「……あー…えーと…何してんだ、お前……?」
中庭の木陰で、座り込んでいる少女――に、ルークは困惑して声を掛けた。
普段から若干ぼんやりしたところのあるだが、今日はただ茫然としている体である。
「…なんだろう?」
「いや、訊いてるのオレなんだけど」
「……ええと、」
説明をしようとして、は渋面になって動きを止めた。
うまく説明出来ず、思考が止まったらしい。
「…わかった、もういい。とりあえずこうなった経緯だけ言えよ」
「んと、窓の外を見てたらね」
「見てたら?」
「天気が凄く良くて、お昼寝したくなってね」
「ああ、昼寝ね」
「でも外に出たらお腹空いちゃって」
「なんでだよ」
「お弁当を広げてたら、いつの間にかハトに取り囲まれてたの」
「あー…」
ダメだ。まったくわからなかった。
そのよくわからない経緯と、散乱したパンらしき何かとしょぼくれた彼女の状況から察するに――
「…つまり、ハトに取り囲まれて弁当を奪われたと」
「…そうなの。一口も食べられなかった…お腹空いた…」
「………弁当広げただけでハトが大量に寄ってくるのも凄いけどよ。
そのハトが泡吹いて転がってる方がオレは気になるんだけど何食わせたんだ…」
「ナタリアが用意してくれたサンドイッチ」
「……………そうか。良かったな、食えなくて」
「?」
不思議そうに、は首を傾げた。
どうやらまだ、彼女は知らないらしい。
――ナタリアの破壊料理のことを。
「いいか、。長生きしたかったらナタリアの料理は食うな」
「どうして?」
「この転がってるハトみたいになるから。
……正直、あれ食えるのアッシュだけだぞ。アッシュも大抵食った後倒れっけど」
「うん…? ナタリアの料理は、アッシュ専用…?」
「あー…うん、それでいいや。そう思ってる方がお前は安全だ」
「わかった。じゃあ、今度貰ったら、アッシュの為のお弁当は受け取れない、って断れば良いんだね?」
「そうそう。それだと受け取らなくても、ナタリアは喜ぶんじゃね?」
アッシュは確実に喜ばないだろうが。
「ナタリアとアッシュは、仲良しだもんね」
「…そうだな」
「私とルークも、仲良しだよね?」
「は!?」
この流れで、そうくるか!?
思わず硬直するルークだったが、次の瞬間、彼女が発した一言に脱力した。
「ルーク、お腹空いた」
「お前さっきから話がころころ変わり過ぎだろ!!」
「最初から、お腹空いたって言ってるのに…」
「言ってたけど!
っつーか腹減ったなら学食行けよ、行かなくてもお前が言えば誰か何かくれるだろ!」
「んー」
少し考え込むと、はぽむっと手を叩いた。
そして、スッと手をルークの方に差し出す。
「…この手はなんだよ」
「くれないの?」
「は?」
「だって、「誰か何かくれる」って。ルークは「誰か」に入らないの?」
「はぁ!? お前マジで図々しい奴だな!?
オレはもう食い終わった後だからお前にやるもんなんかねーよ!」
「えー」
言ったのルークなのに、と。
不満そうにむくれるには、まったく悪気が無い。
あれを本気にするあたりが、相当頭がおめでたいと、ルークですら思う。
「じゃあ、いいや。お昼寝するー」
「なんで!? 腹減ってたんじゃねぇのかよ!?」
「お腹空いたけどルークは何も持ってないし、そもそもお昼寝したくてここに来たから」
オレのせいかよ!!、と。
怒鳴る気力すら奪われた気分で、ルークはため息を吐いた。
自分がすこぶる短気であることを自覚しているルークだが、それを物ともしないはいったいなんなのだろう。
…逆にその無頓着さが居心地が良いと思えてきているなんて、彼女には死んでも言えないが。
「そういえば、ルークは何しに来たの?」
「な、何って……ええと…そう、散歩。散歩だ!」
「散歩? そっか、お昼寝日和は散歩日和でもあるもんねぇ」
そう言って、はにこりと微笑んだ。
その表情のまま、小さく首を傾げる。
「つまりルークは暇なんだね?」
「暇とか言うな失礼な奴だな!!」
「暇なら私とお昼寝しない?」
「はぁ!?」
話の展開が唐突過ぎる!!
よっぽど言ってやりたいのだが、言ったところで彼女のマイペースな会話は改善されない。
そこそこ長い付き合いになってきた頃だ、さすがにルークもの奇抜さに色々と諦めていた。
「お昼寝嫌い? 今日は暖かいし微風だし気持ちいいよ?」
「…地べたで寝るとか有り得ねぇだろ」
「どうして? 草木は最高のベッドだよ。
太陽の暖かな光はどんな天蓋にも勝るし、草花の香りはどんな香水よりも香しい」
「…わかんねぇよ。草は草だし、花は花だろ」
「んー…」
は少し困ったように顔を顰めると、瞬間、ルークの腕を強く引っ張った。
「ぉわッ!? 何すんだこの馬鹿力!」
なんの脈略も無い行動と、華奢な少女の割に強い力とに、ルークはそのまま草花の上に倒れ込む羽目になる。
「やっぱり、私と一緒にお昼寝しよう。ハイ、決定!」
「なんでだよ!?」
「ルーク」
慌てて起き上がろうとしたルークの髪を、は優しい仕草で撫でた。
寝そべった体勢で、穏やかな笑顔を浮かべながら。
「確かにこの世界のマナは、日々減少している。
だけどね、世界はまだこんなにも綺麗だ。人と同じように、草花も精一杯今を生きている」
「………」
「今はわからなくても良いと思う。草は草で、花は花。それも本当のことだから。
でも少しずつ、この世界が綺麗だって思えるようになってくれたら、私は嬉しいよ」
「…なんで、お前が喜ぶんだよ」
「私はこの世界が大好きで、ルークのことが大好きだから」
「~~~~ッ!!?」
「だからね、ルーク」
ストレート過ぎる言葉にルークが顔を赤くして狼狽えているというのに、はまったく気にしていない。
からかうわけでも、一緒に照れるでもなく、ただ微笑う。楽しそうに、嬉しそうに。
「時々で良いから、こうやって私に付き合ってね?」
「………ひ、暇だったらな!」
「うん。ありがとう。ルーク、大好きだよ」
「か、軽々しく好きとか言うなよ…!」
「だって、好きなんだもの」
どこまでも無邪気に、真っ直ぐに。
飾らない好意の言葉に、さすがのルークも、天邪鬼な発言は出てこなかった。
それでも、自分も好きだとか、そんな言葉が言えるわけでは、なかったけれど。
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