※10年後で新婚さん設定です。ツナに小動物の面影が欠片もありません。
06.かまいすぎるのはあまりよくありません --- 沢田綱吉



ひっきりなしに鳴り響く電話の音。
いちいち相手をしてると書類が溜まっていくのだが、しかし無下にも出来ない。

「だからそれはそっちで片づけとけって、だいぶ前から言ってるだろ?
 なんでもかんでもこっちに頼られても困る。それはオレの仕事じゃない」

電話越しの相手は部下なので、自然と口調も厳しくなる。
それもまぁ、仕方のない。
何日も前から念入りに準備をするようにと指示した仕事の成果が、芳しくないからだ。

「は? 交渉に山本を出してくれ? …どれだけ切羽詰まってるんだよ、それ何日も前から準備してただろ?
 …はー…わかったわかった、それはこっちでなんとかするよ。…うん、よろしく」

ようやく受話器を置いて、息を吐いた。
安堵の息には程遠い、疲労と若干の怒りが混ざった複雑なそれだ。

「………だぁぁぁぁっ!! もうっ!! どいつもこいつも勝手過ぎる!!」
「…荒れてるわね。コーヒーでも淹れましょうか」
「うー…オネガイシマス…」

苦笑交じりのの言葉に、ツナは弱々しく返事を返した。
運ばれてきたコーヒーのカップを、デスクに突っ伏しながら見つめていたツナは、重い溜息を吐き出す。

「マフィアのボスがこれほど忙しいとはね…!!
 しかもナニコレ、ほとんど企業の社長と変わらないじゃん…」
「一応、企業よ。裏の顔がマフィアってだけで。今時、マフィア稼業なんて大したお金にならないのよ。
 そのあたりのことは、就任前に散々9代目に叩き込まれたでしょう? 今更何を言ってるの」
「…万年最下位ダメツナなオレに巨大企業の社長とか無理だからもうホントに無理だから…!」
「はいはい。一日に何回言うの、それ。安心なさい。あなたの部下は優秀だし、
 あなた自身も発想と直感はかなりのものよ。その証拠に、会社も傾いていないでしょう?」
「………」

宥めるようにぽむぽむ、と軽く頭を撫でられて、ツナはゆるりと顔を上げた。
相変わらず淡々とした口調ではあったが、の表情は穏やかだ。

「……は俺を乗せるのがホントに上手いよね」
「乗せられてる自覚があって何よりね。…当然でしょう? 私はあなたの秘書で、妻なのよ」
「普通は秘書より妻が先に来ないかなぁ」

笑いながら書類棚の方へ処理済みの書類を仕舞うに、不服そうにツナは目を眇める。
背後でそれを感じ取ったのか、は可笑しそうに笑った。

「ご不満そうね、ボス?」
「とっても。…ボスとか呼ばないで」
「でも仕事中…っきゃ…!?」

いきなり背後から腕を掴まれて、振り返った瞬間間近にあった相手の顔に、は硬直した。
常に完璧な理詰め人間であるは、割と不測の事態に弱い。
立ち直るのは早いのだが、それまでが瞬間的に無防備になってしまうのは、彼女の数少ない弱点だ。
…最も、とても限定的な相手にだけなのだから、弱点と言えるかわからないのだが。

「ツ、ツナ…? 仕事中でしょ…?」
「休憩。もう疲れた」
「だ、だったら大人しくコーヒー飲んでれば…ひゃぁ…っ?!」
「冷たいなぁ、は」

棚に背を押し付けられるような格好でバランスを崩すの首筋に、ツナは軽く触れるだけの口づけを落とす。
…まったく、子供の頃は「覚悟は出来ている」などと真顔で言い放ってこっちを狼狽えさせたくせに、
正式に結婚した今ではこんな些細な触れ合いですら動揺しているのだから、相変わらずアンバランスな人だと、ツナは思う。
それでも速攻で立ち直ってしまうので、残念と言えば残念なのだが。

「…悪いひとね。部下は方々を飛び回って仕事してるのに」
「外回りより執務室に缶詰めの方が、息抜き出来なくてきついって。
 だから休憩。も付き合ってくれるよね?」
「……ダメ、って言ったら言うこと聞いてくれるの?」
「今日は聞かない」
「…でしょうね。もう…」

仕方なさそうに息を吐くと、は肩から力を抜いた。
妻として、秘書として、ツナに対して小言も多い彼女だが、基本的にはこうしてツナに譲る。

はなんだかんだ言って、オレを甘やかし過ぎだね」
「そういうツナだって、私を甘やかし過ぎよ。
 就任して間もない若いボスが、こうも頻繁に妻に構ってくるなんて前代未聞だわ…」
「良いんだよ。オレは規格外のボスなんだから。
 もちろんなったからにはボスの責務は果たすけど、新婚生活だって人並みに満喫したい」
「し、新婚生活って…恥ずかしい事言わないで…」
「別に、変なことは言ってないと思うけど?」
「わ、私とあなたの普通は違うんだってば…!」
「違わないよ」

困ったように視線を逸らすの両頬に両手を添えて、上向かせる。
子供の頃はほとんど変わらなかった背丈も、大人になった今では大きく差が開いた。
こうして触れ合える位置まで近くにいると、その実感が強くなる。

「何も違わない」
「……」
「それとも、はこういうのは嫌? 受け付けない?」
「そ、んな、こと、ない…」

頬を赤く染めて、恥ずかしそうに視線を逸らす仕草は、なんだか少女のようだ。
啄むような口付けを何度も受けながら、僅かに華奢な肩が震える。
慌てたように、の細い指がツナの手を掴んだ。

「…っ、で、でもあの、これ以上はっ…ここでは許して…っ」
「んー…」

必死に手を掴んで押し留めようとするの様子に、ツナは思わず苦笑した。
そこまで大胆なことをすつもりはなかったのだが、少し調子に乗り過ぎて警戒させてしまったらしい。

「まぁ、誰かに見られたら困るしね」
「そうよ、もう…変な開き直り方して…以前のツナはどこに行っちゃったのかしら」
「今までのオレも今のオレも、沢田綱吉だよ」
「…それもそうね。馬鹿なこと言ったわ」
「だいたい、それを言うならだって。昔は妙な行動とか言動で随分冷や冷やさせられたよ」
「…そんなに酷かったかしら」
「うん。…子供の頃は俺が散々振り回されたんだから、今度はが振り回されてよ」
「なによ、その理屈…」

もう散々振り回されてるのに、と。
拗ねたように呟いたに、ツナは愛おしげに微笑って優しく口付けた。









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