「僕は君が嫌いですよ、さん」
頼んでもいないのに目の前に現れたその男は、笑顔で毒を吐き出した。
「…あぁ、そうなの?」
対する彼女――==フォンティーナの返答も、酷いものだったが。
「…もう少しまともな反応はないんですか?」
「そんな、嫌そうに言われても」
心底嫌そうに顔をしかめる少年――六道骸に、はかくんと首を傾げた。
「それに、さっきの藪から棒な言葉からすれば、骸は私が嫌いなのでしょう?」
「ええ、とっても」
「だったら、私の反応なんてどうでも良いんじゃないかしら?」
「まともに相手をされない方がもっと嫌いです」
理不尽なほど我が侭だった。
首を傾けたまま、は徐々に渋面を作る。…実に器用だ。
「……骸はなんだか人間的によくわからない」
「失礼な。君だって奇妙な人種ですよ」
「どこが」
ため息混じりに言われて、の表情に僅かな険が宿る。
ツナやその周囲にいる幼い子供、女性に対してはどこまでもとぼけた少女だが、
希には、酷く険を宿した目をすることがある。
大抵はところ構わず喧嘩を売ってくる雲雀や、意味もわからず小馬鹿にした態度を取る骸に向けられているのだが。
「…君は本当に全然笑いませんよね」
「笑うわよ。人を無感動のように言わないで」
「それに、言葉が刺々しいです」
「……あんた、自分を棚に上げて喋ってる自覚はある?」
不満そうにぐちぐちと言い募る骸に、は呆れたように目を眇めた。
がボンゴレ9代目の要請で日本に来てそれなりに経つが、ツナの守護者達とは微妙に馴染めていない。
特にこの男…六道骸。
…いったいこいつは、自分にどうして欲しいのだろうか?
思わず胡乱気な視線を送ってしまうを、責められる者もいないだろう。
「…何か言いたそうですね」
「ええ、多々。とりあえず訊くけど、何しに来たの?」
「君に会いに」
「そう。……言動と行動に矛盾があるのだけど、自覚はある?」
「気のせいじゃないですか」
「気のせい…ねぇ…」
本気で言っているのか。
だとしたらこの男、相当変だ。
「…まあ、良いでしょう。あんたが誰に会いに来ようがあんたの自由だわ」
「……腹立ちますね……」
認めてやったのに、理不尽な我が侭っぷりだ。
ため息を吐きつつが視線を向ければ、酷く複雑な表情の骸と目が合った。
「君はマフィアだし愛想無いし笑わないし刺々しいし可愛げの欠片もないし」
「それ、全部あんたも当てはまってるけど」
「ですが、」
いい加減解放してくれないだろうか、と。
半ばおざなりな反応になってきたに、しかし対する骸は射抜くような視線を向けた。
「…沢田綱吉にしか関心を示さない君が、一番嫌いです」
いったい、この男は何が言いたいのだろう?
どうしたら良いのかわからず、は首を傾げるしかなかった。
「…あのね、骸。私はツナの花嫁候補なの。その為に日本へ来たの。
その私が、ツナに関心がなかったらおかしいでしょう?」
何故、こんなわかりきったことを改めて言わなければならないのか。
ため息混じりのの返答に、骸は気に入らないとばかりに眦を吊り上げる。
「何が花嫁ですか。中学生の分際で」
「いや、あんたも中学生だから。なんなのよホントに」
頭が痛い。そんな言葉がふと浮かぶ。
まったくわけがわからない。いったい何が不満なのだろう?
「………」
「………」
今度はだんまりだ。
自身もさほど愛想が良い方でもなし、なにより相手の意図が掴めないので黙り込むしかない。
「…何か喋ったらどうですか」
「…なんで私が。別に喋ることなんてないのに」
「本っっっ当に! 失礼な人ですね君は!!」
「どうしていきなり逆ギレしてるのよ!?」
不機嫌になるならさっさと帰れば良いのに、とは思う。
だというのに骸は、不機嫌そうに顔をしかめながらそれでも、の前から退こうとしない。
「…なんなの、いったい。私にどうして欲しいの、あんたは?」
「………」
「もしかして、あんた…」
ハッと、と何かに気づいたようには目を見張った。
僅かに、骸はたじろぐ様にびくりと肩を震わせる。
「ツナのことが好きなの?」
「は?」
きょとん、と。
彼にしては珍しく、酷く無防備な表情になった。
それをどう受け取ったのか、は非常に気まずそうに口を開く。
「…その、人の性癖にケチをつけるわけじゃないけど、ツナはノンケだから望みは無いと…」
「~~~ッ!! なんでそうなった!!
君の頭の構造どうなってんですか今の流れでそれはおかしいでしょう!?」
「え?」
「ほ、本当に…君って人は…っ!!」
どこまでも本気なに、さすがの骸も言葉を失って項垂れる。
そして、頭痛を抑えるように頭を抱えながら、苦々しく怒鳴り返した。
「…義理は無いですが、沢田綱吉には心底同情します…!
君は本当に最悪です! 今日日、小学生でもここまで鈍くない!!」
「どういう意味。失礼ね」
「失礼なのはそっちだ!!」
よりによってなんて勘違いをするんだ!、と。
普段は余裕を崩さない、嫌味が標準装備の彼にしては相当珍しいその様子に、は思わず吹き出した。
「なに笑ってるんですか!」
「ご、ごめ…っ、やだ、骸ってばおかしい…!!」
「おかしいのは君の頭の方でしょうが! どうして僕がおかしいんです!?」
「だ、だって…!」
笑い過ぎて滲んだ涙を拭いながら、は苦しげに口を開く。
そんな、酸欠になるほど笑わなくても良いだろう、と骸は思わず顔を引きつらせた。
「さっきまで、ひとりで迷子になって途方にくれてるみたいだったのに、」
「は?」
「それでも意地張って泣くの堪えてる子供みたいだったのに、急に元気だから…ッ」
もう、勘弁して。笑い殺す気?、と。
ツボに入ったのか笑い続けるに、骸は何度か唇を空回らせた。
「~~~ッ…本当に最悪だ、君は…ッ!!」
今日、何度目かの「最悪」という評価を、に叩きつけた。
この際、元凶云々は置いておくとして、笑い過ぎて顔を上げられなかったに彼は感謝すべきだ。
――――何故なら、彼は耳まで真っ赤に染めていたのだから。
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