた言葉の意味を理解するのに数秒掛かり、ようやくツナの意図に気付いて口を開いた。
「…同窓会より、そっちが本音?」
「う…」
「…あなたって、本当に、」
不器用と言うか、馬鹿というか。
そんな言葉を飲み込んで、はゆるりと微笑む。
不器用でも馬鹿でも、真っ直ぐなツナの感情はにとって、とても愛おしいものだった。
「…わかった。奈々さんに『息子さんを私にください』って言えば良いのね」
「は? ちょ、違! 逆! それ逆だから! 待ってお願いだからそれは間違っても言わないでッ!?」
「でも前にドラマで見たよ」
「だから逆なの! 女の人は言わないのそれは!!
ああもう、なんでそういう器用な勘違いが出来るのかな…!」
冗談でもなんでもなく、本気で首を傾げるに、ツナは頭痛を抑えるように頭を抱える。
未だ日本文化に疎いとはいえ、少なくとも5年以上は日本で生活したというのに。
確実にただの天然だ、と呻くツナを眺めながら、骸とクロームは顔を見合わせた。
「やれやれ…まるで子供の恋愛ですね、あれは」
「…でも骸様、楽しそう」
「楽しいですよ? 彼らは僕のお気に入りですからね」
そう言って微笑うと、骸は視線をふたりの方に向ける。
二十代も半ばという年頃だというのに、未だに中学生の恋愛から抜けきっていない。
そんなふたりをもどかしいとは思うが、見ていて飽きないというのも彼の本音だった。
「彼らが生きている間くらいなら、もう一度この世界で生きるのも悪くないと。
そう思えるくらいには、この日常を楽しんでいるのです。君もそうでしょう、クローム?」
「…はい、骸様」
そう応えて頷いたクロームの表情もまた、柔らかな微笑だった。
そんな彼女の変化に、骸は改めて感心したようにツナとへ視線を向ける。
あのふたり、一見すればただの甘ちゃんと天然ボケだが、人心を動かすことに関しては、恐らく右に出る者は居ない。
「ボス、それでは僕達は行きますが」
「あ、うん。わざわざ悪かったね、ふたりとも」
「いえいえ、普段の仕事に比べれば楽なものですよ」
意図の読みにくい、常の笑顔で応えてから、何かを思いついたように骸は「あ」と呟いた。
首を傾げる面々の中、彼は確実に愉快犯であろう爆弾を投下する。
「ああ、そうだ。さん似のお嬢さんが生まれたら是非、僕に下さいねお義父さん」
「は?」
あんたいきなり何言ってるの、と。
が言い返すより先に、ツナが口を開いた。
「なんでお前みたいなのに嫁に出さなきゃいけないんだよ!?」
「良いじゃないですか、さんは譲ったんですから」
「良くないよ! 絶対嫌だ!」
「そういう父親は年頃になると娘に煙たがられるんですよ、お義父さん」
「そんなわけあるか! オレとの娘なら素直で良い子になるよ!
っていうかお義父さんって呼ぶな!!」
再び骸に詰め寄るツナと、至極楽しそうに笑う骸。
突っ込みたいところは多々あるが、とりあえずは会話の内容がおかしい。
「…生まれてもいない子供の話に、なんでそこまで熱くなるのあのふたり…」
「でも、骸様は半分くらい本気」
「…そうなの?」
嫌そうにが顔をしかめると、クロームはただこくりと頷いた。
…こんな姿を見てもなお、彼を「骸様」と呼んで慕うクロームは、割と大物かもしれない。
「……先が思いやられるわ」
…絶対娘は産むまい。
遂には実力行使に出たふたりを眺めつつ、は深々とため息を吐いた。
基本的に、人の話を聞かないやつが多過ぎる。
END
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