。お前、ツナとデートして来い」
「は?」

リボーンの唐突な一言に、彼女はきょとんとしながら首を傾げ、オレは飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。



キャンディ・ライン




~~~ッ!!」
「ツナ、大丈夫?」
「キタネーな。ガキかお前」
「げほっ…うるさいよっ」

彼女に背中を擦られ、なんとか咽た状態から回復したオレは、とりあえずリボーンを怒鳴りつけた。
もちろん、これでなんらかの反省や配慮を期待するのは無駄だということくらい、充分理解している。

「って、いきなり何言い出すんだよお前はッ」
「なんもおかしいことは言ってねーだろ」
「言ってるよ! な、な、なんでデート!?」

口にすると、気恥ずかしさのあまり声が裏返った。
オレの花嫁候補という名目でこの家に滞在する彼女、さんは未だに不思議そうに首を傾げている。

「今更だが、がここで生活するにあたって、生活用品が足りねーんだ」
「…あー」

言われて、その言い分には納得した。
彼女がこの家に来て、およそ3週間。母さんが色々世話を焼いているらしいが、
真面目な彼女は常にオレに張り付いているので、まともに買い物なんて行ってる暇はないはず。

「せっかくだ。案内がてら買い物に付き合ってやれ。
 女の買い物には荷物持ちが必要だ。マフィアのボスたるもの、未来の妻をしっかり気遣ってやらねーとな」
「なっ、そっ…!?」

それを了承した覚えはない!、と。
言い切れれば良いのだろうが、彼女自身も望んで来たわけではないと知っているから、下手は言えない。
おそらくはリボーンも、それを理解した上で言っているんだろう。腹立たしい事に。

「リボーン。私は奈々さんが用意してくれたもので充分だし、無理にツナを連れて行くのも可哀想よ」
「女に気を遣わせるなんて男としてダメダメだぞ、ダメツナ」
「お前に言われると釈然としないんだけど…」

とは言え、彼女にお世話になっているのは確かだった。
やっぱりマフィアな分、少し変な人ではあるが、比較的まともな彼女だ。
リボーンの無駄にスパルタな家庭教師と違って、普通に勉強を教えてくれるので助かってはいる。
しかも教え方は上手い。
獄寺くんみたいに難しい言い方をしないし、山本のように感覚でしゃべったりもしないから。

「…ま、まあデート云々は置いておくとして…
 さんにはいつもお世話になってるし、買い物があるなら付き合うよ」
「………」
さん?」

一瞬、不思議そうな顔をした彼女に、オレは首を傾げる。
何か変な事を言っただろうか、と思っていると、彼女はゆるゆると頭を振った。

「あ、うん…お願いします」

そして、何故か妙に丁寧に頭を下げる。
…そんなに構えるようなことじゃないのに、やっぱり真面目な人だなぁ、と。
どこか微笑ましいような気分になった。


+++


――甘かった。
買い物に出て1時間。オレは自分の認識の甘さを痛感していた。

「…あの、さぁ」
「うん?」
「………さんって、物凄いお金持ち?」
「ボンゴレやキャバッローネに比べれば、そうでもないけど」
「ああ、そう…」

無自覚だ、絶対。
むしろ基準がおかしいのかもしれない。
…何せこの人、海外のブランド物を平然と買い上げていくんだから。
もう値札を見るのも怖いような商品を、顔色ひとつ変えずに。

「…さん、ブランド好き?」
「? いや、別に。ただ良い物を使うのも、ボスの務めなのよ」
「そ、そう…」

わからない…マフィアの世界ってわからない…。
そもそもにおいて、金銭感覚がまるで違う。
いや、それより未成年ってカード持てるの? さんが使ってる金色のカードって何か特別??

