「…男子、三日会わずば刮目して見よってか。
どこで間違ったらこうなっちゃうのかね。今は草食系男子が流行りだよ、シズちゃん」
「あ? またわけわかんねぇこと言ってんなよ」
まともに隠す気すらないのか、風呂上がりのままの姿で不機嫌そうにしているに、
静雄はクローゼットから出した自分のYシャツを投げ渡した。
「……えっちの後は彼氏シャツですか。ベタ過ぎて笑えないねぇ」
「やかましい。そんな恰好でうろつくくらいなら着てろ」
珍しく不機嫌なままのだったが、渋々渡されたYシャツを羽織る。
静雄は長身で、対するは尊大な性格の割には小柄だ。
まるで子供が大人の服を着せられたような格好になる。
「前閉めろ。着た意味ねぇだろうが」
「私に命令すんな」
「米粒程で良いから恥じらい持て。仮にも女だろ」
「仮って何かな立派な女の子なんですけど!」
言い返してから、これ見よがしのため息を吐いてはYシャツのボタンを留める。
このサイズでボタン留める意味あるんだろうか、と思いつつ。
「…なんで世の男どもは、女にこういう格好をさせたがるのだろうか」
「別にさせたがってるわけじゃねぇぞ」
「いやいや、シズちゃんは頭の中身はテンプレ男子だ。
彼女がお泊りの際には彼氏のYシャツは必須装備だと思ってるだろ?
まあでも私はシズちゃんの彼女じゃないからね。そこ間違えちゃダメだよ」
「改めて言われなくてもわかってるっての」
「それは結構。来神時代に恋人ごっこをやめたのはシズちゃんだもんねぇ?
いや、シズちゃんは臨也みたいな割り切れる人種じゃないから良いんだよ。そういう意味では君は正常だ」
今度は返事が返ってこない。
ちらりとが視線をはしらせれば、妙に静かな横顔が視界に入る。
居心地に悪さに、はくしゃりと自分の濡れた髪を梳った。
「…だから、さ。なんでシズちゃんが傷ついた顔するかな」
ベッドの上に腰掛け、はわざとらしいため息を吐き出す。
そして、奥底の感情を隠すような、無表情に近い静かな表情で、目を細めた。
「私の愛は受け入れたくないのに、自分の愛は受け入れろって?
冗談だろ、そんなのフェアじゃない。だいたい、こういうのイヤだって言ったのはシズちゃんだ」
覚えている。恐らく忘れられない、嫌な思い出のひとつだろう。
高校時代の恋愛ごっこ。
彼が本気だったかどうかは、その呆気ない幕切れのせいでにもわからないままだったが。
いやいや、本気ではなかったんじゃないか。
そもそも始まり方からして、甘い雰囲気など欠片だってなかった。
高校生男子なんて、それはもう青春真っ盛り。恐らく性欲過多の最たる時期だ。
は自分の容姿を自覚しているし、それを武器に使える程度に頭も切れ、身体能力も高かった。
臨也と仲良くするには猫被りをやめれば良いだけだったが、静雄はある意味簡単でその実難しい。
なので「女」として近づいた。それだけだ。
気になる相手としては認識されただろうが、恋愛に発展しなかったのは、まぁ自業自得だ。
それでも彼にとっては、自分を怖がらない珍しい人間だっただろう。
今も昔も、そしてきっとこれからも。
「絶対こんなのアンフェアだよ。
私が臨也と寝るのがイヤだったら、最初から私のモノになってれば良かったんだ」
「…うるせぇよ。そしたら今度は俺の方がアンフェアだ」
「なんでだよ」
「お前は嘘吐きで、卑怯だからな」
「…酷いなぁ。あのね、否定はしないけど。
でも今はシズちゃんの方が酷い奴だよ? 顔見知りの女の子を油断させて、強姦したようなもんだろコレ」
「真夜中に家に入れろと脅迫してきた女相手にか?」
「そうだよ。…ホント、シズちゃんのこういうとこ、大嫌いだ。
私の思い通りになったかと思えば予想外のこと仕出かすし、なんか理不尽なこと言うし」
「何がだよ。はっきり喋れ」
「だから、」
あああもう、言わせんなよ、と。
顔をしかめながら、は器用に視線を逸らす。
「臨也と寝るな、って言いながらコレってさ。
…自分以外と寝るな、って言ってるようなもんじゃないか」
「……………は?」
「シズちゃん天然過ぎて恥ずかしいよ。自分から関係切っといてこれか!」
言っていて恥ずかしくなったのか、は枕を引っ掴んで静雄に投げつけた。
咄嗟に受け止めたものの、いまだ衝撃から立ち直りきれていない静雄は、
何度か唇を空回りさせてから、ようやく言葉を口にする。
「な…んで、そうなんだよ!?」
「だってそうじゃん! 相手が臨也じゃなかったら良いの?」
「良いわけねぇだろ!!」
「じゃあつまりは自分専用でいろってことじゃんか!!」
「だから…ッ!!
…どっちが恥ずかしいんだ、馬鹿女…っ」
「シズちゃんに決まってんだろ、バーカバーカッ!」
「誰が馬鹿だ!」
「お前だよ!! …なんでっ…こんなふつーの男女みたいな会話してんだか…ッ」
怒鳴り返してきたを見て、思わず静雄は硬直した。
彼の知るは、常に腹が立つほど余裕で、悪意しか無い笑みしか浮かべない。
では、この、耳まで赤く染めて顔を顰めているのは誰だろうか。
「あああああっ、もうヤダ! 恥ずかしくなってきた!!
お願いシズちゃん今すぐ死んで!? 出来れば自主的に!!」
「混乱してんのか知らねぇけどなんでそうなった!?」
「馬鹿者! 私は常に冷静だ!!」
「どこがだよ!?」
照れというのは、感染するものなのかもしれない。
予想外の展開に互いに顔を見合わせて、互いの状態にまた言葉を失う。
その状況に、先に音を上げたのは意外にもの方だった。
「~~~ッもう寝る! 寝るから起こすな!」
「おい…」
「…あ。寝てる間に変なことしたら殺すよ?」
「誰がするかそんなこと!!」
…そう、怒鳴り返してはみたものの。
あまりにも普段と違う展開に、互いに非常に気まずい一夜を過ごすことになるのだった。
気に入っていただけたら、ぽちっと押してあげてください。コメントは入れなくてもOKです。