「付き合わせてごめんね。つまらないでしょ?」
「え? あ、そんなことはない、です。うん。ちょっと驚いただけで」
「驚いた…?」
「カルチャーショックっていうか」
「カルチャーショック」

オレの言葉を反芻して、彼女は難しい表情になった。
そして、恐る恐る、という感じで口を開く。

「…私、買い物の仕方おかしい…?」
「そ、そんなことはないですって! 学生っぽくはないけど…」
「そう。なら良いのだけど」

良いのか。
単に、色んなものに無頓着なのかもしれない、この人。

「ツナ。あまり気を遣わないで、私は客人ではないのだから」
「いや、だって、あの、…女の子、だし」
「……」
「ああああっ、ごめんオレ変な事言った!?」
「いいえ」

慌てるオレに、彼女はゆるりと穏やかに微笑む。
いつも思うけれど、本当に綺麗に微笑う人だなぁ、なんて考えて、なんだか気恥ずかしくなった。

「あなたは、優しい人ね」
「え…」
「優し過ぎるのは、ボスとしては難点だけど…でも、悪くはないと思うわよ?」
「…あ…ありがとう、ございます…?」

誉められた、のだろうか。
そう思う事にしてお礼を言うと、彼女はただ、変わらず微笑うだけだった。

「さて、と…」
「買い物はもう良いんですか?」
「うん、充分。全部宅配の手続きしたし」

いつの間に。
そういえば確かに、あれだけ買い込んだ割に彼女は身軽だった。
あれ? じゃあオレ、荷物持ちとか意味なかったんじゃあ…?

「…あ。でも今日は、『デート』して来いって言われてるのよね…」
「えっ! い、いやあの、リボーンの言う事なんて気にしなくてもっ」
「ダメよ。リボーンは私の教育係でもあるんだから」

真面目な表情でそう言って、彼女は難しい表情を作り考え込む。
リボーンのあれは半分はからかいを含んだ冗談だし、真面目に取る必要もないと思う。
だけど、リボーンを尊敬しているらしい彼女には、多分それを言っても無駄だろう。

「…デート…ねぇ…ツナは学生らしい方が良いみたいだし…」
「ちょ、ちょっとさん?」
「よし」

ぱんっ、と両手を打って、彼女はごく自然にオレの手を取った。
予想外の出来事に、オレはただ、繋がった手を見下ろす。

「歩き回って疲れたでしょ。カフェでお茶でもしましょう。
 付き合ってくれたお礼も兼ねて、ごちそうするから」
「へっ? え、ちょっと待っ…」

こっちの話を聞かずに、彼女はオレと手を繋いだまま、店の向かいにあるカフェテラスを指差した。
それこそ学生から大人まで、色々な年齢層の客が入り乱れている店内が、ガラス越しに見える。

「さっきの店の店員に聞いたんだけど、あそこのカフェのケーキは美味しいんだって」
「いつの間に店員さんと仲良くなってんの!?」
「私、そういうの得意だから」
「と、得意って…」

社交性がある、ということだろうか。
確かに物怖じしないし、割と人好きのする性格だとは思うけど。
…もしかして、オレが思っている以上にこの人、凄い人なんじゃあ…。

「どうしたの? ケーキ嫌い?」
「す、好きです、けど」
「じゃあ、行きましょ?」
「…う、うん」

オレが頷くと、彼女は嬉しそうに微笑う。
そしてそのままオレの手を引いて、目当てのカフェへと歩き出した。

日本のケーキは素朴な味が良いよね、なんて言いながら彼女は楽しそうだったけど、
オレはその時繋いだ手にばかり気を取られていて、食べたケーキの味なんてほとんど覚えていなかった。


+++


帰って来た頃には、もう夕方になっていた。
すっかりカフェに長居してしまって、さすがにリボーン辺りは文句を言いそうだなぁと思っていたけれど。
…まさか、自分の家で獄寺くんに出迎えられるとは。

「おかえりなさいませ、10代目!」
「た、ただい、ま?」

オレに満面の笑顔で応対した獄寺くんは、次にさんの方に視線を移した。
それこそ、見るというよりは睨むと言った表現の方が、正しい目つきで。

「てめぇ…10代目を一日中連れ回すとはどういうつもりだ!」
「あら、獄寺。また来てたの? あんたもたまには別の友達と遊びなさいよ」
「てめぇが言うんじゃねぇよ!! 10代目に何かあったらどうするつもりだったんだ!」
「私がついてるのに、何か起こるはずないじゃない」
「いけしゃあしゃあと…! 上等だ! 表出ろ!!」
「…リボーン、許可」
「怪我しねー程度にやれよ」
「「10秒で終わらせてやる」」

リボーンの無責任な一言を合図に、ふたりはまったく同じ言葉を口にして睨み合う。
既に獄寺くんはダイナマイトを取り出してるし、対するさんもショットガンを抜いていた。

「…やっぱりさんはさんだー…」

つい数十分前までの、普通の女の子のような様子は、今はどこにもない。
獄寺くんと一緒に外へ飛び出して行った彼女を見送り、オレはただ、ため息を吐いた。






繋いだ手から伝わる体温が心地良くて、
一瞬時間を忘れてしまいそうになった。




END

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